18 / 23
第2章 邂逅編 あるいは花畑スカイビュー
第18話 車内は広いので謁見もできます
しおりを挟む
俺はJRPGに親しんできた人間なので、魔王に対峙するときというのは命を丸ごと鷲掴みにされるような恐怖を伴うものだと思っていた。
地球世界の現象でいえば、下の階が火事になって動けなくなったり、落ちてくる巨大隕石を見上げたり、終電間際のオフィスに厄介な取引先から電話がかかってきたりするような、あの絶望感。自分の運命を強制的に捻じ曲げられる空虚さと言ってもいいだろう。
けれど。
「あぁ……尊い……」
キャンピングカーのベッドに寝転がって、勇者の変顔肖像画に萌えてる魔王は正直あんまり怖くない。というか恐怖の意味合いが違う。
もう少し言うなら、ひとつ安心したこともあった。
「……良かった」
魔王バルマウフラ陛下が見詰めている絵に目をやって、俺は傍らのクリスさんに言う。
「あの絵の勇者さんは魔族から見たイメージなんですね。だからあんなに怖いん……」
『いや、勇者はああいう顔する』
「そっかぁ……」
「そうだぞ人類の男」
聞こえていたらしく、陛下はドヤ顔で補足する。
「そもそも肖像画ではなく写真である。
知っとるか写真。異世界の技術を魔法で再現したものでな。眼前に存在するモノを光で紙に焼き付けて精巧な絵として残す魔導生成物よ」
よく知ってます。今の地球では紙じゃなく電子の塊に変換するバージョンもあります。
それにしても、どうやって撮ったんですかそんな顔。
「斬り合っとる最中にこっそりな。その隙を突かれて右腕が千切れかけた」
「つくづく何してんだこの魔王」
「そう申すな。盗撮が犯罪なのは知っておるが、片腕をズタボロにされたのだから禊には充分じゃろ」
「撮ったもの消さなきゃ不十分です」
「な、何ッ!?」
我が子を背中に庇う勢いで、盗撮写真を隠す魔王陛下。
今にも泣きだしそうな顔をして、クリスさんに助けを求める。
「おい騎士! この男、法倫理にちょっと厳し過ぎ!
貴公は偉い人っぽいから圧力かけられるだろう!? 便宜図れ便宜!」
『軍人が民間人に圧力をかけるわけには』
「くそう正しい!
いい騎士を飼っておるな人類はまったく!
……騎士よ、名は!? 気に入った! この魔王さんに名乗る栄誉を与えるっ」
「魔王さんって……」
「一人称かわいいな……ボクも自分のこと『はくりゅーさん』って呼ぼっかな」
「いえ『ボク』がいいです」
「そ? エイジがそう言うなら」
ぼそぼそと囁き合う俺とシロさんをしり目に、クリスさんは身惚れるほどに美しい所作で片膝を突く。
威風を放つ気高き騎士の拝礼に、俺は思わず背筋を伸ばした。ここがキャンピングカーの車内で、礼を送る相手が推しの写真を抱き締めている残念な美人であることすらも忘れる風格がそこに在った。
『この身はリヴォニア血盟王国聖煌騎士団長、クリステンデ=V=エストカーリア。
魔王陛下へ拝謁を赦されましたること、終生の誉れに存じまする』
「うむ」
静かに頷く魔王陛下も、それを軽く押し返すほどの貫禄を宿していた。いつの間にか身を起こし、ベッドの上に胡坐をかいた居姿は日本の戦国武将を想わせる。さながら信長か。魔王だし。
「……エストカーリアとな」
信長もとい魔王バルマウフラさんは、何かを思い出したようにその名を舌の上で転がし、
「貴公の名は勇者の口から聞いておる。
何でも、剣技だけなら魔王さんも勇者も貴公に遠く及ばぬそうだな?」
マジですか。凄すぎますクリスさん。
目を輝かせる俺に対して、しかしクリスさんは悠然と微笑み、
『勇者の賞賛はありがたく受けておきますが。
しかし戦とは、武、魔、兵略、そして戦略の総和。
騎士団長たるこの身に、ただ剣のみの強さが何の誉れとなりましょう』
「……聞いた? 今の聞いたエイジ? ボクらの友だち謙虚で超素敵」
「録音機材創っとくべきでした。くそ、あとでもっかい言ってもらおっかな」
『そこ、静かに。いま謁見中』
「「ごめんなさい」」
頭を下げる庶民二人(あるいは一頭と一人)。
陛下はそれに軽く笑ってから、クリスさんへと視線を戻し、
「庶民どもも緊張感が足りんが、貴公も大概だぞエストカーリア」
騎士の模範みたいな人に、そんなことを言ってのける。
「魔王さんとの謁見中にしては、纏う気配が明るすぎるわ」
そうなんだろうか、と俺たちはクリスさんの様子を盗み見る。
いつもと変わらない……どころか、仕事中オーラ全開で引き締まりまくってるように見えるが。
しかし、上流階級の人間だけが感じ取れるものが有るらしく、陛下は愉快そうにクリスさんへと身を乗り出して、
「何か良いことがあったのか。え?
