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神子と騎士と幼なじみ
第8話 神子の仕事ー白sideー
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「もう!1年近くも!!瑠璃に会えてねえんだけど!!!」
森の中をガタゴトと音を立てて進む馬車の中に若い男の大声が響いた。
「シロ殿落ち着いてください。今王都に向かっておりますから。王都に戻れば国王陛下も神殿に向かう許可くらいは下さるでしょう」
艷めく黒髪に意志が強そうでオニキスのような瞳を持つ、大声で叫んだ男烏丸白を、全身を甲冑で包んだ男が落ち着いた様子で窘める。
「もう1日も耐えれねえくらい瑠璃成分が不足してんの!浄化の旅ってやつも頑張ったんだから瑠璃の癒しが欲しいんだよ~」
柔らかいクッションが敷き詰められ、快適に過ごせるように整えられた馬車の座席の上にぐでんと寝転んだまま、男が着ている甲冑を掴んでガシャガシャと音を鳴らす。
「ちょ、シロ殿、甲冑を掴むのはおやめください」
「じゃあアルフォンス甲冑脱げ!全身甲冑の男に囲まれてるのとか気が滅入るんだよ!現にオルキナスは甲冑脱いでんじゃん!」
隣に座るアルフォンスの甲冑を掴んだまま、向かい側に座る男を指さして白が言う。
「近衛騎士は任務中は甲冑を身に付けておくのが常なのです。オルキナスはアホですから規則を守っていないだけです」
「ちょっとアルフォンス!?アホって言わないで!ていうか神子殿の言う通り甲冑ずっと着てるなんて暑苦しいでしょー」
年頃の女性が好みそうな、優しげに目尻が垂れた男、オルキナスが不服そうな声を出す。
アホなど失礼なことを言われてはいるが、確かに普段から飄々として楽観的で掴みどころが無い男だ。アルフォンスが言ったことは大方間違ってないなと白まで失礼なことを思っていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
白と瑠璃がこの世界に召喚されたあの日、瑠璃と離れ離れにされた白はそれはそれは不機嫌だった。
神子としての役割を果たしてくれさせすれば後は自由の身だとか、瑠璃と過ごすのも自由だとか、なんとか宥められながら召喚の場にいた甲冑を着た騎士数名と国王に連れられ王宮に移動した。
国王曰く、しばらく王宮内で浄化魔法の特訓をしてから国内に蔓延る瘴気を浄化して欲しいとの事だった。
さすがに国中が困っていると言われて放っておけるほど白も落ちぶれていない。かといって瑠璃と離れ離れにされたのは気に食わない。
ならばいっその事神子としての仕事を爆速で終わらせて瑠璃に会いに行くのが賢いのでは無いかと。
白の脳筋思考はグレンツェ王国にとっては有難い方向に働いていた。
過去に召喚された神子達が1ヶ月ほどかかった浄化魔法の鍛錬を1週間ほどで完璧に修得し、王国の近衛騎士団の第1部隊を護衛として伴って浄化の旅に出発した。
国中全てを巡回して浄化するのには数年がかりの大仕事になる。その間瑠璃に会えないのはさすがに耐えられないと白が駄々を捏ねたため、1年で国の3分の1を巡回して浄化することが出来れば一旦王都に帰還して休暇をとることが許可された。
国を救ってくれと頼んでおいて、休暇を与えてやらんでもないとは一体何様のつもりだと思った白だったが、これも瑠璃に会う正当な権利を勝ち取るためだと己を納得させて浄化の旅に勤しんだ。
白の頑張りの甲斐もあり、約束の1年間を待たずして国の3分の1の浄化の旅を完遂した。
