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第五章
第五十三話
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「よくやったな、譲二。もういいぞ」
「……はい」
流暢な日本語で笑みを浮かべるマフィアのボスの元に譲二が向かう。
それに倣って崇徳院組の組員も向かう。
距離にしてわずか二十メートル弱といったところであろうか。
そんな短い距離を移動する一団を朱雀たちはただただ見詰める他なかった。
「これで、良いんですよね?」
「ああ、上出来だ」
「じゃあ、これで聡子を返してくれるんですよね?」
「まあ、そう焦るな。とりあえず取引をしようじゃないか」
縋るようにボスを見る譲二の瞳は緊張と怯えで染まっていた。
譲二とボスが慣れた手つきで持っていたアタッシュケースを交換する。
お互いに中身を確認し始める。
特に問題は認められなかったようで、ボスが満面の笑みを浮かべる。
意外にも呆気ない取引に若干肩透かしを食らったような気持ちになるが、二年間続けてきた取引であり、マフィアからすると人質を盾に優位に立っているような状態だ。
それ故、変な探りを入れる必要はもはやないのだろう。
「そういえば聞いていたぞ」
「……何をですか?」
「譲二、組思いの良い娘ではないか」
ケースを閉じながら譲二に声をかける。
「いえいえ、世間知らずの馬鹿娘ですよ。本当に手を焼きます」
――――わっはっはっはっはっ…………。
――――くっしっしっしっしっ…………。
マフィアの連中が笑う。
それにつられるように崇徳院組の連中も苦笑いを浮かべる。
月夜の下で木霊する笑い声はどこまでも下卑ていて気持ちが悪い。
何よりそれに合わせている崇徳院組が見ていて吐き気がするほど胸糞が悪かった。
「ボス、その娘、崇徳院組を世界に誇れる組にしたい、とか言ってるみたいですよ」
「譲二、本当なのか?」
マフィアのボスが譲二に聞く。
譲二は一瞬目を細めるが、すぐに笑顔を作り答える。
「いやはや、世間知らずの娘でして」
「教育はちゃんとしとけよ。後々厄介なことになっても面倒だ。不安の芽は早いうちに潰しておかないとな」
「はい。分かってます」
譲二は完全にマフィアの言いなりだった。
あかりが拳を握り締め右足を一歩前に踏み出すが、それを朱雀が制する。
「今はだめ。堪えて」
「だが」
「私なら、大丈夫だから、だから堪えて」
朱雀は言葉でそう言うが、その実、この中で一番自分を抑えているのは誰の目から見ても明らかだった。
――こんな奴らの思うがままにされるなんて悔しい。
言外に聞こえる心の声がそう俺に訴える。
悲痛な叫びが俺の心を締め付ける。
一気に体温が上がるのがありありと分かる。
眠っていた細胞のひとつひとつが一斉に声を上げている。
お互いにケースの中身を確認し終わり、事は済んだ。
あかりと朱雀が悔しそうに下唇を噛む。
ここまで来る前に止められなかった時点で任務の失敗は確定的であり、もはや俺たちにやれることはなかった。
取引はそれで終わるはずだった。
「……はい」
流暢な日本語で笑みを浮かべるマフィアのボスの元に譲二が向かう。
それに倣って崇徳院組の組員も向かう。
距離にしてわずか二十メートル弱といったところであろうか。
そんな短い距離を移動する一団を朱雀たちはただただ見詰める他なかった。
「これで、良いんですよね?」
「ああ、上出来だ」
「じゃあ、これで聡子を返してくれるんですよね?」
「まあ、そう焦るな。とりあえず取引をしようじゃないか」
縋るようにボスを見る譲二の瞳は緊張と怯えで染まっていた。
譲二とボスが慣れた手つきで持っていたアタッシュケースを交換する。
お互いに中身を確認し始める。
特に問題は認められなかったようで、ボスが満面の笑みを浮かべる。
意外にも呆気ない取引に若干肩透かしを食らったような気持ちになるが、二年間続けてきた取引であり、マフィアからすると人質を盾に優位に立っているような状態だ。
それ故、変な探りを入れる必要はもはやないのだろう。
「そういえば聞いていたぞ」
「……何をですか?」
「譲二、組思いの良い娘ではないか」
ケースを閉じながら譲二に声をかける。
「いえいえ、世間知らずの馬鹿娘ですよ。本当に手を焼きます」
――――わっはっはっはっはっ…………。
――――くっしっしっしっしっ…………。
マフィアの連中が笑う。
それにつられるように崇徳院組の連中も苦笑いを浮かべる。
月夜の下で木霊する笑い声はどこまでも下卑ていて気持ちが悪い。
何よりそれに合わせている崇徳院組が見ていて吐き気がするほど胸糞が悪かった。
「ボス、その娘、崇徳院組を世界に誇れる組にしたい、とか言ってるみたいですよ」
「譲二、本当なのか?」
マフィアのボスが譲二に聞く。
譲二は一瞬目を細めるが、すぐに笑顔を作り答える。
「いやはや、世間知らずの娘でして」
「教育はちゃんとしとけよ。後々厄介なことになっても面倒だ。不安の芽は早いうちに潰しておかないとな」
「はい。分かってます」
譲二は完全にマフィアの言いなりだった。
あかりが拳を握り締め右足を一歩前に踏み出すが、それを朱雀が制する。
「今はだめ。堪えて」
「だが」
「私なら、大丈夫だから、だから堪えて」
朱雀は言葉でそう言うが、その実、この中で一番自分を抑えているのは誰の目から見ても明らかだった。
――こんな奴らの思うがままにされるなんて悔しい。
言外に聞こえる心の声がそう俺に訴える。
悲痛な叫びが俺の心を締め付ける。
一気に体温が上がるのがありありと分かる。
眠っていた細胞のひとつひとつが一斉に声を上げている。
お互いにケースの中身を確認し終わり、事は済んだ。
あかりと朱雀が悔しそうに下唇を噛む。
ここまで来る前に止められなかった時点で任務の失敗は確定的であり、もはや俺たちにやれることはなかった。
取引はそれで終わるはずだった。
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