平凡な俺は魔法学校で、冷徹第二王子と秘密の恋をする

ゆなな

文字の大きさ
88 / 90
強面騎士団長は宿敵だったはずなのに5章

サランの気持ち

しおりを挟む
「この魔法動物の谷に来て、いろんなことがあったから、その中で自分の気持ちがはっきりとわかったよ」
 サランはゆっくりと言った。いつも勢いで心に浮かんだことを口走ってしまうことがあるから。でも今は絶対に誤解が一つもないように彼に言わなければならなかった。そうしなければ、きっとサランは大切なものを失ってしまう。
 そう思うと、緊張で心臓が割れそうなほど脈打った。
 同時に彼も自分に気持ちを伝えてくれる時、こんな思いをしてくれたのかもしれないと思うとよりいっそう声が震えた。
「その気持ちは聞かせてくれなくていいよ。もうわかってるから。傷口に塩を塗り込まないでくれ」
 サランの言葉を聞いて、アンドレアは投げやりに言うと俯いた。
 アンドレアの絞り出すような声を聞いて、サランはいかほどに彼を傷つけていたのかようやく理解した。
 ユノを好きなサランごと愛しているとアンドレアは伝えてくれたが、それでもやっぱり自分を一番に好きでいてほしいと思うのは人として当たり前のことなのは少し考えればわかることなのに、アンドレアの言葉にサランは甘えて一緒にいた。
 一緒にいて頼って甘えるなら、サランもアンドレアに伝えなくてはならない言葉があったはずなのに。
 サランがちゃんと言葉にしてこなかったから、彼が好きだと言ってくれることに甘えていたから、きっと今回のことはアンドレアをとても傷つけた。
 今さら自分の気持ちがわかったと打ち明けても、アンドレアはサランのことは見限って離れたいのかもしれない。でも不器用なくせに一生懸命言葉にしてくれたアンドレアにサランも言葉で伝えたかった。
「ユノがいなくなっちゃって、僕の頭は真っ白になって何も考えられなくなった。僕一人だったら、パニックを起こしてきちんと行動できなくて……ユノを救えたかどうかわからない……それくらいユノは僕にとって大切な人だから」
「わかってるって。それって全部聞かないとダメ?」
 まるで捨てられた子犬みたいな視線。あの彼にこんな表情をさせているのだと思うと胸が痛む。
「ごめん。もう我儘言わないから、聞いてよ。ユノを救えたのはアンドレアがずっとそばにいてくれたから。アンドレアがいてくれたから僕は平静が取り戻せたんだ。すごく安心して、心強かった」
「……でも、お前が命を懸けられると思うほど好きなのは、ユノなんだろ……そんなフォロー最後にされたって……」
 拗ねたようなアンドレアの声。ずっと真摯な思いを向けてくれていた彼に正直に心の内側を伝えなければならない。
「命を懸けられるって思えたのは、アンドレアがいたからだよ。今回ギリギリまで魔力を使えたのも僕が死にかけても、そばにいるアンドレアがきっと僕を死なせないってわかってたからだよ。絶対にアンドレアが僕を死なせないってわかってた。そうでなかったら、できなかったかもしれない」
「な……なんだよ……それ……」
 俯いていた彼が顔を上げた。赤い瞳が少し濡れている。
「違うの? あってるよね? アンドレアは絶対に僕を助けてくれる」
「絶対助ける。そんなん決まってんだろうが……っ」
「だから、僕はギリギリまで魔力を使おうって思えたんだ」
 サランは深く呼吸をして口を開いた。
「ユノが好きだよ。でもアンドレアも同じくらい好きだ。でもその好きって全然違うんだ……」
「……どう違うんだよ……」
 サランが言うと、アンドレアは唇を尖らせながら、でもサランに愛を乞うような視線を向けるものだから、サランは胸の奥を掴まれたみたいで苦しくなった。
「……安心するのに、苦しい……息が出来なくなるくらい心臓が苦しくなるのに、一緒にいてほしい……っ」
 言い終わる前にサランはアンドレアの愛おしいシトラスの中に包まれていた。
 体温の高い彼の胸はいつでも熱いほどで、頭がおかしくなりそうになる。
「じゃあ言ってくれよ。サラン……お願いだから、ちゃんと言葉にして。そしたらもういいよ。ユノの次でもいいから……」
 彼の胸の中でサランは深く呼吸した。
「ユノの次じゃないよ。どっちが一番って決められないけど、抱きしめてほしいとか、キスしてほしいとか思うのはアンドレアだ」
 そして、胸の中で顔を上げ、彼の赤く燃えるような瞳を見て言った。
「アンドレアが、すき……っん」
 好きだと告げると、唇を塞がれた。
 苦しいくらいにきつく塞がれるのに、サランはもっと、とねだるように彼の首に回した腕に
 力を込めてぎゅっと抱き付いた。
「あーーーー! くそ……っ振り回されっぱなしじゃねぇか……情けね……でも」
 すげぇ、嬉しい。大好き、愛してる。
 唇を合わせたまま狂おしく告げられる。
 熱い舌が、サランの口の中に入って来る。
 前はどうしたらいいか分からなくて受け入れるままだったけれど、少しでも気持ちを返したくてサランも一生懸命彼の舌に絡めて吸って、一生懸命応えた。
「ん……ん……っ」
 うまくできたかわからないけれど、大きな掌が褒めるみたいに頭や背中を撫でてくれる。
 どのくらいそうしていたかわからないくらいに唇を重ねた。
「は……」
 時を忘れたように唇を合わせてようやくアンドレアは唇を離すと、そっと額を合わせた。
「サラン……サラン……っ」
「アンドレ……ア……っ」
 アンドレアの赤い目はすっかり蕩けていて、熱の籠った視線でサランを見つめる。
 サランはアンドレアに支えてもらわないと、もうそこには立っていられないくらいで。
「全部、俺のものにしていい……?」
 尋ねたアンドレアの声は低く掠れていた。
 アンドレアの言っていることの真意を理解した上でサランは頷いた。
「うん……いいよ。全部アンドレアのものにしてほしい……ぅあ……っ」
 サランは言い終わる前にアンドレアに抱きかかえられた。
    
しおりを挟む
感想 428

あなたにおすすめの小説

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていた矢先、森の中で王都の魔法使いが襲われているのを見つけてしまう。 *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。