聞かせよ。魔王さんに会えて嬉しいとかそういうお世辞はいいから」
『……されば』
苦笑して応えるクリスさん。「ほんとにあったんですねシロさん」「気づかなかったねえ」という庶民のやり取りには反応せず、
『安堵しております。
陛下がご無事であるということは、勇者もまた健在でありましょうから』
「そう信じ得るか? 貴公、魔王さんと勇者の戦いの様子も知らぬであろう」
『そうした女でございます』
そう言って浮かべた彼女の控え目な微笑に、俺とシロさんは釘付けになる。
恐らくはずっと押し殺していた、親友への想い。そのあまりにも奥ゆかしい発露。
当たり前だが――クリスさんは、勇者フィリアノールのことを心の底から案じていたはずだ。叫びたいほどに。泣きたいほどに。それででも騎士団長の職務と異世界人への気遣いを優先し、ほとんどおくびにも出さなかった真情。
それが解きほぐされていく様に、俺は涙を抑えかね――
『狙った獲物を討ち果たすためなら地獄からも這い戻る女でございますアレは。
アレの命運が尽きるとすれば、相討ちで御身の喉笛を噛みちぎり、勝鬨をあげた後でありましょう』
怖すぎて涙が全部引っ込んだ。
いや、怖い以上に心配だ。和平を結ぼうという陣営の主にそんなこと言ってしまっていいのか。ハラハラしながら陛下の顔色を窺うと、
「わかるぅー」
なんかクリスさんに賛同していた。嬉しそうに。しかも夢見るように続けて、
「あー、そっか相討ちかー。そうなってたら最高だったのう。
魔王さんは絶頂しながら死ねるし、勇者は本懐を遂げられるし、我々二人がくたばれば人類と魔族はこのまま終戦に持ち込めるじゃろうし。ウィン・ウィン・ウィンだったんだがのー」
もうちょっと命とか大事にしない? 今さらだけど。ねえ。
「……しかしな、エストカーリア」
と、陛下は蕩けた笑みを引っ込め、悼むような面持ちでクリスさんを見る。緩急が効きすぎて風邪を引きかねない。
「魔王さんは貴公ほど、勇者の不死身を信じてはおらんぞ。
――見るがいい」
首筋で膨らむ大きな蕾を、指で弾く。
……そうだった。誰かさんのキャラが濃すぎて存在を忘れかけていたけど、この人ってミラージュ・ダリアに喰われてるんだった。余命はあと二時間足らず。
だったらなおさらもっと真面目な雰囲気出してほしい――と言いたいが、最期の瞬間まで自分の流儀を貫くことこそ王の在り方なのだろうか。
魔族の王は静かに続けて、
「忌々しきミラージュ・ダリア……の、対魔王さん特注品よ。
これはな、魔王さんと勇者の戦いのさなかに何者かによって撃ち込まれたものよ」
『なんと』
「どこのどいつか知らんが、無粋な輩もあったものよな。
せっかく逢瀬に浸っておったというのに。
まあ、浸りすぎて峡谷を平地に変えてしもうたから、あそこに住んどった獣たちには悪いことをしたが」
『………』
誇るでもなく語られた力は、俺の想像を絶するものだった。
峡谷を平野に変える? たかだか身長二メートル足らずの生命体が?
信じられなかった。大陸間弾道ミサイル何基分の火力を、そのちっぽけな体に秘めているのか。魔王バルマウフラ、勇者フィリアノールという両雄は。
そして、そんな戦略兵器並みの存在に奇襲を仕掛け、致命的な毒を与えた者とは?
