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第1章 納車編 あるいは雪上スピードウェイ
第14話 されど別離は訪れぬ。なお
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「では、我らこれにて御免」
カルパッチョ講座からのオムライスで、オーガさんたちに喜んでもらった後。
雪原に整列した部隊の皆さんを前に、俺はイ=バさんと握手する。
大きく、硬く、力強い掌は、俺の五体に安心と勇気を流し込んでくれるようだった。
見上げる俺に、イ=バさんはニカッと笑ってみせて、
「次なる任に向かいまする。
エイジ=マトバ殿、御身と縁を結べたこと、我ら生涯の誉れといたしますぞ」
「……また会えますよね?」
「必ずや。
次はいずこかの都大路にて、誰にはばかることなく酌み交わしましょうぞ」
掌が離れる。
約束を残し、颯爽と去って行くオーガさんたちを、俺は深い敬意とともに見送って――
「私も戻らねばな」
「え」
背後の車内から聞こえた声に、びっくりして振り向いてしまう。
助手席に収まったクリスさんは、そんな俺を見て笑ってくれた。フィリアさんの剣をボールごと大事に抱えながら。
「そんな顔をしてくれるのか。
……間違えた。
そんな顔をしてくれるな。
≪空間跳躍≫に必要な魔石が集まったそうでな。早く帰らないと怒られてしまう」
そういえばそういう話だったと、俺はようやく思い出す。
クリスさんはもともと、王都で謹慎中の身だ。ここにいるのがバレたら、怒られるどころでは済まないだろう。
むしろ尻を蹴ってでも送り帰すべきだ。
そんなことは百も承知なのだが……。
(何だろうこれ。すげえ残念)
ツンと沁みるような感覚に戸惑う。
どうも俺は、自分で思ってる以上にこの人に懐いているらしい。何しろお世話になりっぱなしだから、当たり前と言えば当たり前か。
とはいえ、二十代の大人を自認する身としてはここはかっこつけておきたい。
どうしよう、肩を竦めて苦笑いでもすればクールに決まるかな?
「今日中にはまた通信で顔を出す」
せっかくかっこつけプランを立てたのに、そんな情報でホッとしてしまう。
また顔に出たと思ったが、意外にもクリスさんはそれを見逃したようだった。
むしろあっちの方がソワソワして、ひどく不本意げな顔をしている。
「正直、私はここにいたいんだが……今後について召喚師と話さねばならんのだ。
何しろ終戦工作なんて知りもしなかったからな私は。詳しいところを聞いておかないと」
「そーいえばそうでしたね……」
「人里への道だが、私が戻るまではひたすら街道を走っていなさい。
知らない者に声をかけられてもついて行ってはいけないぞ……と言いたいが、明らかに困っていそうなら助けてあげてほしい。
いや、それを装って不意を突く外道もいるからな。どうしたものか」
お母か。
「平気だよー」
何とも気楽に言ったのは、ベッドでごろごろしていたシロさん。
すっかりお気に入りのふかふか枕を抱き締めながら、にょきっと窓から顔だけ出して、
「エイジってクリスちゃんより強いから。
……『そうだっけ』みたいな顔しないのエイジ。あんだけ説明したでしょ」
「実感無くて」
「それくらいがいいのかもしれんな、エイジは。
……ええと、あと何か言っておくことは……」
いやもういいです。大丈夫です。
「ああ、雪を食べてはいけない。腹を壊す。
食べない? そうか。偉いな。
雪と言えば、夜には融けはじめる。白龍公が降らせるのをおやめになったから気温が上がるんだ。思いもよらないところに川が出来るから、休むときはなるべく高い場所でな。
ええと、それから」
『クリスぅ!!』
召喚師さんの怒号が聞こえた。通信を繋いで待っていたらしい。
『いつまで油売ってんのよ! このやや残念寄り騎士団長がァ!
あんたが執務室に突撃した件の誤魔化しがまだ済んでないのよ!
戻って来て協力しろ! つか自分でやれ! 今すぐ! なう!』
「わかってるわかってるから!
