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後編

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その日のうちに、通称『学園女子連絡網』によってアイツの事は周知され、被害者は減っていった。
それでもしつこく、ナンパして来た時は私の出番だ!


「よぉ~♪中々可愛い顔してるじゃないか。
オレと付き合わないか?
けっこう強いし頼りになるぜ!」

アイツがナンパしているという知らせを受け、現場に向かう。

「やぁ、お困りの様だね♪
子猫ちゃん良かったら、私とカフェで有意義な時間を過ごさないか?」

私とアイツを見比べた、可愛いらしいお嬢さんは当然のように私を選んで、横に並んだ。
「ごめんなさい。私ムキムキ系な方は、ちょっと……。」

というようなやり取りを、既に十数回。
そろそろ我慢の限界だろう。
アイツを横目に、私はお嬢さんを連れてお気に入りの喫茶店に向かった。

******************
(サンソン視点)

「クソッ‼︎またヤツに邪魔された!
いったい何者なんだ?
騎士科には、いないようだが……。」

ナンパに失敗した俺は…仕方なく行きつけの店で、酒を飲んでうさを晴らしていた。
するとそこへ、いつも俺をアニキと慕っている連中がやって来て、面白い情報を教えてくれたのだ。

「なるほど、そういう事か!
舐めた真似してくれるじゃねーか‼︎」


******************

~数日後の放課後~

(再び喫茶店【ユウリン館】個室)


「皆さま、コップは持ちましたか?」

「はーい♪」

「では、計画が順調に進んでいる事を祝して、果実水ですが♪」

「「「「乾杯♪♪」」」」

はぁ、やはりこの店の冷えたレモ水は美味しいな。
この計画が成功したら、レオルと飲みに来よう♪

「今のところ、計画は順調に進んでますわね。」

「そうだね。後はエリーがアイツを呼び出す場所を確保してくれたら、一気に皆んなで‼︎」

「腕がなるぜ!ボクのショートソードの錆にしてやる!」

いや、錆にしちゃダメだろう。
いくら相手がナンパ騎士クズでも、マズイと思う。

「エリー遅いね~。
何かあったのかなぁ?」

「あら?お約束の時間に来ないなんて、珍しいですわね?」

そういえば、エリー嬢がまだ来てなかったな。
しばらくするとノックをする音が聞こえたので、ドアを開けると、この前のウェイターが
「すみません。『エリー様から』と、こちらを渡す様に頼まれたのですが。」

と言って、メモを差し出して来た。
渡されたメモをターク嬢に確認してもらう。

「確かにエリーの字だね。
別に脅されて書いた様子もない。」

「じゃあ本物なんですの?」 

「『夜8時 旧闘技場に下見。』か。」


******************

【旧闘技場】夜8時~

この旧闘技場は学園の外れにあり、数年前まで使われていた場所だ。

「この時間になると流石にちょっと不気味だな。」

薄暗がりの中…皆んなで旧闘技場の中に入って行く。

「エリーさん、どこにいるのかしら?」

周囲を探していると、闘技場の真ん中に人影が見えた。

「エリー嬢?」

!!

しかし様子がおかしい!

「たいへん!縛られてますわ!?」

そう叫んで、サーラ嬢が止める間もなくエリー嬢のところへ、走って行ってしまった。
「いかん!罠だ!!サーラ嬢戻れ!!」

そう叫んだが時既に遅く、サーラ嬢と縛られていたエリー嬢は上から投げられた網に、絡め捕らえられてしまった。

「キャー‼︎」

「うぅ~!」

焦る私達に、突然アイツの声が聞こえた。
「チッ!流石に全員は掛からなかったか。」

声の聞こえた方を見ると、アイツは数人の男達と一緒に観客席に立っていた。

「よくもさんざん俺の邪魔してくれたな、キースさんよ!
いや、本当は淑女科のキイナだっけ?」 

!!

「『何故それを?』って顔してるな!
俺にだって、仲間はたくさんいるんだぜ。
例えばコイツとかな。」

そう言われて、アイツの隣にいる男をよく見るとそこにいたのは……

「あー!アンタ先月まで、演劇部にいた大道具のガッツ!!」

それは先月まで演劇部に所属していたが、大道具代を誤魔化し、予算を着服していた為に退部させた男だった。

演劇部の予算が合わず、泣いていた会計の可愛い後輩(女の子)の為にエリー嬢を通して、ターク嬢に調べてもらって発覚したのだ。
まさかあの男のせいで、私の正体がバレるとは‼︎
アイツ等を警戒しながらも、お互いの武器の確認をする。

