平成元年生まれの俺が、平成元年に美少女転生!? ~ハイスペ兄貴に溺愛されながら、未来知識でバブル崩壊後の日本を無双する~

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第13話:夏休み! ラジオ体操のスタンプと、市民プールの女王

平成十二年(二〇〇〇年)、八月。  IT社長の妹であり、K・A・リンクスの影の支配者である俺、一ノ瀬愛理(十一歳・小学五年生)は、最大の敵と戦っていた。

 それは、「早起き」である。

 朝六時二〇分。  セミがすでにミンミンと合唱する中、俺は眠い目をこすりながら近所の公園に向かっていた。  首には出席カード。そう、夏休みの風物詩「ラジオ体操」だ。

(……眠い。前世の社畜時代ですら、こんな時間は寝ていたぞ)

 中身は三十代、夜型の生活が染みついている俺にとって、この早朝イベントは苦行でしかない。  だが、サボるわけにはいかない。「地域のみんなのアイドル愛理ちゃん」というブランドを維持するためには、こうした地道なドブ板選挙活動(地域交流)が欠かせないのだ。

 公園に到着すると、そこには既に数十人の子供たちと、地域の老人たちが集まっていた。

「あ、愛理ちゃんだ!」 「愛理ちゃん、おはよー!」

 俺が姿を見せた瞬間、だらけていた眠そうな空気が一変した。  子供たちは背筋を伸ばし、ゲートボール仲間の老人たちは「おお、今日も女神が来たぞ」と拝まんばかりの勢いだ。

「みなさん、おはようございます! 今日もいちにち、がんばりましょうね!」

 俺は一〇〇点満点の笑顔で挨拶をする。  よし、これで地域の好感度は今日もストップ高だ。

 『新しい朝が来た、希望の朝だ~♪』

 ラジカセから流れるピアノの音に合わせて、体操が始まる。  俺の動きは完璧だ。指先までピンと伸びた美しいラジオ体操第一。  前世では「肩こり解消のためのストレッチ」として染みついていた動きが、美少女の体で行うことで「舞い」へと昇華されている。  周囲の視線が俺に集中する。もはや俺が手本だ。台の上にいる指導員のおじさんが霞んでいる。

 そして、終了後のスタンプタイム。  ここでも俺への待遇は特別だった。

「はい、愛理ちゃん。今日も偉いねぇ」  町内会長の田中爺さんが、俺のカードにスタンプを押してくれるのだが……。

「あれ? おじいちゃん、これ……」

「愛理ちゃんだけ特別に『金色のスタンプ』じゃ。あと、これは内緒の飴ちゃん」

 俺のカードだけ、普通の赤いハンコではなく、キラキラ光る特製スタンプが押され、ポケットには高級そうなフルーツ飴がねじ込まれた。  ……癒着だ。完全に町内会との癒着構造ができあがっている。  だが、もらえるものは貰う。それが元営業マンの処世術だ。

 †

 午後。気温は三〇度を超えた。  こうなると、行く場所は一つしかない。

 市民プールだ。

 ハワイ? 沖縄? そんな移動時間の無駄な場所には行かない。  自転車で一〇分、入場料大人四〇〇円、子供二〇〇円。この安近短なレジャー施設こそが、庶民の(そして今の俺の)オアシスだ。

 俺は、学校指定の紺色のスクール水着に身を包み、プールサイドに降り立った。  頭には白い水泳帽。ゴーグル着用。  色気もへったくれもない装備だが、素材(俺)が良ければ全てはプラスに働く。

 ザッ、ザッ、ザッ。  俺がプールサイドを歩くと、監視員の大学生のお兄さんたちが、慌てて姿勢を正すのが見えた。

「ち、超絶美少女がいる……!」 「なんだあの子、水着のCM撮影か?」

 ざわめきが広がる中、俺は準備運動を済ませ、シャワーを浴びて入水する。

 流れるプールに身を任せ、プカプカと浮く。  極楽だ。  兄貴の会社の株価とか、次の携帯アプリの仕様とか、そういう面倒なことを全て忘れて、ただの水死体ごっこに興じる。

