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5章 激闘、二回戦!
031話 愚直さと、ダブルスと ①
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SIDE:SHIZUKA
第四ゲーム、カウント9-7。
あと二点取れば自分の勝利、などと思うと次の一点は取れない。この一点に最大限集中する。
ここで今日初めてバックハンドからのサーブを打つ。人間の肘や手首の構造上、サーブは絶対にフォアハンド、利き手側で打った方が回転を掛けやすい。なので、利き手の逆側であるバックハンドからサーブを打つのは、そのまま三球目でカットの体勢に入りやすいカットマンくらいだ。つまり、普通の戦型の選手にとってあまり恩恵がないサーブだ。
こちらの狙いはただ一つ、バックハンドからのサーブだとレシーブでロビングを上げることはできない。さきほどと同じようにツッツキの打ち合いに持って行くことだ。狙い通り向こうは二球目をツッツキでレシーブしてくる。そのままツッツキの打ち合いに持ち込もうとするが、向こうは四球目を強引にチキータで打ち込んできた。もちろん強引に打ち込んでくるのは想定済みなのでカウンターブロックで待ち構えるが、ボールはエッジに当たりそのまま落ちてしまう。
アリスちゃんが左手を挙げて謝る。ただ下を向いて何かをつぶやき集中力は切らしていない。
一点差に詰められたところで、こちらはとっておきのサーブを使う。高めのトスから、大きく腕を振りかぶってのバック側へのロングサーブ、と見せかけたショートサーブ。フォア側のショートサーブを得意技とする自分にとって、相手はコンビネーションとしてその対角、バック側のロングサーブと組み合わせてくると普通考える。その裏を突いてバック側へのショートサーブを放つ。狙い通り反応が遅れたアリスちゃんはそれでもチキータで返してくるが、私はこのセット初めてとなるバックハンドドライブのストレートでフォア側に打ち抜く。今までの徹底したバック攻めでバックハンドに来ると身構えていたアリスちゃんの裏を完全に突き、大きな大きな一点を手にする。
10-8、ゲームポイントにしてマッチポイント。ただし有利なサーブ権は向こうが二本。
絶対に何か隠し持っている初見のサーブを使ってくる。そう予想していたが、特に今までと変化は付けずに平凡な下回転サーブを打ってくる。
これまで通りバックハンドドライブの打ち合いに持ち込もうとチキータで相手のバック側へ返し、バックハンドドライブを打たせようとする。
しかし、相手はこの展開を狙っていた。三球目をこれまでより腕をしならせたパワードライブの形で、一番打ち難いコースへと打ち込んでくる。それまでスピードドライブの打ち合いばかりやっていた私の目はパワードライブの回転に追い付かず、本来のスピードドライブが来るはずのコースに空振りしてしまう。
「ヨォーッシ!!」
私が苦手なバックハンドドライブの打ち合いに持ち込むと予想して、あえてドライブの種類を変えて打ち勝ってきた。なんて勝負カンと集中力。これでついに10-9の一点差。
でも、こっちはこれ以上の修羅場を幾度もくぐってきた。やることは変わらない。
アリスちゃんのサーブ。ここで初見となるYGサーブを出して来た。YGサーブとはフォアハンドで普通は上から下へ手首を返すのを逆に下から上へ手首をひねり、通常とは逆の横回転をかけるサーブだ。YGサーブの脅威は、同じようなフォームで横上回転も横下回転も打てるところである。当然サーブの難易度はかなり高い。
さきほどのパワードライブ。そしてYGサーブ。普通なら動揺してレシーブをミスする、もしくは甘くなるだろう。しかし私は冷静に打つ瞬間の回転を見ていた。あれは横上回転。下回転だと思ってチキータで打つとオーバーしてしまう球。
しっかりとカウンターブロックで相手のバック側へ返す。向こうがバックハンドドライブで返球せざるをえないコースとスピード。
そのままバックハンドドライブの打ち合いに持ち込む。このセット幾度となく持ち込んでいった展開。
