強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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2章

放課後の事件で確信したこと

 サランが慎重に猫を診ると、確かに目の横に棘が刺さってしまっている。
 ぐったりしているが無理に抜こうとすれば目が傷つくかもしれないし、さらに痛みを感じれば暴れてしまうかもしれない。
 心配そうなユノと、静かに様子を見ることにしたらしいアンドレアに見守られながらサランは注意深く子猫の様子を見た。
 あと少しで眼球に刺さりそうなギリギリのところに棘がある。
 サランは子猫の顔に手をそっと翳し、子猫の意識を朦朧とさせ、一時的に神経を麻痺させるパラリシスを掛けた。このパラリシスはとても難しい魔法だ。
 加減を間違うと永久に目が覚めないことや記憶を奪ってしまうこともある。
 そのため、この魔法は国の定めたパラリシスの試験に合格した者でなければ使うことを禁止されている。
 サランもユノも職業試験は受けていないので、正式な治癒師にはなれていなかったが、パラリシスの試験には合格していた。
 ユノはパラリシスを使う実践経験が少ないが、一方でサランは両親が共に治癒師であるため、休暇の時などは実際に実家の治癒院を手伝っているので、パラリシスを実践で使った経験が豊富だった。
 特に小さな動物や子供に掛けるのは加減が難しく、命がかかわることでもあるので、パラリシスを安易に使わないのはユノらしくとても慎重でいい判断だった。

「ふぅ」

 腕の中の子猫がサランのパラリシスの魔法によってくったりと意識を失ったが、子猫から感じる温かさと鼓動、安定した呼吸から失敗せずに無事にかけられたことがわかり、サランは一旦安堵の息を吐いた。
 ユノとアンドレアも固唾を呑んで見守る中、サランは子猫の目の横に刺さった棘を治癒魔法で注意深く引き抜いた。

「取れた……」

「ほんとっ?!」

「この猫ちゃんが起きてから動きを見てみないと絶対大丈夫とは言えないけれど、多分眼球を傷つけることなく引き抜けたと思う」

「ありがとうっサラン! この子小さいからパラリシスを掛けるのが怖くて……っ」

 ほっとしたのかユノの目には涙が浮かんでいた。

「うん、この子小さいからパラリシスは無理してやらなくてよかったよ。だからと言ってパラリシスをしないでこの棘を取ろうとすれば、暴れてしまうだろうし失明させてしまう恐れもあったからね。他にも全身に切り傷いっぱいだから、それも治してからパラリシスは解くよ」

 そう言ってからサランは子猫の小さな体全体にゆっくり触れていった。
 ぽわぽわと優しい光に子猫は包まれ、小さな傷も少しずつ消えていく。
 そして全身の状態がすっかり良くなったことを確認すると、サランは子猫に掛けたパラリシスを解いた。

「にゃーお」

 子猫は何事もなかったかのように目を開き、小さく鳴き声を上げた。

「はい。アンドレア、悪いけど少しの間この子をよろしく」

「え? サラン?」

 サランが子猫をユノではなくアンドレアに渡したのを見て戸惑いの声を上げたユノだが、アンドレアは理由を察したようで、すんなりと猫を受け取ってくれた。
 厳ついアンドレアと小さな子猫があんまりにも似合っていないことが、サランには可愛らしく思えて、つい笑ってしまうと睨まれた。

「次は、ユノの番だよ。手、見せて」

「あ……大した怪我じゃないよ」

 サランがユノの手をそっと取ると、ようやくサランの意図に気が付いたユノは恥ずかしそうに言った。

「猫を助けるために棘を気にしないで薔薇の中に手を突っ込んじゃったんでしょ」

 ユノの手は傷だらけで、深く切れているところからは血が滴るほどだった。

「この子がさ、薔薇垣の下に入り込んで出られなくなっちゃったんだよね。魔法を使ったら薔薇が痛みそうだったし、放っておいたらこの子の傷は増えそうだったし」

 優しいユノは子猫と薔薇を守るために自らの手を犠牲にすることに迷いはなかったんだろうな、とサランには想像がついた。

「うん。そんなところだろうなと思ったよ」

「俺は治癒魔法自分でするから大丈夫だよ。だって今日の授業でも散々魔力使って、そのあと子猫にパラリシスも使ったんじゃサラン疲れちゃうよ」

 確かに今日の授業はハードだったし、パラリシスは魔力も集中力も大いに使うけれども。

「それこそ大したことないよ。僕を見くびらないでよね。ユノはこの後生徒会の仕事もあるんだろ? 僕は何の予定もないから寮に帰ったらユノの作った魔力を回復させる水薬でも飲んで寝るよ。さ、治しちゃうよ」

 サランは言うと、ユノの傷だらけの手に治癒魔法をかけた。

「ん……」

「はい。おしまい。痛いところ残ってる?」

 サランに聞かれ、ユノが手を握ったり開いたりする。

「大丈夫そう。すっかり元通りだよ。ありがとう。サラン」

「ううん。変な奴に絡まれたわけじゃなくて良かったよ。あ、これユノのペンケース」

「あ! 俺教室に忘れちゃってた? ありがとう」

 ユノはペンケースを受け取って礼を言った。

「あと、この猫どうする? このままここに戻したらまた薔薇垣に突っ込んじゃいそうだよね。僕の実家に連れて行きたいけれど、実家は治癒院があるから飼えるかなぁ……僕たちの寮に入れてもいいかマルコさんに聞いてみる?」

 サランはアンドレアの腕の中にいる子猫を撫でながらユノに聞いた。

「実家は治癒院……?」

 アンドレアがサランの言葉を反芻したが、この小さな猫が薔薇の棘のせいで今度こそ失明などしてしまったら、と思うと心配でたまらないサランはそれどころではなかった。

「……マルコさん、前に寮に動物はだめだって厳しく言ってたよ……」

 ユノが泣きそうな顔で答える。

「俺の家で引き取ってやる。他にも猫が二匹いて、家の家族も使用人も猫好きが多い。今更こいつが増えたところで困ることは一つもない」

 それまで黙っていたアンドレアが口を開いた。

「い……いいの?」

 サランとユノがぴったりと声を重ねて、驚きで目を見開いてアンドレアを見た。

「別に構わない……っうわ……っ」

「ありがとう! アンドレア!!」

 ユノとサランは同時に子猫ごとアンドレアに抱き着いた。

「にゃー」

 大きな衝撃に子猫も驚いた声を上げ、中庭にはユノとサランの笑い声が響いた。
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