キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ

文字の大きさ
16 / 23
第2章 邂逅編 あるいは花畑スカイビュー

第16話 葬送の花、眠れる英傑

しおりを挟む
「行き倒れぇ!?」

 残雪ざんせつなお白きみね中腹ちゅうふくを、ブレーキ音が激しく揺るがす。恐らくはこの世界が始まって初めて。

 人が倒れてる――シロさんは確かにそう言った。
 俺も窓から身を乗り出して見回すが、周囲の雪と木々に邪魔されてよく見えない。
 まずい。
 雪の中に倒れているなら、誇張こちょう抜きで一秒が生死を分ける。

「そこの木の陰!」

 指差され、クルマから飛び出す俺に、シロさんは必死の声で車内から、

「違うよ、その隣!
 エイジほら、肉眼だけに頼らないで! 魔力の流れを感じて……ってごめん! 魔力感知器官ないのか人類には!
 任せて! ボク行く!」
『おいシロ!?』
「シロさん!? それはマズ――」

 俺とクリスさんが止めるより早く、シロさんは開け放った窓から身を乗り出して、

 ゴウッ!!

 上半身を突き出す動きで巻き起こった激風が、目の前の木立こだちを数本まとめてへし折った!

「あっ」

 という誰か――全員だ、多分――の声は、木々が吹き飛ぶ轟音に消えた。
 けれど、みんな見たはずだ。
 木々と一緒に宙を舞う、行き倒れさんのミサイルみたいな飛びっぷりを。

「あーごめーん!?」

 そう叫びかけたシロさんが、「ご」と「め」の間あたりで自ら口をふさいだ。
 ナイスですシロさん。おかげで追加の被害が木立三本で済みました。行き倒れさんもプラス十メートルほど転がっていったけど。

「俺が行きますから! まかせて!」

 声をかけると、車内に引っ込んだシロさんが「お願い!」とばかりに手を合わせてきた。昨日から思ってたけど、仕草が日本人っぽいなこの龍。
 ――なお、そんなシロさんの隣で、クリスさんが唇をぎゅーっと噛み締めていた。
 言いたいことはわかりますクリスさん。「危険人物かもしれないからエイジには行かせたくないが、この場合はやむを得ない。いやしかし」って感じでしょう。
 ご心配なく。しっかり体を複合装甲にしてから行きますから。
 もし行き倒れさんが複合装甲をブチ抜くほどの猛者だったら、そっちと一緒に世界を平和にしてください。あと、そろそろ血が出るから噛むのをおやめなさい。

「大丈夫ですかー!?」

 行き倒れさんに呼びかけながら、急いでそちらに駆け寄った。
 折れた木の幹にもたれて白目をいているのは、どうも女性のようだった。死んでいないか――シロさんにトドメを刺されて――と心配したが、マント越しに見える豊かなお胸はしきりに痙攣けいれんし、彼女のが一応健在だと示している。
 良かった。生きていること自体は素晴らしい。
 とにかく体を温めてもらおうと、俺は湯たんぽを辺りの土から創造し――

「………!?」

 その手を止める。
 知らず、見開く俺の目は――手が届くほど近づいた、彼女の首筋に釘付けになった。 

 ――花のつぼみ

 首の中ほど、大動脈から生えた太いくきに支えられ、野球ボールほどの巨大な蕾が当然のような顔で揺れていた。


 ◇ ◇ ◇


『ミラージュ・ダリアか』

 ベッドに寝かせたを見下ろして、クリスさんが目を細める。
 言うまでもなく、首から伸びた蕾のことだろう。
 恐らくはこの世界特有の品種。少なくとも2025年の地球上に、人間の大動脈から咲く植物は存在しない。してたまるか。
 
「どういうものなんです!?」
『暗殺用の人造花じんぞうかだ』
「暗殺!?」

 予想以上にえげつない答えに、腰を抜かすほど動転する。
 暗殺――その言葉は、現代の日本を生きる俺にとっては歴史かフィクションの中だけのものだ。それが目の前に現れたという、その実感に背筋が冷える。喉は干上がり、心臓が暴れる。
 対してクリスさんはごく淡々と、

『百年近く前のものだよ。
 呼吸器や肌を通じて体内にもぐり込んだタネが、宿主やどぬしの魔力と血を吸って育ち――最後は一気に命すべてを吸い尽くして開花する。おぞましい深紅しんくのダリアがな』
「趣味が悪すぎませんか!?」
『だからすぐすたれた』
「マジですか」
『ウソだ』
「ちょっと!?」

 思わずクリスさんをにらむ俺。
 人が真面目にビビってるときに、そういう冗談は良くないと思います。
 おいこっち見ろ。いや、こっちはいい。蕾をちゃんと見ろ。見た上で、この人を助けるための指示をくれ。
 せっかくここにはスキル≪物質変換≫の使い手がいるんだ。薬くらい創造つくれるかもしれない。
 だが――時間は無さそうだった。
 ダリアの蕾はすっかり膨らみきっている。
 小学校の自由研究で、アサガオが開花する瞬間を動画に収めようと夜明け前から粘ったことがあるが……あのときと同じだとしたら、

「ダリアが咲くまで二時間もありませんよ!?」
『いや咲かないだろ。二百年経っても』
「……へ?」
『ん?』

 何を言われたかわからない――という顔で、クリスさんがこっちを見る。
 な、何ですか。それはこっちの顔じゃないんですか。

『え、だって。
 大丈夫だし』
「だから何で!?」
『クルマにかつぎ込めたからだが……』
「……あ」

 言われて、ようやく思い至った。
 そうだった。シロさんによれば、このキャンピングカーの車内では俺の望まないことは起きない。
 つまり、こうして寝かせている限りダリアの花は永遠に咲かない……?

