【完結】自己満足が世界を変える時、僕は……。

よーじろー

文字の大きさ
55 / 73
六章

窮地に立たされた時、僕は……~Part4~

しおりを挟む
 気づけば着替えることも風呂に入ることもせず、そのまま眠っていた。夢を見ることはなかったが、どこか暖かいものを感じたことは確かだった。
 翌朝、五時に目を覚まし散歩に出かけた。曇り空の土手道には犬の散歩をしている人がちらほらといるだけで閑散としていた。子供の頃から大切な日の前夜は興奮して眠れないことが多く、そういう時はよくこうして外を歩いていたのだが、今日は違う。勿論、不安がないと言えば嘘になるが、それよりも茉莉と一緒に何かをできる喜びの方が大きかった。
 日が出ている時に歩けば街中を歩くだけでは感じることのできない優しい温かさを感じることができるのだが、曇っているとその分、こちらの方が幾分肌寒い。
 遠くからこちらにやってくる車の音に誘われ車道に目を向けると、何台もの黒塗りの高級車が通り過ぎた。残念ながら〝自動車〟というものの知識が乏しいため、その車種が何なのかまでは分からなかったが、高級車であることは分かるくらいの威厳を放っていた。そんな異様な光景を目にしながらゆっくり歩く。毎日目にしているような光景が、今日は妙に清々しく感じる。
 集合時間は八時だったが、逸る気持ちを抑えられず早めに寮を出る。
 学校に着くと意外にも多くの人が集合していた。
 昨日、舞台に運ぶ小道具などは運び入れていたため、やることは特にない。最後の最後に流れを確認する者、緊張感の欠片もなく友達と話す者、我関せずと一人本を読む者。各々が各々のやり方で本番までの時間を過ごしていた。しかし、どこを見渡しても茉莉の姿は見当たらない。いつでも時間より一〇分以上前には着いているはずなのに……。
 カバンを置き、台本を確認する。
 緊張していないと言えば嘘になるが、何百回と確認した台詞だけにそれなりの自信はある。最後まで付き合ってくれた茉莉と雪乃には感謝である。
 一通り読み終え、時計を確認する。
 時刻は八時。集合時間だ。
 さすがにおかしいと思い、携帯を手に取る。
 その時だった。

「陸奥くん! 陸奥くんはいる⁉」

 月島先生が息を切らして飛び込んできた。

「はい」
「今すぐ、来て!」 

 僕の手を力強く掴み引っ張る。

「いや、僕は」
「いいから来なさい! 説明は後!」

 走りながらそう言い階段を駆け降りる。
 元々先生の方が僕よりも足が長く、さらに走るのも速い。手を引かれなければ確実についていくのは無理だろう。ついていっているというよりは、牽引されているといった方が適切だ。そのおかげで僕の腕は今にも引きちぎれそうなほど痛いが、そんなことも言っていられない状況なのは先生の慌てようから把握した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※恋愛大賞の投票ありがとうございました(o´∀`o)参加したみなさんお疲れ様です! 毎週火曜・金曜日に投稿予定 作者ブル

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...