強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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3章

誰と踊るの1※サランの場合

「うわっ! ユノ、アンドレア様とイヴァン様と三人で入場してきた!」

 サランと同じテーブルに着いていたトミーが驚きの声を上げたが、三人で会場に入ってきたのを見て驚いたのは、スタンダードクラスだけでなく会場中が驚いているようだった。
 生徒会のメンバーはパートナーと二人で入場してくるのが慣例なので、三人での入場はとても目立っていた。でもざわめきの理由はそれだけではない。

「うわぁ……でも今日のユノカッコいい……二人と並んでも遜色ない」

 スタンダードクラスのテーブルからはそんな声も聞こえた。

「うん。ユノは本当に、かっこいい……」

 サランが身支度を手伝ったユノはとっても素敵で、貴族生まれのイヴァンとアンドレアと並んでも見劣りせず、とっても誇らしかった……少しだけ、胸が痛かったのは、一緒に会場まで来たのに、自分だけ遠いところにいるような気がしたから。
 ――でも、あんな風に目立って入場するのは僕には荷が重いし、一緒に入場したかったかと聞かれれば、それは『否』なんだけどさ。
 サランは自分の気持ちがよく分からなくて、溜息を吐いた。
 いつの間にか食事は始まっていて、サランは機械的に料理を口に運んだ。
 出てくる料理はどれもとびきり美味しかったのに、砂を噛んでいるようだった。
 ユノが取られて悲しいのか、自分があの輪の中に入れなくて寂しいのか、自分の気持ちなのに分からない。
 食事にも友達との会話にも集中できないまま時は過ぎ、いつの間にかダンスパーティの時間になっていた。
 スタンダードクラスのサラン達からは離れた中央のダンスフロアでは恐らくキリヤあたりが踊っているのだろう。盛り上がっている様子が伺えた。

「そういえばサランは今日誰とダンス踊るの? さっき話していたナナちゃん?」

 不意に隣に座るジェイコブがサランに尋ねた。

「え? ダンス? えーと……そう、ナナと約束してるよ」

 ダンスという言葉を聞き、三人はどうやって踊るのだろうか、という考えに囚われてしまい、サランはすぐに答えられなかった。

「いいなぁ、羨ましい」

 ――ユノはイヴァンがパートナーと言っていたからイヴァンと踊るのかな……キリヤ会長と踊るのはきっと難しいよね。
 一緒にいたスタンダードクラスの生徒たちは口々に羨ましがったけれど、サラン自身の中にある複雑な思いや、ユノ以外と踊るキリヤを近くで見ているであろうユノの気持ちを慮ったりしていたら、そんな声は耳に入ってこなかった。
 あの赤い目立つ男はダンスのパートナーがいるのだろうか。
 見目は頗るいいし、誰もが嫁ぎたいと思うような家柄でもある。
 性格に多少難があっても、まぁ優しいところもあるし引く手は数多だろう。

「……アンドレアのダンスのパートナーは僕が気にすることでもないか」

「サラン!! 探したわよ!! そろそろ一曲目が始まるわよ!」

 思わず呟いてしまったが、目の前にナナが現れてサランは我に返った。
 去年の交流会で知り合った魔女のナナはベタベタしてこないし、話が合うさっぱりした子。

「あれ? ナナ、去年より背が伸びた?」

 ダンスを楽しみながら彼女に尋ねると、ふふと、彼女は嬉しそうに笑った。

「わかる? 五センチも伸びたのよ」

 そう言ってクルリとターンを決めると、イエローのドレスがふわっと揺れた。

「いいなぁ。僕なんて一センチも伸びなかったよ。男は二十歳まで伸びるって、あれは嘘だね」

「サランは小さいところがキュートでいいんじゃない。最近は可愛い男の子好きな女の子、多いわよ」

 サランとそう目線が変わらないナナは大きな瞳を丸めた。
 可愛い。とても魅力的だし、話していても楽しいんだけれど。
 他のことを考えていてもさらっと会話出来てしまうこの子とは、なんとなくこの先には進まないことは分かっていた。もちろんナナも分かっているだろうし、二人の暗黙の了解だ。
 年に一度の交流会で踊るだけ。
 ロマンチックに聞こえなくもないけれど、二人の間にはロマンチックな空気はない。
 ユノの好きな曲が生演奏で美しく飾られた学校の大広間に響き渡る。
 ユノは少しでも楽しんでいるかなぁ。
 そんなことを考えながら踊っていると、一曲が終わってしまった。

「ありがとう。サラン。今年もあなたとダンス踊れて楽しかったわ。お互いパートナーが見つからなかったら来年また一緒に過ごしましょう」

 そう微笑んでナナは美しいイエローを翻して行ってしまった。

「あの……サランさん。私とも一曲いいですか?」

 薄桃色のドレスを着た女の子に声を掛けられた。

「あ、昼間の交流会で……」

「はい。昼間の交流会でサランさんに治癒学の授業の説明をしていただきました」

 ドレスのように頬を桃色に染めた女の子。
 ちょっと厄介だな、と思ったけれど、ここで断れば恥をかかせてしまう。

「いいよ。一曲だけなら踊ろうか」

 サランがそう言うと、嬉しそうに彼女は頷いた。
 一曲だけ踊り、ごめんね。約束があるから。と言ってその子とは離れた。
 昼間の交流会の時に名前を教えてもらった気がするけれども、踊り終わるまでに思い出すことはできなかった。
 彼女と離れた途端今度はグリーンのドレスを纏った女の子にダンスを誘われて、サランは三曲続けてダンスを踊る羽目になった。
 断る理由も見つからず、彼女とも踊った。

「……っ」

「あっごめんなさいっ」

 三曲目の彼女はあまりダンスが得意でないらしく、細いピンヒールの踵でサランの足を踏んだのだ。

「だ……大丈夫。気にしないで」

 そう言って微笑んだものの、踏まれた足は酷く痛んだ。
 三曲目が踊り終わると踏まれた痛みと疲れで、女の子に声を掛けられる前に会場係のスタッフからグラスに入った飲み物を受け取り、急いで人目の付かない壁際に避難した。
 ふわふわしていて可愛らしい。
 そうみんながサランのことをそう言う。
 多分、女の子にはそこそこモテる。
 だけど、超一流の男には声を掛けづらい中、サランなら気軽に声を掛けやすいといった程度であるのはサランはよく自覚していた。

「あー疲れた」

 そう言って踏まれた足に治癒魔法を掛けようとしたその時だった。

「あの……サランさん。次の曲踊っていただけませんか?」

 元気いっぱいのオレンジ色のドレスを着た子。
 色とりどりのドレスはサランの目を楽しませてくれたけれど。
 最近の女の子はなんて積極的なんだ……!!
 今日はもうお腹いっぱいだから帰りたい。
 でも女の子に恥をかかせるわけにはいかないよね。
 そう思ってサランが口を開いた時だった。

「サランとは俺が次に踊る約束をしているんだ。申し訳ないが他の人を当たってもらえるだろうか?」

 そう、腰に響くような低い声が聞こえた。
 まさか。
 よく知る男の声と似ているが、こんな紳士的な話し方ができるヤツじゃない。
 そう思って慌てて振り返ったサランは驚きであんぐりと口を開けてしまった。
 この男のいつもと違う様子にものすごく驚いてしまったんだから、無理もない。
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