キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ

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第2章 邂逅編 あるいは花畑スカイビュー

第20話 高度1000メートルフリーウェイ(自作)

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「飛んどるのかッ!?」

 魔王陛下の裏返った声を聞きながら、俺はクルマを走らせる。
 ――そう、。飛んでいるのではない。
 ≪物質変換≫で周囲の雪からアスファルトの道路をつくり出し、その上を駆けているだけだ。何しろ俺は飛行機とかヘリの構造も操縦方法も知らないので、山脈を最速で駆け回るにはこの方法しかないのである。
 それでも、なかなかのスピードではあった。さっきまで中腹ちゅうふくにいたキャンピングカーはあっという間に上昇し、既に山頂と肩を並べている。
 高度ざっと一千メートル。木々の緑と雪の白さがまだらに広がる隆起りゅうきの向こうに、今朝けさ見たクリスタルの原野が広がる。ここまで上ると、その光景はさながら巨人の大皿だ。

「クルマのはずよなぁこれ!? 何故飛ぶ!?」

 その大皿を見下ろしながら、陛下がまだ騒いでいる。

「あ、わかった! アレか! 地球では飛ぶ乗り物にも車輪がついとるのか!
 だからそれらもクルマと呼ぶんじゃな!
 なるほど納得した。
 黒龍公にケンカ売った地球人は、空をわたる乗り物のことを『航空機コウクウキ』と呼んどったと伝わるが、あれは彼奴きゃつだけのマイルールだったわけか。
 まったくどこまでも迷惑な男よ。一度定着した言葉を修正するのはとんでもなく大変だというのに。ぷんぷん」
「そうじゃない……! おおむねそうじゃないけど……!」

 訂正を泣く泣く後回しにして、俺は懸命にクルマを操る。残念だが、今は陛下と異文化交流している余裕は無い。
 と言うのも――空中道路を走るのが、覚悟していた以上に怖いのだ。
 何しろ、路肩ろかたにガードレールひとつ無い。有るのは奈落だけ。しかも、クルマが進むべき道も自分でつくらねば存在しない。スキル効果の限界で、あまり遠くまで道を創っておけないため、創ると同時に駆け抜けるような塩梅あんばいになる。ハンドル操作と≪物質変換≫、そのどちらかでもミスったら――

「ねえシロさん?
 車内では俺の望まないことが起きないってヤツ、墜落ついらくしても有効ですかね」
「……試してみないと何とも……」

 OK。実験は明日以降にしよう。

「三人とも! いいですか!?」

 落ちずに走る覚悟を決めて、俺は言う。声が震えていませんように。

「高度があってすみませんが、花畑をさがしてください!
 このまま山脈を一周します!」
「な……」
「む、無理を申すな!?」

 勇者と魔王の驚愕が重なる。
 ふむ、さすがにこの高さで探すのは無理か。じゃあなるべく高度を落として――

「そうではない!
 お主の魔力がもたぬと申しておる!」

 陛下はおぼつかない足取りで、運転席まで歩み寄る。俺を気遣きづかう真剣な表情が、ミラーにほんの一瞬うつった。

「このクルマ、魔力をかてに走らせているものであろう!?
 この山脈は一周800kmぞ。
 お主も地球人なら、この数字が――それを二時間で一回ひとまわりするというのが如何いかなることかわかるであろう!」
「うーん、時速400km。F-1カーより速く走らなきゃですね」
「エフワンカーは知らんが、ハヤブサの速度すら上回らねばならん!
 これほど巨大でずんぐりむっくりした鉄の塊を、そのような勢いで飛ばし続けるなど人類の魔力では……」
「出来るよ。
 エイジにはね」
「!」

 軽々かるがると言ってのけた声の主に、陛下は振り向いたようだった。
 シロさんだ。
 陛下が離れたベッドに腰を下ろし、何やら自慢げに足など組んで、

「エイジが自覚してるかわかんないけど……今のその子は半日たっぷり寝て魔力がずいぶん戻ってるから。
 二回も倒れた昨日とは違う。
 ボクが見込んだ異世界人は、今日からが本領発揮なのさ」

 おお、そうだったのか。
 まったく自覚していなかったが……言われてみれば、『今日から本領発揮』というのは当たり前のことだった。
 俺は心底納得しながら、一人で首を縦に振り、

