22 / 59
3章
猫の名は?1
支度が終わり四人で寮を出ると、寮母のマルコがハイクラスとスタンダードクラスの生徒が一緒に学校の晩餐会に向かうのは初めてだと顔を綻ばせて見送ってくれた。
寮の前にはすでにビスコンティ家の馬車が付けられていた。アンドレアはここでも自然な仕種でユノをエスコートして馬車に乗らせた。
ユノをエスコートした後そのままアンドレアも馬車に乗り込むものだと思い込んでいたら、アンドレアは馬車の扉の横から動かなかった。
「ん」
短くサランに言って大きな掌を差し出した。
「へ?」
「間抜けな声を出すな。さっさと乗れよ」
サランは動揺したままアンドレアの手を取ると、火を司る家系に産まれているせいなのか、驚くほど熱かった。
「え……と、アンドレア?」
アンドレアの手を借りてすんなりと馬車に乗れたが、座ってもアンドレアは中々手を離さないので、サランは首を傾げた。
するとアンドレアは、はっとしたようにサランの手を離し自身も馬車に乗り込んだ。
「ねぇ、アンドレア。僕のことはエスコートしてくれないのかな?」
「……誰がするか。お前はこいつらと違って嫌味なほど足が長いんだから一人でも問題なく乗れるだろうが」
「……っ……ぁ……ねぇ、それって僕らの足が短いとか背が低いとか言いたいわけ?!」
「い……いや、今のはそういうわけじゃ……っ」
アンドレアに握られた手から熱が引かなくて、熱を下げたくてサランはいつもどおり嚙みついた。
「ふふふ……おもしろい」
それに対していつもは噛みつき返すアンドレアが珍しくしどろもどろになる様を見て、イヴァンが笑いながら、馬車に乗り込んできた。
「おもしろがるな。ふざけた態度取るんだったら俺の馬車じゃなくて、てめぇの馬車で行けよ、イヴァン」
「ごめん、ごめん。あ、ほら学校に着くまでアンドレアの家にこの前引きとられていった子猫ちゃんの様子、水晶に映してあげるから許して」
そう言ってイヴァンが燕尾服の上着をひらめかせると、美しく紫がかった水晶が現れた。上流階級の者たちが着る衣服には、持ち物を収納できる魔法の機能が付いているのだ。
「うわ……術師の水晶なんて僕初めて見た……」
「うん、俺も……綺麗……」
イヴァンの水晶を見てユノとサランは感嘆の声を上げた。
術師は占術の力を使って水晶に遠く離れた景色を映し出すことができるのだ。
「でも、これから晩餐会なのにいいんですか?」
占術は魔力をたくさん使うので、ユノが心配そうに尋ねると、アンドレアの家の猫を見るくらいなら全然大丈夫とイヴァンは水晶に像を映しだした。
「うわぁ……かわいい……」
薄紫の水晶に映し出された小さな猫の無邪気な様子に、ユノとサランは感嘆の声を上げた。像には他の猫も映り、仲睦まじく遊んでいるようだった。
「元気そうでよかった」
ユノとサランが助けた子猫の元気な様子に、ユノがほっとしたような声をあげる。
サランは可愛い様子に見とれてしまって声も出なかった。こんなに元気でふわふわと楽しそうな様子にほっこりした。
「おぉ。めちゃめちゃ元気でお前らにそっくりで家がにぎやかになった」
「家がにぎやかになるほど元気いっぱいなのは、俺というよりサランに似てるんじゃない?」
ユノが軽口を言って笑った。
「そうそう! さすがユノ!! 鋭い!! それがね、この子の名前もね」
「おい! イヴァン!!」
ユノの言葉にイヴァンが声を上げるとアンドレアが遮った。
「えー言っちゃだめなの? アンドレア、この前の週末その名前呼んで子猫にちゅっちゅしてた……」
「おい!! お前の占術声も聞こえるのか?!」
「声は聞こえないけど、術師は映し出された像の中での会話が分かるように、読唇術も習うからね。怒んないでよ。そもそもユノとサランに子猫の可愛い様子を見せてやりたいって言ったのもアンドレアだし、子猫を上手に水晶に映す練習のために先週末のアンドレアの部屋を占術で映してもいいって許可くれたのも、アンドレアじゃないか。子猫の名前二人に教えちゃおうかなー」
イヴァンはアンドレアに睨まれて、拗ねた声を上げた。
「あー!! わかった、わかった! 怒った俺が悪かった。悪かったから名前は言うな」
「えーなんで? 名前くらい教えてくれたっていいじゃん。気になるー」
「ぷはははは」
サランが口を尖らせると、アンドレアに怒られて不服そうな顔をしていたイヴァンが笑い始めた。
賢いユノは何かを察したのか静かに、だが楽しそうに笑うだけだった。
ユノがこの笑いを浮かべた時は、いいことが起こっているということなんだけれど、サランに答えをいつも教えてくれない。答えを尋ねるとサランが考えてごらん、サランなら答えに辿り着けるからその邪魔はしたくないなと言う。
「うるせぇな。あー猫の名前は『猫ちゃん』だ」
「は? 『猫ちゃん』? んなわけないだろ!! ふざけないで教えてよ!!」
アンドレアが適当なことを言って、サランは食い下がったが、猫の名前は聞けないまま馬車は今宵の晩餐会の会場である大広間がある学校の本館前の馬車廻しの前に到着した。
寮の前にはすでにビスコンティ家の馬車が付けられていた。アンドレアはここでも自然な仕種でユノをエスコートして馬車に乗らせた。
ユノをエスコートした後そのままアンドレアも馬車に乗り込むものだと思い込んでいたら、アンドレアは馬車の扉の横から動かなかった。
「ん」
短くサランに言って大きな掌を差し出した。
「へ?」
「間抜けな声を出すな。さっさと乗れよ」
サランは動揺したままアンドレアの手を取ると、火を司る家系に産まれているせいなのか、驚くほど熱かった。
「え……と、アンドレア?」
