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jealousy

告白

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※修吾と奏が付き合い始めた日


「奏さん、あなたのことが好きなんです」
 下校時刻をとっくに過ぎた生徒会室。
 窓の外はもうとっぷりと暗かった。
 真面目で恋愛なんて全く興味がないと思っていた後輩がひどく思い詰めた顔で告白してきた。
 剣道で一年生ながらインターハイにも出場した後輩の修吾はそこそこ背が高いはずの奏よりも更に大きい。
 この男が道場で剣を振るう様は清廉で逞しく、初めて見たとき、時間も立場も忘れて魅入ってしまったことを思い出した。
 一目惚れだったのだろうか。
 その後、会長である光に
『次の生徒会候補に良さそうな人間の当てはあるか?』
と尋ねられて、奏は修吾を生徒会に勧誘した。あの落ち着いた様子は人を纏めるのに向いていると思った。
 共に仕事をするようになって、彼の頭の良さ、真面目さ、年齢不詳の落ち着きを持つくせにたまに年齢相応の可愛らしい一面も見せるところを好ましく思った。
 初めて見たときから惹かれていたのか、それとも共に居るようになって恋に落ちたのかわからない。わからないけれど、とにかく、修吾のことが奏はものすごく好きだった。
 だけど、男の奏に好意を持たれても困るだけだろうと、せめて彼が憧れるような先輩でありたいと、奏は想いを必死に押し殺してきたのだ。
 押し殺せば押し殺すほど想いは募って、 最近はもう好きすぎて苦しくてたまらなかった。修吾の回りだけキラキラ輝いて見えて眩しく感じるほどに恋をしていた。
 そんな人に告白されて、奏は心臓が止まるほどびっくりして、その場で目を見開いたまま固まった。
  返事をしなくてはと思うのに、喉がひたりと張り付いたように声が出ない。
「すみません。奏さん困らせるつもりじゃなかったんです。最近奏さん、何か優しい目で俺のこと見てくれてる気がしたから勘違いしてしまいました」
 固まった奏を見て、よい返事は聞けないと思ったのだろうか、悲しそうに美しい男が目を伏せたのを見て奏は慌てた。
「ち……違っ……俺、びっくりしすぎて……っ」
 いつも穏やかで落ち着いている奏の焦っている様子に修吾も驚いたようだった。
「俺なんかに告白されたらびっくりしますよね。 先輩として良くして下さったのを勘違いするなんてとんでもないですね」
 そう重ねた修吾に
「ち…… 違くて……!それも違くてっ……」
叫ぶように言った奏の目が燃えるように熱くなってぶわりと涙の膜が溢れんばかりに盛り上がったのを見て修吾も慌てる。
「か……奏さんっ?!」
 情けない。 年上なのに、気持ちを持て余して言葉に出来ないなんて。
「お……俺も修吾のことが……好きだから……っ」
 何とか言葉を絞り出すとみっともないほどに涙が溢れてボロボロと頬を濡らした。だって捨てなきゃいけない気持ちだと思っていたんだ。
 それが急に掬い上げられるなんて思ってもみなかったのだ。
「え……? えぇ……?! ほ…ほんとに……?」
 修吾は、ぱぁっと驚くほど綺麗に笑って見せたけれど
「す……すいませんっ」
 涙が止まらない奏に焦ってオロオロとしだした。いつも嫌味なくらい落ち着いているこの男が。
 ポケットの中からきっちりアイロンが掛けられたハンカチを取り出したものの、それを奏に渡すべきか修吾が拭いてやるべきか、どうしようか迷っている姿を見て、あぁ本当にこの子は自分のことが好きなのだと震えるほどの悦びが奏の全身を覆った。時折あちこちに感じた修吾の熱い視線や不意に触れる指先の甘さに勘違いするな、と言い聞かせながらその甘さを味わってしまう自分が憐れで情けなかったけれど、勘違いではなく、二人の間には確かに甘く熱い想いがあったのだ。
「……修吾が拭いて……」
 そう言うと、目の前の修吾の精悍な瞳が驚いたように大きく見開かれた。それから、はっきりとわかるくらい修吾の顔は赤くなった。
 愛おしさと幸せでどうにかなってしまいそうなことがあるなんて、知らなかった。
 奏がそう思って涙で濡れた瞳で笑ってみせた、次の瞬間。
「え……? んんっ……」
 奏の顔よりも大きいだろう掌に涙で濡れてしまった頬をすっぽり覆われて、厚くて熱い唇が、奏の唇に重なった。
 もう片方の手でぐっ、と腰を抱き寄せられた。
 厚みのある唇の感触、彼の熱、匂い。
 思わず縋り付くように修吾の制服のシャツをぎゅっと掴んだ。
 ぺろり、と唇を舐められて、腰が震えて思わず少し開いた唇の隙間から、唇より熱くて濡れた舌がぬるりと侵入してきた。
「んぁ……っ」
 熱い舌が、奏の咥内の感触を味わうように辿って、舌の付け根のひどく敏感な粘膜を舐められたとき、思わず合わせた唇から甘い声を漏らしてしまった。
 それから、じゅ、と音を立てて舌を甘く吸われて頭が真っ白になってしまった奏が参ったというように修吾の背を叩くと、はっと我に返ったように修吾は奏の咥内から舌を退けた。名残惜しそうに唇を何度か押し付けて、奏の唇の感触を堪能してから、修吾が唇を離した。その頃には奏は立っていられなくて、修吾に必死にしがみ付いていた。
 はぁ、はぁと奏が乱れた吐息を溢していると、涙の跡に何度も唇が落ちてきた。
「は……反則だぞっ……お前っ……」
 思わず奏はそう言って奏を睨んだ。
「すみません。キス、嫌でしたか?」
 焦ったように奏の目を覗き込む修吾はさっきまでのオロオロした年下の修吾で。
「そういうとこだよっ…… 真っ赤になって可愛かったと思ったらすげぇ上手なキスしてきて……そんでまた可愛いとこ見せるとか……っ」
 思わず奏が捲し立てると、修吾は何度か驚いたように瞬きをして。
 それから。
「キス、気持ち良かったですか?」
 うんと低くて腰にずん、とくるような声で言ってくるから。
「バカっ……」
 そう言って顔を伏せたけれど、きっと真っ赤になってしまった耳の端は隠せていなくて。
「あぁ、どうしよう。奏さん、すげぇ可愛い……幸せ感じちゃいます……」
 うっとりとした男の声が更に奏の中をめちゃくちゃに掻き乱した。
  そして、こんな奏さん一人で帰せるわけがない、と言い張る修吾に家の前まで送られて、別れ際に柔らかいキスを落とされた。


 そうして、俺達は秘密の恋人同士になったのだ。




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