牛沢病院へようこそ!

ごみ

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第壹話

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「あぁもう!ロマが早くしないからぁ~!」

イライラした様子で車を運転するのは、金髪で黒メガネをかけた牛沢病院の院長。
助手席には私、ロマ。
「元はと言えば牛沢センセが何も準備をしてない私を送迎に選んだから。」
「そりゃそうだけどさぁ~!!…でも、今日は風がなくてよかったね。」
牛沢センセの言葉を無視する。こういうのには慣れているのか、なははと笑いながら大きな病院の職員駐車場に車を止めて二人で裏口から病院へ入ると、黒髪に黒シャツの男の子が見えた。確かにメールに書いてある特徴と一致している。
「君がキヨ君かな?」先程ロマに牛沢と呼ばれた男が話しかけた。
ロマはよく初対面の人とフレンドリーに話せるもんだと感心するが、これが牛沢の魅力なのだと確信した。
「えぇ、そうですが…貴方が牛沢さんでしょうか?」
「そうだよ。あ、こっちのコはロマね。」
やめろ。こっちに話をフるな。
「道化キヨです。よろしくね。」
「それホントに本名なの?…田所ロマ。アンタとよろしくする気は微塵もないから。」
久しぶりに履いたヒールをコツコツと鳴らしながら裏口へ出て車に乗る。
カギはかかっていないようだった。



「ごめんねぇ、あのコ、なかなかヒトを信用しないんだ。」
牛沢さんに謝られた。謝ることなんて何も無いのに謝られて、なんか少し拍子抜けした。
「いえ、大丈夫です。」
「君は…額に目がひとつあるんだよね。いつ頃から?」
気を使ってくれたのか、少し声を潜めて話しかけてくれた。
この人はここが魅力なのだろうか。でないとあのコは着いてこない気がする。
そんなことを思いながら、口は勝手に「一ヶ月前くらいから、アザが出来てて…」と話す。
目らしいものが出てきたのはつい一週間前で、昨日、顔を洗うと額に強い痛みを覚えた。
水で流してみると、自分が瞬きするのと同じタイミングで動く額の瞼や、しきりに動く眼球が鏡に映ったので、最初は見間違えだと思って寝た。最近は徹夜続きだったからな。と。
朝起きて見ても同じだったので、大きな病院を受診してみると、この病院を勧められた。
「そうか…よし、じゃあうちの病院に向かおう。基本的にうちは住み込みで療養してもらうから、先に家に向かう?」
「あ、じゃあそうしたいです。住所は…」
車に乗せてもらい、家に帰って急いで荷物を詰めた。
手には相棒のぬいぐるみ、クマ太郎を握る。
車に揺られると、眠気が襲う。



車にさっきのおかしな名前の男が乗る。
数十分で着いたのは男の家で、男が降りて5分程でまた戻ってきた。
手には身長が1メートルはありそうなクマの人形。
この場所からだと、病院までは軽く一時間程度だろう。
「…ありゃ、キヨ君寝ちゃったか。」
「なんでコイツ受け入れたの。今の体勢だけで乗り切れるよ。」
元々牛沢病院は牛沢センセを入れて男子3人、女子3人で療養していた。喧嘩は何回もあるが、みんな仲がいい。私を除いては。
私はヒトを簡単に信用出来なくなってしまった。友達だと気軽に接してくれて、裏切り、最期は哀れな奇病に罹って死んでしまったあのコのせいで。
私はこの病院にいても引きこもり、当番の仕事をよくサボっている。仲良くさせようと牛沢センセは試行錯誤しているが、私が結局ぐちゃぐちゃに計画を壊してしまう。

