平成元年生まれの俺が、平成元年に美少女転生!? ~ハイスペ兄貴に溺愛されながら、未来知識でバブル崩壊後の日本を無双する~

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第10話:ミレニアムの騒ぎと、高校生社長の誕生

平成十二年(二〇〇〇年)、一月一日。  新しいミレニアムの幕開けだ。

 俺、一ノ瀬愛理は十一歳。小学五年生の冬休み。  世間では「二〇〇〇年問題(Y2K)」が大騒ぎになっていた。「一九九九年」から「二〇〇〇年」に変わる瞬間、コンピューターが誤作動を起こし、ミサイルが発射されるだの、銀行預金が消えるだの、都市伝説レベルの噂が飛び交っていたのだ。

 深夜〇時。  俺と兄貴は、自宅のパソコンの前でカウントダウンをしていた。

「……3、2、1。おめでとう!」

 兄貴がエンターキーを押す。  画面上の時計は『2000/01/01 00:00:00』へとスムーズに切り替わり、何事もなく動き続けている。

「……何も起きないね」  兄貴が拍子抜けしたように言った。

「だねー。あーいー、ねむい」  俺は知っていた。大半のシステムにとって、Y2Kなんてメディアが煽りすぎただけのお祭りだったことを。

 だが、この「騒動」こそが、我が家に莫大な利益をもたらしていた。

 †

 実はこの数ヶ月、兄貴は「Y2K対策コンサルタント」として、地元の商店街や中小企業を走り回っていたのだ。

 きっかけは、親父の勤め先だった。  「会社の古い販売管理システムが止まるかもしれない」と青ざめる親父のために、兄貴がちょちょいとプログラムを修正してやったところ、社長から神様のように感謝されたのだ。

 そこからは早かった。  「一ノ瀬さんちの息子さんは天才だ」という噂が広まり、恐怖に怯える商店主たちから依頼が殺到した。

 作業内容は、BIOSの日付チェックや、古いソフトのアップデート、あるいは「大丈夫です」とお墨付きを与えるだけの簡単なもの。  だが、パニック状態の大人たちは、高校生の兄貴に数十万単位の報酬をポンと支払った。

「愛理の言う通りだったよ。『不安を取り除くことが一番の商品になる』って」

 兄貴は、パンパンに膨れ上がった通帳を見つめて言った。  その額、ベンツが一台買えるレベル。  携帯サイトの広告収入と合わせれば、もはや個人の小遣いの域を完全に超えている。

 俺は、こたつでミカンを剥きながら言った。

「おにーちゃん。もう、つくるしかないよ。『かいしゃ』」

「……うん。税理士さんにも言われたよ。『これ以上個人で稼ぐと税金が大変なことになるから、法人化したほうがいい』って」

 こうして、二〇〇〇年の春。  一人の高校生社長が誕生した。

 社名は『有限会社 K・A・リンクス』。  Kは翔(Kakeru)、Aは愛理(Airi)。  兄貴が「愛理の名前を入れないと会社を作る意味がない」と譲らなかった結果だ。

 登記上の代表は親父(名義貸しに近いが、親父も副社長としてその気になっている)だが、実質的な経営トップは、高校二年生の一ノ瀬翔だ。

 †

 「見てみろ、愛理! 雑誌に載ってるぞ!」

 ある日、親父が興奮してビジネス誌を買ってきた。  特集記事のタイトルは『ビットバレーの申し子たち! 新世紀を創る若き起業家特集』。

 そのページの中に、スーツをビシッと着こなし、知的な微笑みを浮かべる兄貴の写真が掲載されていた。  キャッチコピーは『現役高校生社長! モバイルネットの若き天才』。

 記事には、兄貴が開発した着メロサイトや占いのアルゴリズムがいかに画期的かが書かれている。  ……もちろん、その背後に、小学五年生の美少女(中身おっさん)の入れ知恵があることなど、微塵も書かれていない。

「かっこいー! おにーちゃん、芸能人みたい!」  俺がキャピキャピと褒めると、兄貴は顔を真っ赤にして照れた。

「やめてよ愛理。これは全部、会社の宣伝のためだから。……でも、愛理に褒められるのが一番嬉しいな」

 兄貴は、メディア映えする容姿と、謙虚で誠実な語り口で、瞬く間にIT業界の寵児となっていった。  渋谷のマークシティあたりで開催される「異業種交流会」や「起業家パーティ」にも招待されるようになった。

 だが、兄貴はパーティから帰ってくると、必ず俺に愚痴をこぼす。

「……疲れたよ、愛理。大人はみんな、僕の技術じゃなくて、『お金の匂い』を見て寄ってくるんだ。『上場(IPO)はいつだ』とか、『出資させてくれ』とか……」

 兄貴が、俺の膝に頭を乗せて甘えてくる。(※高校生男子が小学生の妹に膝枕される図だが、我が家では日常茶飯事だ)

 俺は、兄貴のサラサラの髪を撫でながら、冷徹に計算していた。

 ITバブルは、あと一年ほどで一度崩壊する。  ヒルズ族やら何やらが持て囃されるのはもう少し先だが、今、怪しい投資話に乗るのは危険だ。

「おにーちゃん。へんなおじさんたちのおはなしは、きかなくていいよ。おにーちゃんは、みんながよろこぶ『さーびす』をつくることだけ、かんがえてればいいの」

「……そうだね。愛理がいる場所が、僕の会社(ホーム)だもんね」

 兄貴は安心したように目を閉じた。

 そう、焦る必要はない。  俺たちの会社『K・A・リンクス』は、実需に基づいた堅実なキャッシュフロー(着メロ&占い)を持っている。  虚業で膨れ上がったバブル企業とは違う。

 俺は兄貴の寝顔を見下ろしながら、次の手を考えていた。  そろそろ、自宅の一室では手狭だ。  東京に、前線基地(オフィス)が必要だ。  そして、次に狙うのは……「ブログ」の前身となる、あの日記文化。  『テキストサイト』ブームの到来だ。

 「侍魂」とかに影響された若者たちが、黒背景にデカ文字で語り出す時代が来る。  そこをプラットフォーム化して囲い込めば……フフフ。

 俺の野望と、兄貴の快進撃は、二一世紀になっても止まらない。  とりあえず、膝が痺れてきたので、兄貴の頭をそっとクッションに移した。
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