初めまして鎌子さん。

ごみ

文字の大きさ
3 / 5

必殺遊び人!その名は…ジン!

しおりを挟む
「おはようございます…あれ、鎌子さんは?」
死神界デビュー二日目。
目が覚めるとあんなにもへとへとだった体は難なく体を起こした。
俺は回収課だが鎌子さんの直属の部下なので、ジンさんのいる医務室へ向かう。
ここは鎌子さんの溜まり場らしく、ちらほら他の課をみかけたりはするが、怪我をする以外は誰も近寄る事がないそうだ。
「鎌子はもう回収行ったぞ。タスクは礼儀作法を少し覚えてから回収デビューな。」
渡されたのは「相手を怒らせない喋り方」「これで安心!礼儀、作法の心得!」など、どれも礼儀なんかに使う言葉遣いを学ぶものだった。

「…あれ、ジンさん、その首の包帯は?それに、昨日はしてなかったマスクも。」

今日のジンさんの格好は、相変わらずくたびれたシャツに白衣、それと態とボサボサにしたマッシュルームヘア。オマケに黒いマスクと首の包帯まで。
「あーこれ?俺さ、昨日までヒゲ生やしてたじゃん?」
タバコに火をつけながら彼は自分を嘲るように喋り出す。
「はい」
「でもさ、カノジョは俺のヒゲをフケツって言ってるワケ。んで昨日ヒゲ剃ったんだけど…」
「…もしかして、ヒゲ剃ったら剃ったで怒ったとか?」
「そーなんだよぉー!おかしくね?」
うだうだと言う彼は非常にめんどくさい。
やめてくださいよーとふざけ半分で言うと、ドタドタ走る音…というかヒールの甲高い音。

「ちょっと!どういうつもりよ!ジン!」
「うげ、この前の…!」

アンティーク調のドアを開けたのは鎌子さんではなく、鎌子さんに程遠い…ギャルのような…子だった。鎌子さんは大正ロマン、今来たのは現代のコギャルだ。
茶髪にキツいアイライン。
顔は整っているが、化粧のせいで悪目立ちしていて、化粧落とせば絶対可愛いタイプなのにな、と考えた。ちなみにこの間5秒。
「アンタ、ホントは鎌子と付き合ってんでしょ?!」
「え"…ジンさん、そうなんですか?!」
「ちげーよ!」
「じゃあなんで付き合ってる子がいるって言ってこの女の写真が出てくんのよ!」
そう言ってスマホのような端末を出した。
ケバ嬢は死神界の連絡ツール「SHININシニン」を開いてジンさんとのトークを見せ
た。トーク画面には一昨日の日付が書かれており、最初のトークはジンさんから。



ジン「ごめん、別れよう」

たら子「私、なにかしちゃった?」

ジン「俺の問題なんだ。」
ジン「付き合ってる子と別れられてない。」

たら子「別れたらいいじゃん」

ジン「今のカノジョも可愛くて、でもお前の事もいいと思ってる!」
ジン「俺にはどちらか選べないよ…」

たら子「カノジョさんの写真見せて」



ジン「この子」

たら子「可愛いじゃん。私よりもさ」
たら子「私は所詮遊びで付き合ってるだけでしょ?」

ジン「いや、違くて。」
ジン「ねぇ?」
ジン「おーい!」
ジン「聞いてる?ねー!」



…画面にはブロックされていますと表示されているため、これ以降は話していないのだろう。
「ジンさん、これは…」
「いやだから…」
ジンさんが焦ったように弁解をしだす。
「たっだいま~!おや、タスク少年!今川や」
「あ!アンタ!人の彼氏奪うんじゃないわよ!このクソ女!」


最  悪  の  時  間  に  帰  っ  て  き  た  鎌  子  さ  ん  。


ケバ嬢…改めてたら子さんは、鎌子さんに平手打ちをかました。
…ハズだった。
「誰がクソ女だよケバ女!」
平手打ちを左腕に受けて睨みつけた鎌子さん。
とてもかっこよくて、真っ直ぐな目をしていた。
「はぁ?!アンタねぇ!」
すると、鎌子さんはほっぺを両側からパシンと叩いた。

「アイラインキツすぎ!アンタどうなってんのこのメイク!こっちこい!タスク少年れ私の部屋に行ってクレンジングと顔洗う奴!あとタオル!ジンも一緒にいけ!…あっ動くなこのババァ!あと人魚の柄の大きなポーチ持ってきて!…動くなって!」

…ボコボコにされてるたら子さんが不憫でならない。
とりあえず鍵を貰って一緒にジンさんと鎌子さんの部屋へ行く。
「俺はクレンジングと顔洗う奴とヘアシャンプー持っていく。ついでにタオルだ。お前はポーチ!」
「えっ?!でも顔洗う奴って…」
鎌子さんはヘアシャンプーを必要とはしていないハズなのに、ジンさんはシャンプーまで持っていくと行っていた。もう訳の分からない事だらけなので、大人しく人魚の柄の化粧ポーチを抱えてジンさんに着いていくと、大浴場に着いた。
「…え?医務室じゃ…」
「アイツ、ああいう時は必ず女の化粧から何から直してやるんだ。ほら行くぞ。」


中に入ると、ギャンギャンとたら子さんの声が聞こえてくる。
「だから!何をすんのよ!」
「大人しくして!じゃないとジンがどうなっても知らないわよ!」
たら子さんにとってジンさんは最高の脅し言葉なのだろう。強制的に座らせて髪と顔を濡らしていた。
「鎌子さん!」
「タスク少年!よくやった!…はい!貴女はクレンジングで化粧落として。」
クレンジングオイルを渡すと、渋々と言った感じで顔の化粧を落とし始めた。
「つけまつげも全部落としてね。じゃないとジンを…ね?」脅すとわかりやすく体をちぢ込めて顔の化粧を落としていた。

「…タスク少年は人のシャンプーやったことは?」
「あります。途中まで専門学校のヘアー専攻だったので。」
シャンプーを受け取って頭を洗う。
中々頭を洗っていなかったのか、中々泡が立たなかった。
「…やっぱりね。だからあたしの講義に来なかったんだ。」
腕を組んでふふんと笑う鎌子さん。
「講義?」
「鎌子はああ見えて元スタイリストとかだったんだとよ。だから化粧を教えたりファッションを教えたりらしいぜ。ま、それも月イチとかの激レアだがな。」
なるほど。だからさっき凄く怒っていたのか、と感心する。
泡が良く立ち、もう頭の汚れがないだろうと言う所でよく髪を流す。

「ちょ、長くない?」
「シャンプーした時間と同じ時間流さないと、フケの原因にもなったりする。」
 
「フケ」という単語を口にすると、また彼女が肩を縮こませる。
ジンさんに言ったフケツが自分もだとわかってびっくりしたのだろう。
風呂からあがって服を着替えさせた。
あのままじゃ風邪を引くからだ。
鎌子さんがメイクの講義をしている間、俺は礼儀作法を学んでいた。

「じゃじゃーん。」
「ど、どうかな?」

喋り方もすっかり女らしくなったたら子さんは、見違えた。
顔は悪目立ちせず、スタイルも幾分かよくなった。
「じゃあね!ジンにはこっぴどくしとく!」
後にジンさんは鎌子さんを別れの理由として使っていた事が分かり、こっぴどくされていた。
「もうすんなよ?じゃないと…あの時の事を幹部にぶちまける!」
「すんません。」
俺は、回収課デビュー出来るのだろうか。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...