「…そうだな。彼の父が俺と知り合いだったから。」
「全然悩んでないじゃん。」

車の窓を開けて、左の手のひらだけを窓の外に出した。
すると、手のひらに蕾が芽吹いて、花を咲かせる。その様をみて、牛沢センセは「あんまりやると死んじゃうよ」と口酸っぱく言う。彼は綺麗だと言ってくれたこの病気も、今となってはもう呪いのように私の身体や心、精神に巣食っていた。
久しぶりに風花を楽しんだ。窓を閉めて左手をみると、ネモフィラやスズラン、スミレなど、ブルー系統の色の花が散っていく。
「…やはり、君の花は感情とリンクしているようだね。」
「私の病名、風花病からエモーションフラワー病でよくない?」
「なはは、可愛い名前だね。じゃあ僕達の間でだけ、そう呼ぼうか。」
私の病気は風にあたった部位に花が咲く病気。
これを患ったのは高校2年生の夏で、これを原因に私は高校を中退した。
病気の原因は不登校や人間不信。不登校と言っても、授業日数や提出物は大体出していたり足りていたりなので2年に上がれた。
頭の中で色々な情景が流れていると、スマホから着信音が鳴る。
件名はユサで、グループマインでの発言だった。


ユサ「ねぇ、うっしーまだ?」

シオン「ついにmineでも言い始めたか!ロマ!なるはやで頼む!」


返信をせずに画面から顔を上げると、あと20分程で着くかの所だった。
「ねぇ、牛沢センセ?」
牛沢センセの事だから言わないと絶対に寄り道する。
そう直感したから話しかけた。
「ん~?なに~?」
「ユサが牛沢センセまだかまだかって煩いから早くって。」
そう言うと、牛沢センセは「なはは、じゃあ急がねーと」と言って、誰もいない山道を走り抜けた。このままだったら15分くらいで着くかな、と思ったのでまたグループマインに向き直り、

ロマ「15分」

と主語を付けずに返信した。
既読が2コ。見たのはユサとシオンだろう。
スリープ状態にして窓の外をみると、山が桜色に色付いていた。
「きれー…」
「おや、ホントだ。…よし、ついた。」
サイドブレーキを踏む音が聞こえた。
一目散とは行かずとも、さっきのアイツを牛沢センセに任せて足早に家…牛沢病院に入る。

「うっしーはまだ?!」
「あ、ロマ!おけーり!あれ、うっしーは?」
両開きのドアを開けると、グループマインで騒いでいた二人が騒いでいた。
この二人は基本的に煩いことで有名で、私はこの二人が大の苦手だ。最近はただ人前に出る事でもストレスを感じているのに、家ではこの二人が騒いでいることでもストレスを感じる。
シオンはストレスを感じると静電気を溜め込むので、とりあえず「外」とだけ伝える。
二人は本当に一目散といった感じで外にかけて言った。



「…い、おーい。」
肩を揺すられて目を覚ますと、牛沢さんの顔が目の前に広がった。
「うわ、おはようございます。」
「おはよ!…着いたよ。」
荷物を半分持ってもらい車を降りる。すると、目の前の病院は最早御屋敷と言うべき建物だった。
「…うっしぃぃぃぃぃ!!!!」
叫び声が聞こえて玄関をみると、ブリーチしたのかピンク髪の男の子。
「おー、ユサァー…大丈夫かー」
「うっしーおけーりぃー」
もう一人は頭に黒いニットを付けている金髪のヤンキーの男で、口にはタバコ。
「あ!おいこらシオン!お前まぁたタバコ吸いやがって!」
「俺は成人してんだ。1日1本なんだからいい方だろうが。」
シオンと呼ばれた彼は、俺と目が合うとこう言った。

「…お前、昨日の今日でココ来てよかったな。」
「へ?」
何故それを知っているのか、と聞こうとすると、彼は「いや、なんでもねぇ。」と言ってさっきのピンク髪の男の子と一緒に御屋敷に入っていった。
「…シオンは潜在意識で思考を読み取ってしまうんだ。だから気にせず接してあげて。」
そう牛沢さんに言われて、俺は「はい」としか答えられなかった。
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