「そーだよなぁ……。
 一昨日おとといの夜は完徹だったし。
 それに、こっちに飛ばされたときは外回り地獄から帰ったばっかでフラフラだったもんな。
 体調良くなるに決まってるわ」
「そ、そこまで悲惨だったのは初耳だよエイジ。
 言ってよ。
 クリスが聞いたら『もっと早く寝かせてあげてた』って泣くよ」
「だから黙ってました」
「今夜も早く寝ようね……」

 ありがとうございます。おおせの通りに。
 シロさんはなおも心配なようで――重ね重ね感謝――「うーん」と細い腕を組み、

「エイジのかっこいいとこ見てるつもりだったけど……悪い気がしてきた。
 手伝お」
「?」

 俺が問い返すより早く、少女の姿が発光する。
 光が収まり、消えたときには――窓の真横の蒼天を、白龍の巨体がけていた。

「「「おぉ……」」」

 視界を埋め尽くすきよらかな偉容いように、俺と陛下、さらにフィリアノールさんの嘆息までが重なった。

『手分けしよう、エイジ』

 シロさんの声。魔力による音声通信だ。

『ボクは山脈を右回り、キミは左回りで捜す。いい?』
「はい。
 疲れたら戻ってきてください」
『ナマイキだなぁ』

 笑みの気配をその場に残し、白い巨体が右へ旋回。俺は左へ。それぞれの軌道で弧を描き、龍とクルマが散開する。

「……信じられんことが起きとる……」

 シロさんの姿をじっと見つめて――花畑さがしてください――魔王陛下がポツリとこぼす。
 見惚れるような、途方に暮れたような横顔。

「魔王さんは一応、王なので……自分の事績じせき公文書こうぶんしょに残さねばならんのだが。
 異世界人のクルマに乗って、白龍ズィーガ=マデンツァと飛んだとか、これどう書けば凄さが伝わるかの。魔王さんの文才を超えてきとるんじゃが」
「異世界の文豪ぶんごう召喚して書かせるとか」
「あー」

 名案めいあん、と魔王さんが手を叩く音を聞いてから――俺はあることを思い出し、青ざめる。
 魔族って確か、被召喚者の手足を斬り落とした上で洗脳するってクリスさんが。

「あ、あの、陛下……脳をイジると文才も曇ると思うんです」
「うむ。それと、利き手も斬らずにおかねば」
「ひっ」
「冗談じゃい! ここ三百年はそういうのやっとらん。
 ……ん? 何じゃその目は。怯えが消えとらんぞ」
「いえその、魔族の寿命がどんなもんかわかんなくて……陛下が三百歳以上なら、昔やってらした可能性もあるわけで」
「レディにとしを訊くのは地球ではマナー違反じゃないんか」
「やっぱこっちでもそうかぁ……」
「ん。気をつけるがよい。
 まあ、魔王さんは年増としまネタが刺さるほどとし取ってないからセーフじゃけど」
「おいくつですか?」
「魔王さん87歳です☆彡」

 ギャルピースやめろ。
 ……と言いたいけど似合ってるなぁ。魔族換算かんさんだとそういうのがハマるくらいお若いんだろうか。だとしたらずいぶん大人びていらっしゃるようだが。
 その辺を掘り下げるのも失礼にあたりそうなので、やめておく。
 俺としては取り敢えず、目の前の魔族が被召喚者を解体バラしてなければそれでいい。
 と、その魔族が、何やら気遣うような目をして続けた。

「最近の地球人はのぅ、昔と違って魔族にもあっさり手を貸してくれるのよ。
 なんなら人類側から寝返って来たヤツもおるし。
 地球は大丈夫か? なんかみんな病んでね?」
「病んでます多少」
「やっぱりのう。いずこも同じよのう」
「……こっちもそうなんですよね」

 まあの、と頭を抱える魔王陛下の表情に、俺の知らないこの世界の惨状が透けて見えた。
 イ=バさんとクリスさんいわく、敵味方ともに消耗し尽くして前線には厭戦えんせん気分が満ち満ちているとか。
 軍がそうなら、後方の経済もせ細っているはずだ。軍需物資どころか毎日の食料もまともに行き渡ってはいまい。荒廃こうはい一途いっと――そんなところか。
 だからこそ、クリスさんやイ=バさんは俺を終戦の鍵にしようとしているわけで。