そして現在は王都に向けて馬車を走らせ、あと半日もすれば到着すると言う頃だった。
━━━━━━━━━━━━━━━
「ていうかな、瑠璃はデカい男見ると怯えんだよ。ただでさえ1人で寂しい思いさせてんだから、お前みたいなお堅いデッカい男が全身甲冑で近づいてくるとかあまりにも瑠璃が可哀想だろ!神殿着いたら甲冑絶対脱げよ!」
白がアルフォンスに指をビシッ!と突きつけて言う。
瑠璃が近づかれて怯えない大柄な男は白の知る限り自分ただ1人なのだ。アルフォンスもオルキナスも、近衛騎士団第1部隊の他の面子も瑠璃にとっては怯えてしまう対象でしか無いはずだ。
「……分かりました。シロ殿のご友人を怯えさせるのは本意ではありませんからね」
アルフォンスが渋々といった様子で甲冑の頭部分を外した。
無骨な甲冑の下から銀糸のような見事な銀髪と作り物のような美しい顔貌が現れた。
「……何回見ても腹立つくらい美形だな…騎士はイケメンじゃないとなれない規則でもあんのか?」
「いけめん?というのは分かりませんが、騎士には貴族が多いですから美形という話でしたらそれが原因かもしれませんね。貴族は貴族同士で婚姻することが多く元を辿れば皆遠い親戚のようなものですし、顔立ちも似通ってくるのでしょう」
「アルフォンスそれは適当すぎ。貴族にだって不細工はいるじゃん。ほら神殿の連中とか」
神殿の連中というのが気に入らないらしいオルキナスが軽い調子で反論する。
「オルキナスって神殿のこと嫌いだよな?なんでなんだ?」
「なんでって…神官達が基本まともじゃないからかな。治癒魔法使える神官を大勢集めて、お布施と称して多額の金を巻き上げる。平民を治療してくれるのは神殿しか無いから多額の治療費を払うしかない。ね?ろくでもないでしょ?」
「…それは、ちょっとやだな」
あーやだやだ、と依然軽い調子のオルキナスだが、神殿に対する嫌悪感は確かなようだった。
それほどきな臭い場所に瑠璃を預けてしまったことに今更ながら不安が生じる。
「だから俺もあのチビちゃんのことはちょっと心配してるんだよねー。あんな純粋そうな子が神殿で平和に暮らせてるのかなって。まあマリア様が監視役に着いてるみたいだし心配無いと思うけど」
1年近く一緒に旅をしてきて分かったことだが、オルキナスは小柄な瑠璃を割と気に入っているようだということだ。
無論オルキナスのように軽薄な男に瑠璃をくれてやるつもりなど毛頭無いが、瑠璃の味方が多いことは良いことだ。
「てかマリア様って誰。女?」
「あれ、言ってなかったっけ。神殿が変な動きしないように王宮の人間から監視役を着けてんの。多分チビちゃんのこともある程度見守ってくれてるはずだよ」
ということは安心していいのだろうか。
今まで色々と辛い思いをしてきた瑠璃にはできるだけ安全なところで平和に暮らして欲しい。神殿というと危険とは無縁の場所だと思ったから瑠璃を任せて浄化の旅に出たのだ。
今更ではあるが、そのマリアという人間がしっかり見守ってくれていると信じるしかない。
「うーん…瑠璃のやつ、ちょっと変わった体質だしやっぱ心配だわ……御者さーん!王都まで飛ばしてくれ~!」
心配や不安がじわじわと湧き上がってきて、馬車の外の御者に対して声を張って呼びかける。
返事は無かったが、少しだけ馬車の速度が上がったような気がした。
「変わった体質、というのはどういうことですか?」
「……お前らのことはこの1年で信用できるって分かったし、まあ言っても大丈夫か」
瑠璃自身がきっとあまり知られたくないと思っていることであろうが、浄化の旅に同行している近衛騎士団第1部隊のみんなは良い奴で信用出来ると判断している。
