キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ

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第1章 納車編 あるいは雪上スピードウェイ

第7話 どんでん返しが早すぎる

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「……御身おんみは我らを『愉快』とおっしゃられたが」
 
 ベッドに腰を下ろしたオーガさんは、何やら感服したように車内を眺めまわして言った。
 俺はそれを、ダイニングの椅子に座って聞いている。

「もしも我らが愉快な輩に見えるなら、それはこの猫車ねこぐるまのおかげでありましょうな」
「猫車って」
「御身の愛騎あいきがこのように平和なものでなければ、我らも眉間みけんしわを今の五倍は深くして参上していたでありましょうから。
 いにしえの書によれば、地球には魔力に頼らずとも家ひとつ吹き飛ばす技術が存在するとか。
 みさいる。
 ひーとだん。
 ぱんつぁーふぁうすと。
 それらしきものは見当たりませなんだゆえ、我らもどこか安堵あんどしているのやもしれませぬ。
 つまりは御身の器の大きさゆえ」
「………」

 しみじみと目を細めるオーガさんから、俺はこっそり目をらす。
 最初は普通に10式戦車ヒトマルを創ろうとしていたなどと、言わない方が良さそうだ。
 いや、言っても笑って流してくれるだろうけど、恥ずかしいし。
 オーガさんはすっかりテンションが上がっているようで、なおもしきりに褒めてくれる。

「この猫車も、御身の≪スキル≫で創られたものとお見受け致すが――
 実にお見事。いやさ神の御業みわざに等しいですな。
 武器は持たず、見る者を威圧することもなく。
 しかして装甲は金城鉄壁きんじょうてっぺき、たとえ魔竜の爪牙であっても容易には貫けぬでありましょう。
 それだけの力を持つ御身がお優しい人柄であられるのは、実に得難えがたきこととぞんずる」
「……そのことなんですが」

 キッチンでカップに白湯さゆを注ぎながら、俺は気になっていたことを訊いてみる。これ以上聞いてると照れくさくて死にそうだし。

「この≪スキル≫って、その、優秀ですよね?」
「優秀であるとかそういう段ではなく、天地も容易くくつがえすものかと」
「俺を召喚した人には、三流手品って言われたんですけど……」

 そう。
 あの召喚師さんときたら、勝手に呼びつけておいて勝手に失望&罵倒し、あまつさえこんな雪の中に放り出しやがった。
 単純に、あの人が極度の無能にして破綻者はたんしゃなのかと最初は思っていたのだが……いろいろ情報が増えた今はもう、別の可能性が見えている。
 たった半日の練習で、金城鉄壁の装甲車両を創ってしまえる優秀な≪スキル≫。
 それを持つ人間を即座に、それもわざわざワープまでさせて追放するという暴挙。
 ワープ先で待っていた、魔王軍に属するオーガさん。
 これらを総合して考えると、

「あの召喚師さん、やっぱ魔王側と繋がってます?」
「いかにも」

 うわあ。
 あっさり明かされた真相に、俺は思わず天を仰いだ。
 クリスさんが聞いたら――聞いてるかもだが――どんな顔するか。「国家の中枢から裏切り者を出し、異世界の御方の命すら危機に晒した罪は万死に値する」とか言って、腹でも切りはしないだろうか。思い留まらせる文言もんごんを考えねば。

「繋がってるってことは、つまり」

 俺は暗澹あんたんたる気分で尋ねる。

「召喚師っていう国家のキーマンが寝返るくらい、今は魔族側が優勢ってことですか。
 で、異世界召喚で人類側のリソースを吐き出させて、さらに俺が魔王側につけばトドメと」
「む!?
 あいや、さにあらず」
「……え?」

 オーガさんは沈痛な面持ちで、

「恥ずかしながら、我ら魔王軍は既に戦える状態ではございませぬ!
 我らが主君たる魔王陛下は勇者との戦いの末に消息を絶たれ、各地の軍も既に限界を超えております。
 一方で、既に|人類もまた消耗が極限に達しているとのこと。
 ここで御身がどちらかに加勢すれば、味方は御身を≪最後の切り札≫と見、敵は≪潰しておくべき最悪の脅威≫と見て、戦い続けようとするでしょう。
 その果てにあるのは、無益な消耗戦という名の地獄のみ。
 よろしいか、異界の御方おんかた
 かの召喚師殿はその地獄を回避すべく、裏切り者の汚名を敢えて被って御身を我らに預けて下さったのです!」
「えぇええぇええええ!?」

