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第3章 淫欲の島
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翌日、雪千代は朝食が済むと、松葉殿の鶴千代を訪ねた。
鶴千代は熱が下がらずまだ床に臥せっていたが、雪千代の顔を見るなり袖にすがって泣きだした。
「高浜、なにがあった?」
雪千代は問うたが、返事を聞かずともわかった。
昨夜、己が身に起きたことが、弟にも起きたのだ。
熱を出して臥せっている鶴千代を、権宮司が力尽くで抱いたのだ。
「なにが神職だ、権宮司だ」
雪千代は忌々しげに吐き捨てた。
「われわれは逃げも隠れもしない。せめて熱が下がるまで待てなかったのか。臥せっている童子を手篭めにするなど、まるで鬼畜の所業ではないか」
怒りで握りしめた拳の、手のひらに爪が食い込んだ。
「聞かなかったことにします」
高浜は表情を変えなかった。
「鶴神子様は、われわれがお世話をいたします。ここには薬師もおります。雪神子様におかれましては、お心安らかにお過ごしくださいませ」
口調は穏やかだったが、松葉殿のことは松葉殿の者でおさめる、兄弟といえどもあんまり辛辣な口は挟まないでほしいとの意思表示だった。
「鶴、明日もまた来る」
雪千代はやさしく鶴千代の額をなでた。
弟の前ではなんとか怒りを抑えていたが、館の外に出ると、我慢できずに走り出した。
「神子様!」
立浪が慌てて追いかけてくる。
しかし、狭い島に、逃げ場などなかった。
雪千代は参道の途中まで来ると、急に脱力したようにしゃがみこんだ。
「神子様」
すぐに立浪が追いついた。
参道とはいえ、町中にある神社のそれとは異なり、鬱蒼とした山の中だ。
ほかに人がいるわけでもなく、参拝者を当て込んだ露天もなければ、呼び込みの声もない。
低くうなる波の音と、山の木々の鳴き声が、不気味に聞こえてくるだけだった。
「帰りましょう」
怒りと悔しさ、己の無力さに、すすり泣く雪千代に、立浪は声をかけた。
雪千代は答えず、背中を震わせて泣きつづけた。
鶴千代は熱が下がらずまだ床に臥せっていたが、雪千代の顔を見るなり袖にすがって泣きだした。
「高浜、なにがあった?」
雪千代は問うたが、返事を聞かずともわかった。
昨夜、己が身に起きたことが、弟にも起きたのだ。
熱を出して臥せっている鶴千代を、権宮司が力尽くで抱いたのだ。
「なにが神職だ、権宮司だ」
雪千代は忌々しげに吐き捨てた。
「われわれは逃げも隠れもしない。せめて熱が下がるまで待てなかったのか。臥せっている童子を手篭めにするなど、まるで鬼畜の所業ではないか」
怒りで握りしめた拳の、手のひらに爪が食い込んだ。
「聞かなかったことにします」
高浜は表情を変えなかった。
「鶴神子様は、われわれがお世話をいたします。ここには薬師もおります。雪神子様におかれましては、お心安らかにお過ごしくださいませ」
口調は穏やかだったが、松葉殿のことは松葉殿の者でおさめる、兄弟といえどもあんまり辛辣な口は挟まないでほしいとの意思表示だった。
「鶴、明日もまた来る」
雪千代はやさしく鶴千代の額をなでた。
弟の前ではなんとか怒りを抑えていたが、館の外に出ると、我慢できずに走り出した。
「神子様!」
立浪が慌てて追いかけてくる。
しかし、狭い島に、逃げ場などなかった。
雪千代は参道の途中まで来ると、急に脱力したようにしゃがみこんだ。
「神子様」
すぐに立浪が追いついた。
参道とはいえ、町中にある神社のそれとは異なり、鬱蒼とした山の中だ。
ほかに人がいるわけでもなく、参拝者を当て込んだ露天もなければ、呼び込みの声もない。
低くうなる波の音と、山の木々の鳴き声が、不気味に聞こえてくるだけだった。
「帰りましょう」
怒りと悔しさ、己の無力さに、すすり泣く雪千代に、立浪は声をかけた。
雪千代は答えず、背中を震わせて泣きつづけた。
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