強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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2章

ユノを奪っていく男

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 シュトレイン塔の真ん前で待っているのは、昨日食堂で対峙した生徒会役員と会ってしまう可能性があるな、と考えてサランはシュトレイン塔の入り口が見える木の陰に移動してユノが出てくるのを待つことにした。
 サランの考えは大正解で、その後しばらくしてからシュリ・フィザードとその腰巾着ラコレとカイルが塔の中から出てきた。

「怖ぁ。隠れて待っていて大正解」

 木の陰からほっと安心の溜息を吐いた。肩で風を切るように威張って塔を出て行ったシュリの姿にサランは心からぞっとした。
 確かに容姿は人形のように整っているが、サランの目にはちっとも美しく見えない。
 こんな人間を美しいと思いチヤホヤするなんて、サランは信じられなかった。

「こんな奴らと一緒に活動しなきゃだなんて、ユノは本当に大変だな……」

 サランは今まで以上にユノを支えようと心に誓った。
 そしてシュリ達が出て行ってから更にもう少し待った後だった。
 シュトレイン塔の階段を勢いよく駆け下りてくる足音が聞こえたかと思うと、弾丸のように塔から飛び出して行った人影が見えた。

「あ! ユノっ……! 待って!!」

 サランは慌てて走り去ったユノの後を追った。
 ユノはおっとりしているように見えて、田舎育ちなこともあってかものすごく運動ができる。あっという間に小さくなった背中を必死で追っていくと、ようやく寮棟エリアに続く並木道で足を止めたようだった。

「ユノー!!」

「サラン!」

 何かを考えるように立ち止まっているユノの背に叫ぶと、ようやく気が付いてもらえた。

「シュ……っシュトレイン塔の前で待っていたんだけど……っユノ走って行っちゃうんだもん……っ」

「ご……ごめんっ……気が付かなくて」

 サランはユノのもとまで駆けつけると、息を切らせながら言った。

「ううん。約束したわけじゃないし、ユノが謝ることじゃないよ。飛んでいる姿見て、ユノが怪我をしたんじゃないかと思って心配だったんだけど、こんなに速く走れるってことは僕の気のせいだったみたいだね」

「サラン、気が付いてたの?」

 サランが安堵して言うと、ユノは驚いたように目を丸くして答えた。

「え? ってことはやっぱり背中怪我してる?」

「怪我はしたんだけどね、今は大丈夫なんだ。治癒魔法で治してもらったんだ」

 注意深いし実力もあるユノは怪我をすることが珍しいから、恥ずかしいのだろうか? あんなに素晴らしいレースをしたんだから、恥じることなど何もないのに、ユノはとても恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。

「そかそか! レースのお手伝いスタッフに治癒魔法得意な人がいたんだね! 僕が治してあげたかったけど、早いほうがいいに決まってるからよかった」

「……サランは本当にいつも優しいなぁ。ありがと」

「お礼言われるようなことしてないよー、さ。早く帰ろ。今日マルコさん、ごちそうにするって言ってたよ。何十年も寮母やっているけれど、マルコさんの寮からフライングレースに出る生徒は初めてだって喜んでいたからさ」

 普段は昼食は学校の大きな食堂で、朝食と夕食は寮の家庭的な食堂でとることになっている。スタンダードクラスの五年生しかいない寮の食堂はアットホームで、ユノもサランも大好きなのだ。

「え! そうなの?! 楽しみ! なんだかお腹空いてきちゃった」

「ね。僕もお腹空いたー! ユノぉ! めちゃくちゃ格好良かったよー!!」

 そう言ってサランはユノの肩に腕を回すと、ユノもサランに腕を回してくれた。
 二人で夕焼けの並木道を肩を組んで歩いて温かい寮に帰った。


 フライングレース以後、ユノはその実力が認められたからなのか、生徒会での仕事も忙しくなってきた。
 生徒会に出る分、サランと共に過ごす時間は減ってしまったが、レース後の生徒会の集まりで、毎年恒例の魔女学校との交流会のあと行われる生徒会主催の晩餐会とダンスパーティの準備で役割を与えてもらえたと嬉しそうな顔で教えてくれたユノの顔を見たら、サランは今まで以上にユノの力になりたいと思った。

