はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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7章 全道大会へ向けて

044話 集中と、再覚醒と ②

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 もう一本の藤堂さんのサーブはフォアからバックに逃げていく横回転と思いきや、そのまま曲がらずにフォアに伸びてくるサーブ。バックのツッツキでレシーブの体勢に入っていたため、あわてて身体を入れ替えてフォアでカットをするがタイミングが遅れてレシーブはコートオーバーしてしまう。


 結局最後はカットドライブのラリーを押し切られて4-11で第二ゲームも取られる。
 だけど、高校女子レベルではない、本物のトップレベルのボールをカットで拾える、自分の卓球脳で考えられる以上のフェイントをかけてこられる嬉しさ。私はタオルで汗を拭くのもそこそこに、すぐに続きがやりたくてコートチェンジをしてその場でトントンと軽く跳ぶ。


 第三ゲーム、こちらがギアを上げる以上に藤堂さんの方が出力を上げてきた。
 第二ゲームでこちらが予測していたコースとスピード、それが更に速くなってくる。ほんの気持ち程度だがスイングのテイクバックとフォロースルーが大きくなっている。あんなパッと見じゃわからない変化で、打ち出すボールにこんな差を付けられるのか。

 だけど、今の私はそのギアの変化についていけた。全ての神経が藤堂さんと卓球をする、藤堂さんのボールを返すことに集中している状態。
 強打で打ち抜かれるボールも自分で信じられないほどの反応速度で後ろに下がりしっかりとカットで返球する。
 
 自分のスマッシュの下手さのせいで三球目攻撃を失敗してしまったが、サーブのフェイントで崩して二球目のレシーブをチャンスボールにすることも三回ほどできた。サーブは稔里ちゃんやこの前の村川さんにも通用したように自信はあったが、実際に藤堂さん相手でも崩すことができたのはより大きな自信となる。

 何より、第三ゲームはとにかくラリーが楽しかった。
 
 常にこちらの予測よりも速く厳しいコースへ飛んでくるボールに対し、少しずつ反応できていく自分が楽しかったし、フェイントを含めたラリーの流れが、自分では思いも付かない組み立てで、一球ごとに勉強をさせてもらった。
 ほとんど得点はエッジボールだったが、一点だけ渾身のカットが決まって藤堂さんのドライブがネットを越えずに得点した時は思わずガッツポーズが出た。


 最後はこちらのカットがネットインしたところを藤堂さんが咄嗟に伸ばした腕でちょこんとストップボールでネット際に落とされゲームセット。

 2-11、4-11、4-11の0-3での負け。
 ただ、正直試合前は一点も取れない可能性も考えていたし、何より今回は最初から最後までしっかりと自分の卓球ができたことが嬉しかった。

「ありがとうございました!」


 礼をして、試合後の握手をしてもらう。

「直美の言っていた通り、試合していてこんな楽しい子がいるんだってびっくりしちゃった。ありがとう」
「そんな、こちらこそありがとうございます!」

 前原先生から藤堂さんに、私のことはどういう風に伝わっていたんだろう。

「両面裏であれだけカット拾えるのは凄いね。自信を持っていいよ。あとはせっかくサーブ上手いから三球目はしっかり練習した方がいいかな」
「はい!」
「具体的なアドバイスは四人全員と試合が終わってからね」

 世界のメダリストの人から直接アドバイスを受ける。一言一句聞き流さないようにしないと。と思っていたが具体的なものは全員試合後に再度行ってもらえるらしい。


「よし。じゃ次の人は?」
「お願いします」

 試合を終わった人が審判をすることに決めていたので、美夏から得点ボードを受け取る。
 次の藤堂さんの試合相手は、稔里ちゃん。
 うちのエースが、どこまで藤堂さんに通用するのか。
 私は、試合中の昂った気持ちのまま、審判の位置についた。 
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