孤高の騎士団長は誰のものにもならないオメガ

ゆなな

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悪夢

「やめろ……ザグルド……っ……離せっ……はぁはぁ……くそ……っ夢か」

 大量に服用した抑制剤のお陰で意識を失うように眠ってしまったフェリクスは、悪夢に苛まれはしたが、いつもどおり早朝に目が覚めた。
 翌日は体が重かったが、発情期の症状はすっかり治まっていた。
 扉を開錠してそっと開ける。

「フェリクス様……大分うなされていたようですが、ご気分はいかがですか」

 扉のすぐそばの壁にもたれて座っていたバルトだが、フェリクスが部屋から出てくるとすぐに立ち上がった。
 悪夢は見てしまったが薬が効いて、フェリクスの発情期は治まった。

「大丈夫だ。夢見が悪かっただけで抑制剤はちゃんと効いている。バルトもちゃんと部屋で休め。俺は大丈夫だから」

「子どもでもラットになったアルファなら、この古い家の扉を破ることはできますし、もし昨夜のことをダントルグストが勘付いていたら貴方を捕らえに来るかもしれません」

「そんなに今の俺は頼りなく見えるか?」

「そんなつもりで言ったのではないです。私はただ愛しているんです、貴方を。昔助けてもらったことには恩を感じています。でも今も昔もあなたを守りたいと思うのは、助けてもらったからではなくて、貴方を愛しているから……っ」

「誰かに守ってもらうほど、俺は弱くない」

 そう言ったフェリクスの声は、弱弱しくなかっただろうか。
 バルトの口から幾度となく出る『愛している』という言葉はフェリクスを弱くする。
 なにもかも捨てて彼に縋る情けないだけの存在になりそうになる。
 でもそれは受け取れないのだ。
 穢れている自分は、眩いほどに美しく強い彼の番になるわけにはいかない。

「弱いから守りたいんじゃなくて……っ貴方が強いから守りたいんだ……」

「……っ」

 フェリクスがバルトの狂おしい言葉に、なんと返したらいいかわからなくなったその時だった。

「おはようございます! 手伝いにきましたー!」

 二人の間の緊張した空気を割くように、フィーの声が屋敷に響いた。

「子どもたちに朝食の用意をしに行ってくる。俺は今日は家に帰る子たちを送って行き、アカデミーの手続きをするだけだ。フィーに手伝ってもらうから、お前は今日は帰れ。騎士団の訓練と公務が連休だなんて戦線から戻った時くらいだろ」

 そう言ってフェリクスはバルトの横をすり抜けた。

「あまり眠れていないのはフェリクス様も一緒でしょう。手伝わせてください」

 朝の光の中のバルトはフェリクスにとって眩しいくらいで、寝不足でも彼は凛として隙のない騎士だ。
 そしてこのように言い切るときのバルトには何を言っても無駄だ。
 どんなに冷たく突き放そうが、置いて行こうがついて来る。

「好きにしろ」

 フェリクスはため息交じりで答えた。
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