この世界に来て二日目の俺には、想像することすら出来なかった。
「勇者のヤツもこれを喰らった。
混乱して互いを見失い、その場はそれまでとなったが」
と、そこでひとつ息をつき、魔王さんは不思議なことを言う。
「今ここにおらぬということは、あやつの命運もこれまでであろうさ」
『ここ……この地が、何か?』
「この花を枯らす薬の素材がある。雪より白いダリアの花よ。
群生地――花畑になっておるとの記録を、うちの超絶有能司書が見つけた」
「!!」
喜色を露わにする俺たちに、しかし魔王さんは苦笑とともに首を振り、
「あいにく、細かい場所はわからぬ。
この山脈のいずこかというだけよ。
ゆえにまぁ、我が命運も勇者のそれと大差ない。何しろこれこの通り、花に魔力を吸われて常人程度にしか動けぬでな。
この足で、二時間以内にこの山脈から花畑ひとつ見つけ出すのは……異界人の言葉でいう『クソ渋ガチャの初回10連でPU完凸するようなもの』であろう」
「どこの馬鹿ですか。そんな語彙残したのは」
「む」
反射的に呻いた俺の声に、魔王さんは耳ざとくこちらを見やり、
「そなた、意味がわかるのか?
ならば教えてくれ。個々の単語の意味までは史料に残っておらんでな、ずっと知りたかったのだ。
異世界人の言葉の真意というのは、いかにも我が冥途の土産に相応しかろう」
「くじ引き十回やってアタリ全部持ってくって意味です」
「冥府に持ち込めるかそんな土産!」
信じられない(あるいは信じたくない)という顔で、魔王さんが崩れ落ちる。
顔も上げられないまま続けて、
「む、無謀な勝負を嘲笑うニュアンスだとは思っていたが……。
魔王さん、けっこう何度も言っちゃったぞこれ。前線で兵を鼓舞するときとか、戦略会議の席とかで……魔族の英雄詩と公文書にばっちり残っとるぞ」
あちゃー。
「殺してくりゃれ。咲くまで待てん。殺してくりゃれよ」
『勇者と戦わなくて良いのですか』
「だってあいつ来とらんし……」
こんこんこんっ
――と。
窓を叩く音が響いて、俺はそちらに目をやった。
ここ――車体後部のベッド脇からは、音の主の姿は見えない。死角になっている運転席の窓を叩いているのだろう。
ただ、声は聞こえてくる。息せききった女性の声が。
「ごめんくださぁい! 勇者です!」
ええ……?
『ああいうヤツなのです』
絶句する俺たち三人へ、クリスさんは何やら自慢げに微笑んだ。
この人が嬉しそうだから、もろもろヨシ。
地球世界の現象でいえば、下の階が火事になって動けなくなったり、落ちてくる巨大隕石を見上げたり、終電間際のオフィスに厄介な取引先から電話がかかってきたりするような、あの絶望感。自分の運命を強制的に捻じ曲げられる空虚さと言ってもいいだろう。
けれど。
「あぁ……尊い……」
キャンピングカーのベッドに寝転がって、勇者の変顔肖像画に萌えてる魔王は正直あんまり怖くない。というか恐怖の意味合いが違う。
もう少し言うなら、ひとつ安心したこともあった。
「……良かった」
魔王バルマウフラ陛下が見詰めている絵に目をやって、俺は傍らのクリスさんに言う。
「あの絵の勇者さんは魔族から見たイメージなんですね。だからあんなに怖いん……」
『いや、勇者はああいう顔する』
「そっかぁ……」
「そうだぞ人類の男」
聞こえていたらしく、陛下はドヤ顔で補足する。
「そもそも肖像画ではなく写真である。
知っとるか写真。異世界の技術を魔法で再現したものでな。眼前に存在するモノを光で紙に焼き付けて精巧な絵として残す魔導生成物よ」
よく知ってます。今の地球では紙じゃなく電子の塊に変換するバージョンもあります。
それにしても、どうやって撮ったんですかそんな顔。
「斬り合っとる最中にこっそりな。その隙を突かれて右腕が千切れかけた」
「つくづく何してんだこの魔王」
「そう申すな。盗撮が犯罪なのは知っておるが、片腕をズタボロにされたのだから禊には充分じゃろ」
「撮ったもの消さなきゃ不十分です」
「な、何ッ!?」
我が子を背中に庇う勢いで、盗撮写真を隠す魔王陛下。
今にも泣きだしそうな顔をして、クリスさんに助けを求める。
「おい騎士! この男、法倫理にちょっと厳し過ぎ!
貴公は偉い人っぽいから圧力かけられるだろう!? 便宜図れ便宜!」
『軍人が民間人に圧力をかけるわけには』
「くそう正しい!
いい騎士を飼っておるな人類はまったく!
