平成元年生まれの俺が、平成元年に美少女転生!? ~ハイスペ兄貴に溺愛されながら、未来知識でバブル崩壊後の日本を無双する~

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第8話:白い卵と、女子高生の行列

平成八年(一九九六年)の冬。  街はクリスマス商戦の真っ只中だった。

 俺と兄貴は、デパートのおもちゃ売り場に来ていた。  兄貴のサイトのアクセス数が一万を超えた記念に、俺へのクリスマスプレゼントを買ってくれるというのだ。

「愛理、何でも好きなものを選んでいいよ。リカちゃん人形? それともシルバニア?」

 中二になった兄貴は、少し背が伸びて、声変わりも始まっていた。  休日に妹とデパートに来る中学生男子なんて、普通なら反抗期で嫌がりそうなものだが、重度シスコンの彼には関係ないらしい。

 俺は売り場を歩きながら、ターゲットを探していた。  この時期、絶対に手に入れておかなければならない「金脈」があるはずだ。

 ……あった。  売り場の隅っこ、ワゴンセールの隣に、ひっそりと吊るされていた小さなパッケージ。

 卵の形をした、小さなキーチェーンゲーム。  商品名は『スペース・エッグ』。  画面の中でドット絵の宇宙人を育てる、というシンプルな育成ゲームだ。

 今はまだ、「女子高生の間で少し流行り始めた」程度の知名度。  だが、年が明ければこれが日本中から姿を消し、社会現象となり、白い本体には数万円のプレミア価格がつくことになる。

 俺はタタタッと駆け寄り、そのパッケージを指さした。

「おにーちゃん、これ! あーいー、ペットかいたい!」

「え? これ?」  兄貴が商品を手に取る。 「『スペース・エッグ』……? 聞いたことないな。本当にこれでいいの? もっと高いおもちゃでもいいんだよ?」

「ううん、これがいいの! クラスのみんなにも、くばりたいなー」

 俺は上目遣いで爆弾発言をした。  「配る」。つまり複数買いだ。

「……なるほど。愛理は友達思いだね」  兄貴はニコリと笑うと、店員を呼んだ。

「すみません、この『スペース・エッグ』、ここにある在庫全部ください。特に、この『白いやつ』を重点的に」

 店員が「はあ……売れないんで助かりますけど……」と不思議そうな顔で箱詰めしていく。  兄貴、さすがだ。俺が「白がいい」と言う前に、デザイン的にシンプルで人気が出そうな色を直感で選んでいる。  こうして我が家には、段ボール一箱分の『スペース・エッグ』が確保された。一個一九八〇円。兄貴のポケットマネーなら余裕の投資だ。

 †

 年が明け、平成九年(一九九七年)。  予言通り、世界は一変した。

 テレビをつければ、どこのワイドショーも『スペース・エッグ』の話題で持ちきりだ。  おもちゃ屋の前には早朝から長蛇の列。入荷未定の張り紙に絶望する親子連れ。  女子高生たちは、カバンにジャラジャラと大量の「卵」をぶら下げることがステータスとなり、特に「白」は幻のアイテムとして崇められていた。

 学校から帰宅した兄貴は、少し青ざめた顔をしていた。

「……すごいことになってる。愛理、君は予知能力でもあるのかい?」

 リビングには、あの日買った段ボール箱が鎮座している。  今、この箱の中身は、定価の十倍、二十倍の価値を持っていた。

「あーいー、よくわかんない。でも、テレビでみんなほしいって言ってるね」  俺はすっとぼけてミカンを食べる。

 兄貴は、箱の中の「白い卵」を一つ取り出し、じっと見つめた。

「学校でも、みんな探してる。特に女子が、これを持ってる男子には優しくなるらしい」  兄貴が苦笑する。

「おにーちゃん、それ、どうするの? あーいーは、いっこあればいいよ」

 俺の言葉に、兄貴の目が冷徹な「商人の目」に変わった。

「……売ろう。でも、ただお金にするだけじゃ面白くない」

 †

 兄貴がとった行動は、またしても俺の想像を超えていた。

 彼は自分のホームページ『電脳秘密基地』に、特設ページを作ったのだ。  タイトルは『スペース・エッグ交換・譲渡掲示板』。

 ただし、条件があった。  譲渡の対価は、現金ではない。  『現地の流行情報』と『プログラム技術書』、そして『使わなくなったパソコンパーツ』だ。

 兄貴は書き込んだ。  【求む:C言語の参考書、または増設メモリ。出:スペース・エッグ(白)新品】

 反応は爆発的だった。  お金を出しても買えない「幻の白」が、手元に余っているパーツや古本で手に入るのだ。全国のパソコンマニアや、マニアな親を持つ子供たちが殺到した。

 数日後。我が家には、大量の専門書と、ハイスペックなメモリや周辺機器が届いた。  現金を稼ぐよりも、自分の「知識」と「環境」を強化することを選んだのだ。

 兄貴は、届いたばかりの分厚い『C言語プログラミング』の本をめくりながら、俺に言った。

「愛理。僕はこのブームを見ていて、気づいたことがあるんだ」

「なあに?」

「このおもちゃ、液晶は粗いし、できることは『エサやり』と『掃除』だけだ。機能としては単純すぎる。でも、どうして人はこんなに熱狂すると思う?」

 兄貴は、ピーピーと呼び出し音を鳴らす自分の『卵』を指先で撫でた。

「……『罪悪感』だよ」

 俺はドキッとした。

「放っておくと死んでしまう。お世話をサボると病気になる。この小さな電子機器の中に、『命』があるように錯覚させる。この『面倒くささ』こそが、愛情を生んでいるんだ」

 鋭い。  便利さを追求するだけがITじゃない。ユーザーの感情を揺さぶり、時間を使わせ、依存させる。  それは、後の「ソーシャルゲーム」や「SNS」の根幹に関わる心理だ。

「僕は、作る側になりたい。誰かの作ったハードを転売するんじゃなくて、僕自身が、人の心を動かす『仕組み』を作りたいんだ」

 兄貴の瞳は、未来を見ていた。  目の前のブームに浮かれることなく、その本質を見抜き、次のステップへの糧にする。    俺は、思わず兄貴に抱き着いた。

「おにーちゃんなら、できるよ! あーいー、おうえんする!」

「ありがとう、愛理。……よし、まずはこのC言語をマスターして、簡単なゲームを作ってみるよ」

 こうして、兄貴の部屋は「転売屋の倉庫」から「プログラマーの開発室」へと変貌を遂げた。  『スペース・エッグ』のブームは、兄貴を「消費者」から「生産者」へと覚醒させるきっかけとなったのだ。

 俺は、参考書と格闘する兄貴の背中を見ながら、ニヤリと笑った。    いいぞ、その調子だ。  時代はまもなく一九九九年。あの「ノストラダムス」の年であり、携帯電話がインターネットと繋がる「iモード」の夜明けが来る。  プログラミングを覚えた兄貴が、そのプラットフォームに降り立った時……俺たちの無双は加速する。

 とりあえず今は、俺の『卵』がウンチまみれで死にかけているのを掃除するとしよう。あー、面倒くさい(愛情)。
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