強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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3章

猫の名は?1

 支度が終わり四人で寮を出ると、寮母のマルコがハイクラスとスタンダードクラスの生徒が一緒に学校の晩餐会に向かうのは初めてだと顔を綻ばせて見送ってくれた。
 寮の前にはすでにビスコンティ家の馬車が付けられていた。アンドレアはここでも自然な仕種でユノをエスコートして馬車に乗らせた。
 ユノをエスコートした後そのままアンドレアも馬車に乗り込むものだと思い込んでいたら、アンドレアは馬車の扉の横から動かなかった。

「ん」

 短くサランに言って大きな掌を差し出した。

「へ?」

「間抜けな声を出すな。さっさと乗れよ」

 サランは動揺したままアンドレアの手を取ると、火を司る家系に産まれているせいなのか、驚くほど熱かった。

「え……と、アンドレア?」

 アンドレアの手を借りてすんなりと馬車に乗れたが、座ってもアンドレアは中々手を離さないので、サランは首を傾げた。
 するとアンドレアは、はっとしたようにサランの手を離し自身も馬車に乗り込んだ。

「ねぇ、アンドレア。僕のことはエスコートしてくれないのかな?」

「……誰がするか。お前はこいつらと違って嫌味なほど足が長いんだから一人でも問題なく乗れるだろうが」

「……っ……ぁ……ねぇ、それって僕らの足が短いとか背が低いとか言いたいわけ?!」

「い……いや、今のはそういうわけじゃ……っ」

 アンドレアに握られた手から熱が引かなくて、熱を下げたくてサランはいつもどおり嚙みついた。

「ふふふ……おもしろい」

 それに対していつもは噛みつき返すアンドレアが珍しくしどろもどろになる様を見て、イヴァンが笑いながら、馬車に乗り込んできた。

「おもしろがるな。ふざけた態度取るんだったら俺の馬車じゃなくて、てめぇの馬車で行けよ、イヴァン」

「ごめん、ごめん。あ、ほら学校に着くまでアンドレアの家にこの前引きとられていった子猫ちゃんの様子、水晶に映してあげるから許して」

 そう言ってイヴァンが燕尾服の上着をひらめかせると、美しく紫がかった水晶が現れた。上流階級の者たちが着る衣服には、持ち物を収納できる魔法の機能が付いているのだ。

「うわ……術師の水晶なんて僕初めて見た……」

「うん、俺も……綺麗……」

 イヴァンの水晶を見てユノとサランは感嘆の声を上げた。
 術師は占術の力を使って水晶に遠く離れた景色を映し出すことができるのだ。

「でも、これから晩餐会なのにいいんですか?」

 占術は魔力をたくさん使うので、ユノが心配そうに尋ねると、アンドレアの家の猫を見るくらいなら全然大丈夫とイヴァンは水晶に像を映しだした。

「うわぁ……かわいい……」

 薄紫の水晶に映し出された小さな猫の無邪気な様子に、ユノとサランは感嘆の声を上げた。像には他の猫も映り、仲睦まじく遊んでいるようだった。

「元気そうでよかった」

 ユノとサランが助けた子猫の元気な様子に、ユノがほっとしたような声をあげる。
 サランは可愛い様子に見とれてしまって声も出なかった。こんなに元気でふわふわと楽しそうな様子にほっこりした。

「おぉ。めちゃめちゃ元気でお前らにそっくりで家がにぎやかになった」

「家がにぎやかになるほど元気いっぱいなのは、俺というよりサランに似てるんじゃない?」

 ユノが軽口を言って笑った。

「そうそう! さすがユノ!! 鋭い!! それがね、この子の名前もね」

「おい! イヴァン!!」

 ユノの言葉にイヴァンが声を上げるとアンドレアが遮った。

「えー言っちゃだめなの? アンドレア、この前の週末その名前呼んで子猫にちゅっちゅしてた……」

「おい!! お前の占術声も聞こえるのか?!」

「声は聞こえないけど、術師は映し出された像の中での会話が分かるように、読唇術も習うからね。怒んないでよ。そもそもユノとサランに子猫の可愛い様子を見せてやりたいって言ったのもアンドレアだし、子猫を上手に水晶に映す練習のために先週末のアンドレアの部屋を占術で映してもいいって許可くれたのも、アンドレアじゃないか。子猫の名前二人に教えちゃおうかなー」

 イヴァンはアンドレアに睨まれて、拗ねた声を上げた。

「あー!! わかった、わかった! 怒った俺が悪かった。悪かったから名前は言うな」

「えーなんで? 名前くらい教えてくれたっていいじゃん。気になるー」

「ぷはははは」

 サランが口を尖らせると、アンドレアに怒られて不服そうな顔をしていたイヴァンが笑い始めた。
 賢いユノは何かを察したのか静かに、だが楽しそうに笑うだけだった。
 ユノがこの笑いを浮かべた時は、いいことが起こっているということなんだけれど、サランに答えをいつも教えてくれない。答えを尋ねるとサランが考えてごらん、サランなら答えに辿り着けるからその邪魔はしたくないなと言う。

「うるせぇな。あー猫の名前は『猫ちゃん』だ」

「は? 『猫ちゃん』? んなわけないだろ!! ふざけないで教えてよ!!」

 アンドレアが適当なことを言って、サランは食い下がったが、猫の名前は聞けないまま馬車は今宵の晩餐会の会場である大広間がある学校の本館前の馬車廻しの前に到着した。


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