3 / 3
家族
しおりを挟む
三年前の息子との旅行を思い出すと、また私は絶望を感じ、その絶望から逃れるためにハードな仕事に没頭しようとする。
この三年間はまさに、俊介の死を掻き消すために費やしたようなものだ。要するにまだ私は、俊介の死から立ち直れないでいる。
あの旅行の後一ヶ月程経って俊介はこの世を去った。最後までエミは俊介の見舞いに来ないままだったから、結果論としてあの旅行で俊介をエミの家に連れて行ったのは間違いじゃなかった、と私は確信している。
私は俊介の死を経て、もう家族を持つ勇気がなくなってしまった。誰とも再婚するつもりはない。また子どもを育てるつもりもない。家族とは難し過ぎる、少なくとも私には。
(父ちゃん、家族ってええもんやな)
俊介の言葉が未だに分からない。
家族とは一体何であろうか?
俊介よ、厳密にはエミが私と別れ、お前がこの世を去った段階で、もう私たち家族は崩壊したのだよ。
私は何もかもを失った。そんな何もない私が、あの懐かしい、私とエミと俊介が一緒に暮らしていた当時を偲んで家族というものを語っても良いものだろうか?
家族の絆など、あの旅行で見た波間に漂う泡の如く儚いものだったじゃないか。
(なあ、父ちゃん。家族って難儀なもんやな。でも、やっぱりええもんや)
そう言った。俊介は確かに、あの松原公園の砂浜でそう私に言った。
敦賀市でエミの新しい暮らしぶりを見て落胆した後でも、俊介は家族という結びつきを信じて疑わなかった。あの時、私からすればエミはもう他人の女だった。だが、俊介からすれば愛する母親だったのだ。
家族とは、一緒に籍を置き、暮らすという形態を差す言葉ではなく、もっとスピリチュアルなものなのだろうか?
目を閉じれば、波打つ音が聞こえ、あの晴れ渡った五月の真っ青な海と、横にいる俊介の顔が思い浮かぶ。
家族とは、一体何であろうか? (了)
この三年間はまさに、俊介の死を掻き消すために費やしたようなものだ。要するにまだ私は、俊介の死から立ち直れないでいる。
あの旅行の後一ヶ月程経って俊介はこの世を去った。最後までエミは俊介の見舞いに来ないままだったから、結果論としてあの旅行で俊介をエミの家に連れて行ったのは間違いじゃなかった、と私は確信している。
私は俊介の死を経て、もう家族を持つ勇気がなくなってしまった。誰とも再婚するつもりはない。また子どもを育てるつもりもない。家族とは難し過ぎる、少なくとも私には。
(父ちゃん、家族ってええもんやな)
俊介の言葉が未だに分からない。
家族とは一体何であろうか?
俊介よ、厳密にはエミが私と別れ、お前がこの世を去った段階で、もう私たち家族は崩壊したのだよ。
私は何もかもを失った。そんな何もない私が、あの懐かしい、私とエミと俊介が一緒に暮らしていた当時を偲んで家族というものを語っても良いものだろうか?
家族の絆など、あの旅行で見た波間に漂う泡の如く儚いものだったじゃないか。
(なあ、父ちゃん。家族って難儀なもんやな。でも、やっぱりええもんや)
そう言った。俊介は確かに、あの松原公園の砂浜でそう私に言った。
敦賀市でエミの新しい暮らしぶりを見て落胆した後でも、俊介は家族という結びつきを信じて疑わなかった。あの時、私からすればエミはもう他人の女だった。だが、俊介からすれば愛する母親だったのだ。
家族とは、一緒に籍を置き、暮らすという形態を差す言葉ではなく、もっとスピリチュアルなものなのだろうか?
目を閉じれば、波打つ音が聞こえ、あの晴れ渡った五月の真っ青な海と、横にいる俊介の顔が思い浮かぶ。
家族とは、一体何であろうか? (了)
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
『大人の恋の歩き方』
設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日
―――――――
予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と
合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と
号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは
☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の
予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*
☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる