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強面騎士団長は宿敵だったはずなのに4章
一日遅れのパーティとキス
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そして彼に案内されるまま、階下にあるビスコンティ家の広間に向かった。
一階にある広間の入り口にはかなり大きな両開きの重厚な木製の扉があり、それを侍従が開けてくれると、ビスコンティ家の広間が現れた。
赤い絨毯だが派手さはなく落ち着いた深い赤で、ホリデーシーズンに合わせたのか大きな窓に掛けられたカーテンや大きなテーブルに掛けられたテーブルクロスは深い緑だ。
広間の一画には天井に届きそうなほどの立派なツリーが飾られており、人型のジンジャークッキーやホリデーキャンディのオーナメントが可愛らしい。
「サランくん、改めて昨夜はホリデーパーティの夜なのに、息子の治療をしてくれてありがとう」
アンドレアが年齢を重ねたらこうなるのだろうなと思わせる雰囲気を持ち、背が高くがっしりとした体躯の紳士は昨夜も顔を合わせたアンドレアの父親だ。
「い……いえ……友人ですし、当然のことだと……」
「アンドレアが学校でキリヤ様やイヴァン様とはまた違う、とっても素敵なお友達を作っていたことがわかって安心しました。今夜は昨夜の分も楽しんでくださいね」
サランの緊張を優しくほぐすように話しかけてくれたのは、アンドレアの母親だ。父親も子供も真っ赤な髪の毛をしているが、北西の国から嫁いできたという母親だけは銀色の髪をしていた。
「と…とんでもないです……っ」
「うむ。やはり優秀な治癒師というものは大事な存在だと改めて認識させてもらったよ」
「おい。親父とおふくろがそんなんだと、サランがいつもの食い意地発揮できないだろうが」
威厳あふれる両親に言われて、サランが恐縮しているとアンドレアが言った。
「そうですわ、ざっくばらんにお話しできる機会にしましょうね。さぁお食事が冷める前に食べましょう」
ルーナと共に先に広間で待っていたジュリエッタもアンドレアに賛同した。
「うわぁ……すごい」
テーブルに並んでいたのは、びっくりするほど赤をテーマにした食事の数々。仔牛のローストにベリーのソースをかけたものやフルーツトマトとチーズの前菜。真っ赤なビーツと共に煮込まれたやわらかそうな牛肉の煮込みには、真っ白なサワークリームが乗っていて、サランはその香りだけでお腹が鳴ってしまう。
「あのね……サランさま……いちごのタルトやアイスクリームもあるのよ……」
「んんんんっ……ありがとう、ルーナ様。タルトもアイスクリームも大好き!」
料理の前で感激するサランのシャツの裾をそっと引っ張りながら、アンドレアの妹のルーナがおずおずと言うものだから、サランはあまりの愛らしさに胸を抑えながら礼を言った。
「イチゴのクリームケーキもチョコレートフォンデュもある」
「そ……それはどうも」
「さぁ、皆さん席について。パーティを始めましょう」
なぜかルーナに対抗するようにアンドレアが言うので若干場の空気はおかしくなったが、長女らしくジュリエッタが仕切り直すと、和やかに一日遅れのビスコンティ家のホリデーパーティは始まった。
ビスコンティ家の赤いメニューはどれもびっくりするほどおいしかったし、ルーナはサランの妹になりたいと言ってくれるほど懐いてくれたし、姉のジュリエッタとはダンスを踊った。小さい頃のアンドレアの写真や像も見せてもらうと、場はさらに和やかになった。
サランは生来の人懐っこさで、アンドレアの両親とも緊張せずに会話ができるまでになった。
そして帰りには食べきれなかったデザートをたくさんお土産にもらって、家族や使用人たちに見送られながらビスコンティ家を後にした。
