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第一章 リラクゼーションの男
最悪の始まり
しおりを挟む「Re:だいすきだよ❤️」
何が起こっているのか分からなかった。
分かりたくもなかった。
全身の血の気が引いていくのがわかる。
確かに疑念は抱いていたが、僕は無意識に目を背けていたのだろう。
僕には町田さんにメールさせておいて自分は堂々と浮気しているのか?
現実として突きつけられるとこんなにも苦しくなるものなのか。と、
頭の中で、身体中で考えていると彼女が席に戻ってきた。
僕は恐る恐る口を開いた。
「今すぐ携帯見せてほしい。」
彼女は少し引きつった顔で答えた。
「え?なんで?」
さっきと立場逆転だ。
「メールきてたよ。誰から?」
今、僕は知るべきではない現実に片足を踏み入れている。
これ以上踏み込めばもう後戻りはできないだろう。
この先にはドロ沼が待ち受けているのかもしれない。
そう思いながら彼女の言葉を待った。
「あー。会社の人。女の先輩。え、なにその怖い顔。私が浮気してるとでも思った?」
彼女はそう言うと、まっすぐ僕を見つめながら笑っている。
「あぁ、ええと。」
あまりにあっけらかんとしている彼女に、
僕はホッとしてしまった。
いや、彼女の言葉にこれ以上踏み込むことから逃げたのだ。
僕の思い過ごしだったんだと、現実からまた目を背けたのだ。
「お待たせいたしました!チーズINハンバーグです!」
機を見ていたかのように、注文した料理も届き、この話の幕はそのまま降りてしまった。
しかし、その後も彼女はしきりに携帯を気にしている様子だった。
それから数日後、町田さんが会社を辞めることになった。
詳しい理由はわからない。
僕のせいかもしれないし、また別の理由があったのかもしれない。
あの日のメールの返信はないままだ。
"連絡しないでください。"と送ったのだから当たり前のことだが、いざ何も返信がないと罪悪感がより一層募り、それに寂しかった。
メールを送ってから1度だけ町田さんを社内で見かけたが、僕のほうを見るとニコッと笑うだけだった。
悪いのは僕だ。それでいいんだ。
それから、町田さんと会うことはなかった。
8月になり、高校時代の友人から1泊2日で大型プール施設へ行こう。という連絡がきた。
高校時代の友人カップルと僕と彼女。
いわゆるダブルデートというやつだ。
チケットやホテルは全て友人が手配してくれた。
移動手段は都内から高速バスで移動するとのことだった。
彼女とは、当日彼女の家の前で集合して、一緒に都内の高速バス乗り場へ向かうことになっていた。
そして迎えた当日。
約束の時間に彼女を待っていると、僕の携帯が鳴った。
「寝坊したから、先に行っててください!バスの時間には間に合うように行きます!」
と彼女からのメールだった。
彼女は高校時代から寝坊癖があり、何をするにも約束の時間通りに来た試しがないほどだった。
"また、いつものことか。"と思い、このときは特に気にも留めなかった。
「はーい。先行ってるよ。」とだけ返信をして、友人カップルの元へと向かった。
僕は無事予定通りに友人カップルと合流したが、彼女はバスの出発予定時刻の5分前になっても現れなかった。
そして、間もなく出発というときに遠くから走ってくる彼女が見えた。
「遅くなりました!」
ギリギリ間に合ったか。と僕は胸を撫で下ろしたが、それと同時にふと疑問に思った。
僕は高速バスの中で、過ぎていく景色を見ながらずっと考えていた。
何かがおかしい。
僕が友人カップルと合流したのは、高速バスの出発予定時刻20分前だった。
あの後、彼女が家から出発して果たして間に合うのだろうか。
電車のダイヤだってあるし、あの後すぐに家から出られたならわざわざ別々に向かう理由がない。
やっぱり何かがおかしい。
そんなことを考えていた。
そうこうしているうちに、高速バスはあっという間に大型プール施設に到着した。
施設はホテルも併設されていて、まずはチェックインをしよう。ということになった。
フロントでチェックインを済ませて、いざ部屋へ向かうと、僕らの部屋はセミダブルベッドが1つしかない4人で泊まるには窮屈すぎる部屋だった。
「え、これ4人でどうやって寝るの?笑」
そう僕が笑いながら言うと、友人が続けて笑いながら言った。
「おかしいなー。ベッド2つの部屋にしたはずなんだけど。笑」
友人が首を傾げながら、携帯で予約履歴を確認していると、
「私、フロントの人に行ってくるよ。」
そう言いながら彼女は部屋から出ていった。
「私も一緒に行くよ!」
と、続けて友人の彼女も後を追いかけて部屋を出ていった。
男2人部屋に残されたわけだが、友人の予約履歴には、ちゃんとセミダブルベッドが2つある部屋の予約があった。
つまり、ホテル側の手違いということだ。
結果として部屋を変えてもらえることになった。
しかも、ベッドが4つあるとても広い部屋に変えてもらえた。
こうして、やっと落ち着くことができた僕らは、少しゆっくりしよう。ということになった。
そして僕は迷ったが、どうしても気になっていたことを彼女に聞くことにした。
「ねぇ。やっぱりさ、携帯見せてくれない?」
彼女は意表をつかれたような顔をしていたが、すぐに真顔になり僕に聞き返した。
「なんで?」
この間と一緒だ。
でも今回は引かない。と決めていた。
彼女はやっぱり浮気をしている。
でなければ今回のことは辻褄が合わないし、そうとしか思えない。
僕の中で疑念は確信に変わっていた。
「じゃあ、なんで今日寝坊したのにバスの時間に間に合ったの?僕が先に向かった後に家から出発したんだとしたら、到底間に合うとは思えないんだけど。」
彼女は少し間を置いて反論した。
「パパが車で駅まで送ってくれたから。」
"なるほどそう来るか。"と僕は思った。
それなら確かに間に合うか。
論破されたか?いや違う。
彼女は僕と目を合わせようとしていないし、明らかに嘘をついていると思った。
「じゃあ、パパにいま電話してみてよ。」
僕がそう言うと、彼女は少し苛々した様子で答えた。
「なんでそんなことしないといけないの?そんなに私のこと信用できないの?」
僕は間髪入れずに彼女を捲し立てた。
「正直信用できない。今日、本当は家から来てないんじゃないかと思って。僕が今朝、家に迎えに行ったとき最初から家にいなかったんじゃない?浮気相手の家にいたか、ラブホにでもいたんじゃないの?だから、家の前で僕と集合はできなかった。だから先に行っててってメールしてきたんでしょ?パパに車で送ってもらったなんて嘘だよね?だったらいまここで、"お陰様で無事着いたよ。"ってパパに電話1本してくれれば終わる話なのに、それができない。ってことはそれが全てなんじゃないの?」
彼女は黙ったまま何も言わなくなった。
図星だったということか。
違うって反論して欲しかった。
僕は裏切られたショックで吐き気がした。急に怒りが込み上げ、それと同時に彼女を心から軽蔑していた。
「もう、その汚い手で俺に触るなよ。」
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