………待て。何だその『やや残念寄り騎士団長』って。
もしかして陰でみんなそんな風に……!?」
「はいはーい、帰ろうねクリスちゃーん」
青褪めるクリスさんに、シロさんがてくてく歩み寄る。
当たり前のようにクリスさんの膝に乗り、
「てゆーか、ボクが連れて帰ろっか。魔石使わないでいいからお得でしょ」
「!? 白龍公そのような。もったいなく……」
「ほら行くよー。高い所に出るからね。怪我しないで降りてねー」
「高……!? で、ではエイジ、また後で――」
クリスさんが最後まで言うより早く、二人の姿が掻き消えた。
ずいぶん大雑把な跳び方をしたようだが……大丈夫なんだろうか。『やや残念寄り騎士団長、城塔の屋根に墜落も軽傷!』みたいな噂を聞いたら笑うぞ。さすがに。
まあ、この雪原は人界の端っこらしいから、王都の近くを通る頃にはそんな噂も忘れられてそうだけど。
「……端っこ、ね」
ぽつりと、唇から漏れる。
車内に戻ってドアを閉めると、ひどく静かな空間がそこにあった。
静かで、広い。
こんなでっかいクルマを創ってしまったのかと、今さら自分に呆れてしまう。
オーガはともかく人族なら五、六人乗れて、四人は眠れるキャブコンバージョン。一人で乗るような車両ではない。
「やっぱ戦車にすりゃよかったかな」
今からでも改造できないだろうか。
そんなことを考えながら、冷凍庫を開ける。
さすがに小ぶりなそのスペースに、何とかという魚のカルパッチョ。
半分はクリスさんが捌いたもので見目麗しく、もう半分は俺が猿真似ででっちあげた……不揃いな形の、努力の跡だ。
クリスさんいわく、
『エイジが予想外にちゃんと出来てびっくりしてるぞ私は!
と言ってもお世辞にしか聞こえないだろうから、後で見返してみるといい。
私の言ってる意味がわかるはずだ』
「確かに、思ったより……」
作った直後の印象よりはだいぶ整っていたので、俺もびっくりしてしまう。まあまあやるな俺。
クリスさん、こうやって部下の皆さんにも自信をつけさせているんだろうか。だとしたら偉い。その点に限ってはぜんぜん残念寄りじゃない。
あとできちんと伝えよう。
「出来れば……今伝えたいんだけどなー……」
今は誰も座っていない、助手席の方に目をやって――そこで初めて、差し込む陽の色が茜に変わっていることを知る。
おい勘弁しろ。一日を終えてホッとしたい気分じゃないぞこっちは。
「友だち誘って飲みに行くのが好きな人は、いつもこういう気持ちになるのかねえ……」
わざと独り言を言いながら、運転席に戻ってアクセルを踏む。走ってた方が気がまぎれそうだ。
山の端にかかる夕陽を目がけ、発進。石畳が貫く雪原もまたきらきらと朱に染め抜かれ、光の中に飛び込むような錯覚を抱く。おお、ファンタジック。こんなの初めてだ。十勝平野とか走ったら似たような感じになるのかな?
「北海道。北海道か」
そういえば、一度も行ったこと無かったな。十勝のチーズとか豚丼とか、食べてみたかったんだけど。ああ、食べてたらこっちで創って、みんなに振る舞うことも出来たのに。惜しいことをしたもんだ。
「横須賀は行ったから、例のカレー再現できるかなー……お口に合いますか、皆さん」
「えー食べたーい」
「おおっ!?」
いきなり横から飛んで来た声に、危うくハンドルをぶん回しかける。
昼間のクリスさんといい、この世界の連中は運転手への配慮がなっていない。マジで危険だからやめてください。
そんな風に内心ぼやきつつ見れば、助手席に純白の少女が座っていた。
先ほどクリスさんを送って行った、人の形をとった龍。
「シロさん!?」
予想もしなかった再訪に、思わず声を弾ませる。
「戻って来てくれたんですか!?」
「当たり前じゃん?」
シロさんは「何を今さら」というように、呆れた顔を見せてから――
はた、と何かに気づいた様子で、
「いや、別に当たり前じゃないね?
なんかあまりにも居心地いいから……ダメ?」
「とんでもないです!」
自分でもわかるほど浮かれながら、首を振る。
いつまでだっていてほしい。お気に入りのベッドはあなたのものです。
大喜びでそう伝えたが……待て。いつまでもはマズいんじゃないか。
だって、中身は龍でもガワはこの通りの女の子だ。
しかも車内にいる限りパワーは見た目通りだというし、非常に……非常に問題が多いのでは?
