平成元年生まれの俺が、平成元年に美少女転生!? ~ハイスペ兄貴に溺愛されながら、未来知識でバブル崩壊後の日本を無双する~

RIU

文字の大きさ
5 / 41

第5話:黒船来航! 「Windows95」と深夜のピーヒョロロ

平成七年の冬。世の中は、ある一つの「お祭り」で騒然としていた。

 連日、テレビのニュースが秋葉原の様子を映し出している。深夜〇時の発売解禁を待つ、長蛇の列。人々が熱狂的な顔で求めているのは、人気ゲームソフトではない。  『Microsoft Windows95』。  そう、パソコン用のオペレーティングシステムだ。

 リビングでミカンを剥きながら、親父が鼻で笑った。 「たかが機械のソフトに、何万も払って並ぶなんて。みんな暇だなぁ。パソコンなんて、一部のマニアか仕事で使う奴だけの『高い計算機』だろうに」

 親父の認識は、この時代の平均的なサラリーマンのそれだった。  だが、俺は知っている。これが世界の在り方を根底から覆す「革命」の始まりであることを。

 俺はチラリと隣を見た。  中学生になり、学ラン姿がすっかり板についた兄貴、翔が、真剣な眼差しでテレビ画面を見つめていた。

「……お父さん、本当にそうでしょうか。これだけの人が動くには、何か理由があるはずです」

 兄貴の嗅覚が反応している。  ポケベルビジネスで「情報」と「繋がり」の価値を知った彼だからこそ、この熱狂の裏にある何かを感じ取っているのだ。

 俺は、剥きかけたミカンを兄貴の口に「あーん」と押し込みながら(これが一番自然に会話に割り込める)、援護射撃を開始した。

「ねえねえ、おにーちゃん。ぱそこんって、すごいんだよね?」

「んぐっ……もが。ああ、すごいらしいね。でも、何がすごいのか、僕もまだよくわからなくて」

 俺は、わざとらしく首をかしげてみせた。

「あーいー、きいたことあるよ。ぱそこんがあるとね、『せかいじゅうのとしょかんの本』が、おうちにいたまま読めるんだって!」

「……え?」

「それにね、とおーい国の人と、おてがみ交換もすぐにできるの。サンタさんにも、ちょくせつおねがいできるかも!」

 俺は、インターネットの概念を、可能な限り幼児語に翻訳して伝えた。  「世界中の情報へのアクセス」と「リアルタイムの地球規模コミュニケーション」。

 兄貴の動きが止まった。  彼の中で、点と点がつながっていく音が聞こえるようだった。

 カード転売で学んだ「情報の非対称性(知っている奴が得をする)」。  ポケベルで学んだ「人と繋がることへの渇望」。  もし、パソコンという箱が、それを世界規模で実現するものだとしたら――。

「……すごい。もしそれが本当なら、世界が変わるぞ」

 兄貴の瞳に、野心の炎が宿った。  よし、食いついた。

 †

 次の日曜日。我が家に激震が走った。

「ただいま。……少し、大きな買い物をしたんだ」

 外出していた兄貴が帰宅した。その背後には、電気屋の配送業者が二人がかりで抱える、巨大な段ボール箱がいくつも積み上げられていた。

 リビングに運び込まれたのは、米びつみたいにデカいベージュ色のパソコン本体と、やたらと奥行きのあるCRTモニター。そしてプリンターなどの周辺機器一式だ。

「な、なんだこれは!? 翔、お前、これいくらしたんだ!?」

 親父が腰を抜かさんばかりに驚愕する。  当然だ。この当時、これだけのハイスペックPC一式を揃えれば、優に四〇万~五〇万は飛ぶ。普通のサラリーマン家庭が、子供の小遣いで買える代物ではない。

 兄貴は涼しい顔で答えた。

「貯金を下ろしました。これからは、情報化社会が来ます。将来のために、どうしても必要だと思ったので」

「ちょ、貯金って、お前……そんなに持っていたのか?」

「お年玉とか、今までずっと使わずに貯めていたので」

 嘘つけ。  俺は心の中でツッコミを入れた。その資金源が、カード転売とポケベル相談室で稼ぎ出した、俺のクマのぬいぐるみの中に隠されていた「アングラマネー」であることを、俺だけは知っている。

 親父は完全に言葉を失っていた。中学生の息子が、自分のボーナスより高い買い物を現金一括でしてのけたのだ。父親としての威厳がガラガラと崩れ去っていく音が聞こえた気がした。

 †

 その夜。兄貴の部屋。  俺たちは、鎮座する巨大なマシンの前に並んで座っていた。

 兄貴が分厚いマニュアルと格闘しながら、配線を終える。  そして、電源ボタンを押した。

 ブォォォォン……。  重低音のファンが回り出し、モニターに無機質な文字が流れ、やがて「Windows95」のロゴが浮かび上がった。

「……ついた」  兄貴がゴクリと喉を鳴らす。

 だが、本番はここからだ。インターネットに繋がなければ、ただの高い箱だ。  兄貴が震える手で、ダイヤルアップ接続のアイコンをクリックする。

 その瞬間。部屋に、あの「音」が響き渡った。

 ――ジジジ、ピーヒョロロロロロ……ガーーーー、ピピピピ……

 モデムの接続音。  前世の俺にとっては、懐かしさで涙が出そうになる「過去の遺物」の音。  だが、今の兄貴にとっては、未知なる世界への扉が開く「未来のファンファーレ」だった。

「繋がった……!」

 画面に、ゆっくりと、カクカクと、ブラウザの初期ページが表示される。  ただの文字と、粗い画像の羅列。今の基準で見れば信じられないほど遅く、チープな画面だ。

 だが、兄貴はまるで宇宙の真理を見たかのように、画面に釘付けになっていた。

「愛理……すごいよ。本当に、ここから世界中に繋がっているんだ」

 兄貴が興奮気味に俺の方を向いた。その顔は、新しいおもちゃを手に入れた子供のようでもあり、新たな大陸を発見した冒険家のようでもあった。

「ありがとう、愛理。君が背中を押してくれなかったら、僕はまだこの凄さに気づけていなかった」

 兄貴が俺を抱きしめる。  うんうん、よかったな兄貴。

 俺は兄貴の腕の中で、ニヤリと笑った。

 さあ、これで武器は揃った。  Windows95の登場は、IT革命の狼煙(のろし)だ。これから数年で、ヤフーが来て、Googleが来て、アマゾンが日本に上陸する。ドットコムバブルが到来し、IT長者が雨後の筍のように生まれる時代がやってくる。

 その全てを知っている俺と、最強の実行力と資金力を持つ兄貴。  俺たちが、この日本のインターネット黎明期を牛耳らないで、誰がやるというのだ?

 ピーヒョロロと鳴り響くモデムの音を聞きながら、俺は確信した。  俺の「二度目の人生勝ち組計画」は、ここからが本番だと。
感想 0

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった! ……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。 なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ! 秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。 「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」 クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない! 秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

両隣の幼馴染が交代で家に来る

みらいつりびと
恋愛
両親がタイへ行く。 父親が3月上旬に上司から命じられた。4月1日からバンコクで勤務する。 うちの父と母はいわゆるおしどり夫婦というやつで、離れては生きていけない……。 ひとり暮らしの高校2年生森川冬樹の世話をするため、両隣の美しい幼馴染浅香空と天乃灯が1日交代で通ってくる。 冬樹は夢のような春休み期間を過ごし、空と灯は火花を散らす。 幼馴染三角関係ラブストーリー。全47回。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
恋愛
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。