誰かのヒーローになりたい俺の第一歩

よーじろー

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第四章

第四十二話

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 何か下の方から焦げ臭いような匂いがし、扉の隙間から煙が入ってきたのだ。
 おかしいと思い扉を開けると、外はすでに煙が充満しており熱気が感じられる。
 急いで下の階に降りようとするが、下の階から階段にかけてすでに火に覆われていた。
 その中を逃げるのは自殺行為だった。
 今みたいに強くなかったあかりの頭の中は真っ白になった。
 どうしたらいいのか、全く分からずただただ呆然としていた時だった。
 物凄い音とともにあかりの上から崩れた屋根が落ちてきた。

 ――やばい、やばい、やばい、やばい!

 咄嗟にそう思うが、体は竦んで動かない。一瞬の出来事に神経伝達はストップしていたのだ。
 目を閉じて命の最期を覚悟するが、その時、誰かがあかりの胸を押した。
 訳も分からずあかりは後ろに倒れた。
 間一髪。
 そのおかげであかりは下敷きにならずに済んだが、前を見るとそこで下敷きになっていたのは朱雀の母であった。

「あ、あかり、ちゃん……大丈夫?」
「お、お、おばさん!」
「二階の、奥の、部屋から……飛び降りなさい。クッションが、用意されてる、はずだから」

 途切れながらも懸命に声を出すが、瓦礫の下敷きになっている朱雀の母の息は小さい。

「でも、おばさんは……」
「私は、大丈夫よ。これくらい、なんともないわ」

 そう言ってはにかむが、その笑顔に無理があることは言うまでもなかった。

「でも、でも……」
「いいから、早く!」

 朱雀の母の強い言葉に背中を押され、あかりは奥の部屋を急ぐ。

「……あかり、ちゃん……すざくを、おねがい……」

 かすかではあるが聞こえてきた言葉に後ろを振り返るがさっきまであかりがいたところにも瓦礫が落ちてきており、朱雀の母を確認することは出来なかった。
 言われた通り、奥の部屋の窓から飛び降りると下には大きなクッションが用意されており、あかりは軽い火傷程度で済んだ。

「あかり!」

 家の外で涙を流しながら消防官に抑えられていた朱雀があかりの元へ駆け寄る。

「大丈夫⁉」
「……うん、大丈夫」
「よかった!」

 朱雀があかりに抱き着く。
 その姿を見て言うべきかどうか、迷った。
 ここで言わないと一生言えない。一生背負って生きていくことになる。

「……だけど」
「だけど、何?」

 言おうという姿勢は見せた。しかし、そこから先の言葉をあかりは言うことが出来なかった。とどのつまり、あかりは自分の身が可愛かったのだ。

「そういえば、どこを探してもママがいないんだけど、あかり、知ってる?」

 その言葉にあかりの心臓が大きく跳ねる。そして、脈拍が急激に上昇する。同時に体全体が熱くなっていくのが手に取るように分かる。

「……ううん、分からない……」
「そう……ママ、大丈夫だよね?」

 母の無事を祈る朱雀をあかりは直視できなかった。
 その後、懸命の消火活動が行われた結果、隣の民家に火が移ることなく消火することは出来た。
 しかし、あかりを助けた朱雀の母が遺体で見つかった。焼けてしまい見た目では分からなかったが、歯の治療痕と現場の状況から断定された。
 あかりは朱雀が母のことが大好きだったことを知っていた。だからこそ、後悔する。

 ――もしあそこで私を助けなければ、私がひとりであんなところにいなければ、私がしっかり考えて行動することが出来ていれば、私が死んでいれば……おばさんは死ななかったんじゃないか。しかも、おばさんの最期を知っているのは自分だけなのに、自分の身を守ろうとするあまり嘘をついてしまった。朱雀に本当のことを言えなかった。

 あかりは自分を責め続け、そして決める。

 ――これからは朱雀とずっと一緒にいよう。朱雀が困ったら助けてあげよう。たとえ私の命に代えても……。
 それからあかりは行かなくてはいけなかったパリ行きを断り、朱雀が望むのであればどんな無理難題であろうともやったという。

 その関係は今も変わらないらしい。
 あかりの妄信ともとれる行動はそこからきているのだった。
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