アンドレアが自分で馬車を御してサランを送ると侍従に言い張ったので、馬車の中は二人っきりだった。魔法で御する馬車なので御者席は馬車内にあるため、サランは御者席の隣に座ってアンドレアと話しながら実家兼治癒院まで送ってもらうこととなった。
城下町のリストランテもよかっただろうけど、このパーティも楽しかったと笑顔でアンドレアに言うと、俺は二人きりで食事がしたかったと顔を顰めたので、サランは思わず吹き出してしまった。
美味しい食事と楽しい時間の後だったので、馬車内は明るい雰囲気だったが、サランの家が近づいてくると、アンドレアは目に見えて元気がなくなり始めた。
「はぁ……明日からはまた学校が始まるまで、毎日朝から晩まで騎士団だ……」
「騎士団の訓練は大変? やっぱりアンドレアでも嫌だなって思うの?」
アンドレアは馬車を人の気配が少ない道の端にそっと停めて、サランを見た。
赤い瞳にじっと見られると、また部屋での熱く湿っていて甘ったるいあの空気が戻ってきたようで、サランは体の中心に火を付けられたような落ち着かない気持ちになる。
「騎士団の訓練や公務を嫌だなんて思ったことなんて、一度もねぇよ。ただ……今は明日からサランに会えないと思うと、初めて明日の公務が無くなってほしい、なんて腑抜けたことを考えてしまっている」
そう言われてサランはギクリとした。
サランも明日からはアンドレアと会えないと聞き、正直寂しいと感じたし、できれば明日も会いたいと思ってしまった。
「だから、今すごく帰したくない」
赤い瞳の訴えは切実で、サランの胸はぎゅっと掴まれたみたいになった。大きな手がサランの方に伸びる。茶化すことも、逃げることもできなくてサランは目をきつく瞑った。
これ以上あの赤い瞳を見ていたら、燃えるような熱に焼かれてしまいそうだったから。
「でも……帰らないと……親が待ってるし」
やっとのことでサランは絞り出すように言った。
彼の大きな手が頬に、触れる。
「じゃあおやすみのキスしていい?」
この男はこんな声も出せたのかと驚くほどに甘い声。
なんだよ、おやすみのキスって。この強面でそんな甘ったるいこと言うのか!
いつものように言いたかったけれど。
「だ……だめだってば……」
サランの気持ちはぐちゃぐちゃでそれだけ絞り出すのが精いっぱいだった。
ユノとは恋人ではないけれど大好きで愛している。それは間違いないのだから、そんな気持ちでアンドレアとキスなんてしていいはずがない。
それなのに。
「ごめん。サラン。どうしても我慢できない。本当に嫌だったら魔法で突き飛ばしてくれ……っ」
そう言った彼のシトラスが、いっそう強く香った次の瞬間。
「……んんっ」
ギュッと目を瞑っていたサランの唇に、燃えそうに熱い熱を孕んだものが触れた。
二、三度押し付けられたあと、狂おしく熱い吐息がサランの唇を撫でたので、思わず唇を開いたその瞬間。
ぬる……と熱い舌がサランの口内に侵入したのだ。彼の舌は燃えるように熱くて、サランはびっくりして体を震わせた。彼の舌は、サランの口内を味わい尽くすように侵す。大きな手は震えるサランの体を服の上から忙しなく撫でた。
「んんぁ……」
「ぐ……っ」
唇の隙間から漏れた声が濡れて上ずってしまう。それが恥ずかしくて頬が真っ赤になるのがわかるとともに、アンドレアの喉が鳴った。
これまでの喧嘩友だちのような二人の間から出ているとは思えない、濡れた淫靡な音が馬車の中に響く。馬車の温度は上昇しているみたいで、体を汗が伝う。
熱い舌がサランの舌に絡んで、狂おしく吸われて、もう体の内側からとろとろに溶けてしまいそうになる。
体が溶け落ちてしまいそうなのを繋ぎとめるために、サランはアンドレアの体にしがみつくしかなかった。
