セカンドアース

三角 帝

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最終章 セカンドアース

11.水槽の中の少女

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  白い波が漂う。
  長年、相棒だの何だの言われた、あの銀の小銃も、今やここから遠い向こう側に見える。それを拾い上げてくれた黒髪の少年は、その頬に一筋の情を浮かべ、立ち上がった。
  肩から無骨な黒の大剣を生やし、その姿は人間とはかけ離れた場所にある。しかし、その筋が彼の情と、彼の最後の自我を持つことは、誰が見てもわかることであった。

  少年の口が、自らの死を叫び、その言葉が身体中を駆け巡り、今までとは違う鼓動を灯す。

「……クロウ…………お前に俺をやる……」

  アダムの背中から新たに生えた、大きな大剣は、その鈍い鋭利さを剥き出しにし、アクの銀剣と衝突する。
  漆黒の大剣と、純白の剣が、重なりその身を削り、また重なる。双方とも引かぬ、永遠とも思える戦いがそこにあった…

「おおおお、早くなったんじゃない?」

  アクはいつもと同じように、調子を作り、顔に貼り付け、口から言葉を繕う。
  一方、黒髪の少年は、長めの前髪にその顔を隠したまま足元に視線を落としている。攻撃が早く、重くなるたびに、少年の脱力は強くなり、少年の中から少年が消えていく。

  少年から無作為に繰り出される攻撃の一つが、アクのこめかみに当たり、そこから赤い液体が吹き出す。アクは体制を崩し、距離をとろうと図るがアダムはそのまま前進、次は体を丸め込めアクのみぞおちを深く蹴り上げる。
  アクは多大なダメージに、口から新たな液体を吐き、壁に激突する。

  目の前の白い男が、赤く染まる瞬間を、アダムは別の場所でぼんやりと眺めていた。怯えることも、恐ることも、後悔することもない、この男が羨ましく、ついその手を止めそうになる。そういった制御さえ、自分に出来なくなる感覚はもう分かってしまっている。
  侵食していく、クロウの息遣いが今までとは違って近くに聞こえる。とても近くでクロウがアダムを待ち構えている。

「…まったく……面倒だなぁ…君の情が邪魔してるよ。僕を殺すことをね!」

  アクは勢いをつけ、その身を起こし、銀の剣を大きく振り被る。その剣が大理石の床に深く突き刺さり、そこに巨大な亀裂を作り出した。

「ナニヲ…するキだ……」

  機械音を混じり合わせたような、その無機質な声が、自分から出た言葉であるのかと絶句する。
  アクは突き刺した剣をもう一度深く押し込み、この上から更に重心をかける。剣が大理石へと姿を隠すたびに、アクの口元が歪み、醜い笑みを浮かべる。

「何をするかって?クロウ……お前を葬るんだよ」

  次の瞬間、足元がグラリと大きく傾き、疾風とともに吐き出されたクリスタルの破片が手足の皮を裂いた。アダムは破片が降り続く視界の向こうで、巨大な柱にかけられた赤い布が剥ぎ取られる。

『……イ…………』

  姿を現した全長6メートルほどの水槽の中、極小の泡を一定のテンポで吐き出しながら、1人の少女が漂っていた…

  美しい黒髪が、身を絡め、少女を幻想的に映し出す。白い肌はクリスタルの反射させる光で、透けたような色を作り、整った顔立ちを、目立たせるくっきりとした影を作る。纏った白いワンピースはあの日のままで…成長した体は、あの頃の笑顔を思い出させ、半開きにされた……ルビーレッドの瞳は……

  アインと同じ色だった……
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