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最後だから
そっと彼から身を引くと。
「……そんなこととっくに知っていました……っ」
ぐっと彼の胸に強く引き寄せられた。
「は……? し……知ってた?」
バルトの言葉が信じられず、フェリクスは驚きの声を上げた。
「……フェリクス様、うなされるんですよ。夜ごとに。もちろん、貴方が眠っているときは戦時中の野宿の時でさえ、誰も近寄らせていませんから、俺以外には知りません。過去に苦しんでいるんだろうとわかっていました」
「……そ……そんなにはっきり寝言を言うのか……」
「耳にしたのは一度ではないですから……だからあなたを強引に抱いてしまおうかと思ったこともあるのですが、貴方を犯した男と同じになりたくなくて、どうしても出来なかった」
バルトが苦しそうに言葉を濁したが、何度も何度もザグルド・ガーランドに犯された恐ろしい夢を見るのは事実だった。
言葉にはとてもできないことをされたことは何年経っても、強くなっても忘れられないのだ。
「貴方のように苦しむ人が一人でも少なくなるようにと、命を懸けている貴方を愛しているんです。汚いわけない。世界で一番、綺麗な人です……っ」
こつん、と額がぶつかった。
バルトの香りが、胸いっぱいに広がった。
バルトはいつもいつもいっぱいの愛情をくれる。
それを今まで受け取ることはできなかったけれど、最後くらい受け取りたいと思ってしまった。
再びザグルド・ガーランドの手中に収められそうになったとき、どんなに彼のことを愛しているか思い知らされた。
受け取りたい。
でも受け取ってはいけないものだから、これで最後にする。
「……っ」
「フェリクス様……っもしかして……」
抑制剤を飲んで発情を抑えたはずなのに、ぶわりとフェロモンがあふれだしてくるのがわかった。
「な……んで……っ」
いったん収まったはずなのに、体が熱く火照って、体の奥に子を宿すための器官が狂おしく疼きだす。
フェリクスからフェロモンが出ているせいで、バルトの額にも再び汗が滲み始める。
それでもバルトはフェリクスの意思を尊重するために、じっと動かず耐えている。
見つめ合ったまま、二人は動かずに視線だけを絡め合う。
心も体もバルトをこれ以上ないくらい求めていた。
胸の上に置いた手で、彼を突っぱねることなんてできなかった。
「……っ苦しい……っ……助けてくれ……バルト……」
それがフェリクスに言える精一杯だった。
バルトの目が驚きで見開かれた。
それでも、フェリクスが断ると思っていたようだった。
「フェ……フェリクス様……っ……いいんですか? 途中でやめてくれと言っても、始めてしまったら絶対に止められないですよ……っ」
「止まらなくて、いい……っ」
そう言ってフェリクスは、バルトの逞しい首に腕を回してぎゅっと抱き付いた。
「嘘だろ……夢みたいだ……」
熱に浮かされたような声でバルトは言うと、フェリクスの唇に熱い唇を重ねた。
触れる直前、彼の唇が少し震えているのがわかって、フェリクスの胸は切なく締め付けられた。
「ん……っ」
何度も何度も感触を確かめるように押し付けられる。
柔らかくて、熱くて、唇から溶けてしまうみたいだ。
愛する人との口づけはこんなにも、心が震えるのか。
鼻の奥が熱くなって、眦から涙がこぼれ落ちるのが止められなかった。
もっともっとバルトと深く繋がりたくて、フェリクスは無意識のうちにそっと唇を開けた。
「あぁ……っフェリクス様……っ」
バルトは控えめに開かれた唇の隙間から、舌を差し入れ、狂おしくフェリクスの舌に絡みついた。
それは直接愛おしいアルファのフェロモンを流し込まれるみたいで、もうフェリクスはたまらなかった。
これまで我慢してきた分も相まって、互いに抱き着いて唇を貪り合った。
「……んんっ」
口づけが深まってくると、バルトがたまらないというように、フェリクスの体をその大きな掌で忙しなく撫でる。
フェリクスも必死に彼の舌を吸って絡めた。
離れても絶対に忘れることがないように。
口づけていると、ここまでの苦しく長かった道のりを経て彼の唇に触れている幸せと、そしてこれからは一緒には生きていけない悲しみが同時に押し寄せて、眦から涙がこぼれ落ちるのが止まらない。
「フェリクス様……っ愛してます……ずっと」
そんなことはわかっていた。
ずっとずっとバルトの深い愛が傍にあったから、これまでやってこられた。
年を重ねるごとに、オメガの体で無理をしていたことがきつかったが、なんとか立っていられたのも、バルトがいてくれたから。
でももうすぐ離れて行くバルトに、フェリクスは愛しているとは言えなかった。
そんなことを言ったらきっと優しい彼は帝国に戻りづらくなる。
フェリクスのような疵物のオメガが、帝国の王子に見合うはずなんてない。
おまけにバルトよりもだいぶ年上だ。
本当はこうして触れることさえ大罪なのだが、最後だから許してほしい。