アンドレアの手を借りてすんなりと馬車に乗れたが、座ってもアンドレアは中々手を離さないので、サランは首を傾げた。
するとアンドレアは、はっとしたようにサランの手を離し自身も馬車に乗り込んだ。
「ねぇ、アンドレア。僕のことはエスコートしてくれないのかな?」
「……誰がするか。お前はこいつらと違って嫌味なほど足が長いんだから一人でも問題なく乗れるだろうが」
「……っ……ぁ……ねぇ、それって僕らの足が短いとか背が低いとか言いたいわけ?!」
「い……いや、今のはそういうわけじゃ……っ」
アンドレアに握られた手から熱が引かなくて、熱を下げたくてサランはいつもどおり嚙みついた。
「ふふふ……おもしろい」
それに対していつもは噛みつき返すアンドレアが珍しくしどろもどろになる様を見て、イヴァンが笑いながら、馬車に乗り込んできた。
「おもしろがるな。ふざけた態度取るんだったら俺の馬車じゃなくて、てめぇの馬車で行けよ、イヴァン」
「ごめん、ごめん。あ、ほら学校に着くまでアンドレアの家にこの前引きとられていった子猫ちゃんの様子、水晶に映してあげるから許して」
そう言ってイヴァンが燕尾服の上着をひらめかせると、美しく紫がかった水晶が現れた。上流階級の者たちが着る衣服には、持ち物を収納できる魔法の機能が付いているのだ。
「うわ……術師の水晶なんて僕初めて見た……」
「うん、俺も……綺麗……」
イヴァンの水晶を見てユノとサランは感嘆の声を上げた。
術師は占術の力を使って水晶に遠く離れた景色を映し出すことができるのだ。
「でも、これから晩餐会なのにいいんですか?」
占術は魔力をたくさん使うので、ユノが心配そうに尋ねると、アンドレアの家の猫を見るくらいなら全然大丈夫とイヴァンは水晶に像を映しだした。
「うわぁ……かわいい……」
薄紫の水晶に映し出された小さな猫の無邪気な様子に、ユノとサランは感嘆の声を上げた。像には他の猫も映り、仲睦まじく遊んでいるようだった。
「元気そうでよかった」
ユノとサランが助けた子猫の元気な様子に、ユノがほっとしたような声をあげる。
サランは可愛い様子に見とれてしまって声も出なかった。こんなに元気でふわふわと楽しそうな様子にほっこりした。
「おぉ。めちゃめちゃ元気でお前らにそっくりで家がにぎやかになった」
「家がにぎやかになるほど元気いっぱいなのは、俺というよりサランに似てるんじゃない?」
ユノが軽口を言って笑った。
「そうそう! さすがユノ!! 鋭い!! それがね、この子の名前もね」
「おい! イヴァン!!」
ユノの言葉にイヴァンが声を上げるとアンドレアが遮った。
「えー言っちゃだめなの? アンドレア、この前の週末その名前呼んで子猫にちゅっちゅしてた……」
「おい!! お前の占術声も聞こえるのか?!」
「声は聞こえないけど、術師は映し出された像の中での会話が分かるように、読唇術も習うからね。怒んないでよ。そもそもユノとサランに子猫の可愛い様子を見せてやりたいって言ったのもアンドレアだし、子猫を上手に水晶に映す練習のために先週末のアンドレアの部屋を占術で映してもいいって許可くれたのも、アンドレアじゃないか。子猫の名前二人に教えちゃおうかなー」
イヴァンはアンドレアに睨まれて、拗ねた声を上げた。
「あー!! わかった、わかった! 怒った俺が悪かった。悪かったから名前は言うな」
「えーなんで? 名前くらい教えてくれたっていいじゃん。気になるー」
「ぷはははは」
サランが口を尖らせると、アンドレアに怒られて不服そうな顔をしていたイヴァンが笑い始めた。
賢いユノは何かを察したのか静かに、だが楽しそうに笑うだけだった。
ユノがこの笑いを浮かべた時は、いいことが起こっているということなんだけれど、サランに答えをいつも教えてくれない。答えを尋ねるとサランが考えてごらん、サランなら答えに辿り着けるからその邪魔はしたくないなと言う。
「うるせぇな。あー猫の名前は『猫ちゃん』だ」
「は? 『猫ちゃん』? んなわけないだろ!! ふざけないで教えてよ!!」
アンドレアが適当なことを言って、サランは食い下がったが、猫の名前は聞けないまま馬車は今宵の晩餐会の会場である大広間がある学校の本館前の馬車廻しの前に到着した。
あなたにおすすめの小説
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る
竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。
子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。
ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。
神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。
公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。
それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。
だが、王子は知らない。
アレンにも王位継承権があることを。
従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!?
*誤字報告ありがとうございます!
*カエサル=プレート 修正しました。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。