(小声で2人に)
「私はレイピアしか、持ってないんだが。」 

「ボクはショートソードと、投げナイフ。」

「僕は護身用の催涙スプレーとクナイと煙幕と各種特別弾とパチンコ玉とスタンガンビリビリ君だね。
因みに、ニンジャ刀はまだ手に入れてない。」


「何ごちゃごちゃ言ってやがる‼︎
女3人でどうするつもりだ?」

それに対して、シノン嬢が反論する。

「3人じゃなくて5人だ!ボク達は仲間を見捨てて、逃げる様なマネはしない‼︎」

その言葉を、アイツは馬鹿にして

「フンッ!足手まといを2人も連れて、逃げられると思っているのか?」

確かにエリー嬢とサーラ嬢を救出して、5人で逃げられる確率は低い。

「私とシノン嬢で時間を稼ぐ、ターク嬢は2人の救出を頼むぞ!」

「「了解。」」


******************

(サンソン視点)

女のくせにコイツら思っていたより強い。

「えいっ‼︎この‼︎」

騎士科の女はショートソードで、次々と仲間を斬り伏せている。

「ハッ!」

キイナって女は長いリーチを活かして、レイピアで攻撃を仕掛けている。

人質にしてた、魔術科の女は火魔法使いのようだ。

「よくもやってくれたわね!
ファイヤーボール‼︎10連発乱れ撃ち‼︎」
(ただのノーコン)

「よし!当たった!」

チビ女はパチンコ玉や煙玉で、撹乱するのが役目らしい。

特進科の女は…特に攻撃手段はないらしいな。

「頑張ってくださいまし!
左側弾幕薄いわよ!」

やっぱり狙うならあの女だな。
なかなか好みの体だし、俺の女にしてやるか。

「俺が直々に相手をしてやる!」

バスターソードを引き抜き、特進科の女に近付いて行くと、チビ女がこちらに向かって玉を投げて来たので、切り伏せる。
中から出て来たのは何かネバネバした、真っ黒い粘液だった。

!!

「ギャー‼︎痒いー‼︎」

何だこの液は?
痒くてたまらん!!

******************

(キイナ視点)

!!

「ターク嬢何を投げたんだ?」

私の問いに、ターク嬢は自慢気な顔で
「ターク特製漆液うるしえきパチンコ玉。
魔物用に作ったんだけど、毛皮が邪魔であんまり使えなかったんだよね。
でも対人用ならいけると思って。
持って来て正解だった。」

漆液うるしえき?」

漆液うるしえきっていうのは東方の国で採れる樹液で、耐性の無い人が乾いてない内に触るとかぶれて、もの凄く痒くなるの。」

よく見るとアイツ以外も、酷い有り様だ。
ある者は何かネバネバする液で、地面や壁に貼り付けられていたり、臭い液をかけられてその臭いの酷さで気分を悪くして吐いていたり……

「タークちゃん鬼畜~。」

などと呑気に構えていたら、いつの間にアイツが復活してしまった。

「お…お前等…よくも…やりやがったな‼︎
もう許さねー!!」

立ち上がったアイツはこちらに向かって、バスターソードを構え、凄い勢いで突撃して来た。
私とシノン嬢で止めようとしたが、レイピアとショートソードでは流石に、バスターソードを防ぐ事が出来ず、私とシノン嬢の剣は、弾き飛ばされてしまった!
残念無念!
目早これまでか!?
と思ったその時、私達の前に二つの黒い影が立ちはだかり、アイツのバスターソードを受け止めてくれたのだ。

ガキーン

「何やってるんだ?キイナ!!
レイピアで、バスターソードの相手ができるわけないだろう!!」

そう言いながら、アイツの剣を受け止める背の高い男。

「間に合って良かった。
今度から相棒の僕には、ちゃんと相談しろよ。」

素早くシノン嬢をアイツの側から引き離し安全を確保している細身の少年。

それはレオルとケントだった。
私達を助けに来てくれたのだ。

「クッ‼︎お前等、何故ここがわかった!?」

アイツの質問にケントが答えた。

「僕にも仲間がいてね。アンタの仲間の動きがおかしかったから、急いで知らせに来てくれたんだよ。」

それを聞いて、アイツは悔しそうに

「女だけで動いてたんじゃ、なかったのかよ!」

「そんな訳ないだろう。
もうこの件で、上が動いている。」

えっ?そうなのか?
きょとんとしている私達にレオルが

「全くお前等だけで、あの男がどうにか出来ると思ってたのか?」

まさか、脳筋のレオルに怒られるなんて思わなかった。

「な、何だよ!その目は?
俺だって一応騎士なんだからな‼︎」

照れながら話すその姿……
あゝレオルが久し振りにカッコ良く見える!