 ぬるっと明かされた真相に、俺は腰を抜かしかける。
 目を白黒させている俺に、オーガさんは床に手を突いて続けて来た。土下座だこれ。

「異界の御方! 伏してお願い申し上げる!
 どうかいずれの陣営にも味方せず、ただ穏やかにお過ごし頂きたい!
 此度こたび、我らがこうして参上したのはそのことをこいねがわんがためにござる!」
「………」

 即答できるわけもなく、硬直する。
 硬直しつつ、どうにか頭を回し続ける。
 衝撃的などんでん返しだが……俺は不思議と、オーガさんの言葉をそのまま信じかけていた。
 もちろん、彼が嘘をついている可能性はある。
 でも、彼の話には違和感が無いのだ。
 少なくとも、あの召喚師が極度のアホで、貴重な被召喚者を勝手に捨てた上にその先にたまたま魔族の部隊がいた――などという偶然よりはよっぽど説得力がある。
 オーガさん自身とここまで接してきて、信じたい気持ちも強まっている。

「……ええと」

 もう八割方信じてしまいつつ、俺は慎重に言葉を選び、

「そのお話、証拠はありますか」
「人類と我ら、双方の配置を記した世界地図。
 魔王陛下が勇者との戦いの後で残されたという、折れた錫杖しゃくじょう
 此度こたびの召喚にて召喚師殿と我らが交わした文書の全て。
 これらを持参しておりまするが」
「うーん……」

 文句なし、と言いたいところだが、あいにく俺にはどれも本物かわからない。
 何しろ俺は大陸の地形も知らなければ、この世界の字だって読めやしないんだ(何故か言葉は通じてるけど、翻訳の魔法か何かなんだろう)。地図だろうが文書だろうが、偽装し放題である。
 どうしたもんか。
 俺は何も言えないまま、複合装甲のまま維持していたあごにコツンと指を当て――
 そのときだった。

 がくんっ、と。

 いきなり、膝から力が抜ける。

「な……」

 踏ん張れず、そのまま床に突っ伏す。
 凄まじい脱力感と、眠気。
 何が起きたのかもわからないまま、消えかける意識を必死につなぎとめる。
 頬の肉でも食いちぎろうかと思ったが、顎に力が入らない。
 これは――?

「――……」
 オーガさんが何か言っている。
 土下座の姿勢から立ち上がり、歩み寄る。ひどく落ち着いた足取りで。

はかられた?)

 オーガさんが何かしたのか。そんな疑念も、恐怖も、眠気に押し流されていく。
 彼がかたわらに膝を突き、こちらに伸ばす手が見えたのを最後に、俺の意識は闇に呑まれた。
 

 ◆ ◆ ◆


「……いかん、怖がらせた」

 気を失ったエイジの前で、オーガは思いっきり頭を抱えた。
 ゆっくり近づいたのはまずかった。今のは誰がどう見ても、一服った悪者の振る舞いだ。
 盛ってなんかないのに。自分みたいなデカいのが慌てて駆け寄ったら、エイジが怖がると思っただけなのに。
 雄大な体躯たいくは種族の誇りだが、こういうとき正直こまるっていうか。

「今どきマッチョとか怖がられるしのぅ……」

 ちょっとへこみながらエイジを抱え上げ、ベッドに丁寧に寝かせてあげる。
 異世界から来た人間の皮膚は、元の柔らかさを取り戻していた。その肌とシーツを爪で傷つけないように、慎重にお布団をかけてあげながら、

「このままさらうかと思われたかのう……?
 だろうのう。魔王陛下へいかがご健在なら普通にそうしとったしのう……」

 大きな体を『しゅん』と丸めながら、ブツブツ言っていたときだった。

『……すまない。私も攫うと思った』

 恐縮したような女性の声が、遠慮がちに耳に届いたのは。
 見れば、エイジを寝かせたベッドの足元に、燐光りんこうをまとった女性がちょこんと座り込んでいる。
 クリステンデ=V=エストカーリア。

