強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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2章

相変わらずなアンドレアと恋するふたり

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 それから数日後のことだった。
 新学期の空気はすでに薄れ、真新しい制服に身を包んだ新入生も新生活に慣れてきたころ、ユノも生徒会役員として慣れてきた様子なのがサランからも見て取れた。
 毎日夕食の直前に寮に戻って来ると、楽しそうに生徒会での出来事を教えてくれる。
 シュリやその腰巾着どもはまだユノに辛く当たるらしいが、
なんとあのアンドレア・ビスコンティの態度が軟化してきたというのだから、サランは腰を抜かすほど驚いた。
 そしてイヴァン・ポポフや生徒会長であるキリヤとはとても楽しくやっているのだろうという雰囲気も伝わってきた。
 特に、キリヤとは日に日に仲が深まってようなのが、サランには手に取るようにわかった。
 ユノの様子が見たことないくらい幸せそうで、でもそれでいてどこか切ない。
 そんなユノの様子はとても美しくも可愛らしくもあって、サランはそれが自分に向いていないことをとても寂しく思いながらも、ただ見つめてばかりいるしかなかった。
 つまりはサランはキリヤのように、ユノとの仲に一歩踏み出す勇気がないのだ。

「あーユノは今日も図書館のあと生徒会かな……げっ……」

 放課後の掃除当番の仕事として、教室のごみを焼却炉に運んだあと教室に戻る途中で、不意に曲がり角から人影が現れた。
 サランはその人物を確認すると、思わず眉をしかめた。

「ごみ箱を持ち歩くなんて、平民はやはり想像の範囲を超えてくるな」

 角から現れたアンドレア・ビスコンティも男らしい眉をしかめて言った。

「掃除当番なんだから仕方ないだろ」

「掃除当番……? あぁ、スタンダードは掃除も自分たちでするのか。それにしてもゴミなんか魔法で集められるのに、わざわざそんな汚いものを持ち歩く意味が分からねぇ」

「はぁ? 僕だって好きで持ってるわけないだろ。ゴミは魔法で集められるけれど、集めて溜まったゴミはどうすんだよ。それを燃やさずに消す魔法はないことも知らないの? いつも誰かがお前の捨てたゴミが入ってるゴミ箱を片付けてくれているのも知らないで偉そうなこと言うなよっ!」

 精悍な顔を持つ男の顔が歪み、先日シュトレイン塔の前でも睨まれた時の恐怖が蘇ったが、ゴミ箱の片付けもしたことのないようなヤツに負けたくなくて、サランも負けずに睨み返した。
 ピリピリとした空気がその場に流れた。
 攻撃魔法を食らったって、少し痛いかもしれないけれど、サランは治癒魔法が自在に使えるんだから怖いことなんてない。
 そう自分に言い聞かせて、震えそうになる脚に力を入れてぐっと堪え、燃えそうなほど赤い瞳を真っ直ぐに睨んだ。

「ぶ……っははははは」

 睨み合いの均衡を破るようにアンドレアが笑いだした。

「……は?」

「本当はびびって震えてるくせに。くそ度胸だけは認めてやるよ」

 アンドレアはさもおかしそうに笑ってそう言うと、制服の黒いローブをひらりと翻してその場から立ち去った。
 その姿さえも絵になるような男だから、余計にサランは腹が立った。

「なにあれ……やっぱり嫌な奴! ユノは本当はいいヤツだって言ってたけど、やっぱ嫌なヤツじゃん! あーむかつく!! あんなヤツ大っっ嫌い」

 腹立たしいアンドレア・ビスコンティの背中に届けばいいと思って、サランは思いっきり大きな声で言ってやった。
 サランは怒りのまま、板張りの廊下を強く踏みつけながらドスドス歩いたが、脚が痛くなるだけで、忌々しいアンドレア・ビスコンティへの怒りは収まらなかった。
 やっとサランの怒りが収まったのは、その日の夜寮に帰ってからだった。

「あのさ……日曜日の戴冠式を見に行こうかなと思っているんだけど、もしサランも戴冠式の日に城下町に行く予定があるなら一緒に行ってくれる?」

 昨年このシュトレインの国王であったシュトレイン十四世が亡くなった。
 そのため、もうすぐキリヤの父親であるシュトレイン十五世が正式に次の王となる儀式、戴冠式が国を挙げて大々的に行わるのだ。

「え?! 戴冠式? ユノ見に行くの? だったら一緒に行くっ! 城下町のフェスティバルで美味しいものたくさん売ってるんだよ~! 一緒に食べよっ。戴冠式は王宮の敷地内だと混んでいて入れないかもしれないから、少し遠くから見ないといけないけど、それでも楽しいと思うよ!」

「実は王宮の敷地内で戴冠式のあとの王族の挨拶のセレモニーを見学できる招待状を貰ったんだ。同行する人も一緒に入れるみたいだから、サランも一緒に行かない? ただ、俺はあんまり王宮周辺に詳しくないから、案内してもらえると助かる」

 ユノと城下町のフェスティバルで遊べると思うと、嬉しくて少し食い気味に返事をしたサランに優しく微笑みながらユノは招待状を取り出して見せた。

「うそっ! ユノ招待状持ってるの?!」

「うん。キリヤに貰ったんだ」

「キリヤ会長から?!」

 ユノの言葉にサランは驚きを隠せない声を上げた。
 ユノは気がついていないのだろうか。
 シュトレイン十五世の戴冠に伴い、その第二王子であるキリヤも位が上がる。
 戴冠式や王族の位の授与は王宮にある国王の間で一般国民には非公開で粛々と行われるが、正式に国王になったシュトレイン十五世と位が上がった王族は、その後国王の間のテラスにて国民に向かってその姿を披露し、挨拶をするのだ。
 もちろん、キリヤも国民の前で堂々と挨拶をするのだろう。
 そんな自分の晴れ姿をユノに見てほしい、そういうキリヤからのメッセージなのだ。
 キリヤはユノに対してサランが思っている以上に本気なのだ。

「キリヤが友達として俺を認めてくれたみたいで嬉しかったんだ」

 サランに大切な秘密を打ち明けるように言ったユノは、美しい招待状をそっと指で撫でた。

「……っ」

 その目を見た時、サランは分かってしまった。
 治癒学発展の教室ではキリヤばかりがユノを好きな一方通行の関係に見えたが、そうではないのだ。
 ユノが招待状を見つめる目には、ふんだんに恋情がこもっているのが見て取れた。
 やっぱりユノも彼のことが好きなのだ。
 いつもサランを見るときの、慈愛や友愛に満ちた穏やかで優しい目とは違い、情熱のこもった目だった。サランはユノの中にはこんなにも燃えるような感情があるのかと知り驚き、その視線を向ける相手が自分ではないことにはっきりと気が付いてひどく落胆した。
 ユノが自分では気づいているのかということはサランには聞けなかった。
 性格が悪いとは思うが、サランが問うことでユノが自分の恋心に気がついたら嫌だとつい思ってしまったのだ。

「ユノっ……! 戴冠式の前に行くフェスティバルのお店いろいろ調べておくねっ! お昼ご飯はフェスティバルで食べようね!」

「うん。そうだね。図書館の給金最近貯められているから、多少の買い食いできるかも」

 ユノはサランの声に招待状から視線を外して、サランをちゃんと見て話してくれた。
 そして二人で戴冠式の日の計画を練った。まるでデートの計画を立てているみたいでとっても楽しかったけれども、サランは自分の恋が実らないだろうという悲しい予感は拭えなかった。
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