それを解決できるとしたら、
「シロさん!」
「かつてないほどマジ顔でどしたの」
「ガワは男にしません?」
「やだ」
「ちいっ!」
それはそうか。シロさん的には、せっかく上手に盛れたメイクを崩すのは嫌に決まっている。
そうなると……これはアレか。俺がシンプルに我慢するヤツか……。
「……エイジが何を心配してるか手に取るようにわかるんだけど」
マジですかシロさん。
恐る恐る助手席を見ると、シロさんはファンタジックな薄手のドレスの上から普通にシートベルトを締めていた。何て野暮、いやアンバランスな絵面。理性を保てる希望が見えてきた。
「別に気にしなくていいと思うよ。
ボク的には人類に触られるのは子猫と戯れるのと一緒だし、龍ってキミたちと普通に交わるだけじゃ子ども出来ないし」
「俺の理性と絵面の問題なんです!」
「理性よりも獣性の方が、生命の本質に近いものだと思うけど」
「その通りなんですけど!
理性で獣性を上手に飼い慣らして社会秩序を保つのが正しいと、現代日本を生きる身としては」
「生きづらい子だなあ。
まー、その辺悩むのは明日からでいいよ。今日はもう限界でしょ」
「へ?」
どういうことかと、尋ねようとしたその瞬間。
「――くぁ」
我知らず、俺は思いっきり欠伸していた。
眠い。今の今まで頭ははっきりしていたはずなのに、猛烈な眠気が押し寄せる。
何だこれは――って、そうか。魔力切れか。忘れてた。
いっぱい魔法使ったからなあ……と、遠ざかる意識の中で呑気なことを考えてから、
「………!!」
ようやく、とんでもないことに気づく。
運転中だ俺!
シャレにならねえ。許されねえ。居眠り運転とか一発で免停だ。
ここは異世界だから、自分で自分に免停しないと。二度と運転しないと誓わないと。
ブレーキを踏もうと――せめてアクセルから足を離そうともがくが、まったく力が入らない。アクセルペダルに触れているはずの足裏の感覚がもう遠い。
「エイジ? エイジ?
なんかあまりに堅苦し過ぎる努力をしようとしてない?
ここ人界の果てだよ?
寝ながら朝までぶっ飛ばしたって、ぶつかる人もモノも無いんだよ」
わかってますけど、昨日までゴールド免許だった身としては魂が許さねえっていうか。
「くぬっ……!」
とにかく、アクセルを絶対踏まない姿勢を取らねばならない。
俺はその一心で、何とかシートベルトを外し、そのまま床にダイブして――
ごん
意識が闇に落ちたのは、とうとう睡魔に屈したせいか、頭からもろにイッたせいだったか。
居眠り運転してなきゃ、何でもいい。
カルパッチョ講座からのオムライスで、オーガさんたちに喜んでもらった後。
雪原に整列した部隊の皆さんを前に、俺はイ=バさんと握手する。
大きく、硬く、力強い掌は、俺の五体に安心と勇気を流し込んでくれるようだった。
見上げる俺に、イ=バさんはニカッと笑ってみせて、
「次なる任に向かいまする。
エイジ=マトバ殿、御身と縁を結べたこと、我ら生涯の誉れといたしますぞ」
「……また会えますよね?」
「必ずや。
次はいずこかの都大路にて、誰にはばかることなく酌み交わしましょうぞ」
掌が離れる。
約束を残し、颯爽と去って行くオーガさんたちを、俺は深い敬意とともに見送って――
「私も戻らねばな」
「え」
背後の車内から聞こえた声に、びっくりして振り向いてしまう。
助手席に収まったクリスさんは、そんな俺を見て笑ってくれた。フィリアさんの剣をボールごと大事に抱えながら。
「そんな顔をしてくれるのか。
……間違えた。
そんな顔をしてくれるな。
≪空間跳躍≫に必要な魔石が集まったそうでな。早く帰らないと怒られてしまう」
そういえばそういう話だったと、俺はようやく思い出す。
クリスさんはもともと、王都で謹慎中の身だ。ここにいるのがバレたら、怒られるどころでは済まないだろう。
むしろ尻を蹴ってでも送り帰すべきだ。
そんなことは百も承知なのだが……。
(何だろうこれ。すげえ残念)
ツンと沁みるような感覚に戸惑う。
どうも俺は、自分で思ってる以上にこの人に懐いているらしい。何しろお世話になりっぱなしだから、当たり前と言えば当たり前か。
とはいえ、二十代の大人を自認する身としてはここはかっこつけておきたい。
どうしよう、肩を竦めて苦笑いでもすればクールに決まるかな?
