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最終章 セカンドアース
12.見上げた空は
しおりを挟むアクは水槽を銀剣で叩き割る。その中から大量の水分が溢れ出し、遠くで、その光景に呆然とするアダムの足元を濡らす。
分厚い水槽は、全ての水を吐き出し終えるとその中で眠る少女をゆっくりと地面に落とす。少女の首元を片腕で掴み上げたアクは、そのまま外へと引きずり出した。少女は、操り人形のように脱力しており、アクの動作の思うがままにその身を動かしている。
「……武器化が…………成功した…」
アクは口元から滴り落ちる唾液を、数度ズルズルと吸い込み、ぷはぁと息を吐き、汚い手つきで少女の無表情な肌に触れ、その感触を楽しむように舌を出す。
「こいつは、お前らの求めるものだろう?」
「ヨコセ、ジョオウをヨコセ」
『イヴを…イヴを返せ……』
目の前のイヴに、思いを寄せるたびに、体が重く押しつぶされていく。自身が消えていく…
やめてくれ……こんなことはやめてくれ。
イヴを…イヴを武器にするなんて……そんなこと………あいつは……俺にとって…
「彼女を使って、僕はこの世界を変える!セカンドアース人を皆殺しにし、アクチノイドの支配者……全人類の支配者になるんだ!それが、僕の目的…この女はその材料にすぎない!この女に敵うものは……誰もいない」
アクはイヴの頭部に貼り付けられた、冷たい鉄の塊に触れた。指先から伝わる痺れでイヴの全身が一度震え、そして息を吹き返したように体を起こした。
「……殺っちゃって~…………」
その合図が出されると、イヴは床を擦りながらこちらへゆっくりと歩んでくる。伸びきった爪が大理石を削り、イヴの歩く経路と共に傷を作る。
口まわりを大きく隠した白布は、彼女の人間らしさを束縛し、かつての彼女の面影はその姿には一つも存在していなかった。
『イヴ……どうして…………』
ルビーレッドの赤い瞳には、初めて自分の顔が映った。あの日までのアダムであれば、それはとても嬉しいことだったのかもしれない。だが、今目の前にいるイヴは、アダムの知るイヴではない…
「……カエせ……カえせ…」
じりじりと迫り来るイヴの向こう、勝ち誇ったような顔つきを作るアクの姿があった。
そうだ…もちろん、イヴに攻撃することはできない。だけど、イヴに殺されるなんてこと…絶対に嫌だ。彼女に、人を殺させたくなんかない!
数メートル離れたあたりで、イヴは停止した。彼女は一度、強くアダムを睨みつけ、そして首筋を伸ばし、上を見上げた。その首筋の血管が、ドクンドクンと強く脈打ち、そこから灰色の触手が現れ、彼女の顔を覆った。鎖骨を伝い、肩を伝い、背中を伝う。
次の瞬間ー
イヴの両手が意志なく双方に大きく開かれ、彼女の背中から放たれた純白の翼を見せる。全長5mはあるのではないかと思わせる、その翼をアダムはただただ見つめていた。
恐ろしかった。イヴが、すでにイヴではないことを、自覚したくはなかった。否定し続けていたかった。彼女の笑顔が、彼女の優しさが、全部無くなってしまったなんてこと…認めたくはなかった…
『なんで…なんで……俺ばっかり…俺ばっかり幸せを奪われんだ!誰よりも幸せを欲している俺は、俺だけがその幸せを奪われる……』
また、幼い頃の自分が泣いている。
俺は、イヴたちと出会ったことで、あの頃までとは違う自分になれたと錯覚していた…でも違った。俺はずっとあの俺のままだった。
「アダム・アリーダ。君は死ぬんだ」
純白の翼が、その身を前方に傾かせ、鋭利な羽の先端を見せつける。その羽の一本一本が交互に絡み合い、天井を貫いた。
セカンドアース最上層の、このクリスタ殿。
それを抜けた先は、真っ暗な宇宙の空があった…
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