神様からの贈り物

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神様からの贈り物

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「あれから一か月経ちますが、未だにあのようすです」

  とある病室での会話。そこには、担当医と看護師、そして患者の母親計三・人・がいた。

 「どうしてこんなことに……」

  母親は涙を流している。

 「恐らく、あの事故で頭を強く打ったのに加えて、お兄さんの訃報を聞いてしまった精神的なショックで、幻覚を見ているのでしょう」
 「もう、治らないのでしょうか……」

  母親はベッドをちらりと見た。そこには、虚ろな目に涙を浮かべた幸せそうな少女がいた。

 「辛抱強く治療を続けていけば、回復の見込みはあります。私たちも、最善を尽くします」
 「どうか、よろしくお願いします」

  母親は深々とお辞儀をする。

 「今後の治療については、また後日お話ししましょう。本日は気を付けてお帰り下さい」

  と言って、担当医は母親を帰らせた。

 「それにしてもこの子は何故、こんな状態なのに幸せな表情を浮かべているのだろう」
 「この子と亡くなったお兄さんは、神社の近くにあるご神木に唯一登れる存在だったようです」

  看護師が説明する。

 「それがどう関係あるんだ?」
 「……きっとこの子は、幻覚の中で幸せなひと時を過ごしているんじゃないでしょうか。それはこんな目に遭ってしまった兄妹への、せめてもの神様からの贈り物なのかもしれません」
 「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」

  哀しき少女を瞳に写しながら、看護師は淡々と語った。
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