強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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1章

彼への失望2

 アンドレアは馬鹿にしたように言うだけでなく、挑発するようにサランを見た。
 本当に憎らしい。殴ってやりたい気持ちで、サランはアンドレアをさらに睨んだ。
 ――もし今度お前に治癒魔法をかけることがあったら絶対にパラリシスなんて使ってやるもんか!めちゃめちゃ痛いまま治癒魔法をかけてやるからな!!
 サランがアンドレアをギリギリと睨んでいる間にも、シュリはいいことを思いついた、とでも言うようにろくでもないことを口にした。
 それは、フライングレースの順位が八人中四位以下ならば、ユノは生徒会を辞めるようにとユノには随分と不利な賭けをしようということだった。
 昨日ユノからフライングレースに参加するという話は聞いていたが、やはりシュリには思惑があるのだろうという予測は当たっていたようだ。

「ハイクラスの精鋭揃いのレースで随分そっちに有利な条件じゃん!」

「そう? 自信があるんでしょ? いい提案だと思うけどな」

 声を荒らげたサランにそう言ったシュリは、くるりと後ろを振り返った。

「ねぇ。キリヤもそう思うよね」

 シュリが振り向いた先には、いつの間に現れたのか食堂の壁に凭れて立つ生徒会長のキリヤが面倒くさそうに溜息を吐いた。
 そして、このように平民が侮辱されている状況を見ていたのにも関わらず、王族である生徒会長のキリヤはなんとユノがフライングレースに参加することに反対だとはっきり述べたのだ。
 生徒会長であるだけでなく、この国の第二王子であるキリヤが平民を差別していると言っているようなものではないか。
 生徒会長にきっぱりと反対された時のユノの表情を見て、サランは胸が痛くなって苦しかった。
 だが、それでもユノは前を向いていた。

「先日私のフライングのテクニックを見ていただいたとき、生徒会長は問題ないと判断したのではないですか?」

 凛と響く声は、大好きなユノの声だった。物静かだが、自分の意見ははっきり言う。そんなところがサランはとても好きなのだ。
 ――なんて格好いいんだろう……

「キリヤ様に生意気な口を利くなと言っただろう!」

 ユノの格好よさにうっとりとしたサランを邪魔するようにアンドレア・ビスコンティが声を荒らげた。
 まったく今の彼は昨夜仮面舞踏会で出会った彼と同一人物とは思えなかった。
 昨日は迂闊にも可愛いところがあると思ってしまったが、どうやら怪我で弱っていただけで、乱暴な声で平民を黙らせようとする野蛮な貴族だったのかと思い吐き気がし、サランはアンドレアを彼の燃えるような瞳に負けないほど熱くそして軽蔑の気持ちを込めて睨みつけてやった。
 怪我さえよくなればこの態度だ。昨夜平民に治療してもらったことなど、忘れてしまったとでもいうようだ。

「……っ」

 すると、怒りのままに睨みつけるサランをアンドレアもギリギリと睨み返してきた。
 力あるハイクラスの男に睨まれて怯む気持ちがないわけではなかったが、負けたくない気持ちが勝った。
 そんな状況を見て、一触即発の状況を治めるためにアンドレアをキリヤは片手で制したが、冷たい声でキリヤはユノがフライングレースに出場するのには相応しくないと強調するように話し、それに対し一歩も引かないユノの応酬が続いた。
 王子であるキリヤに向かっても引かない平民のユノに、食堂の空気にさらなる緊張が走ったが、サランは王族や貴族に負けないユノの言動にワクワクする思いでいっぱいだった。
 サランの好きな男はなんて格好いいのだろう。

「このとおり、キリヤが言っても聞かないんだからさ、フライングレースの結果を見せて辞めさせるしかないよ」

 だがうっとりするサランの気持ちを邪魔するように、シュリが綺麗な指先をキリヤの肩に乗せて、耳元に囁いた。皆は美しいというが、サランはシュリの美しさがちっともわからなかった。平民を嘲笑う目など、とても醜く思えた。

「明日のスタート時間までまだ時間がある。よく考えるんだな」

 ユノをひどく冷めた目で見遣って、捨て台詞のようにそう言ったキリヤは食堂から出て行き、シュリやアンドレアも付き従った。

 ユノや平民に対して敵意を剥き出しにするアンドレア・ビスコンティの人となりは仕立て屋で順番を守らない侍従の態度や生徒会に参加したユノの話からも想像できたが、仮面舞踏会で出会ったアンドレアの印象がそう悪いものではなかっただけに、サランは彼のここでの立ち振る舞いが残念でたまらないし、爆発してしまいそうなほどの怒りも感じている。
 しかし、サランは深呼吸をしてから気持ちを切り替えることとした。
 サランが暗い表情や怒りの表情を浮かべていると、ユノだけでなく周りにいるスタンダードクラスの生徒にもいい影響を与えないから気持ちを切り替えなくてはならない。
 それにこんな状況でもユノは本当に格好良くて、サランはまた彼に惚れ直すくらいだった。
 ユノはサランの心配を拭うように笑ってくれるが、あの嫌なハイクラスのものたちに危険な目に遭わされるのではないかという心配は治まらなかった。
 しかし、同級生たちをこれ以上不安がらせることはしたくなかったので、これ以上ユノに言い募ることは止めた。
 ――よかった。今日は気持ちを抑えることができた。
 心配は確かにあるが、ユノならばきっとフライングレースで奴らを見返してくれる。ユノを信じる気持ちはもっと強かった。
 だからサランにできることはそんなユノを力の限り応援することだった。
感想 2

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