瑠璃の体質のことを知って支えてやれる人間が白以外にも必要だと判断して、少しの逡巡の後白は口を開く。
「ちゃんと覚えてるか分かんねえけど、瑠璃は前髪で目を隠してたろ?」
「はい、覚えてます」
「俺も覚えてるー。可愛い顔してそうだったのに勿体ないよね」
やっぱり瑠璃に少なからず邪な気持ちを抱いてそうなオルキナスをじとりと一瞥してから話を続ける。
「……瑠璃はやらねえからな。まあそれは一旦置いとくとして、瑠璃は他人と目を合わせるのが嫌いなんだよ」
「それは、人見知りということですか?」
「いや、まあ人見知りもあるけどそれだけじゃなくて、目の色が珍しいんだよ。そのせいで子供の頃から色々苦労してたみたいでさ」
アルフォンスが問うてきた人見知りというのも確かに当てはまる。
しかし人見知りになったのも恐らく瑠璃の目が原因だと白は考えている。
目を見られないように常に前髪で覆い隠し、他人とのコミュニケーションを極端に絶っていたのだから、目のせいで人見知りになったとも言えるかもしれない。
「目の色が珍しいって、君の真っ黒な瞳に勝る珍しい色とか存在するの?少なくともグレンツェには黒目なんて存在しないよ」
「あのなあ、何回も言ってるけど、日本人は基本黒目だから全然珍しくねえんだって!瑠璃の目は青色なんだよ。それも瞳孔まで真っ青な目ってなるとさすがに周りにいなくてな」
浄化の旅で国内の至る所を回ったが、どこへ行っても決まって言われることは「神聖な黒髪」だとか「輝くような黒目」などの褒め言葉だった。
こんなありふれた色でちやほやされるとは思っていなかった。
そもそも輝くような黒目ってどういう事だ、瑠璃の方がよっぽど輝いてるわ、などと何故か不機嫌になってしまう白は褒められる度に否定していたのだ。
「んで色が珍しいだけじゃなくて、目が合ったやつみんなおかしくなっちまうんだと。それは俺にもなんでか分からねえけど、瑠璃が可愛すぎるせいか?……っておい、聞いてるー?」
つい先程までそんな雰囲気は無かったのに、何故かアルフォンスもオルキナスも眉間に皺を寄せて何やら思案するような真剣な顔をしていた。
「それは……まずいですね……」
「うん。だいぶやばいね」
「はぁ…?なにが?こっちの世界のやつらみんなカラフルじゃん。青色の目くらいどこにでもいるんじゃねえの」
2人していきなりまずいだのやばいだの、訳が分からない。
目の前のオルキナスだって真っ赤な瞳だし、隣に座るアルフォンスに至っては金色だ。青色よりよっぽどありえない色をしているのは2人の方では無いのか。
「……碧眼くらいならいますが、シロ殿はこちらに来てから瞳孔まで真っ青に染まった人間を見ましたか?」
「…………見てねぇな」
アルフォンスは自分を落ち着かせるようにひとつ息を吐いてから白に問う。
白は顎に手を当ててここに来てからの1年弱を思い出すように思案するが、確かに瑠璃と同じ色の瞳は見たことがない気がする。
「うーん…まずい。だいぶまずいよこれは」
「だから何が!何がまずいんだよ!」
口調こそ軽いように聞こえるが、オルキナスにしては珍しく真剣な顔をして冷や汗を垂らしている。
白も不穏な空気を感じて、アルフォンスの甲冑をまたガシャガシャと揺らす。
白の問いをうけて、答えにくそうにアルフォンスが重い口を開いた。
「……瞳孔まで青く染った瞳は、魔族の証です」
「…………は?」
アルフォンスは一体何を言っている。
瞳孔まで青い瞳が魔族の証?
それはつまり、瑠璃が魔族だと言いたいのか?
