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番外その1-ジーク編『コープスティーパーティー』
1.
リンデンベルクでは暦上、秋から冬に変わる最後の夜を〝トーテンナハト〟と呼び、死者を弔う日としている。
あの世から先祖の亡霊が夜のうちに生前の家に帰ってきて一日を過ごすと言われるため、国民は原則休みとなり、家族と家で過ごす。そのトーテンナハトの日の真夜中。ジークフリートは一輪の百合の花を手に、黒い服を着て、密かに、クイーンズガーデンを訪れていた。
死して尚、国家の大罪人として裁かれた母は、未来の国王の母であることを理由に死体を晒されることは免れたものの、王族の墓地ではなく罪人の共同墓地に、他の罪人の死体と一緒にゴミのように投げ入れられた。それでも民衆の怒りは収まらないらしく、共同墓地は今も時折荒らされていた。
それに対して、怒りを覚えることはない。民衆の怒りは当然で、自分自身も母を憎んでいた。彼女は自分の命よりも大事な人の命を脅かしたのだから。だが、少しも胸が痛まない訳ではない。あんな母親でも、死の間際まで自分を愛してくれていた。
だから、せめて一年に一度、花を一輪だけ手向けることを許して欲しかった。彼女の死を悼み、花を手向ける人は、自分以外に誰もいないのだ。
母の死に場所は、この庭だったとギルベルトは言った。他に墓がない以上、自分にとって彼女の墓はこの庭だった。
母があの薄暗い部屋からいつも見下ろしていたクイーンズガーデンは、今も、未来の王妃へ向けて美しく整えられている。
死者の日に、母はこの辛い思い出の詰まった城に帰ってくるだろうか。
なんとなく、彼女の魂はルベレーに帰っているような気がした。誰にも見られずに花を手向けようと足早にその場所へ向かうと、そこにはすでに野花の小さな花束が添えられていた。
(……?)
この場所が死に場所だと知っている者も出入りできる者も限られており、ごく近しい者達と、庭師だけだ。つい先ほど、窓から見下ろした時は花などは置かれていなかった。ギルベルトだろうか。
百合の花を手向けて片膝をついて目を閉じ、祈りの言葉を唱えると、誰かがそっと頬を撫でる感触がした。だが、辺りを見回しても誰もいない。母かもしれないと思いながら、少し感傷的な気持ちでジークフリートはその場を後にした。
部屋に戻る途中の廊下で、前方で揺れている黒い影が見えることに気づいた。賊とは思えない。だが、警備の者にしては不思議な動きをしている。この城が〝出る〟というのは有名な話だ。城で働いている者なら何度も見たことがあるし、ジークフリート自身子供の頃から何度か見ていた。特に今日は死者の日ということもあり、そろそろ彼らが帰ってくる頃合いだろう。
ああ、またか。そう思っていたが、少し近づいてみて正体に気づいた。
(シュリ?)
まだレイオット学院に在学中の彼だが、トーテンナハトで学校が休みだったため、王城に泊まりに来ていた。それにしてもこんな時間に、なぜ彼が廊下を歩いているのだろう。見れば彼はひどく怯えているようだった。細く長い尻尾は二倍に膨らんでいて、おっかなびっくり辺りを見回しながら歩いている。
「何してるんだ?」
小声で話しかけると、彼はそう仕掛けられた玩具のようにピョーンと飛び上がった後、恐る恐るこちらを振り返り、恐怖に凍り付いた顔をして一目散に逃げ出した。
「……え? あ、ちょっと!」
この先には階段がある。危険だ。慌てて全力でその後を追い、彼が足を踏み外す寸前のところで後ろから羽交い絞めにして抱え上げた。だが彼は手足をバタ付かせ、さらにジークフリートの腕にカプッと嚙みついた。
「いっ……」
猫特有の鋭い牙が刺さる感覚に思わず顔を歪めて呻くと、シュリはハッとしたように暴れるのをやめた。
「じ、ジーク……?」
「そうだよ。オバケだと思った?」
苦笑しながら聞くと、まさにそうだったようだ。
「オバケにしか見えないだろ! なんだその恰好」
指摘されて気づいたが、黒いフードを目深にかぶり、足まで覆うマントを着た自分は確かに死神のような姿だった。
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