「サラン、次の授業は治癒学発展だね」

「うん! ジェイコブたちは侍従魔法使い見習いの講座に行ったから、僕たちもそろそろ行こうか」

 苦手な錬金術の授業が終わったのち、ユノに話しかけられ、サランはうきうきと返事をした。インクの壺や羽根ペン、教科書の類を魔法の力で何でも収納できてしまう収納バッグにいそいそと詰めて、サランはユノと共に治癒学発展の教室に向かった。
 廊下は次の授業を受けるために教室を移動している生徒でごった返していた。
 不意に強い視線を感じて顔を上げると、アンドレア・ビスコンティが廊下の向こうからこちらを見ていた。
 ユノのことを睨みつけてでもいるかのような強い視線に、サランはユノをその視線から守るようにさりげなく立った。
 すると、その様子を見たアンドレアはまたサランのことを鼻で笑ったような表情を見せた。
 やっぱりに気に食わない男だ。

「治癒学は人気だからさ、席がなくなって並んで座れなくなっちゃうかも! 急ごう!」

「発展は去年の基礎と違ってかなり難しいらしいけど、サランがいるから心強いよ」

 サランは嫌なことを吹き飛ばすように大きな声で明るく言うと、ユノはサランに柔らかく微笑んで言ってくれた。自分でも調子がいいとは思うがそれだけでサランはご機嫌になってしまう。ユノがアンドレアが睨みつけていることに気が付かなくてよかった。

「僕がユノに教えることなんて、そんなにないじゃん。でもユノの優秀なレポートを見ようとして寄ってくる輩はちゃんと僕が追っ払ってやるから安心して」

 サランは胸を張って、治癒学発展の教室へ入って行った。

 その十分後。
 楽しみにしていた治癒学発展の授業がこんなことになるなんて……サランは思いもよらなくて、ユノが心配そうにサランを気にしているのはわかっているけれど、顰めた表情を直すことはできなかった。
 それというのもあの男……この学校の生徒会長でもあり、王子でもあるキリヤ・シュトレインのせいだ。そもそも授業開始前にはユノと並んで一番後ろの席に並んで座ることができて、サランの機嫌は最高によかったのに、そこにキリヤが割って入ってきたのだ。
 三人で並んで着席していたところ、治癒学発展の担当教授であるカザニコフ教授から、二人ずつ座るように言われてしまい、サランが一人そこから外されて、離れた席に移動することになってしまったのだ。
 そっと振り返ると、ユノがサランに申し訳なさそうな表情を向けてくれたが、キリヤは邪魔者を排除して清々したといったような雰囲気であった。
 それに腹は立ったが、しっかり勉強しなければならない授業でもあるので、前を向いて授業を受けることにした。
 だけど、どうしても気になってしまう。突然平民ばかりの授業に現れたキリヤはどういうつもりなのだろうか。
 三つ揃えをかっちりと着こなしているカザニコフ教授は、見た目のとおりとても厳しい。そのため板書をしてこちらに背を向けている隙を狙ってサランはそっと後ろの様子を伺った。

「なんだよ……なんだよ……どういうこと?!」

 誰にも聞こえないような小さな声でだが、サランは独り言をもらさずにはいられなかった。
 なぜなら、振り返ったとき、キリヤは明らかにユノの方に肩を寄せて座っていて、そして何事かを囁いたのだ。すると、ユノは綺麗に切りそろえられた爪先でノートを指し示して、何かを説明したようだった。キリヤはそれに対して感心したように頷いたあとのこと。
 キリヤはとってもとっても大切な宝物を見るような目で、ユノのことを見ていたのだ。
 ノートに視線を落として説明しているユノは、向けられた甘いとも言える視線に気がつかないのか。
 どういうこと?なんて呟いたけれど、サランはわかってしまった。敏い自分がこの時ほど嫌になったことはなかった。

「あー……」

 まさかこの国の王子が、なんてことをサランは全く思わない。王子だろうが誰であろうが、ユノの芯の部分を知ってしまえば惹かれずにはいられない。その気持ちはサランが誰より理解していた。
 この前食堂で見せていたキリヤの冷たい瞳は、あの場にいた者からユノを守るためだったのだとさえ思えた。
 冷たい言葉も、ユノを危険なレースに参加させたくなかったからだと、サランは気付いてしまった。
 カザニコフ教授が板書の内容を説明する声が聞こえたのでサランは前を慌てて向いた。
 だが心がぐちゃぐちゃと乱れ、板書を書き写したので、インクが点々と滲んでしまう。

「……っ」

 サランは我慢できず、もう一度二人を振り返った。すると一生懸命板書を書き写しているユノを、キリヤは燃えるような熱さと切なさのこもった瞳で見つめていた。
 今度はユノがノートと前方を交互に見ていて忙しいので、想いを隠すことのない熱い視線だった。
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