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第2章 邂逅編 あるいは花畑スカイビュー
第16話 葬送の花、眠れる英傑
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「行き倒れぇ!?」
残雪なお白き嶺の中腹を、ブレーキ音が激しく揺るがす。恐らくはこの世界が始まって初めて。
人が倒れてる――シロさんは確かにそう言った。
俺も窓から身を乗り出して見回すが、周囲の雪と木々に邪魔されてよく見えない。
まずい。
雪の中に倒れているなら、誇張抜きで一秒が生死を分ける。
「そこの木の陰!」
指差され、クルマから飛び出す俺に、シロさんは必死の声で車内から、
「違うよ、その隣!
エイジほら、肉眼だけに頼らないで! 魔力の流れを感じて……ってごめん! 魔力感知器官ないのか人類には!
任せて! ボク行く!」
『おいシロ!?』
「シロさん!? それはマズ――」
俺とクリスさんが止めるより早く、シロさんは開け放った窓から身を乗り出して、
轟ッ!!
上半身を突き出す動きで巻き起こった激風が、目の前の木立を数本まとめてへし折った!
「あっ」
という誰か――全員だ、多分――の声は、木々が吹き飛ぶ轟音に消えた。
けれど、みんな見たはずだ。
木々と一緒に宙を舞う、行き倒れさんのミサイルみたいな飛びっぷりを。
「あーごめーん!?」
そう叫びかけたシロさんが、「ご」と「め」の間あたりで自ら口をふさいだ。
ナイスですシロさん。おかげで追加の被害が木立三本で済みました。行き倒れさんもプラス十メートルほど転がっていったけど。
「俺が行きますから! まかせて!」
声をかけると、車内に引っ込んだシロさんが「お願い!」とばかりに手を合わせてきた。昨日から思ってたけど、仕草が日本人っぽいなこの龍。
――なお、そんなシロさんの隣で、クリスさんが唇をぎゅーっと噛み締めていた。
言いたいことはわかりますクリスさん。「危険人物かもしれないからエイジには行かせたくないが、この場合はやむを得ない。いやしかし」って感じでしょう。
ご心配なく。しっかり体を複合装甲にしてから行きますから。
もし行き倒れさんが複合装甲をブチ抜くほどの猛者だったら、そっちと一緒に世界を平和にしてください。あと、そろそろ血が出るから噛むのをおやめなさい。
「大丈夫ですかー!?」
行き倒れさんに呼びかけながら、急いでそちらに駆け寄った。
折れた木の幹にもたれて白目を剥いているのは、どうも女性のようだった。死んでいないか――シロさんにトドメを刺されて――と心配したが、マント越しに見える豊かなお胸はしきりに痙攣し、彼女のが一応健在だと示している。
良かった。生きていること自体は素晴らしい。
とにかく体を温めてもらおうと、俺は湯たんぽを辺りの土から創造し――
「………!?」
その手を止める。
知らず、見開く俺の目は――手が届くほど近づいた、彼女の首筋に釘付けになった。
――花の蕾。
首の中ほど、大動脈から生えた太い茎に支えられ、野球ボールほどの巨大な蕾が当然のような顔で揺れていた。
◇ ◇ ◇
『ミラージュ・ダリアか』
ベッドに寝かせた行き倒れさんを見下ろして、クリスさんが目を細める。
言うまでもなく、首から伸びた蕾のことだろう。
恐らくはこの世界特有の品種。少なくとも2025年の地球上に、人間の大動脈から咲く植物は存在しない。してたまるか。
「どういうものなんです!?」
『暗殺用の人造花だ』
「暗殺!?」
予想以上にえげつない答えに、腰を抜かすほど動転する。
暗殺――その言葉は、現代の日本を生きる俺にとっては歴史かフィクションの中だけのものだ。それが目の前に現れたという、その実感に背筋が冷える。喉は干上がり、心臓が暴れる。
対してクリスさんはごく淡々と、
『百年近く前のものだよ。