 すると、背後からバシャバシャと水しぶきが上がった。  クラスの男子数人が、鬼ごっこをしているようだ。  一人が勢い余って、俺の方に突っ込んでくる。

「うわっ、ごめっ……あ、愛理ちゃん!?」

 男子(タカシ)は、俺にぶつかる寸前で無理やり急ブレーキをかけ、溺れかけた。

「きゃっ、あぶない!」  俺はとっさにタカシの腕を掴んで支えた。

「だ、大丈夫、タカシくん? プールで走っちゃだめだよ?」

 至近距離。濡れた髪。心配そうに覗き込む上目遣い。  タカシの顔が、茹でダコのように真っ赤になった。

「は、はひっ! ご、ごめんなさいぃぃ!」  タカシは鼻血が出そうな顔を押さえて、猛スピードで泳ぎ去っていった。  ……純情だな。  まあ、これで彼も「プールサイドでは走らない」というルールを生涯守る立派な大人になるだろう。教育的指導完了だ。

 †

 一通り泳いで小腹が空いた俺は、プールサイドの売店に向かった。  狙いはフランクフルトと焼きそばだ。  小銭入れから二〇〇円玉を取り出そうとしていると――。

「あら~! 愛理ちゃんじゃない!」

 売店のおばちゃん(近所の商店街の肉屋の奥さん)が、俺を見つけて声を上げた。

「こんにちは、おばちゃん! フランクフルトください!」

「いいのよいいのよ! 今日は暑いからねぇ、これ、おばちゃんからのサービス!」

 ドン。  渡されたのは、フランクフルト(極太)と、大盛り焼きそば、さらに「おまけ」のアイスキャンディー。  完全に二〇〇円の対価を超えている。

「えっ、わるいですよぉ……」

「いいの! 愛理ちゃんが食べてくれるだけで、売り場の華になるんだから!」

 「看板娘効果」ということか。  俺はありがたく受け取り、ベンチに座って頬張った。  美味い。労働(可愛く振舞うこと)の後のメシは格別だ。  俺がフランクフルトをハフハフと食べているだけで、遠巻きに見ていた男子たちが「可愛い……」と呟き、売店の売り上げが伸びている気がする。

 まさに、市民プールの女王(エコノミック・アニマル)。  俺はこのプールを支配していると言っても過言ではない。

 †

 夕方。  「蛍の光」のメロディが流れ、閉園時間となった。  着替えて外に出ると、プールの入り口に、場違いな黒塗りの高級車が停まっていた。

 運転席から降りてきたのは、ビシッとしたスーツ姿の兄貴だ。

「愛理! お迎えに来たよ!」

 周囲の小学生や親たちが「えっ、誰あれ?」「芸能人?」「迎えの車すごっ」とざわつく。  兄貴、目立ちすぎだ。市民プールにハイヤーで来るな。

「おにーちゃん、恥ずかしいから車の中で待っててって言ったのに……」

「ごめんごめん。でも、心配でさ。変な虫がついてないかと思って」  兄貴は俺の髪が半乾きなのを見て、愛おしそうにタオルで拭いてくれた。

「大丈夫だよ。おばちゃんに焼きそばもらったし、楽しかった」

「そうか。……あ、そうだ愛理。これ」  兄貴は車の後部座席から、何かを取り出した。

 それは、最新型の『防水携帯電話』の試作機だった。

「これを持ってプールに入れば、プールサイドからでも着メロのダウンロードができる……そういうCMを打とうと思うんだけど、どう思う?」

 俺は、兄貴の手にある携帯を見て、ため息をついた。  結局、俺たちは根っからのビジネス脳だ。  プールの更衣室で、みんなが携帯をどう扱っていたか、防水ポーチの需要はどうか。無意識にそんなことばかり観察していた自分を思い出す。

「……うん、売れるよ。特に、水着でプリクラが撮れる機能をつけたら、女子高生にバカ売れする」

「さすが愛理! 天才だ!」

 俺たちは夕焼けの中、高級車に乗り込んだ。  ラジオ体操のスタンプと、焼きそばの味と、次のビジネスの種。  今年の夏休みも、なかなか充実したものになりそうだ。

 さて、帰ったら兄貴に宿題(自由研究)を手伝わせるか。テーマは『ITバブルの崩壊と今後の経済予測』でいいかな。……いや、さすがに可愛げがないから『アサガオの観察』にしておこう。
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