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最終章 セカンドアース
13.セカンドアース
しおりを挟む「何をしている?」
その行動が予想外だったのだろう。アクは若干の焦りを滲ませた表情を作り、そう言った。そんなアクを振り返ったイヴの顔を、触手がまとわりつき、表情を隠している。殺気のような只ならぬ空気が、アクへ向けられたのは紛れも無いその時だったー
「キシャァァァアアアアアアア!!」
イヴの口からそんな叫び声があがり、純白の翼が大きく回転する。それに従ってイヴの体も回転し、宇宙を開く天井へと上昇する。首筋から伸びた灰色の触手が、アクの足に絡みつく。
「何をする!?僕はお前のボスだぞ!指令に従え!裏切るのか!」
宙づりにされたアクは、ジタバタと手足を動かし、触手から逃れようと身をよじる。その手が腰の鞘にある銀剣に伸ばされる、だがその行為も触手によって制御され、銀剣はアクの手を滑り落ち大理石の床に深く突き刺さった。
完全にアクの自由を奪った触手は、それを操ったと思われるイヴの前にアクの体を持っていく。
「やめろ!何をする気だ!お前は僕のものだ!意志はいらない!僕の…」
バキッ
そんな酷い音がして、アクの体が下半身と上半身に引き裂かれた。赤い液体が大量に大理石に流れ落ち、ボトボトという汚い音を耳に押し当てる。
アダムは全身に鳥肌が立つのが分かった。無残に転がったアクの体たちから視線を外し、震える眼光の先で、ゆっくりとこちらを振り返るイヴを見つけた。
その表情に、色はなく、意思もなく。あるのは殺すという文字だけ…
『……イヴ…』
逃げなくては…そうしなくては、イヴはまた人を殺してしまう。俺は彼女に殺されてはならない。
そんなことを心の中でしかない自分の口で叫びながら、体を動かそうとする。だが、その体は鉛のように重く、一向にアダムの指示に従おうとはしなかった。
『おい!クロウ!クロウ!どうしたんだよ!クロウ!動け!逃げろよ!』
その声さえも、クロウにはもう届かない。背中から抉り出た自身の漆黒の大剣は、ダラリと落とされ、右目を貫ぬく黒の翼は生気を失おうとさえしていた。
イヴから伸ばされた触手が、アダムの体にも巻き付いた。身動きの取れないまま床から引き剥がされ、アクと同様に触手たちによってイヴの目の前に持っていかれる。
しばらく浮遊感が続き、そして停止し、触手に縛られたイヴの顔が目と鼻の先にあった。
最後に彼女の表情が見たかった。
邪魔な触手をどけようと、手を伸ばそうとしても、体は動かない。このまま八つ裂きにされて、彼女はこのクリスタを出て、民間の前に姿を現し、そして…またこれを繰り返すのだろうか……
きっと、気づいた頃には、彼女はひとりぼっちだ……
『…イヴ……そこにいるのか?』
『こうなったのは、俺のせいなんだ…俺が、俺があの日、家事からお前を守っていれば、こんなことにはならなかった……だから、許してくれ。俺は……お前を見捨てたりなんかしない……』
イヴの表情は一向に冷たく見えた。
『俺は……』
「……お前を愛してるんだ!!!」
背中の大剣に電気が走ったような衝撃があったことを、脳が感じ。全ての感覚神経が、自分の意思の中に戻ってきた。
かじかんだ指先で、イヴの顔を覆う触手を雑に剥ぎ取り、その欠片を床に落とす。
ようやく現れたイヴのルビーレッドの瞳は、赤く、あの頃と全く同じ色をしている。そして、その瞳から流れる涙には、黒髪の少年が映っていた。
「…イヴ……」
吐息のように零れ落ちたその名前。
イヴを固く抱きしめたアダムの心臓を、純白の翼が貫いた。一瞬の衝撃が走ったが、そんなことはもうどうだって良かった。
翼はそのままイヴの心臓をも貫く。
『……愛してる…………アダム……』
眩む世界の向こう側で、彼女がそう言って手を振った……
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