『戦場以外で会うのは初めてか? イ=バ殿』
「落ち着いて話すのもな。エストカーリア卿」

 名を呼ばれ、オーガは――魔王軍が誇る精鋭特命隊のおさ・イ=バは、ニッと歯を剥いて笑いかけた。
 人間は普通、この顔にビビるが、目の前の女は意にも介さないとイ=バはとうに知っている。戦場ではむしろイ=バの方が、女の顔を見てビビる側だったから。

「震え上がらずにおぬしと話せて光栄だ」
『こちらこそ』

 オーガとヒトは互いに騎士の礼を交わす。
 クリスが突然姿を見せても、イ=バは全く驚かなかった。
 車外から見えていた彼女の姿がいつの間にか消えていた時点で、≪遠話とおわ≫の魔法を使っていることは理解できた。人間がそういう術を使うことは、魔王軍の高級軍人の間では常識だ。
 つまり、彼女が聞いていることを承知で身内の実情を喋ったわけだが――

『エイジを攫わぬなら、目的は何だ?』

 クリスの興味は、魔王軍の内実よりもエイジの運命に向いているらしい。

(ほお)

 彼女の鋭い表情に、イ=バは内心、感服する。
 もしイ=バがエイジをかついで逃げたら、今のクリスには何も出来ない。にもかかわらず、彼女は一方的に有利な立場から尋問するような威風を放っていた。この状況でなおオーガの心胆を寒からしめる、桁外けたはずれの威風を。
 これがあるからこの女は強い。戦場で、こちらの優勢を何度ひっくり返されたことか。
 今回も多少威圧されつつ、イ=バは腕を組んで質問を一蹴する。

「……当人が起きたらじかにお伝えする。お主も聞いておれ」
『………』
「それより、彼がお倒れになったのは何故だ? 貴公の方が詳しいであろう。
 やはり魔力切れか」
『間違いあるまい』

 やはりなぁ、とイ=バは車内を見回す。

「馬車より大きく、砦より堅牢。狼より速く、それでいて宮殿のように快適。
 このようなものをお創りになれば、魔力など底を突くのが道理。
 むしろ今までお元気でおられたことの方こそ異様よな。
 どうなのだ? まさかこれを走らせるのもご自身の魔力でやっておられるのか」
『私も知らん。
 何か、馬の飼い葉にあたるものがあるのかもしれんが……』
「肉とか喰うのかのう」
『野菜ではあるまいな。猫だし』

 蒸気機関すら無い世界の住民たちは、キャンピングカーが食べるエサについて極めて真剣に議論を交わす。

『エイジが起きたら教えてもらおう』
「うむ。楽しみだの」

 うん、と頷くクリスの仕草には、ワクワクと好奇心に満ち溢れていた。
 らしくもなく威風が弱まっているのは、イ=バの気のせいではないだろう。その理由は恐らく、キャンピングカーの車内に漂うのんびりとした空気ゆえ。
 その空気に流されまいとするのか――無駄なあがきだとイ=バは思う――、クリスは何度か首を振り、表情を引き締めて問いかける。

『……エイジが起きる前に訊いておきたい。
 魔王が失踪し、そちらの軍も限界を超えているとは事実か』
「応。遺憾いかんながら」
『うちの召喚師が通じているのも?』
「彼女と直接話した者によれば、あちらから手を差しべてくれたとのことだ。
 我らの内情を知ってなお、停戦のために骨を折って下さっておる。感謝にえぬ」
『……そうか』

 クリスは低く答えて――何故か顔を覆って嘆く。

『そうかぁ~~~……』
「なぜ落ち込む!?」
『いや……そんなこととも知らずに、執務室に斬り込むところだったというか……』
「また物騒な」
『ううう』

 クリスが頭を抱えてうめいた、そのときだった。

「落ち込まないでください」

 割って入った声に、オーガと人間の視線が集まる。
 どこか焦点の合わない目を、エイジがクリスに向けていた。
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