昔コーチに言われた言葉が脳内に蘇る。といっても身体は卓球をしたまま。不思議な感覚。
** ***
「妙高、お前の武器はその何でも打つことができる技術力、そして何よりその愚直さだ」
第四ゲーム、カウント9-7。
あと二点取れば自分の勝利、などと思うと次の一点は取れない。この一点に最大限集中する。
ここで今日初めてバックハンドからのサーブを打つ。人間の肘や手首の構造上、サーブは絶対にフォアハンド、利き手側で打った方が回転を掛けやすい。なので、利き手の逆側であるバックハンドからサーブを打つのは、そのまま三球目でカットの体勢に入りやすいカットマンくらいだ。つまり、普通の戦型の選手にとってあまり恩恵がないサーブだ。
こちらの狙いはただ一つ、バックハンドからのサーブだとレシーブでロビングを上げることはできない。さきほどと同じようにツッツキの打ち合いに持って行くことだ。狙い通り向こうは二球目をツッツキでレシーブしてくる。そのままツッツキの打ち合いに持ち込もうとするが、向こうは四球目を強引にチキータで打ち込んできた。もちろん強引に打ち込んでくるのは想定済みなのでカウンターブロックで待ち構えるが、ボールはエッジに当たりそのまま落ちてしまう。
アリスちゃんが左手を挙げて謝る。ただ下を向いて何かをつぶやき集中力は切らしていない。
一点差に詰められたところで、こちらはとっておきのサーブを使う。高めのトスから、大きく腕を振りかぶってのバック側へのロングサーブ、と見せかけたショートサーブ。フォア側のショートサーブを得意技とする自分にとって、相手はコンビネーションとしてその対角、バック側のロングサーブと組み合わせてくると普通考える。その裏を突いてバック側へのショートサーブを放つ。狙い通り反応が遅れたアリスちゃんはそれでもチキータで返してくるが、私はこのセット初めてとなるバックハンドドライブのストレートでフォア側に打ち抜く。今までの徹底したバック攻めでバックハンドに来ると身構えていたアリスちゃんの裏を完全に突き、大きな大きな一点を手にする。
10-8、ゲームポイントにしてマッチポイント。ただし有利なサーブ権は向こうが二本。
絶対に何か隠し持っている初見のサーブを使ってくる。そう予想していたが、特に今までと変化は付けずに平凡な下回転サーブを打ってくる。
これまで通りバックハンドドライブの打ち合いに持ち込もうとチキータで相手のバック側へ返し、バックハンドドライブを打たせようとする。
しかし、相手はこの展開を狙っていた。三球目をこれまでより腕をしならせたパワードライブの形で、一番打ち難いコースへと打ち込んでくる。それまでスピードドライブの打ち合いばかりやっていた私の目はパワードライブの回転に追い付かず、本来のスピードドライブが来るはずのコースに空振りしてしまう。
「ヨォーッシ!!」
私が苦手なバックハンドドライブの打ち合いに持ち込むと予想して、あえてドライブの種類を変えて打ち勝ってきた。なんて勝負カンと集中力。これでついに10-9の一点差。
でも、こっちはこれ以上の修羅場を幾度もくぐってきた。やることは変わらない。
アリスちゃんのサーブ。ここで初見となるYGサーブを出して来た。YGサーブとはフォアハンドで普通は上から下へ手首を返すのを逆に下から上へ手首をひねり、通常とは逆の横回転をかけるサーブだ。YGサーブの脅威は、同じようなフォームで横上回転も横下回転も打てるところである。当然サーブの難易度はかなり高い。
さきほどのパワードライブ。そしてYGサーブ。普通なら動揺してレシーブをミスする、もしくは甘くなるだろう。しかし私は冷静に打つ瞬間の回転を見ていた。あれは横上回転。下回転だと思ってチキータで打つとオーバーしてしまう球。
しっかりとカウンターブロックで相手のバック側へ返す。向こうがバックハンドドライブで返球せざるをえないコースとスピード。
そのままバックハンドドライブの打ち合いに持ち込む。このセット幾度となく持ち込んでいった展開。
昔コーチに言われた言葉が脳内に蘇る。といっても身体は卓球をしたまま。不思議な感覚。
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