【完結】自己満足が世界を変える時、僕は……。

よーじろー

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六章

窮地に立たされた時、僕は……

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「何度言えば分かるんですか! もう私に関わらないでください!」
「その気持ちは分かるよ。でも、私は」
「嘘言わないで! あなたには絶対分からない! 私が酷い目に遭っているのを知っていながら、見て見ぬ振りをしていたあなたには、絶対に、私の気持ちなんて、分かるはずがない!」
 
 純が涙を溜めながら、ここが夜の公園であるということも忘れて叫ぶ。

「…………」
 
 光が後悔に顔を歪ませ目を閉じるが、それも一瞬で開けた目に迷いはない。

「確かに前は何もしなかった。でも、それが間違いだったと気づいた今、純を放っておくことなんてできない。男に振り回され、身体も心もぼろぼろになっている純を無視するなんて、私にはとてもできない」
「……どうして、どうして。今まで、何もしてくれなかったくせに。今更、どうして……」
 
 その言葉が鍵となり、今まで堪えていた純の目から涙が流れる。一粒、二粒と落ちる涙は頬から顎先を伝い、地面に落ちる。

「……助けてほしいなんてことはどうでもよかった。ただ……ずっと好きだった姉さんには、姉さんだけは私の味方でいてほしかった。ただそれだけだったのに」
 
 心の底から声を振り絞る。
 初めて聞いた純の本音が突き刺さり、心臓が悲鳴を上げる。あの頃も似たような痛みを感じていた。しかし、それは光が感じなくてはいけない痛みであり、そこから逃げてはいけないものだったのだ。

「ずっと後悔してた。あの時、ちゃんと純を見て守ってあげれたら、純があんな思いをせずに済んだのに、って」
 
 光の口は気持ちに押されていつもより流暢に動く。

「だから、今、純の力になりたい! 純を縛る鳥籠を壊したい!」
「……どうして、今更」
「決まってるじゃない。いつになっても、私は純の姉なんだから」
「……ねえ、さん……」
「うん。姉さんだ」
「……ねえさん、ねえさん、ねえさん!」
 
 今までの空白を埋めるかのように、純と光が抱き合う。涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、それを拭おうとはせず、強く強く抱き合う。



「……はい。オーケー。特に言うことはないわ。本番もその調子でお願いね」
 
 演出や演技指導などを一手に行う月島先生が、光役の茉莉と純役の僕に声をかける。
 組対抗演劇大会を翌日に控えた今日。
 紆余曲折ありながら何とか形にすることができた劇も最終調整に入っている。
 最初は女装をして演技をすることに抵抗を感じていたが、住めば都とはよく言ったもので、何回かこなしていくうちに何とも思わなくなっていた。むしろ自分ではない誰かになれている瞬間にどこか気持ち良ささえ感じていた。僕はもう引き返せないところまで来てしまったのだろうか。
 原作では母の自殺後、光と純が会うことはなかったが、そこはより盛り上がるようにと先生がラストをアレンジした。一介の教師にここまでできるのか、というほど本格的な出来栄えに驚きを覚えつつ、しっかりやらなくてはという使命感が僕を襲い、今にも潰されそうである。
 今日の授業は全て明日の演劇の練習に当てられているため、各々が大丈夫だと思えば、学校に来なくてもいい。しかし、実際それをする組はなく、どの組もこうして遅くまで残って最終確認をしているのである。

「はーい。ちゅーもーく」

 手を二、三度叩きながら体育館を震わせる声に、作業していた生徒たちが一旦手を止め注目する。

「今日はこれで終わりにするわ。今日は真っ直ぐ帰って早めに寝ること。いいわね?」

 最後まで揃うことのないばらばらな返事をし、思い思いに散っていく。
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