ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

文字の大きさ
25 / 38
第3章 ファーストライブ!

練習は裏切らない

しおりを挟む
「れいちゃんっ!?」

 その場にしゃがみ込んで泣き出す玲に驚く佑香。玲は、最初すすり泣くような感じから、やがて涙が止まらなくなる。まだ暗いステージ上で、玲の泣く声だけが響く。それからどれくらいの時間が経ったのか、泣きながら玲が独白を始める。


「私、ダメなの……。子供の頃から本番では緊張して何もできなくなって」

 口調もいつものぶっきらぼうなクールさは無く、素の玲に戻っている。本人は口調が素に戻っていることに気付く余裕も無く話し続ける。

「合唱部でもソロに決まってたのに、当日、緊張で声が出なくて急遽ソロから降ろされたり。きっと今日も歌えなくなって、それで佑香ちゃんと美空ちゃんに迷惑かけちゃう……!」

 素の口調に戻って涙ながらに激白する玲。普段の玲とのあまりの変わりように、佑香も紗夜香も声を掛けられない。

 
 その時、美空がつかつかと玲の目の前に歩いていくと、自分もしゃがんで玲と同じ目線の高さになる。顔を上げて美空の方を向いた玲に対し、美空が語りかける。

「玲ちゃん。本番を前にして不安にならない人なんていないよ。私だってそう」
「美空、ちゃん……」

 美空の視線は上からでも下でもない、ただひたすらに真っ直ぐ同じ高さで、玲はその視線に吸い込まれるように美空の言葉を聞く。

「でもね、そういう時は今までの練習を思い出すの。自分はあれだけ練習をしたんだ。だから大丈夫、って。実際ね、練習は結果を絶対に裏切らないんだ。今回は練習やりきったぞ、っていう時は必ず試合でも良い結果が出たから」
「練習は、裏切らない……」 

 つぶやく玲に対し、美空が頷く。美空の口調は、無理に玲を励まそうとしたりはしない、淡々と事実を述べるものだった。だが、それが逆に玲には頼もしかった。

「うん、だから、今回私達で一番練習したのは玲ちゃんでしょ? 家に帰ってからも毎日ランニングしたんだし。目に見えて練習の効果が出ていたじゃない。だから大丈夫。玲ちゃんのこの一ヶ月ちょっとの練習は、今日必ず結果になるから」
「美空ちゃん……」
「さ、いつもの玲ちゃんに戻って。いつもみたいに美空、でいいから」

 そこまで言ってようやく笑いかける美空。その美空の笑顔を見た玲が、堪えきれないといった感じに目を細める。そして、メイクが崩れるのもお構いなしに目をごしごしと拭くと、美空の方を向き直る。その目には、力強い光が灯っていた。

「うん、美空。アタシ、頑張る……!」

 その様子を見ていた佑香も、玲に話し掛ける。

「ね、れいちゃん。合唱は評価に来るお客さんだけど、今日はみんなわたしたちの歌を楽しみに来てくれるお客さんだよ! わたしたちも笑顔でいこうよ」
「うん、そうだね佑香。……笑顔で、いこう!」


 そこから三人は急いで衣装に着替えると本番用のメイクをした。佑香と美空のメイクは紗夜香が手伝ったが、玲はポイントだけ紗夜香に聞いて、素早く自分でメイクを行った。

 リハではマイクの音量チェックなど初体験のことだらけだったが、佑香が率先してスタッフとコミニュケーションを取った。

「アニメでこういうのやってたからっ」

 佑香はステージ上の木目から、立ち位置の確認に使う目印なども作ると美空と玲に教えた。玲は、そんな佑香を頼もしく見ていた。

「(今日はアタシだけじゃない、佑香も美空も一緒なんだ)」

 そのことで自信が戻った玲は、リハーサルでも思い切り声を出して歌うことができた。玲の声が大きくよく通る声のため、マイクがハウリングを起こしてしまう。玲が一瞬青ざめるが、音響室からすかさずフォローが入った。

『れいれい、本番ではれいれいのマイク音量をちゃんと絞ってやるさかい、本番はハウリング心配しないでおもいっきり歌ってな!』
「わかった!」

 亜紀の声に、ステージ上の三人だけじゃない、亜紀も一緒なんだと更に心強さが増す玲。


 リハーサルが終わって、控え室に戻ってくる三人。その頃には控え室には他のアイドルグループ達もいて、三人と入れ替わりで次のグループがリハーサルに向かって行った。

「お疲れ様、みんな。リハーサル堂々としていたわ。初めてとは思えないくらい」

 控え室で紗夜香が出迎える。

「佑香が、引っ張っていってくれたから」
「うん、助かったよ佑香ちゃん。さすがセンター」
「もう二人ともやめてってば~」

 その様子を見ていた紗夜香が、玲に声を掛ける・

「玲ちゃん、もう大丈夫ね」
「はい。アタシは一人じゃない。みんなが一緒だから」

 その玲の言葉に頷く紗夜香。

「MCの方はリハできてないけど大丈夫?」
「はい、とりあえず自己紹介はできると思うので。あとはアドリブでっ」
「佑香、こういうところの度胸が凄いよね」
「MCはその場のノリでアドリブやった方が楽しいからっ。ライブ動画見ていて思うもん」

          ★

 やがて、公演開始三十分前になり、実行委員長の大学生が控え室で開始の挨拶をする。

「それでは皆さん今日は宜しくお願いいたします」
「「よろしくお願いします!」」

 他のアイドル達はライブ慣れしているようで、挨拶が終わると再び喋り始めたり、イヤホンを付けて曲の復習を行ったりしている。そんな中、トップバッターのスノーフェアリーズはもうすぐ出番というところまで時間が迫ってきていた。

「ねえみそらちゃん、れいちゃんっ」

 佑香が声を出す。

「もうすぐ本番だし、円陣組もう!」
「円陣?」
「うん、みんなで手を重ねて、ファイト、オーってやつ! 部活でもやるでしょ?」
「私は個人競技だったから」
「それは、体育会系だけだと思う。それに」

 玲が控え室を見回す。

「他の人達もいるのに大声出したら迷惑じゃないかな」
「それは大丈夫よ。他の皆さんも出演前の円陣はやると思うから、ただ」

 答えた紗夜香が佑香の方を見る。

「佑香ちゃん、円陣は舞台袖に出てからね。ライマスでもそうだったでしょ?」
「あっ、そうでした!」

 そこに、スタッフから声が掛かる。

「一番目、スノーフェアリーズさん、舞台袖まで準備をお願いします!」
「はいっ!」

 呼ばれて出て行こうとする三人に紗夜香が声を掛ける。

「さあ、初ステージ。思いっきり楽しんできて!」
「「「はい!」」」


 舞台袖に出て行く三人。ステージには幕が下りていて、客席の様子はわからない。やはり緊張し始める玲に対し、佑香が大丈夫という目線を配って頷く。

「よしっ、じゃ円陣組もうっ!」

 そう言って手を真っ直ぐ前に出す佑香。

「みんなで手を合わせて、ファイト、オーで手を上げよう」
「うん」
「わかった」

 美空と玲も佑香に手を合わせる。佑香が声を上げる。

「スノーフェアリーズ、ファイッ」
「「「オー!!」」」


『それではまもなく公演が開始いたします』

 掛け声と共に、公演開始のアナウンスが場内に響いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

処理中です...