「あぁクソ……あんな風にかっこよくまた俺のこと助けて、優しく手当してくれて……それでキスしたらこんなに可愛いなんて、頭がおかしくなりそうだ……っ」
「んん……っ」
そう言ったアンドレアの声は低くて凄みがあった。そして、狂おしくもう一度唇が重なる。また熱い舌が絡んで、口内のひどく敏感なところを舐めつくされる。熱さと快感で、サランはもうとろとろになって力が抜けたまま口を開いてアンドレアの舌や甘い言葉を受け入れることしかできなかった。
サランを責めるようなことばかり言うが、触れてくる指先も唇も舌も火傷しそうに熱いし、シトラスに彼の汗の匂いが溶け込んだ香りはとってもえっちで、サランだってアンドレアを責めたかった。だが甘く激しく唇を奪われていて何も文句を言うこともできない。
「は……っぁ……んんっ」
「サラン……っ……好きだ……」
御者席の隣に座るサランに覆いかぶさるようにして、狭い座席の中でかき口説きながらアンドレアはサランの口内を狂おしく愛撫する。
くちゅくちゅと濡れた音が狭い馬車の中に響いて、キスよりももっと深い行為をしているかのような淫靡さが車内に満ちる。
「あ……っ」
彼の手が狂おしくサランのセーターの中に潜り込んで、素肌の腹部に触れるとサランの体にゾクゾクとするような甘い震えが走って思わず声をあげてしまった。
「サランの肌、すべすべだ……」
恍惚としたようにうっとりとアンドレアは言って、何度も無防備な服の下の肌を忙しなく撫で、深く口内を舌で弄る。
熱くて、熱くて、サランはもうどうにかなりそうだった。
「うぁ……んんっ……」
そのとき、一枚の紙がひらりと馬車の中に舞い込んだ。言の葉送りの紙だ。
言の葉送りに気が付くと、ハッとしたようにキスを止めた。
特に誰に見られても問題ない言の葉送りだったようで、紙は折られていなかったため、サラン宛てではあったがアンドレアにも読めたようだった。
言の葉送りはサランの母親からで、帰りが遅いサランをとても心配していることが書かれていた。
どうしようもないほどの甘い熱に翻弄されていた二人だが、少しだけ冷静さを取り戻した。
「タイムリミットか……」
アンドレアは額を合わせてサランの頬に触れながら言った。この男はこんな切ない声も出せるのかと思うと、胸の奥がさらに搔き乱された。
同時にこれ以上あんな激しいキスをされていたらどうなってしまたのかと思うと、少しほっとする思いもあった。
乱れた呼吸を整えようとして、ゆっくりと瞬きをすると、快感で瞳に溜まっていた涙がぽろりと零れた。
「サ……サラン⁉ そんなに嫌だったか⁉」
アンドレアは見たことないくらい動揺してサランの頬に流れた涙を拭った。
「わ……わかんな……っ熱くて……」
「……嫌ではなかった?」
アンドレアから与えられた熱で乱れたままの思考で返答すると、彼はまた男らしい喉を動かしたあと、甘さの混じった声で尋ねた。こんな誘惑するような声を出さないでほしいのに。
「嫌じゃなかったけど……わかんないよ……っ……わかんない……」
「そうか……じゃあわかるまで、待つ……」
「……んっ」
サランが子供のように頭を振ると、アンドレアは優しくサランの髪を撫でて言った。
そして、ちゅっ……と今度はそれはそれは優しく二人のキスで濡れたサランの唇を啄んだ。
「待つけど、キスはしてもいい?」
「……いま、勝手にした……ん」
サランはキスをしてもいいなんて言っていないのに、また唇に唇が触れた。
「離れがたいけど、送る……」
名残惜しそうに最後に頬にキスを落とすとアンドレアは御者席に身を戻し、再びゆっくりと馬車を御し始めた。
アンドレアはサランの家まで送ると、サランの母親に帰りが遅くなったことを丁寧に謝り、挨拶をして帰って行った。