呼吸器や肌を通じて体内に潜り込んだ種が、宿主の魔力と血を吸って育ち――最後は一気に命すべてを吸い尽くして開花する。おぞましい深紅のダリアがな』
「趣味が悪すぎませんか!?」
『だからすぐ廃れた』
「マジですか」
『ウソだ』
「ちょっと!?」
思わずクリスさんを睨む俺。
人が真面目にビビってるときに、そういう冗談は良くないと思います。
おいこっち見ろ。いや、こっちはいい。蕾をちゃんと見ろ。見た上で、この人を助けるための指示をくれ。
せっかくここにはスキル≪物質変換≫の使い手がいるんだ。薬くらい創造れるかもしれない。
だが――時間は無さそうだった。
ダリアの蕾はすっかり膨らみきっている。
小学校の自由研究で、アサガオが開花する瞬間を動画に収めようと夜明け前から粘ったことがあるが……あのときと同じだとしたら、
「ダリアが咲くまで二時間もありませんよ!?」
『いや咲かないだろ。二百年経っても』
「……へ?」
『ん?』
何を言われたかわからない――という顔で、クリスさんがこっちを見る。
な、何ですか。それはこっちの顔じゃないんですか。
『え、だって。
大丈夫だし』
「だから何で!?」
『クルマに担ぎ込めたからだが……』
「……あ」
言われて、ようやく思い至った。
そうだった。シロさんによれば、このキャンピングカーの車内では俺の望まないことは起きない。
つまり、こうして寝かせている限りダリアの花は永遠に咲かない……?
「……よ、良かったぁぁ……」
「何、忘れてたの?」
クスクス笑いながら、シロさんが覗き込んでくる。クリスさんも呆れて苦笑いだ。ごめんなさい。慌てちゃってほんとごめんなさい。
「まー、今思い出せてよかったよエイジ」
肘でこっちを小突きつつ、シロさんはそんなことを言う。行き倒れさんを目で示し、
「大事なのは、これから助けてあげる人を安心させることだから。
この子が起きたら、余裕たっぷりで説明してあげてね。『ここにいれば大丈夫』って」
「……出来るかなぁ」
不安だ。
クルマを走らせることはともかく、車内空間の性質については自分の力だという実感が無い――今後も持てる気がしない。今の気分のまま説明すると、聞く人をかえって不安にさせそうだ。
何か手本が欲しいところだが……おお、そうだ。
「他人の成果を自分の功績のように語るのは勤め先の上司の特技だったんですが、あれを参考に」
『するな汚らわしい』
「キ・ミ・の・力だって言ってるでしょーが。
……あーもー泣きそうな顔しないの。わかったから。当分ボクたちが説明するから」
ありがとうございます。お二人から学ばせて頂きます。
『では、然るべき文言を考えておかねばな』
極めて真面目な調子で、クリスさんがそんなことを言う。
『誰もがエイジを畏怖し、崇め、このクルマを見れば自ずからその場にひれ伏すような』
あ、あんまり威圧的なのはちょっと……。
『キミだけのためではないんだよエイジ。
この者をキミに心服させれば、我々の終戦工作に多少とも活きる』
言われ、俺は改めて思い出す。
クリスさんやイ=バさんたち、人魔共同の終戦工作。それは、俺がこのキャンピングカーで世界を平和に旅することで、その姿を見た者たちの士気を挫くというものだった。
先陣を切って戦うはずの異世界召喚者が、戦場を横目にのほほんとロードムービーしている姿を見せるのだ。両陣営の厭戦気分が極めて高まっている今なら、これがトドメのひと押しになる。
『この女性が何者かはまだわからないが』
と、クリスさんは行き倒れ女史の寝顔を見詰めて、
『暗殺の対象になっている時点で、影響力があるのは間違いない。利用させてもらう。
ミラージュ・ダリアを駆逐できる魔導医は珍しくないんだ。そこまで運んで、それから……』
「あ、お医者には治せないと思う」
気軽な調子で言うシロさんに、俺とクリスさんの視線が集まる。
白龍は蕾に指で触れつつ、しれっと、
「このダリア、特別製みたいだから。
見た目は一緒だけど、昔使われてたものとは吸い上げる魔力量が違うね」
『何だと!?
