機能しない現実

ダイナマイト山村

文字の大きさ
2 / 7

大介の秘密

しおりを挟む
 物語という作り物が世界を支配し始めている。



存在しないものを存在させて、世界を変えてゆく。



認識などという後付けの優位性を高めてゆく愚かな人間たち。



あるべく生の喜びや命の重量を軽んずる。



機能しない現実とはなんだ。



それならば、根源的な、実感的な再現性にこそ魂はともる。



肉体にこそ魂はともる。



我々は守り抜かなければならない。



言葉や概念を取り払った真実の姿を死守するのだ。



偶像崇拝を阻止しなければならない。



現実を我々の手に取り戻すのだ。



―ある男の手記より―



















 まただ。



9人目である。



被害者の傾向は必ずしも一致するわけではない。



「例の教団という噂。あながち…」



声をかけられて大介は首を振る。



「まずは、カウント自体を疑う必要がある。それぞれにつながりがあるのか。万が一あるとして、我々が知らない間にそんな大規模な組織が存在しているのか。本当にその規模の組織ならば、ここにいる誰かは間接的にでもすでに接触しているはずだ。」



そうだ。もしかすると。



大介は蓋をする。



「とりあえず回収しますか」



「そうだな。上への報告は私がまとめておく。回収がすんだら帰ってくれていい」



わかりましたと言って作業を始める部下を眺める。



9人…なのか。



被害者の背景など知らない。







 調べているから知っていること。



調べていないから知らないこと。



調べていても分からないこと。



調べていなくてもわかっていること。







 「知る必要などないのか」



大介は独り言ちる。



状況を把握することは大切だ。実態を解明することは必要だ。



動機を確認することは不可欠だ。



何かであることを意味付けしなければならない。



しかし。



把握するために把握すること。



理解するために理解すること。



それらに意味はあるだろうか。



捨象にこそ存在する現実がフィクションとしての現実を分かりづらくするという矛盾。



いや、矛盾ではないのか。







 大介は一人笑う。



不謹慎だとも思う。それでも。







 解明とは…



9人の死を突き止めるという行為を人為的に成し遂げるには、不可解な現実に着地するよりも真実ではないかもしれないが納得できる何かが必要になる。



その真実は、すでに現実ではないと大介は思う。







 それでも。



必要とされるのならば提示しないわけにはいかない。



提示する義務がある。提示する仕事である。





 「警察も楽じゃないな」



独り言が多くなった。38歳の夏。何か大きな事件が始まっている予感がする。



どうでもいいとも思う。私情は挟まない。仕事なのだから。



ただ、その大きな事件という舞台に自分がどうやって関わることになるのか。







 「大介さんが笑うなんて珍しいな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

処理中です...