「あのね、神殿は魔族迫害の代表的な団体と言っても過言じゃない所なんだよ。あのチビちゃんが魔族だとかはちょっと信じ難い話だけど、なんにせよそんな子が神殿にいるのはちょっと穏やかじゃない」
オルキナスが依然として似合わない真剣な表情をして、もっと信じられないことを話す。
「い、いや、俺らは日本から来たんだぞ!?魔族とかよくわかんねえけど、魔法も無かった世界だったんだ!瑠璃も俺と同じ人間だって!!」
動転した白が向かい側のオルキナスに掴みかかる。
オルキナスに当たった所で何も解決しないし八つ当たりなことは分かっている。
しかしあまりにも信じ難い話で、落ち着けと言う方が難しい事だった。
「お、落ち着いて…!君神子にしてはありえないくらい力強いんだから…!」
胸ぐらを捕まれながらガクガクと揺さぶられるオルキナスが、両手を上げて降参だと言うようなポーズをとる。
「悪い……でも、瑠璃が魔族だとか、神殿がどうとかいきなり言われても分かんねえよ……!」
「シロ殿、いきなり混乱させるようなことを言って申し訳ございません。しかし今は混乱するよりも、いち早く王都に戻ってルリ殿の安全を確認するのが先決ではないですか?」
アルフォンスが白を落ち着かせるように、穏やかな声色で宥める。
冷静な様子のアルフォンスを見て気がたっていた白も落ち着きを取り戻す。
「……そうだな、取り乱して悪い。とりあえず急いで王都に戻ろう。馬車でのんびりなんて帰ってらんねえ!俺も馬乗っていいか!?いでぇ!?!?」
気が急いた様子で勢いよく立ち上がった白は馬車の天井に頭を強くうちつけ、頭を押えて蹲った。
「もー落ち着いてって!神子殿の護衛が任務だからね、俺らも着いていくよ。君の体力ならきっと乗馬も大丈夫でしょ。だよね?アルフォンス」
「そうだな。シロ殿、くれぐれも無理はなさらないようお願いしますよ」
「分かった!無理しない!ここからだと馬で1時間くらいで王都に着くよな!?」
「全く……早駆けするつもり満々では無いですか……」
呆れた様子を零すアルフォンスだが、既に兜を着用し直して出立の準備を始めているようだった。
「同行は私とオルキナス、あとはルドルフと数名を連れていきましょう」
善は急げと、白とアルフォンス、オルキナスの3人は馬車を降りて王都出立に向けて動き出した。
森の中をガタゴトと音を立てて進む馬車の中に若い男の大声が響いた。
「シロ殿落ち着いてください。今王都に向かっておりますから。王都に戻れば国王陛下も神殿に向かう許可くらいは下さるでしょう」
艷めく黒髪に意志が強そうでオニキスのような瞳を持つ、大声で叫んだ男烏丸白を、全身を甲冑で包んだ男が落ち着いた様子で窘める。
「もう1日も耐えれねえくらい瑠璃成分が不足してんの!浄化の旅ってやつも頑張ったんだから瑠璃の癒しが欲しいんだよ~」
柔らかいクッションが敷き詰められ、快適に過ごせるように整えられた馬車の座席の上にぐでんと寝転んだまま、男が着ている甲冑を掴んでガシャガシャと音を鳴らす。
「ちょ、シロ殿、甲冑を掴むのはおやめください」
「じゃあアルフォンス甲冑脱げ!全身甲冑の男に囲まれてるのとか気が滅入るんだよ!現にオルキナスは甲冑脱いでんじゃん!」
隣に座るアルフォンスの甲冑を掴んだまま、向かい側に座る男を指さして白が言う。
「近衛騎士は任務中は甲冑を身に付けておくのが常なのです。オルキナスはアホですから規則を守っていないだけです」
「ちょっとアルフォンス!?アホって言わないで!ていうか神子殿の言う通り甲冑ずっと着てるなんて暑苦しいでしょー」
年頃の女性が好みそうな、優しげに目尻が垂れた男、オルキナスが不服そうな声を出す。