その晩もあくる日も……サランの唇はずっと炎を司る彼に点けられた火が消えないままだった。
一階にある広間の入り口にはかなり大きな両開きの重厚な木製の扉があり、それを侍従が開けてくれると、ビスコンティ家の広間が現れた。
赤い絨毯だが派手さはなく落ち着いた深い赤で、ホリデーシーズンに合わせたのか大きな窓に掛けられたカーテンや大きなテーブルに掛けられたテーブルクロスは深い緑だ。
広間の一画には天井に届きそうなほどの立派なツリーが飾られており、人型のジンジャークッキーやホリデーキャンディのオーナメントが可愛らしい。
「サランくん、改めて昨夜はホリデーパーティの夜なのに、息子の治療をしてくれてありがとう」
アンドレアが年齢を重ねたらこうなるのだろうなと思わせる雰囲気を持ち、背が高くがっしりとした体躯の紳士は昨夜も顔を合わせたアンドレアの父親だ。
「い……いえ……友人ですし、当然のことだと……」
「アンドレアが学校でキリヤ様やイヴァン様とはまた違う、とっても素敵なお友達を作っていたことがわかって安心しました。今夜は昨夜の分も楽しんでくださいね」
サランの緊張を優しくほぐすように話しかけてくれたのは、アンドレアの母親だ。父親も子供も真っ赤な髪の毛をしているが、北西の国から嫁いできたという母親だけは銀色の髪をしていた。
「と…とんでもないです……っ」
「うむ。やはり優秀な治癒師というものは大事な存在だと改めて認識させてもらったよ」
「おい。親父とおふくろがそんなんだと、サランがいつもの食い意地発揮できないだろうが」
威厳あふれる両親に言われて、サランが恐縮しているとアンドレアが言った。
「そうですわ、ざっくばらんにお話しできる機会にしましょうね。さぁお食事が冷める前に食べましょう」
ルーナと共に先に広間で待っていたジュリエッタもアンドレアに賛同した。
「うわぁ……すごい」
テーブルに並んでいたのは、びっくりするほど赤をテーマにした食事の数々。仔牛のローストにベリーのソースをかけたものやフルーツトマトとチーズの前菜。真っ赤なビーツと共に煮込まれたやわらかそうな牛肉の煮込みには、真っ白なサワークリームが乗っていて、サランはその香りだけでお腹が鳴ってしまう。
「あのね……サランさま……いちごのタルトやアイスクリームもあるのよ……」
「んんんんっ……ありがとう、ルーナ様。タルトもアイスクリームも大好き!」
料理の前で感激するサランのシャツの裾をそっと引っ張りながら、アンドレアの妹のルーナがおずおずと言うものだから、サランはあまりの愛らしさに胸を抑えながら礼を言った。
「イチゴのクリームケーキもチョコレートフォンデュもある」
「そ……それはどうも」
「さぁ、皆さん席について。パーティを始めましょう」
なぜかルーナに対抗するようにアンドレアが言うので若干場の空気はおかしくなったが、長女らしくジュリエッタが仕切り直すと、和やかに一日遅れのビスコンティ家のホリデーパーティは始まった。
ビスコンティ家の赤いメニューはどれもびっくりするほどおいしかったし、ルーナはサランの妹になりたいと言ってくれるほど懐いてくれたし、姉のジュリエッタとはダンスを踊った。小さい頃のアンドレアの写真や像も見せてもらうと、場はさらに和やかになった。
サランは生来の人懐っこさで、アンドレアの両親とも緊張せずに会話ができるまでになった。
そして帰りには食べきれなかったデザートをたくさんお土産にもらって、家族や使用人たちに見送られながらビスコンティ家を後にした。
アンドレアが自分で馬車を御してサランを送ると侍従に言い張ったので、馬車の中は二人っきりだった。魔法で御する馬車なので御者席は馬車内にあるため、サランは御者席の隣に座ってアンドレアと話しながら実家兼治癒院まで送ってもらうこととなった。
