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番外その3-ギル編『かっこいいままでいさせて』
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店内はそれなりに混みあっていたが、まだ早い時間ということもあり、座ることが出来た。
向かい合って腰かけると、シュリはシュタムという蜂蜜入りの甘い酒を頼んだが、ギルベルトはアルコールの入っていない葡萄酒に似たジュースにした。
シュリから、じとーーっという咎めるような視線が送られてくるのに気づきながらもやり過ごし、ギルベルトは適当にシュリの好物を頼んだ。
彼は何か言いたげにウズウズと尻尾を揺らしていたが、やがて諦めてくれたようで大人しくシュタムをちびちびと飲みだした。
幼い頃からの生い立ちゆえか、シュリは人の感情に敏く、こっちが話したくなさそうにしていることはどんなに気になっていても出来る限り我慢して触れないでくれる。
その割に、人の好意には割と鈍い方だ。目の前の男が、自分の好意を抱いているということは分かってくれているらしいが、その重さまでは全く分かっていないだろう。
彼は卑屈な人間では決してないが、自己評価はかなり控え目だ。
それもまた、幼い頃からの悲しい生い立ちが関係しているのかもしれないと思うと、リューペン王国に一度乗り込み、城の者達をひっ捕らえたい妄想に駆られることもあるが、立場が立場なのでシャレにならないと、口に出したことはない。
「なんか全部、俺の好物だ。ギルが食いたい物も頼んでくれ」
そう言って、シュリは黒い毛に覆われたモフモフの手でメニュー表を掴むとギルベルトの前にズイッと差し出した。
「ギルの好物ってなんなんだ?」
「特にこれといって……酒に合う食い物ならなんでもいいんだよ俺は」
そう言って、ハッとした。
これにはさすがのシュリも「じゃあなんで酒を飲まないんだよ」と突っ込まずにはいられないだろう。
机の上に置かれた彼の肉球がキュッと丸まり、ついに何かを言いかけようとした、その時、「あれー? センパイ……と、シュリたん!」と間の抜けた声がした。
ギルベルトは「またお前か」とげんなりとした溜息を吐いたが、シュリは驚いたように目を丸くして嬉しそうに尻尾の先をゆらゆらとさせた。
「コンラート! どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、シュリたんが、センパイとデート行っちゃって寂しいから、久しぶりに飲んじゃおーってここに来たら……シュリたんの声が聞こえて幻聴かなーって振り返ったらシュリたんと、殺し屋みたいな恰好のパイセンがいて……」
「あ? 誰が殺し屋だ」
「コンラート、とりあえず座ったらどうだ?」
シュリがそう言って、あと一口だけ残っていたクヌードという芋料理を口に頬張って片付けると、小さなテーブルにコンラート用のスペースを設け、メニューを渡した。
「えー? いいの? お邪魔じゃない? 先輩俺のこと殺したそうな目で見てるけど大丈夫??」
「ギルとコンラートは飲み仲間なんだろ?」
「こいつが勝手にそう言ってるだけだ」
「冷たいなー、たまに一緒に飲んでるじゃないですか。てか、あれ? でもセンパイ酒飲んでなくないっすか?」
するとシュリがいよいよ我慢できないとでも言うように不満げに口を尖らせた。
「……ギルのやつ、俺の前では絶対飲まないんだ」
「もったいない。センパイ酔っぱらうとすごい面白いのに」
「まだ一回も、ギルが酔ったところ見たことないぞ。俺は何度も見られてるのに」
「シュリはしっかり者だけど意外と潰れるよねー」
「つーか、シュタムに弱すぎだろ」
「ジュースみたいでおいしいから、つい……」
シュタムの入ったコップを握りしめたまま恥ずかしそうに耳を下げた後、シュリはギルベルトを、少し上目遣いに見やった。
「なあ、ギルもせっかくだし、一杯ぐらい飲まないか?」
店内はそれなりに混みあっていたが、まだ早い時間ということもあり、座ることが出来た。
向かい合って腰かけると、シュリはシュタムという蜂蜜入りの甘い酒を頼んだが、ギルベルトはアルコールの入っていない葡萄酒に似たジュースにした。
シュリから、じとーーっという咎めるような視線が送られてくるのに気づきながらもやり過ごし、ギルベルトは適当にシュリの好物を頼んだ。
彼は何か言いたげにウズウズと尻尾を揺らしていたが、やがて諦めてくれたようで大人しくシュタムをちびちびと飲みだした。
幼い頃からの生い立ちゆえか、シュリは人の感情に敏く、こっちが話したくなさそうにしていることはどんなに気になっていても出来る限り我慢して触れないでくれる。
その割に、人の好意には割と鈍い方だ。目の前の男が、自分の好意を抱いているということは分かってくれているらしいが、その重さまでは全く分かっていないだろう。
彼は卑屈な人間では決してないが、自己評価はかなり控え目だ。
それもまた、幼い頃からの悲しい生い立ちが関係しているのかもしれないと思うと、リューペン王国に一度乗り込み、城の者達をひっ捕らえたい妄想に駆られることもあるが、立場が立場なのでシャレにならないと、口に出したことはない。
「なんか全部、俺の好物だ。ギルが食いたい物も頼んでくれ」
そう言って、シュリは黒い毛に覆われたモフモフの手でメニュー表を掴むとギルベルトの前にズイッと差し出した。
「ギルの好物ってなんなんだ?」
「特にこれといって……酒に合う食い物ならなんでもいいんだよ俺は」
そう言って、ハッとした。
これにはさすがのシュリも「じゃあなんで酒を飲まないんだよ」と突っ込まずにはいられないだろう。
机の上に置かれた彼の肉球がキュッと丸まり、ついに何かを言いかけようとした、その時、「あれー? センパイ……と、シュリたん!」と間の抜けた声がした。
ギルベルトは「またお前か」とげんなりとした溜息を吐いたが、シュリは驚いたように目を丸くして嬉しそうに尻尾の先をゆらゆらとさせた。
「コンラート! どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、シュリたんが、センパイとデート行っちゃって寂しいから、久しぶりに飲んじゃおーってここに来たら……シュリたんの声が聞こえて幻聴かなーって振り返ったらシュリたんと、殺し屋みたいな恰好のパイセンがいて……」
「あ? 誰が殺し屋だ」
「コンラート、とりあえず座ったらどうだ?」
シュリがそう言って、あと一口だけ残っていたクヌードという芋料理を口に頬張って片付けると、小さなテーブルにコンラート用のスペースを設け、メニューを渡した。
「えー? いいの? お邪魔じゃない? 先輩俺のこと殺したそうな目で見てるけど大丈夫??」
「ギルとコンラートは飲み仲間なんだろ?」
「こいつが勝手にそう言ってるだけだ」
「冷たいなー、たまに一緒に飲んでるじゃないですか。てか、あれ? でもセンパイ酒飲んでなくないっすか?」
するとシュリがいよいよ我慢できないとでも言うように不満げに口を尖らせた。
「……ギルのやつ、俺の前では絶対飲まないんだ」
「もったいない。センパイ酔っぱらうとすごい面白いのに」
「まだ一回も、ギルが酔ったところ見たことないぞ。俺は何度も見られてるのに」
「シュリはしっかり者だけど意外と潰れるよねー」
「つーか、シュタムに弱すぎだろ」
「ジュースみたいでおいしいから、つい……」
シュタムの入ったコップを握りしめたまま恥ずかしそうに耳を下げた後、シュリはギルベルトを、少し上目遣いに見やった。
「なあ、ギルもせっかくだし、一杯ぐらい飲まないか?」
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