「お前等、俺の前でいちゃついてんじゃねー‼︎」

どうやらアイツを、マジ切れさせてしまったようだ。
流石にマズイかもしれない。
とその時、突然旧闘技場が明るく照らされ、拡声機から声が聞こえてきた。


******************

(エリー視点)

「ハイ‼︎そこまで‼︎全員動かないでください‼︎
こちらは、ユイナーダ王国特務隊ですよー。」

その声にビックリしていると私達は、いつの間にか、大勢の兵士や騎士に囲まれていたの。

この声どこかで聞いた事がある。

そして兵士達は私達が倒したアイツの仲間達を、次々と捕縛していった。

しかもタークちゃんが、やらかして色々な液塗れになっているのを見越した様に、ちゃんとマスクや革手袋をしているわね。


そこへ拡声機を持った男性が、奥から歩いて来た。

「皆んな~大丈夫でしたか~?」

拡声機の声の主…それはエミール殿下だった。
殿下は私達の無事を確認した後、サーラ様に近付き……

「サーラ、ダメじゃないですか。
私のノートを勝手に持ち出すなんて。」

サーラ様は殿下と暫く見つめ合っていた。

「ごめんなさい。こんな事になるなんて思わなかったの……。」

謝るサーラ様を、優しく見つめていた殿下はそっと手を取り、真剣な表情で次のようなセリフをのたまった。

「今度から、ちゃんと私に相談してくださいね。
君の為に『完璧なざまぁシナリオ』ぐらい、いくらでも書いてあげるから!」
「はい♡エミール様。」

『何か違う。』と思うのは、私だけじゃないよね?

シノンちゃんの方を見ると、ケント君に抱きしめられて、耳まで真っ赤にしていた。
羨ましい…やっぱり付き合ってるんじゃないこの2人!

「本当に間に合って良かった。
お前等が計画の相談に使ってた【ユウリン館】のウェイター、あれ僕の幼馴染でね。
土木建築科のハサムっていうんだけどさ、エリー嬢からのメモを渡しに来た男が、あのナンパ騎士クズと連んでいるの知ってたから、僕に教えてくれたんだよ。
彼には感謝しなきゃね。」
「そ…そうだったのか。
迷惑をかけてすまない……。」

なんと、あの怪しく見えていたウェイターさんは学園生のバイトで、ケント君の幼馴染だったのか!

次にタークちゃんの方を見ると、ハーシー先生が来ていた。

「何か俺に言う事はないか?」

小さいタークちゃんが、更に小さくなって謝っている。

「ご、ごめんなさい
計画の為に研究室から、いろいろ勝手に持ち出しました。
後で弁償するから許してください‼︎」

皆んなビックリすると思うけど、この2人実の兄妹なのよね。

ハーシー先生のお母様が亡くなられた後に、後妻で来られたのがタークちゃんのお母様なのだそうだ。
ハーシー先生とタークちゃんが、兄妹なのは割と知らない人も多い。
先生と生徒として、制服を着て行動している分には問題無いけど、私服でいるとハーシー先生が『幼児誘拐』か『ロリコン』に見られるから、この2人が一緒の時は、必ず制服なのよ。
年齢が離れ過ぎていると、いろいろ大変なんだね。

家の妹も、それで苦労していましたわ。

アレ?そういえば、私だけ誰もお迎えが来てないじゃないですか。

まぁ、あの男に来られても困りますけどね。

「姉上…お迎えに来ましたよ。」

ヒィッ⁈

いつの間にここへ‼︎
そこに立っていたのは妹のケイト(特進科)だった。

「な…何故アナタがここに?」

「もちろん姉上を迎えにです。
あの男は迎えになど、来ないでしょうからね。
ところで姉上…この騒ぎは一体全体、どういう事でしょうか?」

ヤバイ、ヤバイどうしましょう!

この娘怒らせたら、凄く怖いのよ……

「父上様と約束しましたよね?
『絶対騒ぎを起こさないから、淑女科ではなく、魔術科に行かせて欲しい。』とそれなのに!」

ヒィ~

凄く怒ってますわ!

「姉上!また余所事を考えていましたね!」

「ソ、ソンナコトナイヨ。」



「オ…オテヤワラカニ……。」

******************

(キイナ視点)

この後騒ぎの責任を取って、私達5人は1週間の謹慎処分になった。
皆んな寮の自室で謹慎処分を受けている中…エリー嬢だけは特別に、王都にあるタウンハウスで謹慎する許可が下りたそうだ。
流石は侯爵家のご令嬢だな。


そしてナンパ騎士クズの一味は、ある者は余罪が発覚して逮捕され。
また、ある者は退学処分となった。
ナンパ騎士クズことサンソンはその体力がもったいないからと、男だけしか居ない最北の地にある、魔物を食止めるための砦に送られる事になった。
せめて少しでも、長く生きられる事を祈ろう。


数日後エリー嬢が、『死んだ魚みたいな目をして登校して来た』と聞き、心配して会いに行くと、既にいつも通りだったのでアレはただの噂だろう。

fin

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ユイナーダ学園高等部⑦~どうやら私の目に狂いはなかったようですね

に続く!
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