「……よ、良かったぁぁ……」
「何、忘れてたの?」

 クスクス笑いながら、シロさんが覗き込んでくる。クリスさんも呆れて苦笑いだ。ごめんなさい。慌てちゃってほんとごめんなさい。

「まー、今思い出せてよかったよエイジ」

 ひじでこっちを小突こづきつつ、シロさんはそんなことを言う。行き倒れさんを目で示し、

「大事なのは、これから助けてあげる人を安心させることだから。
 この子が起きたら、余裕たっぷりで説明してあげてね。『ここにいれば大丈夫』って」
「……出来るかなぁ」

 不安だ。
 クルマを走らせることはともかく、車内空間の性質については自分の力だという実感が無い――今後も持てる気がしない。今の気分のまま説明すると、聞く人をかえって不安にさせそうだ。
 何か手本が欲しいところだが……おお、そうだ。

「他人の成果を自分の功績のように語るのはつとめ先の上司の特技だったんですが、あれを参考に」
『するな汚らわしい』
「キ・ミ・の・力だって言ってるでしょーが。
 ……あーもー泣きそうな顔しないの。わかったから。当分ボクたちが説明するから」

 ありがとうございます。お二人から学ばせて頂きます。

『では、しかるべき文言もんごんを考えておかねばな』

 極めて真面目な調子で、クリスさんがそんなことを言う。

『誰もがエイジを畏怖いふし、あがめ、このクルマを見ればおのずからその場にひれ伏すような』

 あ、あんまり威圧的なのはちょっと……。

『キミだけのためではないんだよエイジ。
 この者をキミに心服しんぷくさせれば、我々の終戦工作に多少とも活きる』

 言われ、俺は改めて思い出す。
 クリスさんやイ=バさんたち、人魔じんま共同の終戦工作。それは、俺がこのキャンピングカーで世界を平和に旅することで、その姿を見た者たちの士気をくじくというものだった。
 先陣を切って戦うはずの異世界召喚者が、戦場を横目にのほほんとロードムービーしている姿を見せるのだ。両陣営の厭戦えんせん気分が極めて高まっている今なら、これがトドメのひと押しになる。

『この女性が何者かはまだわからないが』

 と、クリスさんは行き倒れ女史じょしの寝顔を見詰めて、

『暗殺の対象になっている時点で、影響力があるのは間違いない。利用させてもらう。
 ミラージュ・ダリアを駆逐できる魔導医は珍しくないんだ。そこまで運んで、それから……』
「あ、お医者には治せないと思う」

 気軽な調子で言うシロさんに、俺とクリスさんの視線が集まる。
 白龍は蕾に指で触れつつ、しれっと、

「このダリア、特別製みたいだから。
 見た目は一緒だけど、昔使われてたものとは吸い上げる魔力量が違うね」
『何だと!?
 ち、違うとはどの程度』
「鶏小屋とお城くらい」
『遠すぎて逆にわからん!?』

 全く同感だが、この世界の現代医学ではどうしようもないことは伝わる。
 そして、伝わったからこそ湧く疑問もある――

「そんなに魔力を吸われても生きてるこの人は、何者なんでしょうか……?」
「『………』」

 寝顔をのぞき込みつつ言う俺に、二人は答えてくれなかった。それどころか。

『さらに言うなら』

 神妙な顔で、クリスさん。な、何ですか。疑問に疑問を上乗せする気ですか。

『その状態で、こんな人界じんかいの果てまで辿たどり着いているのも異常だ。
 一番近い砦まで、通常行軍で十日は歩く。
 一般的なミラージュダリアは体内侵入から七日で開花するというのに』
「………」

 混乱と畏怖で半ば頭を真っ白にしつつ、俺は改めて行き倒れさんを見下ろした。
 目を閉じ、ダリアの影響で血の気が引いていてもなお、彼女のはシロさんやクリスさんにも劣らないほど美しい。二人のそれとはおもむきの違う、鋭く豪快で、高笑いの似合いそうな造作ぞうさく。寝顔でもわかる英傑の面構つらがまえだ。
 そんな美貌が、腰まで届く黒髪になかば覆われ、二メートル近い長躯ちょうくの上に君臨している。俺個人の感想になるが、これは確かにどこぞの王侯か、超絶的な力をもった英雄豪傑と言われても驚かない。
 しかし、だとしたら――

「クリスさんに心当たりがあるんじゃ?」
『私もそう思ったんだが』

 悔しそうに首を振るクリスさん。

『やはり知らん。
 人類はもちろんとして、魔族でもそれほどの猛者なら噂くらいは届くはずだが』

 だとしたら何者か。例えば――と、俺が頭を巡らせかけたとき。

「……むぅ」

 大きな蕾のかたわらで、眠れる英傑が小さく呻く。

「『「!」』」

 一斉に見やる俺たちにこたえるように、彼女はゆっくりと目を開けた。
 見るもの全てを吸い込むような、深い深い紫の瞳に、俺は不覚にも一瞬、見惚れる。
 その瞳が、めいっぱいに見開かれた。信じられないものを見たように。
 そのまま、英傑が口を開く。

「視界の美人率が高すぎるが……ここは天国か?」

 何だこいつ。
 あとごめんね、美人率下げちゃって。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...