「……そんなこととっくに知っていました……っ」
ぐっと彼の胸に強く引き寄せられた。
「は……? し……知ってた?」
バルトの言葉が信じられず、フェリクスは驚きの声を上げた。
「……フェリクス様、うなされるんですよ。夜ごとに。もちろん、貴方が眠っているときは戦時中の野宿の時でさえ、誰も近寄らせていませんから、俺以外には知りません。過去に苦しんでいるんだろうとわかっていました」
「……そ……そんなにはっきり寝言を言うのか……」
「耳にしたのは一度ではないですから……だからあなたを強引に抱いてしまおうかと思ったこともあるのですが、貴方を犯した男と同じになりたくなくて、どうしても出来なかった」
バルトが苦しそうに言葉を濁したが、何度も何度もザグルド・ガーランドに犯された恐ろしい夢を見るのは事実だった。
言葉にはとてもできないことをされたことは何年経っても、強くなっても忘れられないのだ。
「貴方のように苦しむ人が一人でも少なくなるようにと、命を懸けている貴方を愛しているんです。汚いわけない。世界で一番、綺麗な人です……っ」
こつん、と額がぶつかった。
バルトの香りが、胸いっぱいに広がった。
バルトはいつもいつもいっぱいの愛情をくれる。
それを今まで受け取ることはできなかったけれど、最後くらい受け取りたいと思ってしまった。
再びザグルド・ガーランドの手中に収められそうになったとき、どんなに彼のことを愛しているか思い知らされた。
受け取りたい。
でも受け取ってはいけないものだから、これで最後にする。
「……っ」
「フェリクス様……っもしかして……」
抑制剤を飲んで発情を抑えたはずなのに、ぶわりとフェロモンがあふれだしてくるのがわかった。
「な……んで……っ」
いったん収まったはずなのに、体が熱く火照って、体の奥に子を宿すための器官が狂おしく疼きだす。
フェリクスからフェロモンが出ているせいで、バルトの額にも再び汗が滲み始める。
それでもバルトはフェリクスの意思を尊重するために、じっと動かず耐えている。
見つめ合ったまま、二人は動かずに視線だけを絡め合う。
心も体もバルトをこれ以上ないくらい求めていた。
胸の上に置いた手で、彼を突っぱねることなんてできなかった。
「……っ苦しい……っ……助けてくれ……バルト……」
それがフェリクスに言える精一杯だった。
バルトの目が驚きで見開かれた。
それでも、フェリクスが断ると思っていたようだった。
「フェ……フェリクス様……っ……いいんですか? 途中でやめてくれと言っても、始めてしまったら絶対に止められないですよ……っ」
「止まらなくて、いい……っ」
そう言ってフェリクスは、バルトの逞しい首に腕を回してぎゅっと抱き付いた。
「嘘だろ……夢みたいだ……」
熱に浮かされたような声でバルトは言うと、フェリクスの唇に熱い唇を重ねた。
触れる直前、彼の唇が少し震えているのがわかって、フェリクスの胸は切なく締め付けられた。
「ん……っ」
何度も何度も感触を確かめるように押し付けられる。
柔らかくて、熱くて、唇から溶けてしまうみたいだ。
愛する人との口づけはこんなにも、心が震えるのか。
鼻の奥が熱くなって、眦から涙がこぼれ落ちるのが止められなかった。
もっともっとバルトと深く繋がりたくて、フェリクスは無意識のうちにそっと唇を開けた。
「あぁ……っフェリクス様……っ」
バルトは控えめに開かれた唇の隙間から、舌を差し入れ、狂おしくフェリクスの舌に絡みついた。
それは直接愛おしいアルファのフェロモンを流し込まれるみたいで、もうフェリクスはたまらなかった。
これまで我慢してきた分も相まって、互いに抱き着いて唇を貪り合った。
「……んんっ」
口づけが深まってくると、バルトがたまらないというように、フェリクスの体をその大きな掌で忙しなく撫でる。
フェリクスも必死に彼の舌を吸って絡めた。
離れても絶対に忘れることがないように。
口づけていると、ここまでの苦しく長かった道のりを経て彼の唇に触れている幸せと、そしてこれからは一緒には生きていけない悲しみが同時に押し寄せて、眦から涙がこぼれ落ちるのが止まらない。
「フェリクス様……っ愛してます……ずっと」
そんなことはわかっていた。
ずっとずっとバルトの深い愛が傍にあったから、これまでやってこられた。
年を重ねるごとに、オメガの体で無理をしていたことがきつかったが、なんとか立っていられたのも、バルトがいてくれたから。
でももうすぐ離れて行くバルトに、フェリクスは愛しているとは言えなかった。
そんなことを言ったらきっと優しい彼は帝国に戻りづらくなる。
フェリクスのような疵物のオメガが、帝国の王子に見合うはずなんてない。
おまけにバルトよりもだいぶ年上だ。
本当はこうして触れることさえ大罪なのだが、最後だから許してほしい。
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