「……そうだね」
「「!!」」

 小さく聞こえたその声に、俺と陛下は一斉に目をやる。
 フィリアノールさんだ。魔王と馴れ合うのが嫌なのか――そうなんだろう――ずっと黙っていた勇者さんが、あろうことか会話に参加してきた。
 俺も充分驚いたが、陛下に関して言えば両手で口元を覆って涙目で物陰に隠れている。推しを前にした限界オタクムーブ。こういう穏やかな雑談は初めてなのかもしれない。
 そんな陛下(の痴態)に気づいているのかどうか、フィリアノールさんはぼそぼそと続ける。感情の見えない枯れた声で。

「終戦のための召喚って意味じゃ、クリスたちは大当たりを引いたと思うよ。
 被召喚者のスキルも、本人の性格も。
 あの子、クジ運は昔から悪かったのに……このためにずっと溜めてたのかもなぁ」
「……恐縮です」

 どうも褒められていると気づいて、俺はこわごわ頭を下げる。
 けれど、素直に喜ぶ気にはなれなかった。彼女の声音こわねと、サイドミラーに映る横顔は何故か苦悩くのうの色を帯びていて、俺を歓迎しているようには思えなかったから。
 人類の勇者フィリアノール。魔王を討ち滅ぼし、この世に平和をもたらすことを使命とする彼女はいったい何を思うのか。
 わからない。わからないが、これではまるで――

『見つけたぁ!!』

 浮かびかけたひとつの考えが、陽気な叫びに霧散むさんする。
 シロさんからの魔力通信。
 見れば、ドラゴンモードの巨体が青空の一点で嬉しそうに旋回している。その姿でも可愛いのか貴女。

『白いダリアの花畑!
 あったよみんな! みに来て!
 来つつめて!』
「貴女は最高だー!」

 催促されるまでもなく喝采かっさいし、クルマをシロさんの方へ走らせる。
 シロさんが摘んできてくれないだろうか、とほんの一瞬思ったが……そうだった。彼女が花畑に近づくと、文字通り根こそぎ吹き飛ばしちゃうんだ。
 真っ白い花畑は彼女に似合いそうなのに。残念。
 せめて花束でも作って、車内で待つ彼女にプレゼントしようかと、ガラにも無いことを考えた――その刹那だった。

 光がはしった。

 天から怒涛どとうとなって降り注ぐ、赤い――そう、赤い雷光。そうとしか思えない輝きの濁流だくりゅう
 それが。
 無邪気にくるくると踊っていた、シロさんの体に殺到した。

「な……」

 直撃。
 そう思った瞬間、白龍の頭上に光の壁が現れる。
 シロさんが編み上げた魔力障壁だと俺が理解するより早く、壁は赤雷の瀑布ばくふと激突し、それを真っ向から受け止める。
 ――いや。
 押される。
 降り続ける赤雷にむしばまれ、ここからでもわかるほど急速に亀裂が広がっていく。

「何ごとか!?」

 俺たちは一斉に、赤雷のみなもとたる空を見上げて――
 目を疑う。
 雲ひとつない蒼穹そうきゅうに、それはいた。
 シロさんとうり二つの細長い巨影。
 だが、その体は光を拒絶するかのごとく、烏珠ぬばたまの黒に染め抜かれている。
 ただその瞳ばかりに、まばゆいばかりの黄金こがねを宿し。
 そして――おぞましい牙の居並ぶ口腔から、大樹のごとき赤雷をほとばしらせ。
 
「馬鹿な」
「あり得ん……何故ここに」

 勇者と魔王のかすれた声が、否応いやおうなく俺の耳に飛び込む。
 あの黒き影の名を呼ぶ声が。

「黒龍ペーネミュンデ……!」

 その存在を、俺もシロさんから聞いて知っていた。
 白龍ズィーガ=マデンツァと並び、世界を守護する神龍が一柱ひとはしら

(そんなヒトが、何故?)

 混乱する。どうして黒龍が、同胞であるはずの白龍を撃つ?
 それも、勇者と魔王を救う花畑ごと焼き払うように。

『何をしておる。ズィーガ=マデンツァ』

 声がした。
 地鳴りにも似て低く、重く、それでいて女性的な声。
 魔力によって伝わる黒龍ペーネミュンデの声は、深い怒りの色を帯びている。

『異世界人に手を出せぬのは良い。厄介な力を持っている。
 だが、勇者と魔王をなぜ生かしておく?
 戦を終わらせるつもりか』
「………?」

 やはり黒龍の真意が読めず、俺はただ、呻く。
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