……騎士よ、名は!? 気に入った! この魔王さんに名乗る栄誉を与えるっ」
「魔王さんって……」
「一人称かわいいな……ボクも自分のこと『はくりゅーさん』って呼ぼっかな」
「いえ『ボク』がいいです」
「そ? エイジがそう言うなら」
ぼそぼそと囁き合う俺とシロさんをしり目に、クリスさんは身惚れるほどに美しい所作で片膝を突く。
威風を放つ気高き騎士の拝礼に、俺は思わず背筋を伸ばした。ここがキャンピングカーの車内で、礼を送る相手が推しの写真を抱き締めている残念な美人であることすらも忘れる風格がそこに在った。
『この身はリヴォニア血盟王国聖煌騎士団長、クリステンデ=V=エストカーリア。
魔王陛下へ拝謁を赦されましたること、終生の誉れに存じまする』
「うむ」
静かに頷く魔王陛下も、それを軽く押し返すほどの貫禄を宿していた。いつの間にか身を起こし、ベッドの上に胡坐をかいた居姿は日本の戦国武将を想わせる。さながら信長か。魔王だし。
「……エストカーリアとな」
信長もとい魔王バルマウフラさんは、何かを思い出したようにその名を舌の上で転がし、
「貴公の名は勇者の口から聞いておる。
何でも、剣技だけなら魔王さんも勇者も貴公に遠く及ばぬそうだな?」
マジですか。凄すぎますクリスさん。
目を輝かせる俺に対して、しかしクリスさんは悠然と微笑み、
『勇者の賞賛はありがたく受けておきますが。
しかし戦とは、武、魔、兵略、そして戦略の総和。
騎士団長たるこの身に、ただ剣のみの強さが何の誉れとなりましょう』
「……聞いた? 今の聞いたエイジ? ボクらの友だち謙虚で超素敵」
「録音機材創っとくべきでした。くそ、あとでもっかい言ってもらおっかな」
『そこ、静かに。いま謁見中』
「「ごめんなさい」」
頭を下げる庶民二人(あるいは一頭と一人)。
陛下はそれに軽く笑ってから、クリスさんへと視線を戻し、
「庶民どもも緊張感が足りんが、貴公も大概だぞエストカーリア」
騎士の模範みたいな人に、そんなことを言ってのける。
「魔王さんとの謁見中にしては、纏う気配が明るすぎるわ」
そうなんだろうか、と俺たちはクリスさんの様子を盗み見る。
いつもと変わらない……どころか、仕事中オーラ全開で引き締まりまくってるように見えるが。
しかし、上流階級の人間だけが感じ取れるものが有るらしく、陛下は愉快そうにクリスさんへと身を乗り出して、
「何か良いことがあったのか。え?
聞かせよ。魔王さんに会えて嬉しいとかそういうお世辞はいいから」
『……されば』
苦笑して応えるクリスさん。「ほんとにあったんですねシロさん」「気づかなかったねえ」という庶民のやり取りには反応せず、
『安堵しております。
陛下がご無事であるということは、勇者もまた健在でありましょうから』
「そう信じ得るか? 貴公、魔王さんと勇者の戦いの様子も知らぬであろう」
『そうした女でございます』
そう言って浮かべた彼女の控え目な微笑に、俺とシロさんは釘付けになる。
恐らくはずっと押し殺していた、親友への想い。そのあまりにも奥ゆかしい発露。
当たり前だが――クリスさんは、勇者フィリアノールのことを心の底から案じていたはずだ。叫びたいほどに。泣きたいほどに。それででも騎士団長の職務と異世界人への気遣いを優先し、ほとんどおくびにも出さなかった真情。
それが解きほぐされていく様に、俺は涙を抑えかね――
『狙った獲物を討ち果たすためなら地獄からも這い戻る女でございますアレは。
アレの命運が尽きるとすれば、相討ちで御身の喉笛を噛みちぎり、勝鬨をあげた後でありましょう』
怖すぎて涙が全部引っ込んだ。
いや、怖い以上に心配だ。和平を結ぼうという陣営の主にそんなこと言ってしまっていいのか。ハラハラしながら陛下の顔色を窺うと、
「わかるぅー」
なんかクリスさんに賛同していた。嬉しそうに。しかも夢見るように続けて、
「あー、そっか相討ちかー。そうなってたら最高だったのう。
魔王さんは絶頂しながら死ねるし、勇者は本懐を遂げられるし、我々二人がくたばれば人類と魔族はこのまま終戦に持ち込めるじゃろうし。ウィン・ウィン・ウィンだったんだがのー」
