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第四章
第四十五話
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「いやー、あの二人、いつも一緒にいたから仲良い美人姉妹って有名だったんだけど、でも、僕、あの二人の秘密知ってるんだよね」
食後のプリンパフェを食べ終わり、追加で頼んだダージリンを満足気に啜りながら言う。
あれだけ食べた後なのに少しもきつそうではないのが不思議でならないが、それよりも何よりも今は片岡の言葉が妙に引っ掛かった。
「……秘密と言いますと?」
片岡が顔を少し前に出し手を拱く。
俺もそれに従い顔を前に出し耳を欹てる。
「……いやー、誰にも言わない?」
「……はい」
「……本当に本当?」
「……本当に本当です」
「……本当に本当に本当?」
「……本当に本当に本当です」
しつこいほどの確認を経て、片岡がおもむろに口を開く。
「いやー、実はね、二人のあの関係は契約の上で成り立ってるんだよ」
その言葉とともに真冬に教えてもらった火事の一件が重なる。
それに負い目を感じることも容易に想像できる。
しかし、この話は大学生の時の話。
事件が起こる前の話なのだ。
であれば、それ以前に何かあったということなのだろうか。
「いやー、あかりちゃんは朱雀と仲良い振りをしてもらう。その代わりに朱雀はあかりちゃんに絶対服従を課した」
「……絶対服従……」
「お世辞にも人付き合いが上手いとは言えないあかりちゃんには敵が多かった。そいつらの抑止力として朱雀が必要だったわけさ。朱雀は完璧超人、感情のないロボットなんて呼ぶ人も結構いたからね」
言われてあかりを思い返す。
あかりの言うことは筋が通っており、道義に反することは決してしない。
人の気持ちを考え困っている人がいれば行動することも厭わない。
基本的に悪い人ではないし、常に正しい。
正論。
短い付き合いだがそれは分かる。
しかし、その真っ直ぐすぎる性格が周りには眩しすぎるのだ。
常に正しい人間と一緒にいることはつまり常に間違いを突きつけられていることに他ならない。
周りの人に疎まれてしまう原因はそこにあるのだろう。
それは直接見ていない俺でも容易に想像できた。
だからこそ、その危険因子を少しでも排除しようと崇徳院組をバックに持つ朱雀を利用しようと考えた。
その見返りに何でも言うことを聞く従者であることを朱雀は求めた。
話の流れは理解できた。
ありえないことではないし、過去の事を考えるとそっちの関係の方がむしろしっくりくるのだが……。
――しかし、どこか腑に落ちない。
火事の一件が起こる前からあかりは朱雀の言うことを聞いていた。
疑わしきところはあるが、それは百歩譲って良しとしよう。
しかし、果たしてあかりが朱雀を利用するようなことをするだろうか。
そもそもあかり自身そんな周りの戯言を気にするような人間だろうか。
「……そうなんですね」
「いやー、そうよ。まあ、それが今も続いてるかどうかは分からないけどね」
そう言って、片岡はカップを傾け最後の一滴までしっかり飲み干す。
そこから十分程、他愛ない会話を続け片岡は先に席を立った。
場違いな空気の中、俺はひとり考える。
――あかりと朱雀の関係……。本当に信頼し合っているだけなのか、それとも契約の上で成り立っていた関係に母を失った憎しみと奪ってしまった負い目が合わさり歪んだ関係になってしまったのか……。
考えれば考えるほど沼に嵌っていく。
ぐるぐると回っていく頭が僕の平衡感覚を奪い、真っ直ぐ歩けなくなる。
その先に光っている灯を目指して手を伸ばすが、それは俺が掴もうとすればするほど遠く小さくなっていく。
もう俺がその灯に行き着くことはないのかもしれない。
「――客様、お客様⁉ 大丈夫ですか⁉ お客様⁉」
「……は、はい?」
呼ばれて顔を上げるとそこには顔を青くした店員とそれを見守るように覗き込むマダム達がいた。
「頭を伏せたまま、ずっと動かなかったものですから、具合でも悪いのかと」
店員に声をかけられるまで気づかなかったが、俺は頭を抱えて突っ伏したまま三十分、微動だにしなかったらしい。
「ああ、大丈夫ですよ。すみません」
俺は恥ずかしさを感じながら鞄と伝票を持ち、そそくさと席を立つ。
外に出ると、まだ夏には早いのに俺の顔面をもわっとする熱気が襲う。
まるで俺の気持ちを嘲笑うかのように輝く太陽がいつも以上に眩しい。
日差しは日に日に強くなるばかりで留まるところを知らない。
俺はそんな太陽に目を細めながらただただ立ち尽くす。
迷いが俺の心に巣食うその空間がとてつもなく惨めで情けなかった。
――何がまだやれることはあるだ。何が人の役に立つだ。こんな迷いだらけの俺に何が出来るというんだ。ちゃんちゃらおかしいじゃないか。
