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第一章 リラクゼーションの男
居場所
しおりを挟むあれから数日が経ち、僕は会社で昼食を食べながら、山崎さんに事の経緯を話した。
「そうなんだ。でも、こんなこと言うのも失礼かもしれないけど良かったと思うよ。もっと他にいい女いるって。」
山崎さんは僕を元気付けようと明るく振る舞ってくれた。
その気持ちを受け止めながら僕はさらに続けた。
「それでなんですけど、僕会社辞めようと思って。」
山崎さんは昼食の手を止め、苦々しく笑った。
「まじで?まだ半年しか経ってないのにもったいないよ。次何するか決めてるの?」
僕はお茶で喉を潤し、山崎さんの目を見て真っ直ぐ見て答えた。
「決めてない。」
山崎さんは僕を説き伏せるように続けた。
「今辞めたら、次の就職も厳しくなるし、ただでさえ就職氷河期の今、簡単に再就職なんてできるかわかんないよ?辞めないほうが良いと思うけど。」
山崎さんの言っていることは全てその通りだった。
僕も頭では分かっている。
しかし、今自分が置かれている状況から逃げたい気持ちで一杯だった。
「もう疲れちゃったんですよね。情けないですね。」
僕がそう言うと、それ以上山崎さんは何も言わなかった。
それからまた数日が経ち、僕は上司に退職したい旨を伝えた。
上司からも、"考え直せ。"と引き留められた。
母親からも反対された。
上司との話し合いの場を設けられたが、それでも僕の気持ちは変わらなかった。
というよりも、変われなかった。
上司との話し合いを終え、退職手続きを済ませた僕は家に帰ろうとオフィスを出た。すると、ちょうど同期数人がまだ仕事をしているところに遭遇した。
「お疲れ!どうしたの?」
まだ明るいうちに帰ろうとしている僕を見て同期が不思議そうにしていた。
「あ、いや。ちょっと体調が良くなくて。早退。」
僕がそう言うと、同期のみんなは心配してくれた。
「え、大丈夫?」
「大丈夫かよ。早く治せよ。」
僕は"うん。またね。"と手を振ってその場を後にした。
僕の選択はきっと間違っている。
引き留めてくれる上司がいる。
気にかけてくれる仲間がいる。
ここには僕の居場所がある。
でも、今の僕はそんな人達の期待に応えられないと思った。
オフィスを出たあと、僕は振り返り深く頭を下げた。
これからどうしようか。
貯金は50万円くらいあった。
19歳の実家暮らしには充分すぎるほどの大金だ。
特に焦る必要もない。
しばらくは自分のしたいことをして過ごそうと思った。
こうして無職になった僕は毎日昼間からゲームをしたり漫画を読んだり、気の向くままに過ごした。
あの日以来、元カノから連絡がくることはなかったが、夜になると元カノとのメールを見返してしまっては気持ちが沈んだ。
そんな生活を続けていたある日、母親からついに嫌味を言われた。
「よくもまぁ毎日そんなにゴロゴロしていられるわね。少しは働きなさいよ。せめて家のことやるとか、この家に住むなら何か手伝いなさい。」
せっかくの無職生活に水を差すなよ。と僕は少し腹が立ったが、いつか言われると思っていた。
"どこか出かけるか。"そう思った僕は、久しぶりに幼馴染にメールをしてみることにした。
「あーそぼ!」
メールはすぐに返ってきた。
「いーよ!」
さすがは幼馴染である。
まさに阿吽の呼吸。
ノープランだったが、とりあえず30分後に幼馴染と会うことになった。
すぐに支度をして、幼馴染の家の前で待っていると、ドアが開く音がして幼馴染が出てきた。
幼馴染と会うのは高校を卒業して以来だった。
「久しぶり!太ったな!笑」
僕が笑いながらそう言うと、幼馴染も笑いながら答えた。
「太ったよ!」
とても居心地が良かった。
幼馴染の前では、飾らずにありのままの自分でいられた。
それからは毎日のように幼馴染と遊ぶようになった。
何か目的があるわけでもなく、僕らは自転車を漕いで色々な場所へと繰り出した。
カラオケ屋、ゲームセンター、漫画喫茶にも行った。
ダーツをしたり、ボウリングをしたり、ファミレスで駄弁ったり、毎日色々なことをして過ごした。
そうして、1ヶ月が過ぎたある日の夜、携帯に1件のメールがきた。
それは元カノからのメールだった。
久しぶりに携帯に表示された元カノの名前に僕の鼓動は強くなっていた。
僕は動揺して手が震えていた。
開くのが怖かった。
忘れようとしていたのに。
なんで連絡してくるんだ。
でも、何か大事な用かもしれない。
僕は深く息を吐いて、恐る恐るメールを開いた。
「ちょっと電話できないかな?話したいことがあって。」
僕は確かに忘れようとしていた。
次の人生に進もうとしていた。
しかし、それは見せかけのものでしかなく、僕の心には元カノが、彼女がずっといたんだ。と、心のどこかで連絡をずっと待っていたんだ。と気付かされてしまった。
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