アホなど失礼なことを言われてはいるが、確かに普段から飄々として楽観的で掴みどころが無い男だ。アルフォンスが言ったことは大方間違ってないなと白まで失礼なことを思っていた。
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白と瑠璃がこの世界に召喚されたあの日、瑠璃と離れ離れにされた白はそれはそれは不機嫌だった。
神子としての役割を果たしてくれさせすれば後は自由の身だとか、瑠璃と過ごすのも自由だとか、なんとか宥められながら召喚の場にいた甲冑を着た騎士数名と国王に連れられ王宮に移動した。
国王曰く、しばらく王宮内で浄化魔法の特訓をしてから国内に蔓延る瘴気を浄化して欲しいとの事だった。
さすがに国中が困っていると言われて放っておけるほど白も落ちぶれていない。かといって瑠璃と離れ離れにされたのは気に食わない。
ならばいっその事神子としての仕事を爆速で終わらせて瑠璃に会いに行くのが賢いのでは無いかと。
白の脳筋思考はグレンツェ王国にとっては有難い方向に働いていた。
過去に召喚された神子達が1ヶ月ほどかかった浄化魔法の鍛錬を1週間ほどで完璧に修得し、王国の近衛騎士団の第1部隊を護衛として伴って浄化の旅に出発した。
国中全てを巡回して浄化するのには数年がかりの大仕事になる。その間瑠璃に会えないのはさすがに耐えられないと白が駄々を捏ねたため、1年で国の3分の1を巡回して浄化することが出来れば一旦王都に帰還して休暇をとることが許可された。
国を救ってくれと頼んでおいて、休暇を与えてやらんでもないとは一体何様のつもりだと思った白だったが、これも瑠璃に会う正当な権利を勝ち取るためだと己を納得させて浄化の旅に勤しんだ。
白の頑張りの甲斐もあり、約束の1年間を待たずして国の3分の1の浄化の旅を完遂した。
そして現在は王都に向けて馬車を走らせ、あと半日もすれば到着すると言う頃だった。
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「ていうかな、瑠璃はデカい男見ると怯えんだよ。ただでさえ1人で寂しい思いさせてんだから、お前みたいなお堅いデッカい男が全身甲冑で近づいてくるとかあまりにも瑠璃が可哀想だろ!神殿着いたら甲冑絶対脱げよ!」
白がアルフォンスに指をビシッ!と突きつけて言う。
瑠璃が近づかれて怯えない大柄な男は白の知る限り自分ただ1人なのだ。アルフォンスもオルキナスも、近衛騎士団第1部隊の他の面子も瑠璃にとっては怯えてしまう対象でしか無いはずだ。
「……分かりました。シロ殿のご友人を怯えさせるのは本意ではありませんからね」
アルフォンスが渋々といった様子で甲冑の頭部分を外した。
無骨な甲冑の下から銀糸のような見事な銀髪と作り物のような美しい顔貌が現れた。
「……何回見ても腹立つくらい美形だな…騎士はイケメンじゃないとなれない規則でもあんのか?」
「いけめん?というのは分かりませんが、騎士には貴族が多いですから美形という話でしたらそれが原因かもしれませんね。貴族は貴族同士で婚姻することが多く元を辿れば皆遠い親戚のようなものですし、顔立ちも似通ってくるのでしょう」
「アルフォンスそれは適当すぎ。貴族にだって不細工はいるじゃん。ほら神殿の連中とか」
神殿の連中というのが気に入らないらしいオルキナスが軽い調子で反論する。
「オルキナスって神殿のこと嫌いだよな?なんでなんだ?」
「なんでって…神官達が基本まともじゃないからかな。治癒魔法使える神官を大勢集めて、お布施と称して多額の金を巻き上げる。平民を治療してくれるのは神殿しか無いから多額の治療費を払うしかない。ね?ろくでもないでしょ?」
「…それは、ちょっとやだな」
あーやだやだ、と依然軽い調子のオルキナスだが、神殿に対する嫌悪感は確かなようだった。