ち、違うとはどの程度』
「鶏小屋とお城くらい」
『遠すぎて逆にわからん!?』
全く同感だが、この世界の現代医学ではどうしようもないことは伝わる。
そして、伝わったからこそ湧く疑問もある――
「そんなに魔力を吸われても生きてるこの人は、何者なんでしょうか……?」
「『………』」
寝顔を覗き込みつつ言う俺に、二人は答えてくれなかった。それどころか。
『さらに言うなら』
神妙な顔で、クリスさん。な、何ですか。疑問に疑問を上乗せする気ですか。
『その状態で、こんな人界の果てまで辿り着いているのも異常だ。
一番近い砦まで、通常行軍で十日は歩く。
一般的なミラージュダリアは体内侵入から七日で開花するというのに』
「………」
混乱と畏怖で半ば頭を真っ白にしつつ、俺は改めて行き倒れさんを見下ろした。
目を閉じ、ダリアの影響で血の気が引いていてもなお、彼女のかんばせはシロさんやクリスさんにも劣らないほど美しい。二人のそれとは趣の違う、鋭く豪快で、高笑いの似合いそうな造作。寝顔でもわかる英傑の面構えだ。
そんな美貌が、腰まで届く黒髪に半ば覆われ、二メートル近い長躯の上に君臨している。俺個人の感想になるが、これは確かにどこぞの王侯か、超絶的な力をもった英雄豪傑と言われても驚かない。
しかし、だとしたら――
「クリスさんに心当たりがあるんじゃ?」
『私もそう思ったんだが』
悔しそうに首を振るクリスさん。
『やはり知らん。
人類はもちろんとして、魔族でもそれほどの猛者なら噂くらいは届くはずだが』
だとしたら何者か。例えば――と、俺が頭を巡らせかけたとき。
「……むぅ」
大きな蕾の傍らで、眠れる英傑が小さく呻く。
「『「!」』」
一斉に見やる俺たちに応えるように、彼女はゆっくりと目を開けた。
見るもの全てを吸い込むような、深い深い紫の瞳に、俺は不覚にも一瞬、見惚れる。
その瞳が、めいっぱいに見開かれた。信じられないものを見たように。
そのまま、英傑が口を開く。
「視界の美人率が高すぎるが……ここは天国か?」
何だこいつ。
あとごめんね、美人率下げちゃって。
残雪なお白き嶺の中腹を、ブレーキ音が激しく揺るがす。恐らくはこの世界が始まって初めて。
人が倒れてる――シロさんは確かにそう言った。
俺も窓から身を乗り出して見回すが、周囲の雪と木々に邪魔されてよく見えない。
まずい。
雪の中に倒れているなら、誇張抜きで一秒が生死を分ける。
「そこの木の陰!」
指差され、クルマから飛び出す俺に、シロさんは必死の声で車内から、
「違うよ、その隣!
エイジほら、肉眼だけに頼らないで! 魔力の流れを感じて……ってごめん! 魔力感知器官ないのか人類には!
任せて! ボク行く!」
『おいシロ!?』
「シロさん!? それはマズ――」
俺とクリスさんが止めるより早く、シロさんは開け放った窓から身を乗り出して、
轟ッ!!
上半身を突き出す動きで巻き起こった激風が、目の前の木立を数本まとめてへし折った!