城下町のリストランテもよかっただろうけど、このパーティも楽しかったと笑顔でアンドレアに言うと、俺は二人きりで食事がしたかったと顔を顰めたので、サランは思わず吹き出してしまった。
美味しい食事と楽しい時間の後だったので、馬車内は明るい雰囲気だったが、サランの家が近づいてくると、アンドレアは目に見えて元気がなくなり始めた。
「はぁ……明日からはまた学校が始まるまで、毎日朝から晩まで騎士団だ……」
「騎士団の訓練は大変? やっぱりアンドレアでも嫌だなって思うの?」
アンドレアは馬車を人の気配が少ない道の端にそっと停めて、サランを見た。
赤い瞳にじっと見られると、また部屋での熱く湿っていて甘ったるいあの空気が戻ってきたようで、サランは体の中心に火を付けられたような落ち着かない気持ちになる。
「騎士団の訓練や公務を嫌だなんて思ったことなんて、一度もねぇよ。ただ……今は明日からサランに会えないと思うと、初めて明日の公務が無くなってほしい、なんて腑抜けたことを考えてしまっている」
そう言われてサランはギクリとした。
サランも明日からはアンドレアと会えないと聞き、正直寂しいと感じたし、できれば明日も会いたいと思ってしまった。
「だから、今すごく帰したくない」
赤い瞳の訴えは切実で、サランの胸はぎゅっと掴まれたみたいになった。大きな手がサランの方に伸びる。茶化すことも、逃げることもできなくてサランは目をきつく瞑った。
これ以上あの赤い瞳を見ていたら、燃えるような熱に焼かれてしまいそうだったから。
「でも……帰らないと……親が待ってるし」
やっとのことでサランは絞り出すように言った。
彼の大きな手が頬に、触れる。
「じゃあおやすみのキスしていい?」
この男はこんな声も出せたのかと驚くほどに甘い声。
なんだよ、おやすみのキスって。この強面でそんな甘ったるいこと言うのか!
いつものように言いたかったけれど。
「だ……だめだってば……」
サランの気持ちはぐちゃぐちゃでそれだけ絞り出すのが精いっぱいだった。
ユノとは恋人ではないけれど大好きで愛している。それは間違いないのだから、そんな気持ちでアンドレアとキスなんてしていいはずがない。
それなのに。
「ごめん。サラン。どうしても我慢できない。本当に嫌だったら魔法で突き飛ばしてくれ……っ」
そう言った彼のシトラスが、いっそう強く香った次の瞬間。
「……んんっ」
ギュッと目を瞑っていたサランの唇に、燃えそうに熱い熱を孕んだものが触れた。
二、三度押し付けられたあと、狂おしく熱い吐息がサランの唇を撫でたので、思わず唇を開いたその瞬間。
ぬる……と熱い舌がサランの口内に侵入したのだ。彼の舌は燃えるように熱くて、サランはびっくりして体を震わせた。彼の舌は、サランの口内を味わい尽くすように侵す。大きな手は震えるサランの体を服の上から忙しなく撫でた。
「んんぁ……」
「ぐ……っ」
唇の隙間から漏れた声が濡れて上ずってしまう。それが恥ずかしくて頬が真っ赤になるのがわかるとともに、アンドレアの喉が鳴った。
これまでの喧嘩友だちのような二人の間から出ているとは思えない、濡れた淫靡な音が馬車の中に響く。馬車の温度は上昇しているみたいで、体を汗が伝う。
熱い舌がサランの舌に絡んで、狂おしく吸われて、もう体の内側からとろとろに溶けてしまいそうになる。
体が溶け落ちてしまいそうなのを繋ぎとめるために、サランはアンドレアの体にしがみつくしかなかった。
「あぁクソ……あんな風にかっこよくまた俺のこと助けて、優しく手当してくれて……それでキスしたらこんなに可愛いなんて、頭がおかしくなりそうだ……っ」
「んん……っ」
