はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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3章 インターハイ予選へ向けて

015話 公式試合と、高校レベルと ③

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***

 その三回戦だったが、手前から三番目のコートにすごい選手が登場してきた。

「お、ミクミクだ」
「あのときのメガネの人!」

 美夏があんまりな覚え方をしているが、たしかに専門店で会ったマリ女の高町美紅さんだ。三つ編みだった髪は動きやすいようにお団子にまとめているが、丸いメガネがトレードマークになっている。
 トーナメント表でも高町さんは第十シード、かなり上位のナンバリングシードだ。二年生という話だったから二年生では最上位かもしれない。

「高町さんってどんなスタイルなんですか?」
「んー、私よりアリスの方が詳しいでしょ」
「ミクさんは、すごい異質」
「異質って、ラバーが?」

 表ソフトやツブ高などのラバーを使っているのだろうか。

「ラバーもだし、プレーも。見てて、始まるよ」

 稔里ちゃんの言葉に、コートを見る。高町さんのレシーブで試合が始まるようだった。
 相手のサーブに対し、まるで回転を気にしないようなツッツキともプッシュともとれるような打ち方でレシーブする。相手は三球目をドライブで攻撃にいくが、ボールはコートをオーバーしてしまう。

「ナックル?」
「そう、ミクさんの攻撃の組み立てはナックル。バック側にアンチラバーを貼ってる」

 アンチラバーとは、裏ソフトと同じく表面は一枚の面になっているのに、回転が全然かからないラバーだ。そこから繰り出すナックルは無回転で揺れるので打ち返すのが難しい。
 ただ、アンチラバーを使用する人はカットマン以上にほとんど見かけない。なぜなら、回転がかからないしスマッシュでもスピードが出ないため、自分から攻撃することができないからだ。

「ナックルでミスを誘うだけじゃ攻撃手段が……」

 そこまで言って、ついこの前自分が直面した問題と同じことに気がつく。

「うん、だからミクさんの組み立ては、柚乃さんの参考になると思うよ」


 高町さんは、相手のフォア側へ連続してナックルのブロックショットを打つ。相手が少しずつフォア側へ右足を踏み込んでいったところで、バック側へのカウンターを決める。そうかと思うと、次は二球目のレシーブから相手がフォアに回り込むかどうか迷うコースへプッシュボールを打ちミスを誘う。

 ナックルのブロックとプッシュだけでコースの切り替えしで相手のミスを誘っていくのは、まさに私がこれからインターハイ予選までに練習しようとしているプレースタイルだった。
 だけど私には疑問点があった。

「でもナックルだけで第十シードになるくらい強くなれるの?」
「そろそろだから、見てて」

 稔里ちゃんの言葉に試合を見ると、相手も大分ナックルに慣れてきて、切り替えしにも対応するようになってきた。難しいコースはとりあえずボールを置きに行っている。
 その時、高町さんが甘く置きにきたボールを打ち抜いた。振り抜くというよりも叩くといった方がわかりやすいかもしれない。

「ミクさんのフォアは表ソフト。フォアもバックもほとんど振りかぶらずにスマッシュを打ってくるから相手は急なスピードボールにほとんど反応できない」

 たしかに、ナックルだと思っていたら急にスマッシュを打たれるのは精神的にもこたえる気がする。

「あれ、でもさっきまではフォアもナックルだったよね?」
「うん、ラケット回転させて両面アンチで打ってた。ミクさんがすごいのは、ラケットの回転が素早いところ」

 見ると、先程までのラリーから、バックハンドでも急に高速のカウンターが出てくるようになった。表ソフトに持ち替えているのだろう。
 つまり、コースと切り返しだけで得点していたのは序盤モードで、ナックルと速攻を変幻自在に織り交ぜるのが本来の姿のようだ。


 ラリーは続くが肝心の得点は高町さん、という状態で二ゲーム目以降はほとんど相手に得点を許さない高町さんの完勝だった。

「どうアリス、ミクミクに勝てそう?」
「私元々ミクさんは苦手です。ただ、得点のイメージはできました。観に来てよかったです」

(すごい、この二人は実際に自分が相手になるイメージができているんだ)

 プレースタイルにこだわりを持つ以上、そのスタイルで勝つ方法を考えながら試合を観なきゃいけない。
 そんな当たり前のことを思い出させてくれるチームメイトに、私は感謝した。
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