はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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3章 インターハイ予選へ向けて

015話 公式試合と、高校レベルと ②

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***

 偉い人の挨拶の後、手前側半分が女子、奥側が男子で一回戦が始まった。最初はトーナメント表の順番なので、近くのコートは一回戦の上から六試合目と七試合目の人だ。

 人数の関係から半分以上の人は二回戦からで、一回戦を戦う選手はほとんどが二回戦でシード選手の相手となるトーナメント表だ。そのため、 札幌四強などの強豪校は全員シードで、近くで見る六コート、七コートは両方普通の公立校の選手で、先輩や先生のチェックも何も入っていない。

 選手がコートに入ってきて試合前のラリーを始める。
 さすがに中学の地区予選レベルとはわけが違うが、それでも普段絵東先輩と稔里ちゃんの吸い付くような高速ラリーを見慣れていると何か物足りなく感じる。


 試合展開も、驚くようなサーブやドライブなどがあるわけでもなく、稔里ちゃんのボールを打ち返す美夏の球の方が威力はありそうな感じだった。
 あまり観戦の集中力も高めることができず、気付くと両コートとも試合が終わっていた。

「くどみか初めての公式戦観てどうだった?」
「うーん、中学のときのゆのの試合の方が相手も上手かったと思います」
「まああれは市大会だったし」

 たしかに中学の市大会で戦った人たちの方が上手かった気がする。もちろん市大会に出てたのは区予選を勝ち上がった人たちばかりだったけど。

「まあ、一回戦は高校から卓球始めた子とかもいるだろうし気楽に観戦してな」

 一回戦は総数が少なかったのですぐに二回戦が始まる。一番手前のコートは二回戦から同士のいわゆるノーシードだが、その奥は一回戦を勝った選手とシード選手が対戦する。
 トーナメントのシードは一般に、外シードと呼ばれる表の四隅に名前がある第一から第四シードが最も格上で、その次に左右それぞれの真ん中にいる内シードと呼ばれる第五から第八シードがいて、ここまでが上位八名として同じシード選手でも格上扱いとなる。
 今から試合をする山田さんという選手はそういうナンバリングシードではなかったが、所属する高校が私立北川高校、札幌四強の一つだった。

「あー、山田さんってアイラちゃんのことだったんだ」
「知り合いですか?」
「クラブが隣同士で小学校のときよく試合したよ。それにしてもホクセンで個人戦出るまで強くなったんだなぁ」

 個人戦のエントリーは一校最大八名らしいので、強豪校では校内で上位八名に入っているということになる。

「アイラちゃん、私と同じサウスポーで、バックハンドが上手だったけど、高校でどれくらい上手くなったのか楽しみだ」


 試合が始まる。
 初球。相手選手のサーブを山田さんは身体のバック側で待ち構えると、肘を高く固定して強烈なレシーブを打ち返す。

「チキータ!?」
「だね。中学のときは打ってた記憶ないから高校で身に付けたんだろうね」

 チキータとは、相手のショートボールに対し、台上でバックハンドにて横回転や上回転で打ち返す打法だ。
 台の上だと下から上へ振り抜けないので、その代わりに手首を円状にひねって威力を確保する、高難易度の打法である。
 稔里ちゃんはたまにレシーブで使っているのを見るが、絵東先輩も使っているのを見たことがない。もちろん私は打てない技術だ。

「サウスポーはバックハンドでいかに強打を打てるかなんだけど、アイラちゃん相手のフォアとで一度も打ち負けてない」

 たしかに右利きの相手がフォアハンドを全力で打ち込んでも、山田さんはバックハンドのスピードドライブでそれ以上のボールを打ち込んで決めていく。
 
「これが北川高校の特徴ですね。男子相手に練習しているので、強打が得意な選手が多いと聞いています」
「ゆのち、アイラちゃん中学のときどれくらいだったと思う?」
「え?」

 これだけ強くて北川高校のシングルスメンバーなら全道には行ってるとは思うけど。

「市の二回戦が最高。だから北川もスポーツ推薦じゃなくて一般で入ってるはず」
「そうなんですか?」

 二回戦と四回戦とじゃ誤差みたいなものだけど、目の前で強烈なドライブを次々決めている人が中学時代は私と同じくらいだったなんて。

「アリスはわかってると思うけど、ゆのちもあらためて。これが高校で三年間練習してきた選手の卓球だよ。私の球見てすごいとか思ってちゃダメ」


 先輩の言葉が図星で心に響く。

「三回戦以降はこういう選手ばっかり出てくるから、しっかりと観て、研究しようね」
「……はい!」
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