双子の王子に双子で婚約したけど「じゃない方」だから闇魔法を極める

福澤ゆき

文字の大きさ
34 / 50
番外その1-ジーク編『コープスティーパーティー』

1.


リンデンベルクでは暦上、秋から冬に変わる最後の夜を〝トーテンナハト〟と呼び、死者を弔う日としている。

あの世から先祖の亡霊が夜のうちに生前の家に帰ってきて一日を過ごすと言われるため、国民は原則休みとなり、家族と家で過ごす。そのトーテンナハトの日の真夜中。ジークフリートは一輪の百合の花を手に、黒い服を着て、密かに、クイーンズガーデンを訪れていた。

死して尚、国家の大罪人として裁かれた母は、未来の国王の母であることを理由に死体を晒されることは免れたものの、王族の墓地ではなく罪人の共同墓地に、他の罪人の死体と一緒にゴミのように投げ入れられた。それでも民衆の怒りは収まらないらしく、共同墓地は今も時折荒らされていた。


それに対して、怒りを覚えることはない。民衆の怒りは当然で、自分自身も母を憎んでいた。彼女は自分の命よりも大事な人の命を脅かしたのだから。だが、少しも胸が痛まない訳ではない。あんな母親でも、死の間際まで自分を愛してくれていた。
だから、せめて一年に一度、花を一輪だけ手向けることを許して欲しかった。彼女の死を悼み、花を手向ける人は、自分以外に誰もいないのだ。

母の死に場所は、この庭だったとギルベルトは言った。他に墓がない以上、自分にとって彼女の墓はこの庭だった。
母があの薄暗い部屋からいつも見下ろしていたクイーンズガーデンは、今も、未来の王妃へ向けて美しく整えられている。

死者の日に、母はこの辛い思い出の詰まった城に帰ってくるだろうか。
なんとなく、彼女の魂はルベレーに帰っているような気がした。誰にも見られずに花を手向けようと足早にその場所へ向かうと、そこにはすでに野花の小さな花束が添えられていた。

(……?)

この場所が死に場所だと知っている者も出入りできる者も限られており、ごく近しい者達と、庭師だけだ。つい先ほど、窓から見下ろした時は花などは置かれていなかった。ギルベルトだろうか。

百合の花を手向けて片膝をついて目を閉じ、祈りの言葉を唱えると、誰かがそっと頬を撫でる感触がした。だが、辺りを見回しても誰もいない。母かもしれないと思いながら、少し感傷的な気持ちでジークフリートはその場を後にした。

部屋に戻る途中の廊下で、前方で揺れている黒い影が見えることに気づいた。賊とは思えない。だが、警備の者にしては不思議な動きをしている。この城が〝出る〟というのは有名な話だ。城で働いている者なら何度も見たことがあるし、ジークフリート自身子供の頃から何度か見ていた。特に今日は死者の日ということもあり、そろそろ彼らが帰ってくる頃合いだろう。
ああ、またか。そう思っていたが、少し近づいてみて正体に気づいた。

(シュリ?)

まだレイオット学院に在学中の彼だが、トーテンナハトで学校が休みだったため、王城に泊まりに来ていた。それにしてもこんな時間に、なぜ彼が廊下を歩いているのだろう。見れば彼はひどく怯えているようだった。細く長い尻尾は二倍に膨らんでいて、おっかなびっくり辺りを見回しながら歩いている。

「何してるんだ?」
小声で話しかけると、彼はそう仕掛けられた玩具のようにピョーンと飛び上がった後、恐る恐るこちらを振り返り、恐怖に凍り付いた顔をして一目散に逃げ出した。

「……え? あ、ちょっと!」

この先には階段がある。危険だ。慌てて全力でその後を追い、彼が足を踏み外す寸前のところで後ろから羽交い絞めにして抱え上げた。だが彼は手足をバタ付かせ、さらにジークフリートの腕にカプッと嚙みついた。

「いっ……」

猫特有の鋭い牙が刺さる感覚に思わず顔を歪めて呻くと、シュリはハッとしたように暴れるのをやめた。

「じ、ジーク……?」
「そうだよ。オバケだと思った?」

苦笑しながら聞くと、まさにそうだったようだ。

「オバケにしか見えないだろ! なんだその恰好」

指摘されて気づいたが、黒いフードを目深にかぶり、足まで覆うマントを着た自分は確かに死神のような姿だった。
感想 898

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」