機能しない現実

ダイナマイト山村

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帝王の帰還

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 感覚が認識を追い越した。



徹底が決定を上回った。



反射と意思を置き去りにして、たどり着いた感覚に高揚し嘔吐した。



肉体至上主義と精神至上主義、融和を目指すもの。



そのすべてを包含し、乖離し、逸脱して超越する。



アウフヘーベンというものがあるならばこういうものか。その認識すら不要であるが。



機能しない現実を憂えること。



もはや能動的に現実を機能させない快感に悦ぶ。



繰り返す営み。



人は神を生み出し殺す。



神は人を生み出し殺す。



その違いはあるのか。違いに必要はあるか。



全て



総て



すべて



さぁ時はきたのだ。



―ある男の手記より―















 「爆裂滑空脚ばくれつかっくうきゃくでヤツの動きを止める」



ショウが叫ぶ。と同時に攻める。



「集中しろ。大丈夫だ。お前ならやれる」



マリアが横でつぶやく。



力強く手を握り締めてくる。気丈さを持った表情と裏腹に。



微かに震えている。



ツァニゲフはマリアの手を強く握り返し叫ぶ。



「ツァニゲフ・ヴェイゲフ・シュトルザード」



まばゆい光に包まれた次の瞬間。







帝王の帰還。







 「我を呼び覚ますとは、貴様らも相当に追い詰められているのだな」



ツァニゲフであった者がぼろきれのようになったショウを一瞥し、不遜な態度でしゃべる。



「貴様が帝王か。存外…」唐突に口を開いた巨人との会話に興じない。



いとも簡単に巨人の腕を切り落とした。



体躯に比例し強大で悲痛な叫びを背に帝王はショウに話を続ける。



「貴様の顔面をつかみ意気揚々としていた不細工な木偶の棒が泣きわめいているぞ」



ぼろきれがショウになる。



「礼は言わん。早々に失せろ」



帝王が破顔する。



「竜操抜鈎柵りゅうそうばっこうさく」



力強い叫びは所在無げに響く。



「そんなものを後生大事にもっているとは」



帝王は明らかに悦んでいる。











 「いや、なんで瀕死のくせに技を叫ぶんだよ」



良一はついに口を開いた。



所謂ツッコミをしたのだ。映像作品に対して。







 モニターの電源を落とす。



一瞬の静寂を挟み、何かのモーターの音が不快を誘う。







真っ白い壁。







無機質な部屋。







生活感の無い牢獄。







空虚なエンタメ。







 良一はソファーから立ち上がると部屋を出る。



数十人いや、数百人にも及ぶ大人たちが(といっても生物学的にという意味だが)深々と頭を下げている。



「いや、大の大人がガキに頭下げるなよ」



良一はつぶやく。







だだっ広い空間。







意味の無いモニュメント。







存在感の無い人々。







報告。







 「なるほど本尊がね。向こうの覚醒はまだなんだよね」



良一は質問する。



予想通りの回答だ。



「混乱はするが。覚醒を促進するかもしれない。十中八九生命の実のほうだろう。危険もないだろう」



ため息をついて面倒だという顔をする。



「これ自体が想定通りなのか。ねぇ。君知っているかい。」



分かりかねるといった報告者を殺害する。



「武器は発明。弱者を強くすることもできるが、それ自体を知って、持って、使えるという条件がそろわなければいけない。強者の余興でしかない」



銃を無造作に捨てる。



「父さんに会うよ。準備をしてほしい」



一人減った集団が良一に従う。







 「退屈ということは退屈ということに他ならない」



いや、なんで意味ありげで意味の無い独り言いってるんだよと内心ツッコミをする。



「では退屈第一号と退屈の発明者はイコールだろうか」



いや、誰か返事しろよ。いや誰も返事できないよ。二重ツッコミ。



「認識と定義と確認はそれぞれ同時に起こりうるが、他社として認識する場合証明することは不可能だ」



大きな扉の前にたどり着き歩を止めた。







 「不確定性を排除し、効率を求めるならば快適な共有と確実な相互理解と進化が必要」



音もなくゆっくりと扉が開いてゆく。



「では生命が種と個を持つことの意味は」



付き添った2人を射殺しまた銃を捨てる。



「AIと人間の違いはなんだ。与えられた人格と持ち合わせた人格の違いは」



一人歩みを進める。



大仰な機械が立ち並んでいる。



大きなモーター音と微かに不快な呼吸音がする。



「違いと意味はどちらが優位だ」



「いや、だれとしゃべってるんだ」







 良一は目の前の老人に質問する。



「これは父さんの予定通りなのかい。あらゆる面において」



老人は目を開いて答える。



「私が死ぬことによって王の帰還は果たされる」



その目は狂気に満ちている。



「父さんは何がしたかったんだい。僕の頭の中にあるものがそれなのかい」



狂老人が答える。



「10手先が読めようと100手先が読めようと、その先が読めないという意味では全く同義。意味がない」



良一が返す。



「では結論を同じにすれば何手先かなんてことは無意味になる」



狂人は嬉しそうに返す。



「無意味が支配する世界に意味を持たせることは無意味なのだから」



良一は伏し目がちに言う。



「意味ではなく行為を愉しめ」



絶頂という表情で老人は自らの体につながった管を抜いた。



死んだ。



「父さんが死んだ」







帝王の帰還。







 「果たして竜操抜鈎柵りゅうそうばっこうさくが存在するのか」



良一は黒く決意した。
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