それほどきな臭い場所に瑠璃を預けてしまったことに今更ながら不安が生じる。
「だから俺もあのチビちゃんのことはちょっと心配してるんだよねー。あんな純粋そうな子が神殿で平和に暮らせてるのかなって。まあマリア様が監視役に着いてるみたいだし心配無いと思うけど」
1年近く一緒に旅をしてきて分かったことだが、オルキナスは小柄な瑠璃を割と気に入っているようだということだ。
無論オルキナスのように軽薄な男に瑠璃をくれてやるつもりなど毛頭無いが、瑠璃の味方が多いことは良いことだ。
「てかマリア様って誰。女?」
「あれ、言ってなかったっけ。神殿が変な動きしないように王宮の人間から監視役を着けてんの。多分チビちゃんのこともある程度見守ってくれてるはずだよ」
ということは安心していいのだろうか。
今まで色々と辛い思いをしてきた瑠璃にはできるだけ安全なところで平和に暮らして欲しい。神殿というと危険とは無縁の場所だと思ったから瑠璃を任せて浄化の旅に出たのだ。
今更ではあるが、そのマリアという人間がしっかり見守ってくれていると信じるしかない。
「うーん…瑠璃のやつ、ちょっと変わった体質だしやっぱ心配だわ……御者さーん!王都まで飛ばしてくれ~!」
心配や不安がじわじわと湧き上がってきて、馬車の外の御者に対して声を張って呼びかける。
返事は無かったが、少しだけ馬車の速度が上がったような気がした。
「変わった体質、というのはどういうことですか?」
「……お前らのことはこの1年で信用できるって分かったし、まあ言っても大丈夫か」
瑠璃自身がきっとあまり知られたくないと思っていることであろうが、浄化の旅に同行している近衛騎士団第1部隊のみんなは良い奴で信用出来ると判断している。
瑠璃の体質のことを知って支えてやれる人間が白以外にも必要だと判断して、少しの逡巡の後白は口を開く。
「ちゃんと覚えてるか分かんねえけど、瑠璃は前髪で目を隠してたろ?」
「はい、覚えてます」
「俺も覚えてるー。可愛い顔してそうだったのに勿体ないよね」
やっぱり瑠璃に少なからず邪な気持ちを抱いてそうなオルキナスをじとりと一瞥してから話を続ける。
「……瑠璃はやらねえからな。まあそれは一旦置いとくとして、瑠璃は他人と目を合わせるのが嫌いなんだよ」
「それは、人見知りということですか?」
「いや、まあ人見知りもあるけどそれだけじゃなくて、目の色が珍しいんだよ。そのせいで子供の頃から色々苦労してたみたいでさ」
アルフォンスが問うてきた人見知りというのも確かに当てはまる。
しかし人見知りになったのも恐らく瑠璃の目が原因だと白は考えている。
目を見られないように常に前髪で覆い隠し、他人とのコミュニケーションを極端に絶っていたのだから、目のせいで人見知りになったとも言えるかもしれない。
「目の色が珍しいって、君の真っ黒な瞳に勝る珍しい色とか存在するの?少なくともグレンツェには黒目なんて存在しないよ」
「あのなあ、何回も言ってるけど、日本人は基本黒目だから全然珍しくねえんだって!瑠璃の目は青色なんだよ。それも瞳孔まで真っ青な目ってなるとさすがに周りにいなくてな」
浄化の旅で国内の至る所を回ったが、どこへ行っても決まって言われることは「神聖な黒髪」だとか「輝くような黒目」などの褒め言葉だった。
こんなありふれた色でちやほやされるとは思っていなかった。
そもそも輝くような黒目ってどういう事だ、瑠璃の方がよっぽど輝いてるわ、などと何故か不機嫌になってしまう白は褒められる度に否定していたのだ。
「んで色が珍しいだけじゃなくて、目が合ったやつみんなおかしくなっちまうんだと。それは俺にもなんでか分からねえけど、瑠璃が可愛すぎるせいか?……っておい、聞いてるー?」