踏み出してしまえばどうってことないであろうその一歩、陰から日向に向かって踏み出すその一歩が俺にとってどんなに重く遠く、そして勇気のいることなのか、肌で感じた瞬間だった。
食後のプリンパフェを食べ終わり、追加で頼んだダージリンを満足気に啜りながら言う。
あれだけ食べた後なのに少しもきつそうではないのが不思議でならないが、それよりも何よりも今は片岡の言葉が妙に引っ掛かった。
「……秘密と言いますと?」
片岡が顔を少し前に出し手を拱く。
俺もそれに従い顔を前に出し耳を欹てる。
「……いやー、誰にも言わない?」
「……はい」
「……本当に本当?」
「……本当に本当です」
「……本当に本当に本当?」
「……本当に本当に本当です」
しつこいほどの確認を経て、片岡がおもむろに口を開く。
「いやー、実はね、二人のあの関係は契約の上で成り立ってるんだよ」
その言葉とともに真冬に教えてもらった火事の一件が重なる。
それに負い目を感じることも容易に想像できる。
しかし、この話は大学生の時の話。
事件が起こる前の話なのだ。
であれば、それ以前に何かあったということなのだろうか。
「いやー、あかりちゃんは朱雀と仲良い振りをしてもらう。その代わりに朱雀はあかりちゃんに絶対服従を課した」
「……絶対服従……」
「お世辞にも人付き合いが上手いとは言えないあかりちゃんには敵が多かった。そいつらの抑止力として朱雀が必要だったわけさ。朱雀は完璧超人、感情のないロボットなんて呼ぶ人も結構いたからね」
言われてあかりを思い返す。
あかりの言うことは筋が通っており、道義に反することは決してしない。
人の気持ちを考え困っている人がいれば行動することも厭わない。
基本的に悪い人ではないし、常に正しい。
正論。
短い付き合いだがそれは分かる。
しかし、その真っ直ぐすぎる性格が周りには眩しすぎるのだ。
常に正しい人間と一緒にいることはつまり常に間違いを突きつけられていることに他ならない。
周りの人に疎まれてしまう原因はそこにあるのだろう。
それは直接見ていない俺でも容易に想像できた。
だからこそ、その危険因子を少しでも排除しようと崇徳院組をバックに持つ朱雀を利用しようと考えた。
その見返りに何でも言うことを聞く従者であることを朱雀は求めた。
話の流れは理解できた。
ありえないことではないし、過去の事を考えるとそっちの関係の方がむしろしっくりくるのだが……。
――しかし、どこか腑に落ちない。
火事の一件が起こる前からあかりは朱雀の言うことを聞いていた。
疑わしきところはあるが、それは百歩譲って良しとしよう。
しかし、果たしてあかりが朱雀を利用するようなことをするだろうか。
そもそもあかり自身そんな周りの戯言を気にするような人間だろうか。
「……そうなんですね」
「いやー、そうよ。まあ、それが今も続いてるかどうかは分からないけどね」
そう言って、片岡はカップを傾け最後の一滴までしっかり飲み干す。
そこから十分程、他愛ない会話を続け片岡は先に席を立った。
場違いな空気の中、俺はひとり考える。
――あかりと朱雀の関係……。本当に信頼し合っているだけなのか、それとも契約の上で成り立っていた関係に母を失った憎しみと奪ってしまった負い目が合わさり歪んだ関係になってしまったのか……。
考えれば考えるほど沼に嵌っていく。
ぐるぐると回っていく頭が僕の平衡感覚を奪い、真っ直ぐ歩けなくなる。
その先に光っている灯を目指して手を伸ばすが、それは俺が掴もうとすればするほど遠く小さくなっていく。
もう俺がその灯に行き着くことはないのかもしれない。
「――客様、お客様⁉ 大丈夫ですか⁉ お客様⁉」
「……は、はい?」
呼ばれて顔を上げるとそこには顔を青くした店員とそれを見守るように覗き込むマダム達がいた。
「頭を伏せたまま、ずっと動かなかったものですから、具合でも悪いのかと」
店員に声をかけられるまで気づかなかったが、俺は頭を抱えて突っ伏したまま三十分、微動だにしなかったらしい。
「ああ、大丈夫ですよ。すみません」
俺は恥ずかしさを感じながら鞄と伝票を持ち、そそくさと席を立つ。
外に出ると、まだ夏には早いのに俺の顔面をもわっとする熱気が襲う。
まるで俺の気持ちを嘲笑うかのように輝く太陽がいつも以上に眩しい。
日差しは日に日に強くなるばかりで留まるところを知らない。
俺はそんな太陽に目を細めながらただただ立ち尽くす。
迷いが俺の心に巣食うその空間がとてつもなく惨めで情けなかった。
――何がまだやれることはあるだ。何が人の役に立つだ。こんな迷いだらけの俺に何が出来るというんだ。ちゃんちゃらおかしいじゃないか。
踏み出してしまえばどうってことないであろうその一歩、陰から日向に向かって踏み出すその一歩が俺にとってどんなに重く遠く、そして勇気のいることなのか、肌で感じた瞬間だった。
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