「今日中にはまた通信で顔を出す」
せっかくかっこつけプランを立てたのに、そんな情報でホッとしてしまう。
また顔に出たと思ったが、意外にもクリスさんはそれを見逃したようだった。
むしろあっちの方がソワソワして、ひどく不本意げな顔をしている。
「正直、私はここにいたいんだが……今後について召喚師と話さねばならんのだ。
何しろ終戦工作なんて知りもしなかったからな私は。詳しいところを聞いておかないと」
「そーいえばそうでしたね……」
「人里への道だが、私が戻るまではひたすら街道を走っていなさい。
知らない者に声をかけられてもついて行ってはいけないぞ……と言いたいが、明らかに困っていそうなら助けてあげてほしい。
いや、それを装って不意を突く外道もいるからな。どうしたものか」
お母か。
「平気だよー」
何とも気楽に言ったのは、ベッドでごろごろしていたシロさん。
すっかりお気に入りのふかふか枕を抱き締めながら、にょきっと窓から顔だけ出して、
「エイジってクリスちゃんより強いから。
……『そうだっけ』みたいな顔しないのエイジ。あんだけ説明したでしょ」
「実感無くて」
「それくらいがいいのかもしれんな、エイジは。
……ええと、あと何か言っておくことは……」
いやもういいです。大丈夫です。
「ああ、雪を食べてはいけない。腹を壊す。
食べない? そうか。偉いな。
雪と言えば、夜には融けはじめる。白龍公が降らせるのをおやめになったから気温が上がるんだ。思いもよらないところに川が出来るから、休むときはなるべく高い場所でな。
ええと、それから」
『クリスぅ!!』
召喚師さんの怒号が聞こえた。通信を繋いで待っていたらしい。
『いつまで油売ってんのよ! このやや残念寄り騎士団長がァ!
あんたが執務室に突撃した件の誤魔化しがまだ済んでないのよ!
戻って来て協力しろ! つか自分でやれ! 今すぐ! なう!』
「わかってるわかってるから!
………待て。何だその『やや残念寄り騎士団長』って。
もしかして陰でみんなそんな風に……!?」
「はいはーい、帰ろうねクリスちゃーん」
青褪めるクリスさんに、シロさんがてくてく歩み寄る。
当たり前のようにクリスさんの膝に乗り、
「てゆーか、ボクが連れて帰ろっか。魔石使わないでいいからお得でしょ」
「!? 白龍公そのような。もったいなく……」
「ほら行くよー。高い所に出るからね。怪我しないで降りてねー」
「高……!? で、ではエイジ、また後で――」
クリスさんが最後まで言うより早く、二人の姿が掻き消えた。
ずいぶん大雑把な跳び方をしたようだが……大丈夫なんだろうか。『やや残念寄り騎士団長、城塔の屋根に墜落も軽傷!』みたいな噂を聞いたら笑うぞ。さすがに。
まあ、この雪原は人界の端っこらしいから、王都の近くを通る頃にはそんな噂も忘れられてそうだけど。
「……端っこ、ね」
ぽつりと、唇から漏れる。
車内に戻ってドアを閉めると、ひどく静かな空間がそこにあった。
静かで、広い。
こんなでっかいクルマを創ってしまったのかと、今さら自分に呆れてしまう。
オーガはともかく人族なら五、六人乗れて、四人は眠れるキャブコンバージョン。一人で乗るような車両ではない。
「やっぱ戦車にすりゃよかったかな」
今からでも改造できないだろうか。
そんなことを考えながら、冷凍庫を開ける。
さすがに小ぶりなそのスペースに、何とかという魚のカルパッチョ。
半分はクリスさんが捌いたもので見目麗しく、もう半分は俺が猿真似ででっちあげた……不揃いな形の、努力の跡だ。
クリスさんいわく、
『エイジが予想外にちゃんと出来てびっくりしてるぞ私は!
と言ってもお世辞にしか聞こえないだろうから、後で見返してみるといい。
私の言ってる意味がわかるはずだ』
「確かに、思ったより……」
作った直後の印象よりはだいぶ整っていたので、俺もびっくりしてしまう。まあまあやるな俺。
クリスさん、こうやって部下の皆さんにも自信をつけさせているんだろうか。だとしたら偉い。その点に限ってはぜんぜん残念寄りじゃない。
あとできちんと伝えよう。
「出来れば……今伝えたいんだけどなー……」
今は誰も座っていない、助手席の方に目をやって――そこで初めて、差し込む陽の色が茜に変わっていることを知る。
おい勘弁しろ。一日を終えてホッとしたい気分じゃないぞこっちは。
「友だち誘って飲みに行くのが好きな人は、いつもこういう気持ちになるのかねえ……」
わざと独り言を言いながら、運転席に戻ってアクセルを踏む。走ってた方が気がまぎれそうだ。
山の端にかかる夕陽を目がけ、発進。石畳が貫く雪原もまたきらきらと朱に染め抜かれ、光の中に飛び込むような錯覚を抱く。おお、ファンタジック。こんなの初めてだ。十勝平野とか走ったら似たような感じになるのかな?