「あっ」
という誰か――全員だ、多分――の声は、木々が吹き飛ぶ轟音に消えた。
けれど、みんな見たはずだ。
木々と一緒に宙を舞う、行き倒れさんのミサイルみたいな飛びっぷりを。
「あーごめーん!?」
そう叫びかけたシロさんが、「ご」と「め」の間あたりで自ら口をふさいだ。
ナイスですシロさん。おかげで追加の被害が木立三本で済みました。行き倒れさんもプラス十メートルほど転がっていったけど。
「俺が行きますから! まかせて!」
声をかけると、車内に引っ込んだシロさんが「お願い!」とばかりに手を合わせてきた。昨日から思ってたけど、仕草が日本人っぽいなこの龍。
――なお、そんなシロさんの隣で、クリスさんが唇をぎゅーっと噛み締めていた。
言いたいことはわかりますクリスさん。「危険人物かもしれないからエイジには行かせたくないが、この場合はやむを得ない。いやしかし」って感じでしょう。
ご心配なく。しっかり体を複合装甲にしてから行きますから。
もし行き倒れさんが複合装甲をブチ抜くほどの猛者だったら、そっちと一緒に世界を平和にしてください。あと、そろそろ血が出るから噛むのをおやめなさい。
「大丈夫ですかー!?」
行き倒れさんに呼びかけながら、急いでそちらに駆け寄った。
折れた木の幹にもたれて白目を剥いているのは、どうも女性のようだった。死んでいないか――シロさんにトドメを刺されて――と心配したが、マント越しに見える豊かなお胸はしきりに痙攣し、彼女のが一応健在だと示している。
良かった。生きていること自体は素晴らしい。
とにかく体を温めてもらおうと、俺は湯たんぽを辺りの土から創造し――
「………!?」
その手を止める。
知らず、見開く俺の目は――手が届くほど近づいた、彼女の首筋に釘付けになった。
――花の蕾。
首の中ほど、大動脈から生えた太い茎に支えられ、野球ボールほどの巨大な蕾が当然のような顔で揺れていた。
◇ ◇ ◇
『ミラージュ・ダリアか』
ベッドに寝かせた行き倒れさんを見下ろして、クリスさんが目を細める。
言うまでもなく、首から伸びた蕾のことだろう。
恐らくはこの世界特有の品種。少なくとも2025年の地球上に、人間の大動脈から咲く植物は存在しない。してたまるか。
「どういうものなんです!?」
『暗殺用の人造花だ』
「暗殺!?」
予想以上にえげつない答えに、腰を抜かすほど動転する。
暗殺――その言葉は、現代の日本を生きる俺にとっては歴史かフィクションの中だけのものだ。それが目の前に現れたという、その実感に背筋が冷える。喉は干上がり、心臓が暴れる。
対してクリスさんはごく淡々と、
『百年近く前のものだよ。
呼吸器や肌を通じて体内に潜り込んだ種が、宿主の魔力と血を吸って育ち――最後は一気に命すべてを吸い尽くして開花する。おぞましい深紅のダリアがな』
「趣味が悪すぎませんか!?」
『だからすぐ廃れた』
「マジですか」
『ウソだ』
「ちょっと!?」
思わずクリスさんを睨む俺。
人が真面目にビビってるときに、そういう冗談は良くないと思います。
おいこっち見ろ。いや、こっちはいい。蕾をちゃんと見ろ。見た上で、この人を助けるための指示をくれ。
せっかくここにはスキル≪物質変換≫の使い手がいるんだ。薬くらい創造れるかもしれない。
だが――時間は無さそうだった。
ダリアの蕾はすっかり膨らみきっている。
小学校の自由研究で、アサガオが開花する瞬間を動画に収めようと夜明け前から粘ったことがあるが……あのときと同じだとしたら、
「ダリアが咲くまで二時間もありませんよ!?」
『いや咲かないだろ。二百年経っても』
「……へ?」
『ん?』
何を言われたかわからない――という顔で、クリスさんがこっちを見る。
な、何ですか。それはこっちの顔じゃないんですか。
『え、だって。
大丈夫だし』
「だから何で!?」
『クルマに担ぎ込めたからだが……』
「……あ」
言われて、ようやく思い至った。
そうだった。シロさんによれば、このキャンピングカーの車内では俺の望まないことは起きない。
つまり、こうして寝かせている限りダリアの花は永遠に咲かない……?
