はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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5章 激闘、二回戦!

031話 愚直さと、ダブルスと ②

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** ***

「妙高、お前の武器はその何でも打つことができる技術力、そして何よりその愚直さだ」
「愚直さ、ですか」

 武器なのだから誉め言葉だろうが、第一印象は女子高生が言われて嬉しい言葉ではない。

「これと決めた練習はひたすらやり続ける。試合でもこれと決めた打ち合いは絶対に引かずに打ち続ける。これを実行できる人間は実は少ないんだ。その愚直さは大切にしていけ」


** ***

 アリスちゃんは今まで通りのバックハンドのスピードドライブの打ち合いを嫌い、こちらも今日初めての、ラリーの途中でボールを擦り上げ、ふわりと浮かしたループドライブを打ってくる。私は最大限集中し、相手のバック側へしっかりとボールを抑え込みブロックする。
 そのままバック同士のスマッシュとカウンターの高速ラリーになるが、私は相手のバック側サイド深くへの返球をひたすら続けた。最後、アリスちゃんの腕が伸びきってスマッシュではなくブロック気味のボールになったところを狙いすましてフォアハンドの逆クロスドライブで打ち抜く。

 倒れ込むような姿勢での逆クロスで決めたため、そのまま倒れ込んで天井を見ながらガッツポーズをする。11-9。ゲームカウント3-1。相手チームで最大の脅威だった有栖川稔里に打ち勝った。

 ただ、エースは余韻に浸ってはいられない。高校ではエースはシングルスの後、必ずダブルスを戦うのだから。


***

SIDE:YUKI

「アリス惜しかった!」

 試合に負けて無言で帰ってくるアリスを迎える。
 この子は負けて落ち込むような性格じゃない。悔しくて無言になるのだ。

 ほぼ同時に隣のくどみかちゃんの試合も終わっていた。あちらはなんとフルセットまで持ち込むという大健闘だったが、惜しくも負けていた。
 三ゲーム先取の団体戦で二連敗。絶体絶命。
 だけど私はこの状況にワクワクしていた。


「ゆのち」

 第五試合、大将戦にエントリーしている鈴原柚乃ちゃんに呼びかける。

「はい」
「ダブルスと私のシングルスは絶対取るから。大将戦で勝負。しっかりと準備しな」
「……はい!」

 そして隣の相棒に話し掛ける。

「アリス、ダブルスいけるね? 最初から全開でいくよ」
「はいっ!」

 顔を上げたアリスに先ほどまでの勝負を引きずっている様子は一切ない。
 それでこそ私のパートナーだ。

「アリスとの試合で静香は大体把握したから。極李は春季見てイメージできてる。様子見無し。私の動き見て付いてこい」
「わかりました」

 具体的な作戦を言語化せず『私の動き見て付いてこい』なんて言って理解できるのは世界でもアリスだけ。
 
 ダブルスは、絶対に勝つ。


***

SIDE:YUNO

 ダブルスなので、両チーム共、卓球台へ向かう前に二人で作戦を話している。
 その時間に、前原先生が私に近付いてきた。

「鈴原さん」
「はい、先生?」
「今から、カットマンが金星を挙げるための戦術を話します。藤堂香直伝です」

 ドキッとした私は先生の方を見る。真剣な表情だ。メダリスト直伝の戦術。私はごくりと息を飲むと、先生に向かって頷く。

「それをふまえて、シングルスの相手となる村川選手を見てください」
「わかりました」


***

 私が先生から作戦を聞き終えるのとほぼ同時に、両チームのダブルスが卓球台へ向かって行く。

「工藤さん、応援お願いします。鈴原さんは試合の準備があるので」
「わかりましたっ!」

 試合を終えた美夏はタオルを首から掛けたまま、私と一緒にコートの一番後ろ、ベンチ部分にいる。動き足りなかったとばかりに両足を交互にぴょんぴょんと跳ね続けている。


 第三試合。ダブルス。
 こちらのサーブで試合開始。サーブは稔里ちゃん。レシーブは妙高さん。卓球は交互に打たないといけないルールなので三球目は絵東先輩、四球目が村川さんになる。

 稔里ちゃんのサーブに対し、妙高さんはフリックでバック側に短く払ってくる。次に打つサウスポーの先輩にとっては一番遠い位置だ。だけど先輩は躊躇なくフットワークで踏み込むと、サウスポーのクロス、相手のバック側へ強打を放つ。四球目の村川さんは負けじと上半身を倒しながらパワードライブで打ち返してくる。先輩の言っていた通り、攻撃一辺倒のスタイルというのは本当らしい。
 強打の応酬となったが稔里ちゃんは冷静に五球目を高速カウンターで村川さんがいる方向へ打ち返す。相手は打ち終わりの村川さんと六球目を打とうとした妙高さんが『重なった』状態となり、幸先よくこちらが一点を先制する。

「ヨシッ!」

 その場で左拳を握り締めガッツポーズをする稔里ちゃん。絵東先輩は三球目であれだけ踏み込んでいたはずなのにすでに定位置に戻っている。何も言わずに利き手と逆の右手を出すと、稔里ちゃんの左手とタッチする。その時に目と目を合わせて何やら意思を伝えている。

 二球目、短いサインを出すと、ロングサーブを出す。私の位置からは手元が見えなかったがYGサーブだろうか。妙高さんはクロスにカウンター気味のスピードドライブを返してくるが、先輩は待ち構えていたかのように必殺の逆クロスドライブを放つ。
 四球目の村川さんも逆クロスドライブに反応してドライブで打ち返そうとするが、右利きの正クロスとは逆の横回転がかかっている球に打点がずれてボールは遥か上へ飛んでいく。俗にホームランと呼ばれる、打点がずれた状態で強打を打ったときになる現象だ。

 マリ女の正ダブルスを相手に、一歩も引かないどころか明らかに優れたコンビネーションを見せる稔里ちゃんと絵東先輩。


「すぐに終わるわ。よく観察して、そして準備を」
「はい」

 そっと小声で語りかけてきた先生の声に、私はしっかりと頷いた。
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