「北海道。北海道か」
そういえば、一度も行ったこと無かったな。十勝のチーズとか豚丼とか、食べてみたかったんだけど。ああ、食べてたらこっちで創って、みんなに振る舞うことも出来たのに。惜しいことをしたもんだ。
「横須賀は行ったから、例のカレー再現できるかなー……お口に合いますか、皆さん」
「えー食べたーい」
「おおっ!?」
いきなり横から飛んで来た声に、危うくハンドルをぶん回しかける。
昼間のクリスさんといい、この世界の連中は運転手への配慮がなっていない。マジで危険だからやめてください。
そんな風に内心ぼやきつつ見れば、助手席に純白の少女が座っていた。
先ほどクリスさんを送って行った、人の形をとった龍。
「シロさん!?」
予想もしなかった再訪に、思わず声を弾ませる。
「戻って来てくれたんですか!?」
「当たり前じゃん?」
シロさんは「何を今さら」というように、呆れた顔を見せてから――
はた、と何かに気づいた様子で、
「いや、別に当たり前じゃないね?
なんかあまりにも居心地いいから……ダメ?」
「とんでもないです!」
自分でもわかるほど浮かれながら、首を振る。
いつまでだっていてほしい。お気に入りのベッドはあなたのものです。
大喜びでそう伝えたが……待て。いつまでもはマズいんじゃないか。
だって、中身は龍でもガワはこの通りの女の子だ。
しかも車内にいる限りパワーは見た目通りだというし、非常に……非常に問題が多いのでは?
それを解決できるとしたら、
「シロさん!」
「かつてないほどマジ顔でどしたの」
「ガワは男にしません?」
「やだ」
「ちいっ!」
それはそうか。シロさん的には、せっかく上手に盛れたメイクを崩すのは嫌に決まっている。
そうなると……これはアレか。俺がシンプルに我慢するヤツか……。
「……エイジが何を心配してるか手に取るようにわかるんだけど」
マジですかシロさん。
恐る恐る助手席を見ると、シロさんはファンタジックな薄手のドレスの上から普通にシートベルトを締めていた。何て野暮、いやアンバランスな絵面。理性を保てる希望が見えてきた。
「別に気にしなくていいと思うよ。
ボク的には人類に触られるのは子猫と戯れるのと一緒だし、龍ってキミたちと普通に交わるだけじゃ子ども出来ないし」
「俺の理性と絵面の問題なんです!」
「理性よりも獣性の方が、生命の本質に近いものだと思うけど」
「その通りなんですけど!
理性で獣性を上手に飼い慣らして社会秩序を保つのが正しいと、現代日本を生きる身としては」
「生きづらい子だなあ。
まー、その辺悩むのは明日からでいいよ。今日はもう限界でしょ」
「へ?」
どういうことかと、尋ねようとしたその瞬間。
「――くぁ」
我知らず、俺は思いっきり欠伸していた。
眠い。今の今まで頭ははっきりしていたはずなのに、猛烈な眠気が押し寄せる。
何だこれは――って、そうか。魔力切れか。忘れてた。
いっぱい魔法使ったからなあ……と、遠ざかる意識の中で呑気なことを考えてから、
「………!!」
ようやく、とんでもないことに気づく。
運転中だ俺!
シャレにならねえ。許されねえ。居眠り運転とか一発で免停だ。
ここは異世界だから、自分で自分に免停しないと。二度と運転しないと誓わないと。
ブレーキを踏もうと――せめてアクセルから足を離そうともがくが、まったく力が入らない。アクセルペダルに触れているはずの足裏の感覚がもう遠い。
「エイジ? エイジ?
なんかあまりに堅苦し過ぎる努力をしようとしてない?
ここ人界の果てだよ?
寝ながら朝までぶっ飛ばしたって、ぶつかる人もモノも無いんだよ」
わかってますけど、昨日までゴールド免許だった身としては魂が許さねえっていうか。
「くぬっ……!」
とにかく、アクセルを絶対踏まない姿勢を取らねばならない。
俺はその一心で、何とかシートベルトを外し、そのまま床にダイブして――
ごん
意識が闇に落ちたのは、とうとう睡魔に屈したせいか、頭からもろにイッたせいだったか。
居眠り運転してなきゃ、何でもいい。
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