平成元年生まれの俺が、平成元年に美少女転生!? ~ハイスペ兄貴に溺愛されながら、未来知識でバブル崩壊後の日本を無双する~

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第15話:卒業式はファン感謝祭!? 第二ボタンがむしり取られる日

平成十三年(二〇〇〇一年)、三月。  桜の蕾がほころび始めた春の日。俺、一ノ瀬愛理は小学校の卒業式を迎えた。

 鏡の前には、紺色のブレザーとチェックのスカートに身を包んだ、完成度の高すぎる十二歳の少女。  今日でランドセルともお別れだ。  中身が三十代のおっさんである俺にとって、小学校生活は「退屈」と「演技」の連続だったが、終わるとなれば多少の感慨……はないな。やっと解放される。それだけだ。

 リビングに降りると、兄貴がハンディカム(当時はまだDVテープだ)を構えて待ち構えていた。

「おお……! 愛理、卒業おめでとう! 今日の愛理も最高に輝いているよ!」

 兄貴は今日のために、会社を休んで参列する気満々だ。  高級スーツを着こなした十八歳のイケメン社長が、小学校の卒業式でビデオを回す。完全に不審者スレスレだが、兄貴のオーラがそれを「保護者の鑑」に見せているから不思議だ。

「ありがとう、おにーちゃん。泣かないでね?」 「無理だ。もう泣きそうだ」  兄貴はすでに目が赤い。

 †

 式典は、厳粛な雰囲気で進んだ……はずだった。

 「卒業証書授与! 一ノ瀬愛理!」

 担任の先生が名前を呼ぶ。  俺が「はい!」と澄んだ声で返事をし、壇上に上がる。

 その瞬間。  体育館の空気が変わった。  在校生席、卒業生席、そして保護者席から、どよめきと溜息が漏れる。

 俺が校長先生から証書を受け取り、振り返って一礼する。  パシャパシャパシャッ!  保護者席から焚かれるフラッシュの数が尋常ではない。自分の子供そっちのけで俺を撮っている親父たちが多数いる。  そして、ビデオカメラを回す兄貴が、感極まって「うっ、ぐすっ……」と嗚咽を漏らしているのがマイク無しでも聞こえた。

 そして、俺の見せ場である「答辞」の時間だ。  卒業生代表はもちろん俺。

 俺はマイクの前に立ち、全校生徒を見渡した。  (……よし、昨晩ネットで検索した「泣けるスピーチ例文集」と、兄貴が株主総会で喋っていた内容をリミックスした最強のスピーチを食らえ)

「桜舞い散る、この良き日に……」

 俺は、あえて声を震わせ、少し潤んだ瞳(目薬済み)で語り始めた。  内容は「絆」とか「未来への翼」とか、耳障りの良い言葉を並べただけの中身のない文章だ。  だが、俺の「演技力」と「美貌」というバフがかかると、それは魔法の言葉に変わる。

 「私たちは、それぞれの道を歩みます。でも、この学び舎で育んだ思い出は、永遠に色褪せることはありません……」

 ズビッ、グスッ……。  会場のあちこちから、鼻をすする音が聞こえ始めた。  男子たちはボロボロ泣いているし、女子たちもハンカチを目に当てている。校長先生に至っては号泣だ。

 俺は心の中でガッツポーズをした。  よし、完璧なエンディングだ。これで俺は「伝説」として語り継がれるだろう。

 †

 だが、本当の地獄は式が終わった後に待っていた。

 教室に戻り、最後のホームルームが終わった直後。  「先生、ありがとうございましたー!」という感動的な別れの挨拶が終わるや否や、俺の席にクラス中の男子(と一部女子)が殺到した。

「愛理ちゃん! 俺のこと忘れないで!」 「愛理様! 一生の記念に何かください!」

 彼らの目は血走っている。  卒業式の定番イベント、「第二ボタン」の争奪戦だ。  通常は女子が男子にねだるものだが、このクラスではベクトルが逆だった。

「えっ、ちょ、みんな落ち着い……きゃっ!」

 誰かの手が、俺のブレザーの第二ボタンを引きちぎった。  それが合図だった。

「俺も!」「私も!」「袖のボタンでもいいから!」

 群集心理とは恐ろしいものだ。  俺のブレザーは、ピラニアの群れに投げ込まれた肉のように、瞬く間に「部品」を奪われていった。  第二ボタン、第一ボタン、袖ボタン、さらには名札、校章バッジ……。

「やめろ! これ以上むしるな! 前が閉まらなくなるだろ!」  俺の中の「おっさん」が叫びそうになるのを必死で堪える。

 一分後。  そこには、ボタンを全て失い、前がはだけたブレザーを羽織った俺が呆然と立ち尽くしていた。  周囲では、戦利品(ボタン)を握りしめて歓喜する男子たちが雄叫びを上げている。

 ……なんだこれ。世紀末の略奪か?

「愛理!!」

 そこに、廊下から兄貴が飛び込んできた。  俺の惨状(ボタン全損)を見た瞬間、兄貴の目が修羅と化した。

「き、貴様らぁぁぁっ! 僕の大事な妹になんてことを! そのボタンは一個一万円の価値があるんだぞ!(※ありません)」

 兄貴は自分の着ていた高級スーツのジャケットを脱ぎ、バサッと俺の肩にかけた。

「愛理、大丈夫か!? 怪我はないか!?」

「う、うん。びっくりしたけど、大丈夫……」  ジャケットに残る兄貴の体温と、高級なコロンの香りに少しホッとする。

「行こう。こんな野蛮な場所には一秒もいられない」  兄貴は俺の肩を抱き、鋭い眼光で男子たちを威圧しながら教室を出て行った。  男子たちは、IT社長の貫禄に圧倒され、道を開けるしかなかった。

 †

 校門を出て、迎えの車に乗り込む。  俺はシートに沈み込み、深くため息をついた。

「……疲れた」

「災難だったね、愛理。まさか女子の愛理がボタンをむしられるなんて」  兄貴が苦笑しながら、冷たいお茶を渡してくれる。

「でも、これで小学生もおしまい。……あーいー、中学生になったら、もっと『ふつう』にすごしたいな」

 それは本心だった。  だが、兄貴はハンドルを握りながら(免許取立てだ)、楽しそうに言った。

「無理だと思うよ。愛理の輝きは隠せないからね。それに……」

「それに?」

「中学校の制服は『セーラー服』だろ? 愛理のセーラー服姿なんて、破壊力が高すぎて、また伝説を作っちゃうよ」

 兄貴はシスコン全開の笑顔を見せた。  俺は天井を仰いだ。  そうだった。次は思春期真っただ中の中学校だ。  もっと面倒な「先輩・後輩関係」や「ヤンキー」、「色恋沙汰」が待ち受けている。

 だが、ビジネス的にはチャンスも広がる。  中学生になれば、行動範囲も広がり、よりリアルな若者トレンドに触れられる。  写メール、携帯小説、ブログ……二〇〇〇年代前半の文化が花開く場所だ。

「……まあ、いいか。稼げるネタが転がってるなら、どこへでも行くよ」

 俺は、むしり取られたブレザーを脱ぎ捨て、兄貴のジャケットに包まりながら不敵に笑った。  さらば小学校。  そして待っていろ、中学校。  元・三十代のおっさんが、セーラー服を着てカチ込みじゃあ!

 車は春の風を切って、次なるステージへと走り出した。
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