「……よ、良かったぁぁ……」
「何、忘れてたの?」
クスクス笑いながら、シロさんが覗き込んでくる。クリスさんも呆れて苦笑いだ。ごめんなさい。慌てちゃってほんとごめんなさい。
「まー、今思い出せてよかったよエイジ」
肘でこっちを小突きつつ、シロさんはそんなことを言う。行き倒れさんを目で示し、
「大事なのは、これから助けてあげる人を安心させることだから。
この子が起きたら、余裕たっぷりで説明してあげてね。『ここにいれば大丈夫』って」
「……出来るかなぁ」
不安だ。
クルマを走らせることはともかく、車内空間の性質については自分の力だという実感が無い――今後も持てる気がしない。今の気分のまま説明すると、聞く人をかえって不安にさせそうだ。
何か手本が欲しいところだが……おお、そうだ。
「他人の成果を自分の功績のように語るのは勤め先の上司の特技だったんですが、あれを参考に」
『するな汚らわしい』
「キ・ミ・の・力だって言ってるでしょーが。
……あーもー泣きそうな顔しないの。わかったから。当分ボクたちが説明するから」
ありがとうございます。お二人から学ばせて頂きます。
『では、然るべき文言を考えておかねばな』
極めて真面目な調子で、クリスさんがそんなことを言う。
『誰もがエイジを畏怖し、崇め、このクルマを見れば自ずからその場にひれ伏すような』
あ、あんまり威圧的なのはちょっと……。
『キミだけのためではないんだよエイジ。
この者をキミに心服させれば、我々の終戦工作に多少とも活きる』
言われ、俺は改めて思い出す。
クリスさんやイ=バさんたち、人魔共同の終戦工作。それは、俺がこのキャンピングカーで世界を平和に旅することで、その姿を見た者たちの士気を挫くというものだった。
先陣を切って戦うはずの異世界召喚者が、戦場を横目にのほほんとロードムービーしている姿を見せるのだ。両陣営の厭戦気分が極めて高まっている今なら、これがトドメのひと押しになる。
『この女性が何者かはまだわからないが』
と、クリスさんは行き倒れ女史の寝顔を見詰めて、
『暗殺の対象になっている時点で、影響力があるのは間違いない。利用させてもらう。
ミラージュ・ダリアを駆逐できる魔導医は珍しくないんだ。そこまで運んで、それから……』
「あ、お医者には治せないと思う」
気軽な調子で言うシロさんに、俺とクリスさんの視線が集まる。
白龍は蕾に指で触れつつ、しれっと、
「このダリア、特別製みたいだから。
見た目は一緒だけど、昔使われてたものとは吸い上げる魔力量が違うね」
『何だと!?
ち、違うとはどの程度』
「鶏小屋とお城くらい」
『遠すぎて逆にわからん!?』
全く同感だが、この世界の現代医学ではどうしようもないことは伝わる。
そして、伝わったからこそ湧く疑問もある――
「そんなに魔力を吸われても生きてるこの人は、何者なんでしょうか……?」
「『………』」
寝顔を覗き込みつつ言う俺に、二人は答えてくれなかった。それどころか。
『さらに言うなら』
神妙な顔で、クリスさん。な、何ですか。疑問に疑問を上乗せする気ですか。
『その状態で、こんな人界の果てまで辿り着いているのも異常だ。
一番近い砦まで、通常行軍で十日は歩く。
一般的なミラージュダリアは体内侵入から七日で開花するというのに』
「………」
混乱と畏怖で半ば頭を真っ白にしつつ、俺は改めて行き倒れさんを見下ろした。
目を閉じ、ダリアの影響で血の気が引いていてもなお、彼女のかんばせはシロさんやクリスさんにも劣らないほど美しい。二人のそれとは趣の違う、鋭く豪快で、高笑いの似合いそうな造作。寝顔でもわかる英傑の面構えだ。
そんな美貌が、腰まで届く黒髪に半ば覆われ、二メートル近い長躯の上に君臨している。俺個人の感想になるが、これは確かにどこぞの王侯か、超絶的な力をもった英雄豪傑と言われても驚かない。
しかし、だとしたら――
「クリスさんに心当たりがあるんじゃ?」
『私もそう思ったんだが』
悔しそうに首を振るクリスさん。
『やはり知らん。
人類はもちろんとして、魔族でもそれほどの猛者なら噂くらいは届くはずだが』
だとしたら何者か。例えば――と、俺が頭を巡らせかけたとき。
「……むぅ」
大きな蕾の傍らで、眠れる英傑が小さく呻く。
「『「!」』」
一斉に見やる俺たちに応えるように、彼女はゆっくりと目を開けた。
見るもの全てを吸い込むような、深い深い紫の瞳に、俺は不覚にも一瞬、見惚れる。
その瞳が、めいっぱいに見開かれた。信じられないものを見たように。
そのまま、英傑が口を開く。
「視界の美人率が高すぎるが……ここは天国か?」
何だこいつ。
あとごめんね、美人率下げちゃって。
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