そう言ったアンドレアの声は低くて凄みがあった。そして、狂おしくもう一度唇が重なる。また熱い舌が絡んで、口内のひどく敏感なところを舐めつくされる。熱さと快感で、サランはもうとろとろになって力が抜けたまま口を開いてアンドレアの舌や甘い言葉を受け入れることしかできなかった。
サランを責めるようなことばかり言うが、触れてくる指先も唇も舌も火傷しそうに熱いし、シトラスに彼の汗の匂いが溶け込んだ香りはとってもえっちで、サランだってアンドレアを責めたかった。だが甘く激しく唇を奪われていて何も文句を言うこともできない。
「は……っぁ……んんっ」
「サラン……っ……好きだ……」
御者席の隣に座るサランに覆いかぶさるようにして、狭い座席の中でかき口説きながらアンドレアはサランの口内を狂おしく愛撫する。
くちゅくちゅと濡れた音が狭い馬車の中に響いて、キスよりももっと深い行為をしているかのような淫靡さが車内に満ちる。
「あ……っ」
彼の手が狂おしくサランのセーターの中に潜り込んで、素肌の腹部に触れるとサランの体にゾクゾクとするような甘い震えが走って思わず声をあげてしまった。
「サランの肌、すべすべだ……」
恍惚としたようにうっとりとアンドレアは言って、何度も無防備な服の下の肌を忙しなく撫で、深く口内を舌で弄る。
熱くて、熱くて、サランはもうどうにかなりそうだった。
「うぁ……んんっ……」
そのとき、一枚の紙がひらりと馬車の中に舞い込んだ。言の葉送りの紙だ。
言の葉送りに気が付くと、ハッとしたようにキスを止めた。
特に誰に見られても問題ない言の葉送りだったようで、紙は折られていなかったため、サラン宛てではあったがアンドレアにも読めたようだった。
言の葉送りはサランの母親からで、帰りが遅いサランをとても心配していることが書かれていた。
どうしようもないほどの甘い熱に翻弄されていた二人だが、少しだけ冷静さを取り戻した。
「タイムリミットか……」
アンドレアは額を合わせてサランの頬に触れながら言った。この男はこんな切ない声も出せるのかと思うと、胸の奥がさらに搔き乱された。
同時にこれ以上あんな激しいキスをされていたらどうなってしまたのかと思うと、少しほっとする思いもあった。
乱れた呼吸を整えようとして、ゆっくりと瞬きをすると、快感で瞳に溜まっていた涙がぽろりと零れた。
「サ……サラン⁉ そんなに嫌だったか⁉」
アンドレアは見たことないくらい動揺してサランの頬に流れた涙を拭った。
「わ……わかんな……っ熱くて……」
「……嫌ではなかった?」
アンドレアから与えられた熱で乱れたままの思考で返答すると、彼はまた男らしい喉を動かしたあと、甘さの混じった声で尋ねた。こんな誘惑するような声を出さないでほしいのに。
「嫌じゃなかったけど……わかんないよ……っ……わかんない……」
「そうか……じゃあわかるまで、待つ……」
「……んっ」
サランが子供のように頭を振ると、アンドレアは優しくサランの髪を撫でて言った。
そして、ちゅっ……と今度はそれはそれは優しく二人のキスで濡れたサランの唇を啄んだ。
「待つけど、キスはしてもいい?」
「……いま、勝手にした……ん」
サランはキスをしてもいいなんて言っていないのに、また唇に唇が触れた。
「離れがたいけど、送る……」
名残惜しそうに最後に頬にキスを落とすとアンドレアは御者席に身を戻し、再びゆっくりと馬車を御し始めた。
アンドレアはサランの家まで送ると、サランの母親に帰りが遅くなったことを丁寧に謝り、挨拶をして帰って行った。
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ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
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