つい先程までそんな雰囲気は無かったのに、何故かアルフォンスもオルキナスも眉間に皺を寄せて何やら思案するような真剣な顔をしていた。
「それは……まずいですね……」
「うん。だいぶやばいね」
「はぁ…?なにが?こっちの世界のやつらみんなカラフルじゃん。青色の目くらいどこにでもいるんじゃねえの」
2人していきなりまずいだのやばいだの、訳が分からない。
目の前のオルキナスだって真っ赤な瞳だし、隣に座るアルフォンスに至っては金色だ。青色よりよっぽどありえない色をしているのは2人の方では無いのか。
「……碧眼くらいならいますが、シロ殿はこちらに来てから瞳孔まで真っ青に染まった人間を見ましたか?」
「…………見てねぇな」
アルフォンスは自分を落ち着かせるようにひとつ息を吐いてから白に問う。
白は顎に手を当ててここに来てからの1年弱を思い出すように思案するが、確かに瑠璃と同じ色の瞳は見たことがない気がする。
「うーん…まずい。だいぶまずいよこれは」
「だから何が!何がまずいんだよ!」
口調こそ軽いように聞こえるが、オルキナスにしては珍しく真剣な顔をして冷や汗を垂らしている。
白も不穏な空気を感じて、アルフォンスの甲冑をまたガシャガシャと揺らす。
白の問いをうけて、答えにくそうにアルフォンスが重い口を開いた。
「……瞳孔まで青く染った瞳は、魔族の証です」
「…………は?」
アルフォンスは一体何を言っている。
瞳孔まで青い瞳が魔族の証?
それはつまり、瑠璃が魔族だと言いたいのか?
「あのね、神殿は魔族迫害の代表的な団体と言っても過言じゃない所なんだよ。あのチビちゃんが魔族だとかはちょっと信じ難い話だけど、なんにせよそんな子が神殿にいるのはちょっと穏やかじゃない」
オルキナスが依然として似合わない真剣な表情をして、もっと信じられないことを話す。
「い、いや、俺らは日本から来たんだぞ!?魔族とかよくわかんねえけど、魔法も無かった世界だったんだ!瑠璃も俺と同じ人間だって!!」
動転した白が向かい側のオルキナスに掴みかかる。
オルキナスに当たった所で何も解決しないし八つ当たりなことは分かっている。
しかしあまりにも信じ難い話で、落ち着けと言う方が難しい事だった。
「お、落ち着いて…!君神子にしてはありえないくらい力強いんだから…!」
胸ぐらを捕まれながらガクガクと揺さぶられるオルキナスが、両手を上げて降参だと言うようなポーズをとる。
「悪い……でも、瑠璃が魔族だとか、神殿がどうとかいきなり言われても分かんねえよ……!」
「シロ殿、いきなり混乱させるようなことを言って申し訳ございません。しかし今は混乱するよりも、いち早く王都に戻ってルリ殿の安全を確認するのが先決ではないですか?」
アルフォンスが白を落ち着かせるように、穏やかな声色で宥める。
冷静な様子のアルフォンスを見て気がたっていた白も落ち着きを取り戻す。
「……そうだな、取り乱して悪い。とりあえず急いで王都に戻ろう。馬車でのんびりなんて帰ってらんねえ!俺も馬乗っていいか!?いでぇ!?!?」
気が急いた様子で勢いよく立ち上がった白は馬車の天井に頭を強くうちつけ、頭を押えて蹲った。
「もー落ち着いてって!神子殿の護衛が任務だからね、俺らも着いていくよ。君の体力ならきっと乗馬も大丈夫でしょ。だよね?アルフォンス」
「そうだな。シロ殿、くれぐれも無理はなさらないようお願いしますよ」
「分かった!無理しない!ここからだと馬で1時間くらいで王都に着くよな!?」
「全く……早駆けするつもり満々では無いですか……」
呆れた様子を零すアルフォンスだが、既に兜を着用し直して出立の準備を始めているようだった。
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