とろけてまざる

ゆなな

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2章

1話

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「真人くん、朝ごはんは美味しかった?そう、ちゃんと食べられてえらいね。お薬が今日から変わるけど量は同じだから頑張るんだよ?」

白いベッドの上で幾つかの管を繋がれ横たわる子供の様子を注意深く診察しながらも子供を怯えさせないように優しく話しかけるユキ。その姿を永瀬は四人部屋の病室の入り口でじっと眺めていた。
子供たちの表情からも如何に彼が信頼に篤いか見て取れる。
慈愛に満ちている聖母のようだと言ってもいいくらいのその様子は、昨夜永瀬の腕の中でシーツに染みを作るほど濡れて淫らな表情を見せていた彼と同一人物とは思えないほどであった。

ゆらゆらとねだるように腰を揺らしながら発情期の狂おしい熱に苛まれているユキは男を奥で締め付け、発情期の間だけ現れると言う子宮に精を受けるために搾り取るような動きをみせて、永瀬を夢中にさせた。
そんな自分をわずかに恥じらって目元を赤く染めながら形ばかりの抵抗を見せながらも最後は
『永瀬先生…ぇ……っあああっ……』
舌っ足らずに自分の名を呼んでいた。そんな細い躯を何度も永瀬は貫いて、その躯に何度も注ぎこんだ。あれからまだ半日も過ぎていない。

だが目の前できっちりとネクタイを締めて白衣を纏う彼からはそんな様子は微塵も伝わってこない。
彼の線の細い背中を眺めながらそんなことを考える永瀬自身がとても悪いことをしている気さえする。

子供の頭を優しく撫でてやり、次のちいさな患者と話すためにユキが振り返ると病室の入り口に凭れるようにして立っている永瀬を見つけた。

絡まった視線が一瞬だけ熱っぽくなったような気がして永瀬は満足した。
しかし次の瞬間にはユキは万人向けの無難な笑顔の仮面を被り
「すみません、永瀬先生。もういらして下さったんですね。あと一人だけ診察が残っておりまして……終わったら松浦高弥くんの病室にご案内できます。少しだけお待ちいただいてもよろしいですか?良ければ小児科の医局の方で座って待っていただいても……」

「いや、先程そのようにナースステーションでも勧められたが小児科病棟に来るのは珍しいものでね。後学のために診察を見学しても?」

「いいですけど……永瀬先生の後学になるほどのものではないと思うんですけどね」

最後の自嘲交じりのセリフは仕事モードではなく素の彼のようで永瀬はくちびるの笑みを満足気に深くすると「構わんよ」と言った。

ユキはくるりと永瀬に背を向けてベッドの回りにかかっていたカーテンを開けた。

「愛美ちゃんおはよう。気分はどうだい?」

「ん、ユキ先生……?ちょっと頭が痛い……」
幼い女の子の声がした。小学校の低学年くらいだろう。軽く少女の額に触れて、何か思案しているようであったがユキの口からは少女をリラックスさせるために殊更優しい声で昨夜のテレビアニメの感想など子供が好きそうな言葉を紡いでいた。少女と楽しそうにアニメの話を一通りしたあと
「愛美ちゃん、念のため点滴した方が良いと思うから今から準備するね」
とユキは言った。すると少女の顔が曇った。
「点滴はいや……どうしてもしなきゃだめ?」

「うーん、そうだな。頭痛も治まると思うんだけど、点滴怖い?」

ユキは少女と目線が合うように屈み込んで尋ねた。
「だって……前の点滴のとき、中々針が入らなくて何度もやり直ししてとても痛かったの……」
少女は力なく呟いた。

永瀬がやや遠くからつい、と少女の腕に目を遣ると確かにとても、細い腕で血管も細そうだ。さぞかしやりにくかっただろう。

「よし、じゃあ僕が今日は点滴の処置をしよう。絶対失敗しないし痛くもしないと約束するよ」

言い切ったユキにへぇ、というように永瀬は軽く眉を動かした。
(絶対に、と言い切ったな)

それからユキは後ろに控えていた看護師に点滴の準備をするように告げる。
準備が整うと、愛美の最近ハマっているという本について会話を止めることなく、すっ、と彼女の細い腕に針を差した。素早い手際、なんて言うものではなく正にあっという間のこと。

「はい、おしまい。どうだった?」

ずれないようにテープで固定しながら尋ねると

「すごい!全然痛くなかった!ありがとう、ユキ先生」

「どういたしまして。じゃ、今読んでるの終わったらまた感想聞かせてね」
ユキはにこやかに言ってから永瀬のもとにやってきた。永瀬は先程の笑顔はあっという間に消えてしまったのを何処かで寂しいと感じたような気がしながら

「お待たせしました、こちらへ。」

ユキに案内されるままに廊下に出た。

「うまいもんだな。とりわけ血管の細そうな子だった」

「外科医に言われてもからかわれているような気になるんですが……」

「からかってなんかないさ。見事で格好良かった。」
小児科は子供ながら痛みや苦痛に堪えている子が多い。少しでも痛みを感じることが少ないように陰ながら練習した成果を誉められたようでユキは少し嬉しくなった。永瀬とユキの関係は妖しいものになってしまったが、永瀬が尊敬できる医師であることには変わりなかった。

ユキの発情期が始まってからもうすぐ一週間。
発情抑制剤が効かなくなってしまったが番になるのを拒んだユキの発情を鎮めるには、アルファの精を受ける必要があった。

初めて躯を繋いだ翌日こそ永瀬を拒んで逃げたものの、永瀬の精を受けるより他に手段がないと諦めたのか今は仕事の後永瀬に誘われるまま彼の自宅のベッドの上で発情期の熱を鎮めてもらっていた。
あともう1日か2日は続くだろう。きっと今夜もユキは永瀬に抱かれる……

彼の隣を歩きながらそんなことを考えてしまい慌てて考えを打ち消すように頭をユキは振った。

永瀬が執刀する小児科に入院中の脳腫瘍の患者、松浦高弥の病室に着くとユキは彼を伴って病室に入った。
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