もうちょっと命とか大事にしない? 今さらだけど。ねえ。
「……しかしな、エストカーリア」
と、陛下は蕩けた笑みを引っ込め、悼むような面持ちでクリスさんを見る。緩急が効きすぎて風邪を引きかねない。
「魔王さんは貴公ほど、勇者の不死身を信じてはおらんぞ。
――見るがいい」
首筋で膨らむ大きな蕾を、指で弾く。
……そうだった。誰かさんのキャラが濃すぎて存在を忘れかけていたけど、この人ってミラージュ・ダリアに喰われてるんだった。余命はあと二時間足らず。
だったらなおさらもっと真面目な雰囲気出してほしい――と言いたいが、最期の瞬間まで自分の流儀を貫くことこそ王の在り方なのだろうか。
魔族の王は静かに続けて、
「忌々しきミラージュ・ダリア……の、対魔王さん特注品よ。
これはな、魔王さんと勇者の戦いのさなかに何者かによって撃ち込まれたものよ」
『なんと』
「どこのどいつか知らんが、無粋な輩もあったものよな。
せっかく逢瀬に浸っておったというのに。
まあ、浸りすぎて峡谷を平地に変えてしもうたから、あそこに住んどった獣たちには悪いことをしたが」
『………』
誇るでもなく語られた力は、俺の想像を絶するものだった。
峡谷を平野に変える? たかだか身長二メートル足らずの生命体が?
信じられなかった。大陸間弾道ミサイル何基分の火力を、そのちっぽけな体に秘めているのか。魔王バルマウフラ、勇者フィリアノールという両雄は。
そして、そんな戦略兵器並みの存在に奇襲を仕掛け、致命的な毒を与えた者とは?
この世界に来て二日目の俺には、想像することすら出来なかった。
「勇者のヤツもこれを喰らった。
混乱して互いを見失い、その場はそれまでとなったが」
と、そこでひとつ息をつき、魔王さんは不思議なことを言う。
「今ここにおらぬということは、あやつの命運もこれまでであろうさ」
『ここ……この地が、何か?』
「この花を枯らす薬の素材がある。雪より白いダリアの花よ。
群生地――花畑になっておるとの記録を、うちの超絶有能司書が見つけた」
「!!」
喜色を露わにする俺たちに、しかし魔王さんは苦笑とともに首を振り、
「あいにく、細かい場所はわからぬ。
この山脈のいずこかというだけよ。
ゆえにまぁ、我が命運も勇者のそれと大差ない。何しろこれこの通り、花に魔力を吸われて常人程度にしか動けぬでな。
この足で、二時間以内にこの山脈から花畑ひとつ見つけ出すのは……異界人の言葉でいう『クソ渋ガチャの初回10連でPU完凸するようなもの』であろう」
「どこの馬鹿ですか。そんな語彙残したのは」
「む」
反射的に呻いた俺の声に、魔王さんは耳ざとくこちらを見やり、
「そなた、意味がわかるのか?
ならば教えてくれ。個々の単語の意味までは史料に残っておらんでな、ずっと知りたかったのだ。
異世界人の言葉の真意というのは、いかにも我が冥途の土産に相応しかろう」
「くじ引き十回やってアタリ全部持ってくって意味です」
「冥府に持ち込めるかそんな土産!」
信じられない(あるいは信じたくない)という顔で、魔王さんが崩れ落ちる。
顔も上げられないまま続けて、
「む、無謀な勝負を嘲笑うニュアンスだとは思っていたが……。
魔王さん、けっこう何度も言っちゃったぞこれ。前線で兵を鼓舞するときとか、戦略会議の席とかで……魔族の英雄詩と公文書にばっちり残っとるぞ」
あちゃー。
「殺してくりゃれ。咲くまで待てん。殺してくりゃれよ」
『勇者と戦わなくて良いのですか』
「だってあいつ来とらんし……」
こんこんこんっ
――と。
窓を叩く音が響いて、俺はそちらに目をやった。
ここ――車体後部のベッド脇からは、音の主の姿は見えない。死角になっている運転席の窓を叩いているのだろう。
ただ、声は聞こえてくる。息せききった女性の声が。
「ごめんくださぁい! 勇者です!」
ええ……?
『ああいうヤツなのです』
絶句する俺たち三人へ、クリスさんは何やら自慢げに微笑んだ。
この人が嬉しそうだから、もろもろヨシ。
86
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる