平成元年生まれの俺が、平成元年に美少女転生!? ~ハイスペ兄貴に溺愛されながら、未来知識でバブル崩壊後の日本を無双する~

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第11話:小5のバレンタイン、靴箱が崩壊する日

平成十二年(二〇〇〇年)、二月十四日。  世間ではミレニアム・バレンタインなどと浮かれているが、俺、一ノ瀬愛理(十一歳)にとっては「物流の危機管理」が求められる日である。

 朝、登校中の通学路。  俺が歩くと、モーセの十戒のように道が開く。

「あ、愛理ちゃん! お、おはよう!」 「愛理ちゃん、今日の服も可愛いね……!」

 すれ違う男子小学生たちが、顔を真っ赤にして挨拶してくる。  俺は、三十代営業マン時代に培った「・営業スマイル・改」を貼り付け、小首をかしげて手を振る。

「みんな、おはよう! 今日も寒いねっ」

 ズキュゥゥゥン!  周囲の男子たちが胸を押さえてよろめく音が聞こえるようだ。  チョロい。実にチョロい。  だが、この程度の挨拶回りは序の口だ。俺の「モテ」は、人間だけにとどまらない。

「ワンッ! クゥ~ン(愛理ちゃん好き好き!)」

 散歩中の犬が、飼い主のリードを振り切って俺に飛びついてくる。  近所の八百屋のおじさんが「愛理ちゃん、いいイチゴが入ったよ!」と、頼んでもいないのに高級あまおうをカバンにねじ込んでくる。  もはや種族を超えたカリスマ性。前世の俺が見たら、血の涙を流して嫉妬するだろう。

 †

 学校に到着。ここからが戦場だ。  俺は昇降口で深呼吸をし、自分の靴箱(三段目)に手をかけた。

 ガラッ。

 ドサササササササッ――!!

 雪崩だ。  靴箱の扉を開けた瞬間、極彩色の小箱や封筒が、足元に雪崩れ込んできた。  上履きが入るスペースなど一ミリもない。物理法則を無視した圧縮陳列だ。

「……今年もか」

 俺はため息をつきそうになるのをこらえ、「わあ、すごい!」と驚いてみせた。  周囲にいた男子たちが、固唾を飲んで俺を見守っている。中には、自分のチョコがちゃんと入っているか心配そうに見ている奴もいる。

 俺はしゃがみ込み、一つ一つ丁寧に拾い上げる。  本命チョコ、義理チョコ、友チョコ、ファンレター。  差出人は男子だけではない。

『愛理サマへ。一生ついていきます! 6年2組 サキより』 『愛理ちゃん、これ食べてね! 手作りだよ♡ 女子バスケ部一同』

 そう、俺は女子からの人気も絶大だった。  普通、これだけモテれば嫉妬を買ってイジメられそうなものだが、俺の美貌と愛想は「突き抜けすぎて」いた。  女子たちにとって、俺はライバルではなく「崇拝対象(アイドル)」なのだ。

「愛理ちゃん、大丈夫? 持つの手伝うよ!」  クラスの女子ボス的存在であるカオリちゃんが、下僕のように飛んできた。

「ありがとうカオリちゃん! 助かるぅ~」  俺が微笑むと、カオリちゃんは「ううん、愛理ちゃんのためなら!」と、男子からのチョコを回収し始めた。

 こうして俺は、女子親衛隊に荷物を持たせ、教室へと凱旋した。  まさに女王の行進である。

 †

 給食の時間。  俺の机の周りには、常に人が集まっている。

「一ノ瀬さん、この消しゴム、あげるよ! よく消えるやつなんだ!」 「愛理ちゃん、私のプリン、半分あげる!」

 貢ぎ物の山だ。  俺は内心(消しゴムはいらねぇよ、現金くれよ)と思いながらも、「えーっ、いいの? ありがとう!」と笑顔で受け取る。

 その時、隣のクラスの男子、タカシがやってきた。  彼は地元のサッカーチームのエースで、学年一のモテ男だ。  前世の俺なら「爆発しろ」と呪っていたタイプだが、今の俺にとっては「将来有望な人脈」の一つに過ぎない。

「よう、一ノ瀬。これ」  タカシはぶっきらぼうに、有名ブランドの紙袋を渡してきた。中身はゴディバだ。小学生が生意気な。

 教室がざわつく。「おい、タカシが本気だぞ」「あいつなら釣り合うかも……」なんて囁きが聞こえる。

 だが、俺は知っている。  ここで特定の一人を受け入れれば、俺の「みんなのアイドル」というポジションが崩れ、ファン同士の抗争が勃発する。  平和維持のためには、「全方位外交」こそが正解なのだ。

「わあ、美味しそう! みんなで食べようよ!」  俺はその場で箱を開け、周囲の女子たちに配り始めた。

「えっ……」と絶句するタカシ。 「タカシくん、ありがとう! みんなも喜んでるよ!」

 俺はトドメの天使スマイルを発射。  タカシは顔を真っ赤にして、「お、おう! またな!」と逃げていった。  ふっ、まだまだ青いな少年。三十代のおっさんの鉄壁ガードを崩すには、あと十年早い。

 †

 放課後。  俺は両手に抱えきれないほどの紙袋(中身は全部チョコと貢ぎ物)を持って、校門を出た。  さすがに重い。タクシー呼びたい。

 その時だった。

「愛理ーーっ!!」

 黒塗りのハイヤーが校門前にキキーッと停まり、後部座席からスーツ姿のイケメンが飛び出してきた。  我が兄、一ノ瀬翔(十七歳・IT企業社長)である。

「お迎えに来たよ! ……って、なんだその荷物はぁぁぁっ!!」

 兄貴は、俺が抱えるチョコの山を見て、この世の終わりのような悲鳴を上げた。

「どこのどいつだ! 愛理にこんな、不純な砂糖の塊を送りつけた輩は! 全員の名前を控えなさい! 僕が直々に、彼らの家のネット回線をナローバンドに制限してやる!」

 大人げない。IT社長の権力を私怨に使おうとするな。

「おにーちゃん、落ち着いて。これ全部、おにーちゃんと一緒に食べるつもりだよ?」  俺が小声で囁くと、兄貴の般若のような顔が一瞬で蕩けた。

「……僕と? 愛理と二人で?」

「うん。だって、あーいーの一番の『本命』は、おにーちゃんだもん」

 もちろん嘘ではない。俺の安寧な生活を支えるメインスポンサー(兄)こそが、最重要人物だ。

「愛理……ッ! ああ、神よ!」  兄貴はその場で膝をつき、天を仰いで感涙にむせんだ。  校門周りの女子高生(兄貴のファン)や、男子児童たちが、ドン引きしながらその光景を見ている。

「さあ、帰ろうおにーちゃん。チョコフォンデュパーティーしよ?」

 俺は兄貴の手を引いて、ハイヤーに乗り込んだ。  窓の外では、まだ俺に手を振る生徒たちの姿が見える。

 モテるというのは、在庫管理と顧客対応の連続だ。  ため息をつきながら、俺はハイヤーの革シートに深く沈み込んだ。  まあ、前世の孤独に比べれば、贅沢な悩みかもしれないが。

 とりあえず、この大量のチョコを消費するために、兄貴の会社の社員たちに「社長からの差し入れ」として配らせよう。  福利厚生費の削減にもなるし、まさに一石二鳥だ。

 美少女の計算高いバレンタインは、こうして甘く、黒く、幕を閉じるのだった。
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